《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

好評による連載延長で白泉社の悪癖「告白リセット」「告白するする詐欺」が目を醒ます。

君は春に目を醒ます 2 (花とゆめコミックス)
縞 あさと(しま あさと)
君は春に目を醒ます(きみははるにめをさます)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

絃の7歳上の憧れのお兄さん・千遥が、病気治療で人工冬眠(コールドスリープ)をして同級生に! 千遥に恋する絃は、“妹扱い”の距離の近さに心振り回される。一方、絃の誕生日を7回分祝い損ねていることに気づいた千遥は……!? 年の差の恋も、同級生の恋も、あなたとする。新感覚ロマンス第2巻!

簡潔完結感想文

  • 長期連載開始で白泉社お馴染みの日常回祭り ~季節のイベントを添えて~ 。
  • 7年前から前へ進もうとする千遥は10分ほどの眠りの中で7年間の時間を過ごす。
  • 自分が本来 在るべき形を歪めている異分子だという見解に千遥の出す答えは…。

はや千遥は7年ぶりに日本に帰ってきた転校生ぐらいの扱い、の 2巻。

『2巻』は良くも悪くも軽い。
再読して良いと思ったのは雰囲気の明るさ。終盤と違い、登場人物たちに切羽詰まった感じがないので まだまだ肩の力の抜けた彼らの緩い青春を楽しめる。
また この『2巻』収録の内容から連載が好評につき長編化した部分となる。なので『2巻』の冒頭は本書の設定の説明が入っている。
そして長編化したからか『2巻』は日常回が多い。誕生回に部活回、食事回ときて学校イベントで お泊り回という少女漫画の定番シチュエーションや学校イベントを駆使した内容となっている。
そのイベントの中で少しずつ変わりゆく関係性を描いており読んでいて非常に楽しい。何よりも こじれに こじれた最終盤に比べると明るい青春の日々である。この頃はコミカルで軽やかで楽しかったなぁ、と思わざるを得ない。
最終盤は再読したい気分にならない内容で、ちょっと匙加減を間違えているような気がしてならない。時に笑えるぐらいの三角関係が楽しかったのになぁ。

この頃は絃がライトに溺愛されているのが楽しかったが、段々と恋愛が重苦しいだけになった…。

いと思う点は2つ。1つは白泉社のリセット機能が爆発しているところ。思い返せば『1巻』の終盤でヒロイン・絃(いと)がヒーロー・千遥(ちはる)に妹のように扱われることに甘んじたのも、連載継続が決定し、2人の関係に決着を付けるのを避けたのではないかと疑ってしまう。玉虫色に作品を磨き上げるのが白泉社の連載の最重要課題で、『2巻』のラストの告白の雰囲気も(ネタバレになるが)詐欺となる。
早くも少女漫画の王道を進み始め、商業主義に飲み込まれていったように思える。

そして もう1つ悪いと思うのが本書のオリジナル設定が思うように機能していないところである。
千遥は人工冬眠者(コールドスリーパー)で7年間の眠りの後、目覚め、本来は7歳差ある絃と同級生になる。千遥の意識では絃が たった一晩で成長したように見えるが、彼を ずっと好きで7年ぶりの再会に胸を熱くする絃という2人の間にある温度差が埋めがたいギャップとなり、それが恋愛の障害になっている。

ただ『2巻』の内容だと千遥は ほぼ異邦人というだけにしか見えない。冒頭の一文に書いた通り、彼が7年ぶりに絃の前に現れた帰国子女の転校生であっても十分に話が通じるレベル。『1巻』の感想文で長々と不満を述べているが、設定に対する掘り下げが いまいちなのである。

単純な恋愛模様としては適度な軽さなのだが、設定に対しては軽すぎるように見える。そこが残念。早い段階で1回でも千遥視点の物語を提示して、人工冬眠が彼に もたらしたものを示して欲しかった。一種のタイムスリップのように7年を跳躍することの意味、周囲とは違い自分だけに欠落した7年の記憶という恐怖など、千遥の心境が分かる手掛かりが必要だったはず。千遥の背景が薄いまま恋愛模様だけを伝えても、読者には千遥の悩みや躊躇は共感できない。

風変わりな設定で注目されたけれど良くも悪くも、本書が普通であることを証明してしまった『2巻』のように思う。


覚めから4か月、千遥は体力も戻り、学校に馴染んでいる。

だが相変わらず、千遥は絃を妹としか見ておらず、絃が自分を好きだとも思いもしない。千遥は自分で「恋愛方面に疎い」と言っていたが その鈍感さが人を傷つけもする。クラスメイトとなった弥太郎(やたろう)は、絃の好きな人が一目瞭然だからこそ身動きが取れないのに、千遥は弥太郎の気持ちを踏みにじるような発言をし、それが弥太郎の苛立ちになる。

9月は絃の誕生月である。男性陣は絃に内緒で計画を立てるが、弥太郎の不器用さで絃にバレてしまう。弥太郎は不器用で嘘がないからこそ一途に見える。

この回は『1巻』の夏祭りと同様に、7年前の千遥との思い出がリンクする構成になっている。
千遥は祝えなかった7年分と合わせて8回分の お祝いを用意していた。高校生の範囲内でやれる1日で8回のサプライズ。放課後、美容師の弥太郎の姉の力を借りて、千遥の7年前の約束を果たされ、絃がドレスアップする。途中、弥太郎は絃から お返しに彼の誕生日をお祝いすると言われ退場する。
1つのサプライズが失敗してしまったが、2人きりになった後、最後に千遥は この街の夜景を見せてくれた。絃は千遥と同じ立場で誕生日を祝ってもらうだけで幸せだが千遥は祝い損ねた誕生日を気にしている。
そこで千遥に欠けたサプライズ分の1つのお願いをする。それが7年前の絃が憧れていた王子と お姫様の映画の再現である。千遥が ひざまずいて絃の手の甲にキスをするのは、彼の中で絃が「妹」という意識だから気軽にされる面あるが、絃にとって幸せであることには変わりはない。


いては千遥の部活動のお話。
元・同級生で現・担任である樋口(ひぐち)から弓道部への復帰を、壁ドンされながら懇願される千遥。弓道部なら道具を持ち歩きそうだが、その情報は絃も知らなかった(後付けだからか…??)。千遥は7年前は県大会で個人優勝の実力だという。

練習試合に駆り出されるのを渋っていたが、絃に弓道をしている姿を見たいと言われ快諾する。この回は部活動回でもあり、千遥は弓道部、弥太郎は化学部としての一面を見せる。

千遥の実力は変わっておらず、絃はなぜ彼が部活復帰を渋っていたのかが謎に思う。同じことを思った樋口から練習試合後も弓道部での活動を懇願される千遥だったが、一度やめたものに「とらわれていたら、あの頃から先に進めなくなるような気がする」し、同じことを始めても7年前の時間は戻らないことを痛感するばかりなのではないか、という懸念がある。彼は弓道に戻らないことこそ今の時間を生きることなのではないか、と考えていた。それが過去に囚われないようにする千遥なりの7年の「ブランク」の埋め方なのだろう。

ただ そのように過去と一切の繋がりを断ち切る生き方を、絃は良しとしない。今 好きなものまで無理に捨てることはない、と千遥に教える。こうして絃に初めて お姉さんのように導かれて、千遥は感激する。その感謝を込めて千遥は許可を取って、彼女を抱擁する。2回連続、絃は役得の立場である。「妹」という立場を駆使いているものの胸キュン展開である。


遥は弓道部への復帰を決め、その日は2人で一緒に帰る。その帰り道、両親が出掛けているという絃を千遥が家に誘う。この一日の話は、本書で初めての連載っぽい話の続き方となる。

千遥の家も親が帰宅しておらず2人きり。彼が目覚めて以降、訪問する際には常に母親はいたが 2人きりは初めて。嫌でも意識する絃。7年前はまるで自宅のようにくつろぎ、千遥と一緒にいられる喜びだけだったが、今回は緊張して身体が固まる。逆に千遥が簡単に絃を家にあげるのは、7年前の感覚が残っており、やはり絃を異性だと意識していないからだろう。

食事後すぐに帰ろうとする絃だったが暴風雨に見舞われ、足止めを食らう。千遥に映画を見ることを提案され、会話をしなくていいことに安堵する。絃の映画の好みも7年で変わっている。だが会話がないことは かえって彼の存在感を際立たせる。並んで座る彼のちょっとした動き、息遣い、それらに絃は身を固くする。

だが千遥は映画観賞中に寝てしまい、絃の肩に寄りかかってきた。弓道の試合の疲れもあるだろうが、それだけ絃に緊張していないということでもあろう。時間差も埋まらないが、相手への感情の種類も埋められない差がある。

うたた寝する千遥が夢で7年前の絃の姿を見たことで、彼は目覚めた時、大きくなった絃の姿との違いが如実になった。自分が囚われている時間と、現実の差がハッキリしたのではないか。もしかしたら人工冬眠の7年間の目覚めよりも、今回の10分ほどの眠りの方が、彼の意識に7年分の時間を経過させたのかもしれない。

絃は千遥を起こす。雨はまだ降り続いていて、絃は またもや自分を子ども扱いする千遥に宿泊を勧められるとばかり思っていたが、実際には千遥は絃を家に帰す。それは千遥にとって初めて絃を同年代の女性とした瞬間だったのだろう。少しずつ何かが変わり始めている。


いては2泊3日の勉強合宿。だが千遥の様子はリセットされており、いつも通り。まだまだ癖で絃の面倒を見てしまうところも散見される(後に反省するけれど)。

この回は不憫な弥太郎視点が多い。弥太郎は夢でも謝罪するぐらい過去の自分の絃への悪行を悔いていた。
そんな彼の現状(千遥の出現も含めて)を知る弥太郎の親友・雨村(あまむら)によって、絃は弥太郎と倉庫に2人きりで閉じ込められてしまう。このところベタなシチュエーションばかりが続く。

雨村は、こんな時に少女漫画なら助けに来る立場のヒーロー・千遥に対して、千遥の このタイミングでの目覚めが2人の未来を変えた、と釘を刺し、千遥の動きを封じる。千遥の絃への感情が恋愛ではないことを再確認し、動機も先につぶす。
なかなかの策士だが、だからこそ この後も雨村を好きになれない。雨村が弥太郎に忠誠を誓うようなことをするのは、中学の時、弥太郎が雨村をカツアゲから守ったから。そして小学生の頃はバカ丸出しだった弥太郎が、中学に入ると雰囲気が変わり、そんな彼の様子を観察しようとしている。人工冬眠者が周囲にもたらす影響への興味もあって雨村はマッドサイエンティスト気味に3人の関係性の変化を観察している。

もしかしたら雨村にとっては、この仕組まれた事件は、千遥のいない「if」世界の創出だったのかもしれない。本来は結ばれる可能性の高かった絃と弥太郎。そこで千遥を世界から再度 排除することで絃たちが恋仲になるか、という思考実験なのだろうか。

白泉社の文法に飲み込まれて、こんなことをされても絃は鈍感ヒロインのまま。ここからが長い。

際、倉庫で2人きりであることを弥太郎は過剰に意識する。これは前回の千遥の家での絃の過剰反応に似ている。

その絃は昨夜の髪の乾かし方が甘かったためか、風邪っぽい。寒くて震える彼女のために弥太郎はジャージを貸し、その上、絃を抱きしめる。絃を温めるという大義名分を駆使しつつも、私欲にまみれた弥太郎の行動だ。好きだからイジメて、好きだから過剰なスキンシップをする。いつでもバランスのおかしい行動を取ってしまうのが弥太郎だ。

そんな時、千遥が現れる。結局、彼は絃のナイトになることを選んだらしい。弥太郎に抱擁される絃を発見し、千遥は無言で彼女を奪還し、更に無言で弥太郎を睨みつける。

そして絃が倉庫を出た後、千遥は弥太郎を詰問する。そんな千遥の圧により秒で謝罪する弥太郎。だが飽くまでも兄として振る舞う千遥に、謝罪した自分の情けなさも加わり、反抗的な態度を見せる。そして兄でも保護者でもない他人である千遥を牽制する。

雨村と合流した弥太郎は本当に彼を殴りつける。余計なことをせず、黙って見てろと彼のお節介を封じる。それで休戦。サッパリとした男の友情である。

千遥は、弥太郎に言われたことが気になって あまり眠れない。そして今回の雨村の介入で、絃が恋をする年齢に達していることを気づかされた。また弥太郎の言う通り絃の兄ではない自分に戸惑う。

そんな千遥の言葉を聞いて、絃も千遥が目覚めて以降、兄だと思ったことはないと告げる。彼の気持ちが変化していることが見て取れる今こそが、告白の時なのか…⁉


「音の在り処」…
ピアノの世界で神童と呼ばれた晃祐(こうすけ)だったが心因性の原因によりピアノの音が聞こえなくなった。周囲の重圧が消え、自由に生きる彼は告白してきた女性と付き合う。

すごく短期間で男性のトラウマを解消するヒロインの お話、といったところか。トラウマの解消によって息の詰まるような家庭内の問題も解消し、ヒロインは彼にとっての かけがえのない人だと気づかされる、という長編のような構造。ただ短編でやるには不向きで、ヒーロー視点なのでヒロインの存在が弱く、ヒーロー側が独り善がりに周囲を傷つけているように見え、カタルシスがない。

また この主人公も自分の歩んだ選択のせいで周囲の人間関係を崩れさせてしまっている。これは本編の千遥と同じである。