タアモ
あつもりくんのお嫁さん（←未定）（あつもりくんのおよめさん（←みてい））
第05巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
結婚しよう、錦。初めてのドキドキお泊まりでさらにお互いの想いが強まった錦と敦盛。夏休み、実家へ帰省した錦だったけどお父さんに将来を否定されたうえ、宝とのことでかのと気まずくなり落ち込んでしまう。そんな錦の前に東京で受験勉強をしてるはずの敦盛が現れ、錦の両親にご挨拶！ 最初は交際を反対していたお父さんも敦盛の真剣な想いに心が動かされたようで…。さらに敦盛は「父に会ってほしい」と錦にお願いをして！？ なのに敦盛のお父さんと会う予定がまさかの事態に…。しかも錦と敦盛が”駆け落ち”しちゃってドキドキが止まらない！！ 大波乱の第５巻
簡潔完結感想文
- 敦盛の両親との面談前に錦の祖父が倒れる。意外な面会となった敦盛父は変人で…。
- 自分と同じ道を敦盛が歩んでくれることに喜ぶが、彼ら それぞれに悩み事が生じる。
- 自分探しのプチ駆け落ち。だが自分の人生を照らす光は近くにあった。そして婚約。
高校生の2人が婚約を成立させるための自分探しと身辺整理、の 5巻。
いよいよ敦盛（あつもり）の父親との初対面か、と思われたが、その前に整理すべきことを整理するのが『5巻』の内容である。これは錦（にしき）・敦盛 双方、そして結婚を目標とするのならば2人が擦り合わせなければならないこともある。
まずヒロイン・錦の問題。それが現段階では まだ許婚である宝（たから）との関係の清算だろう。宝が諦めない限り、錦の父親は彼に協力し続け娘に圧力をかけるだろう。そんな状態で敦盛の両親に会う訳にはいかない。身辺調査で許婚の存在が明らかになった時、両親は錦の非を断じるだろう。「普通じゃない」敦盛の家族に背筋を伸ばして会うには、清廉潔白な身辺と、そして迷いのない人生のプランが必要なのだから。
錦は宝とは友達になったと思っているが、彼の方はそうじゃない。彼を動かすのは 宝をずっと思っていた錦の地元の親友・かの であり、かの を動かしたのは敦盛の実直な言葉である。そんな間接的な連鎖が錦の視界をクリアにしていく展開が良い。もちろん錦に敦盛への確固たる信頼と愛情があるから、彼女がブレないという点も この許婚問題にとっては大事だっただろう。
これによって物語の開始前からあった錦の地元での三角関係が完全に解消される。その状況の複雑さから誰もが自分の気持ちを封印したり、相手の気持ちに知らないふりをしたりしていた。そして物語においてメインの三角関係ではないということもあり、この三角関係は1組のカップルも生み出さず終わる。互いに牽制し合って動きのない関係だったとはいえ、どこも成就しないとは。
そして敦盛側の問題。彼の場合は色恋沙汰ではなく、家族問題である。いきなり弟の雪鹿（ゆきしか）が家業を継ぐ意思を見せ、そして自分を後継者として育てた父が それを容認する発言をしたことで敦盛の足元が揺らぐ。ただ父の後継者になることを自分の将来だと思ってきた敦盛には存在の否定に感じられる事態で、彼は自分を見失い、自分探しの旅に出る。
これもまた本当の意味で父親と向かい合うために必要なステップなのだろう。従来のままでは敦盛はロボットのように意思なく将来を決めかねなかったが、雪鹿という存在によって一度 自由を得て、錦と駆け落ちをして全てをリセットしてから自分を見つめ直すことで彼の中に確固たる意志が生まれた。『2巻』で母との面談で2人が失敗したように、そこに親の強い威圧に対抗できるだけの強い意志と言葉がなければ、言葉は彼らに届かない。敦盛が なぜ自分の道を選んだのか、その志望動機が必要だから こういう展開になったのだろう。イギリス留学中の設定だったはずの雪鹿が いつまで日本にいるのかは気になるところだが、雪鹿という自分と対照的な自由で、そして少なくとも母親に愛されて育っている比較対象がいるから生まれた展開である。こういう人物配置が最初から考えられている構成が私は大好きである。
そして2人のこと。この『5巻』で2人は自分たちの進学先を決定する。2人で出来るだけ一緒にいるための選択をすることで2人の絆は強くなる。お節介な話にはなるが、きっと敦盛にとっては大学のランクを落とすような行為になるだろう。だが それでも大事なのは2人でいられる未来を模索することと、そして敦盛が自分の意思で大学を選ぶことだろう。きっとロボットのままだったら父親と同じ大学に進むのが一番だったはずだ。それをしないことが親離れであり、そして敦盛にとって自分の視点で世界を更新していくのに大事なことではないか。
ただし錦の方は、祖父の入院を通して医者という存在を身近に感じ、敦盛と同じという以上の医学部進学の理由が固まった。だが敦盛は自分に医学部進学という道を選ばなくていいという選択肢が生まれてしまった。その答えは『5巻』では出ていない。彼の選択、ひいては2人の大学生活がどうなるのかは まだ分からない。
ラストでは2人は婚約状態になる。これもまた両親との対峙には必要な確かな関係性となるだろう。そして これも敦盛が一度 自由を獲得してから選んだ道だということが大事だ。今更 自分探しをするほどに落ち込んだ敦盛が、人生の指針となる存在＝錦がいることを再確認して、2人で人生を歩む意味を知る。現実的に考えれば、2人はまだまだ子供で結婚生活を送るような甲斐性もない。それに本書の出版時はともかく、法改正により2022年04月以降は錦が結婚できるのは最低でも あと2年は先となる。だが彼らは先に結婚の意味を、その人と一緒にいる意味を知ったのだろう。彼らが1巻ごとに夫婦というユニットの意味を考え、知っていくのが良い。家庭の事情から自分が その人を選ぶ意味の大きさを2人が知っているからこそ、彼らの選択が重いものとなる。例え10代の彼らであっても、結婚に対する意識や意味は年長者のそれと変わらないだろう。
ちなみに婚前交渉が未遂に終わるのは、完遂してしまうと両親への説得力が減じるからだろうか。両親に性愛に溺れたのではなく、人生を俯瞰して考えているということを示すためにも、少なくとも両親を説得できるまでは性行為は ご法度か。婚前交渉なんて考え方は、許婚のように旧態依然とした考えだが、彼らの場合は身の潔癖さも大事なのかもしれない。
『5巻』中にあるかと思われた両親との対話は結局 最終『6巻』へと延期になる。ただ そのお陰で彼らはまた成長し、自分の語るべき言葉を
持つようになった。どうやって彼らが結婚に至るのかを見届けたい。そして祝福したい。
いよいよ敦盛の父親と対面する。だが父は息子の彼女に興味はなく会うことは了承するが、それよりも彼の進路を気にする様子だ。敦盛は父親を医者として経営者として尊敬している。だが父親としては不可解な存在のように見える。
錦は実家から東京へ戻り、早速 敦盛と合流し、彼から両親との面談が決まったことを知らされる。そして相手は あの敦盛が「普通じゃない」と思う家族なのだ。
だが当日、錦の祖父が店舗内で倒れ、錦は面会をドタキャンしてしまう。敦盛は錦が異常事態であることを疑わないが、家族は ご立腹。父は仕事の呼び出しが入ったと会わずに家を出てしまう。
パニックになっていた錦は、病院に着いて祖父の診察を待つ際になって、敦盛からの連絡に気づく。敦盛も病院に駆けつけ、2人で診察結果を待つ。
祖父の診断は良発性の めまい。脳に異常はないが、めまい が治まるまで入院となる。祖父とも会話ができ、錦は落ち着きを取り戻す。その病院で錦は敦盛の父親と遭遇する。この病院は敦盛の父親が経営する病院の一つだったのだ。
敦盛の父親だと知り、急いで今日の非礼を詫び、自己紹介をしようとする錦だったが、父は「興味ないから」と錦の名前すら聞かない。彼女の紹介は いちいち しなくていい、という父親に、結婚相手の紹介だと敦盛は訂正するが、父親は子供の遊びには付き合えないと、冷淡な態度を取る。
錦は自分が約束を破って怒らせたからだと思うが、父親はこれが通常運転。子供のことになど興味を持てない人なのだ。錦は、子供の話を聞かない父親という自分と敦盛の家の共通点を見つける。そして敦盛が言ってくれたように、錦も長期戦を覚悟して家族との対話を続けようとする。
錦の祖父は敦盛の父親を学生時代の頃から知っている間柄のようだ。ここでの会話で どうやら父親の方も息子が何を考えているのか分からないことが判明する。似た者同士なのかもしれない。そして敦盛は、錦と出会わなければ人としての感情を忘れて、父親のように全て無関心な人間になっていたのだろう。確かに敦盛の『1巻』での周囲に遠慮しない不遜な態度などは、父親に よく似ているように感じられる。
祖父の不在の間は錦の母親が上京し、祖父・錦の面倒を見てくれるようだ。これは錦の父親がスネてしまうような状況だろう。大丈夫だろうか？
夏休み明けの模試、錦は成績が急激に向上するが志望校には届かない。錦は実家の経済状況から医学部進学であるなら国公立大学しか選択肢がない。
そして夏休み明けの敦盛は自分から錦を昼食に誘ったり、自分の好意を素直に人前で話したりと変化が見える。そこで錦は模試の結果と志望校について相談し、敦盛から地方の国立を目指す手段もあると教えてもらう。錦が医者を目指すのは医者になるであろう敦盛の力になるから。だが学力と経済力が原因で地方に行くとなると、離れ離れになってしまう。受験勉強で遠慮して会えない時間すら心細いのに、距離が離れて恋愛を継続することに不安を覚える。そして敦盛が平然と自分に地方を薦める理由も不安要素の一つとなる。
祖父の見舞いの際、錦は祖父の担当医である若い女性医師について その動機を聞く。彼女の姿は自分の目指す将来像。だから確かな志望動機を掴みたい。錦は自分が彼氏と同じだから医者になりたいという動機についても話す。けれど現役の医者、色々な医学部生徒を見てきた彼女は それを否定しない。むしろ「誰かのために なりたいから」医者を目指すのは、医者に向いていると背中を押してくれる。凛々しく、そして大らかな彼女の姿を見て錦の夢は また一つ鮮明になっていく。
こうして錦は敦盛と離れることになっても医学部を志す。その意思を敦盛にも伝える。それは敦盛にとって自分の生きてきた道を肯定してもらえるような言葉だった。そして彼も父親の力が届かない場所で自分を試すために東京の大学へは行かないことを決意する。そして錦の実家に近い地方の大学を志望校とする。それは努力を続ければ錦でも一緒の地方大学に行ける可能性を秘めていた。敦盛の決断は2人のための決断でもある。
祖父の病気は、敦盛の家族との対面におけるハプニングだけでなく、錦が夢を確定していくという側面もあり一石二鳥の良い構成である。そしてハプニングがあったからこそ錦は敦盛の父親という人と彼らの関係性について知る機会を得る。いきなり父親と会っていたら、かつての母親との面談の二の舞になっていただろう。次の面会までの時間は成長できる猶予になる。
だから敦盛が地方の大学に行く前に、錦は彼ら父子の繋がりを感じられるようなことを試みる。
錦の地元の親友・かの は宝が東京へ戻る前に、自分の気持ちを宝に伝えた。だが宝は かの の気持ちを知っていた。知っていて知らないふりをして友達で い続けようとした。だから かの にも そう伝える。その答えは かの が予想したものだった。それでも伝えたのは錦と同じように頑張るためだったのだろう。
宝の中には実際に会う前から、錦の存在があった。そして会った錦に ますます心惹かれたのだった。かの の勇気に触れた宝は もう一度 前に進むことを決意して東京に戻る。だが そこで初めて喫茶店の休業と錦の祖父の入院を知る。病院にも見舞いに来てくれるが、錦は宝よりも敦盛と父親との関係の改善に夢中になっていた。
しかし敦盛の父親は錦を「部外者」として扱い、彼女の望むような息子との対話を聞き入れない。その様子を見た宝は、錦が辛くないのかと聞く。そして宝は まだ かの がもたらした古い情報、敦盛は錦を好きじゃないのに交際している、を信じている。だから自分なら錦を本当に幸せにできると彼女に再びアプローチする。
だが既に錦の心は敦盛でいっぱい。宝では自分は幸せになれない、と彼を再度、そして徹底的に拒絶する。錦にとって都合の良かった宝との友人関係だが、宝は錦と出会う前から彼女が特別だった。2人の意見は合わず、笑顔なく分かれる。
そして敦盛にも驚くべき情報がもたらされる。それが弟・雪鹿が実家を継ごうと思うと宣言した。生き方を強いられてきた敦盛が自分の意思と関係なく その道に進むのなら、自由を与えられてきた自分が その意思で その道を選ぶという。長男である自分に強制されてきた道が、突然なくなった。
そういえば敦盛の名字が北神（きたがみ）なのを初めて知ったかも。錦は学校生活の中などで知っているだろうが、彼女にとっては敦盛は敦盛で、彼の名字は おまけ みたいなものだろう。それは錦の敦盛の家に対する態度と同じで、多くの病院を経営する北神家の嫁になりたいのではなく、彼女は飽くまで「あつもりくんのお嫁さん」になりたいのだろう。
雪鹿は その意思を父親にも告げる。それは家を継ぐ道具のように兄の意思を尊重してあげるためでもあった。だが父親は敦盛の人生を彼らの選択に任せるという。ずっと父の意思に沿うようにしていたのに、あっけなく その人生を進まなくてもいいと言われ、敦盛は自分の人生が虚しくなり、父にとっての自分を疑問に思う。
そうして錦・敦盛 双方が落ち込むような状況の中、敦盛から旅行の提案がされる。祖父も退院し、母も もうしばらく東京の実家に残ることで心配がなくなり、錦は敦盛と旅行に向かう。
旅行先に向かう電車内で敦盛から これが駆け落ちであることを知らされる。帰る日も決まっていない。まさに人生の路頭に迷った敦盛は、いつもの西条ではなく錦をパートナーに旅行をする。
高校生カップルにしては贅沢な旅行を堪能し、その夜、敦盛から大事な話があると聞かされる。旅行の一夜ということで錦は緊張するが、敦盛が話し始めたのは自分の家の話だった。急にレールを外された格好になった敦盛だが、唯一 良いことがあるとすれば、錦との結婚に さほど問題がなくなったということだろう。
だが敦盛は自分がどうしたいか分からない。急な話だし、自分に願望というものがないから答えられない。その答え、つまり平たく言えば自分探しが今回の旅行のテーマかもしれない。
もしかしたら自分は父親に認めてもらいたくて家を継ぎたかったのではと考え始める敦盛。そして錦は どんな敦盛でも大好きだと言ってくれる。それだけは敦盛は迷わない。だから錦に結婚を提案する。『1巻』で上京を勧めた責任を取るという。こうして2人の中で正式に結婚が確定する。
その後、布団の上でキスをし、いよいよという段になるが、錦が鼻血を出すハプニングに見舞われ、2人は手を繋いで眠る。少女漫画あるある だ。大事なのは性交渉ではなく気持ちの繋がり。
敦盛は人生の指針が近くにあったことを理解し、旅行は1泊で終わる。錦を幸せにする、それが敦盛の原動力。結婚への意思、結婚することの意味は、2人とも同じだけ感じている。いよいよニコイチのユニットに なってきた。
巻末の少年・敦盛と新しい家族の話も良い。自分の大好きだったものの名前を最初から錦に付けるということは、錦がそうだったように、敦盛も錦の外見から気に入ったと推測される。最初から親切にしていたのも好意と気づかないままの行為だったのかもしれない。
