タアモ
あつもりくんのお嫁さん(←未定)(あつもりくんのおよめさん(←みてい))
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
許婚がいる錦は、東京から遊びにきた高校生の敦盛に強く惹かれ、彼を追いかけて東京の高校に進学する。初めてだらけの生活に困る錦を何かと助けてくれる敦盛に、錦の想いは募るばかり。そんななか、突然の雨で錦は敦盛の一人暮らしの部屋へ行くことに。でもそこへ、敦盛のお母さんが登場! 急展開に緊張する錦だけど、敦盛が彼女のことを「一番の嫁候補」ってお母さんに紹介しちゃって!? 彼女(仮)ライフが始まる第2巻!
簡潔完結感想文
- 希望するお嫁さん(←未定)の第一歩として彼女(仮)になり、手繋ぎ原宿デート決行。
- お嫁さんには絶対にさせる気がない母親と、錦の欠点を指摘する弟との楽しくない食事会。
- 友人が出来たことで客観的視点を得る錦。敦盛のことを考えて身を引くことにするが…。
恋愛に大事なのは駆け引きで、珍しく引いて見た時の反応が見もの、の 2巻。
ヒロイン・錦(にしき)と御曹司・敦盛(あつもり)にとって自分たちの結婚とは自分たちに意思があることを親に示すための外箱であった。幼い頃から地元で年上の男性・宝(たから)との結婚を親から熱望されていた錦は、その袋小路から脱出するために敦盛を頼って上京し、彼と結婚することが、親の支配や地元の人間関係から脱却するための大きな希望となっていた。そして敦盛も、自分に適当な ご令嬢を見繕っては会わせようとする母の煩わしさから逃れるために、錦を現時点での嫁候補とした。錦はともかく、敦盛に明確な愛はなかったが、2人は結婚を盾にして自分たちの状況の改善を願った。
だから最初は結婚というパッケージは逃避先でしかなかった。錦でさえ その人と結婚したいという気持ちが分からないまま、結婚という形式だけを望んでいた。だが敦盛の家族との食事会で、錦は自分の中で、彼を好きという気持ちと彼と結婚することへの気持ちの流れが上手く説明できなかった。その原因は2人が恋愛的にも精神的にも未熟だったからだろう。なぜなら敦盛の家族に不自然に思われないように、自分たちは仮交際をしていたから。当初は錦は彼女(仮)であっても大きな前進だと喜んでいたが、かりそめの関係であるから結婚へのプロセスが上手く描けなかったと思い知る。
そんな2人が お互いを本当に思い遣る心を持つのが この『2巻』である。それは自分たちが用意した結婚という大きな外箱に、相手に相応しい自分であること、努力・成長、相手方の家族に認めてもらうこと、本物の思い遣りや愛情という中身を詰めていく作業にも見える。
自分の想いや願望を一方的に敦盛に押しつけていたと反省する錦だけではなく、敦盛も利己的な目的で結婚を使っていたが、相手を本当に想うことで、それが間違っていることを知る。勉強以外にも人との繋がりの中で学んでいくことの多さを2人は知りつつある。元から勤勉な2人が それを学んだ時、彼らの未来は一層 輝かしいものになるだろう。
作品的にも初めから結婚をタイトルから提示していて興味を引かせ、そこに向けて2人が相手の長所を知りつつ、自分の欠点も学んで、相手の立場に立つことを学んでいく。結婚(希望) → 彼女(仮) → 本当に心を重ねる、という通常とは逆方向の流れが面白い。少女漫画では絶対的ハッピーエンドとして結婚が使われることが多い。長年、結婚は少女漫画読者の夢として機能していた。しかし本書の場合は、最初から 結婚を目標にして、2人が自己実現をするという現実的な過程が描かれる。
2人にとっても結婚は いつか成長した大人の自分の外郭のような気がする。自分で相手を選べる現実を手にすること、相手を幸せにするだけの度量や収入を得ることなど、大きな目標に合わせて自分の形をフィットさせていく様子が見える。結婚を逃避に使っていた2人が、互いに選択し成長し、時には互いの手を取り力を合わせ、難局を打破していく。
今回 登場する敦盛の家族は中ボスのような存在で、初戦である今回は敗北のような形になるが、きっと2人なら次は負けないだけの力と絆を得ているはずである。そしてラスボスと対峙して、2人は幸せになるはず。そういう少年誌のような明確なレベルアップが分かりやすいのも本書の良い所ではないだろうか。『2巻』だけでもレベルアップの効果音が聞こえてくるような場面が幾つもあった。その段階を踏んだ成長の度合いが きちんと用意されているのが読んでいて気持ちいい。
敦盛の母は息子の部屋(家)に女性がいることに動揺するが、敦盛が嫁候補というのなら錦は嫁候補として認識する対応の早さを見せる。そして錦を思いっきり値踏みした後、言いたい事だけ言って帰っていく。話によると母は敦盛の嫁探しが趣味で、彼はそれに巻き込まれ気味。その現実から逃げるために敦盛は錦を利用した。
またも敦盛の家庭事情を知った錦は、母にセッティングされた再来週の食事会で自分が嫁に相応しい人格を演じ、母の暴走を止めさせようと考える。そんな錦の考えに同調し、2人は食事会に向け付き合うことになる。形式的な物で、いわば偽装交際に近い。ここで錦が仮交際であっても それが本当になる可能性が秘めているならばプロセスは あまり気にしないというのが彼女らしいと思った。
ただ敦盛の結婚観を変えるのは苦労が予想され、錦は敦盛にも結婚したいと思わせなくてはならない。試練は数限りない。しかし敦盛は無表情を崩さないが、長年一緒にいる西条は彼が楽しそうだと感じているようだ。好きでもない人と一緒にいるほど殿様の敦盛は暇ではないだろう。
2人は食事会への服を買いに原宿に向かう。敦盛は原宿に詳しい和菓子屋の御曹司・蓮人(れんと)を助っ人に呼んでいた。彼が人を頼るなんて珍しく、敦盛は自分が思っている以上に蓮人への友情を感じているのではないか。ただ原宿に詳しい蓮人と、原宿に憧れる錦は予想以上に2人で盛り上がり、敦盛が疎外される状況となる。敦盛が少し嫉妬のぞかせた所で、蓮人は用事があると立ち去る。
2人きりになった後は はぐられないようにと敦盛が手を握ってくれる。敦盛は甘い物が好きなど、彼のことを知る1日となった。仮交際であってもデートはデートである。
次に敦盛が入った店は高級店で敦盛は15万円の服を選び、錦の試着後 即決する。敦盛は、蓮人が紹介した店ではなく、自分の知っている店で服を選びたかったのだろうか。15万円は嫉妬の値段かもいれない。
値段に衝撃を受け、錦は落ち込むが、敦盛は錦が かわいかったと言ってくれ、舞い上がる。洋服代は敦盛に一生 仕えて返そうと心に決める清く正しい錦だったが、一生一緒にいることの恩恵を一番に受けるのは錦だろう(笑) 結局、2人きりの時は ずっと手を繋いでくれた敦盛。彼の合理的な判断らしいが、仮交際を生真面目に履行しているようにも見える。
ただしキスがしたいと調子に乗る錦には雷を落とす。『1巻』の寝込みキス(頬)の全力阻止といいキスには敦盛はキスには鉄壁なのか(笑) この日の終わり、2人は連絡先を交換する。これも敦盛の合理的な判断だろうが、錦の叶えたい願いでもあった。
その日以降、敦盛は お互いを知るために錦と毎日 電話をすることに決めた。錦が勉強について聞いても、それ以外の話でもいいと敦盛の方から間口を広げてくれる。そして可能な限り放課後の自宅訪問を錦に要請する。錦にとって都合の良い展開になるが、敦盛自身も変化しており人との繋がりが価値観を広げるという考えに至ったらしい。
人との繋がりを求め錦はクラスの親睦会に参加する。クラスの輪に入ることが目的だったが、やはり内部生の多い学校では なかなか難しい。そんな時、錦に1人の女子生徒が近付いてくる。錦と同じ高校から入学した外部生である彼女は、錦の原宿行きを知っていた。先輩と行ったことを問題視、いや敵視しており、錦とは釣り合わないと罵詈雑言を浴びせる。だが彼女の言う「先輩」は蓮人であり、敦盛ではなかった。その女子生徒・山口八千代(通称・やちょる)は蓮人のことで怒っていた。
やちょる は3年前の中1の時の雨の日、傘を差さずに歩いている所に蓮人から声を掛けられ、傘を渡されてから彼が好きらしい。蓮人を追って この学校に入学したのは錦と同じ。そして やちょる は蓮人に近づける自分になるべく努力して自分の内面も外見も、周囲の反応も変えていった。2人は境遇が同じこともあり すぐに意気投合する。違うとすれば、敦盛と背景が違うことを認識しても妙にポジティブな錦と、蓮人を神格化するあまり自分の存在すら隠そうとする やちょる の態度の違いだろう。そして錦が敦盛に好きを隠さないのは、好きという気持ちを殺した宝の件があったから。2人は、高校に進学して初めて腹を割って話す相手が出来たことを喜ぶ。
錦は その後に訪問した敦盛の家で、やちょる という友達の存在が敦盛への負担を少なくすると彼に告げる。敦盛は錦に出来た新しい友達の性別を聞く。これも やきもち の一つだろう。更には宝から かかってきた電話をスマホごと取り上げ、2人で身を寄せ合って勉強する。甘やかすような言葉は告げない敦盛だが、溺愛と呼べるような行動をするのが敦盛の素晴らしいところである。
錦は やちょる との話で、自分が敦盛の気持ちも考えずにグイグイしていたことを反省するが、敦盛はそれを容認している。錦の猪突猛進さがなければ彼女の境遇も、敦盛との関係も変化しなかったこと。現実を改変するための行動力でもあるのだ。
そして食事会への対策も練る。他の参加者は敦盛の両親、弟だという。弟はイギリス在住だとか。父は無口、母は情報収集に余念がないだろうというのが敦盛の家族紹介である。
そこで錦は、今の自分が母親を納得させる材料がないという分析結果を正直に話し、敦盛の真意を問う。敦盛は錦を母の お眼鏡に適うことを目的としていない。息子が選んだ人を両親に合わせて その反応を確かめる、というのが彼の真の目的だった。それは誰でも良いわけではない。錦だから敦盛は選んだ。そして錦は敦盛が人生で初めて選んだ人である。
恋人らしく身を寄せ合う2人だが、それは敦盛の体温と調子を狂わせる。そして どんなに我慢しても錦は敦盛が好きだという気持ちが口から出てしまうことをコントロール出来ない。爆発しろ、と思うほどのイチャイチャを仮の段階から見せつけられる。
食事会当日、錦は やちょる に髪型をセットしてもらう。ちなみに学校での2大スターである敦盛と蓮人だが、女子生徒の人気は蓮人に大きく傾いているらしい。敦盛は不愛想で怖いというのが女子生徒の一般的な反応らしい。そんな彼に色々な表情を引き出している錦が特殊であることが分かる。
緊張する錦をほぐすために、敦盛は終わったらデートを約束し、彼女の やる気を引き出す。
食事会は父親が来ず、母親と弟の雪鹿(ゆきしか)の計4人となる。母親は容赦がなく、学生時代は錦のような庶民の娘との交際を認めるが、価値観が違うため敦盛と一生を共にすることは出来ないし、その資格はないと錦に告げる。錦と語らう前から決めつける母親を敦盛が牽制する。
そして続けざまに弟の雪鹿は錦に敦盛の好きな所を聞く。だが敦盛を好きという気持ちと結婚ということが錦の中でも上手く結びつかない。そして雪鹿は、錦の地元での雁字搦めの状況から逃避するために敦盛を利用したことを指摘する。それに対して謝罪の言葉を述べる錦。
人を追い詰めるような発言を繰り返す雪鹿に敦盛は怒りを露わにする。雪鹿にとっては兄の感情の乱れこそ見ものであった。遂には失礼な態度の母弟に対し、敦盛は中座する。それでも敦盛の家族は錦に対し謝罪をしないし、彼女を冷たく突き放す。
店を出た2人だが、錦は自分のせいで敦盛と家族が仲違いするのが嫌だと戻ることを願う。それは錦が本当に敦盛のことを考えるようになったからでもある。そして自分の気持ちを追うばかりでなく、冷静に物事を見つめると、自分が彼にとって迷惑でしかないと身を引こうとする。
だが敦盛は それを許さない。グダグダ言わず 錦に俺を好きでいたらいい、俺のことを考えるなら そうしろ、と自由な錦を維持させようとする。そういう錦だからこそ敦盛は彼女を気に入っているのだ。そして自分には出来ないことを やってのけるから錦に羨望の気持ちを持っている。
確かに敦盛は何でも持っているけれど、孤独で悲しい日々を送っていたのも確かなのだ。そんな敦盛に錦は幸せになって欲しい。だから どんな時でも この人の見方になろうとする。それが錦が出来ること。そして それが結婚したい気持ちの始まりだと錦は気づく。もしかしたら今なら雪鹿の質問にも胸を張って言える答えが あるかもしれない。
その夜、錦は自分が出来ることとして、敦盛の家族に認められる自分になることを誓う。食事会が失敗したことで仮交際も終わったと錦は思っていたが、敦盛は食事会の対価としてのデートの誘いの連絡を入れる。
錦が望んだのは目的のない放課後デート。早速 敦盛は放課後、錦の教室に顔を出し、彼女を呼び、一緒に帰る。敦盛は ちゃんと錦の「彼氏」として彼女を呼びに来ていた。そして錦が喜ぶ顔が見たくて、彼女のために行動する。錦にとっては最後のデートで 惨めになるから勘違いしたくないが、勘違いしてしまいそうになる。
だが調子に乗って敦盛に自分のことを好きになったかと問うと、彼は真顔で好きとは何かという表情を返してくる。ここで答えを急いだのは、仮交際を終わりたくないという錦の切羽詰まった心情の表れでもあるのだろう。
帰り道、錦は もう自分の気持ちを押しつけないこと、彼女みたいに接してくれたことの感謝を述べ、心残りとしてキスをしたかったと告げる。だが敦盛の気持ちのないキス、交際はいらないことを、彼女になって初めて痛感した。欲しいのは環境じゃない。中身なのだ。これは人生においても同じだろう。
だが敦盛は自分は別れるつもりはない、と錦に告げる。でも錦は気持ちが伴わないのが嫌だし、自分の都合で敦盛に本当に好きな人ができる時間を奪うのが嫌。この選択は2人のためなのだ。
だが そんな錦に敦盛はキスをする。敦盛には 人を好きになるとか嫌いになるとか経験がないから この気持ちにどんな名前を付けて良いのか分からない。けれど敦盛は錦を ちゃんと自分のものにしたくなった。だからキスをする。そして これからも別れずに付き合い続ける。
これにてハッピーエンドにも見えるが、祖父の家に許婚・宝が到来する…。