《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼女を自称した悪役令嬢が善人に転生するには、作品の聖母であるヒロインの力が必要。

雛鳥のワルツ 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
里中 実華(さとなか みか)
雛鳥のワルツ(ひなどりのワルツ)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

女子高育ちで男子が苦手! なのに、男子だらけの高校に入っちゃったひな子。夏休みに突入!! 肝試し大会や夏祭りとイベント盛りだくさん。 肝試し大会では瑞希と思わぬハプニングが!? 自分を見つめてくれる瑞希、トキメキをくれる駿。ひな子の恋が行き着く先は…? ラブ度急上昇中♪ 【同時収録】〈番外編〉雛鳥のワルツ

簡潔完結感想文

  • 転んでも立ち上がるヒロイン力で嫌がらせしていたライバルを友人に転生させる。
  • 肝試し や夏祭り で2人の男性が入れ代わり立ち代わりヒロインに接近するモテ期。
  • 事故チューで相手を意識してしまう ひな子と和久井。目撃した椎名にも異変が…⁉

人公・ひな子がヒロインパワーを まざまざと見せつける 4巻。

まず気になって仕方がないのが『4巻』の表紙。表紙というか裏表紙を含めた3人の体勢が とても淫靡に見えるのは、私の目が汚れているからでしょうか。でも これは ちょっとねぇ…。

カメラマン:真ん中の女性の方、もうちょっと腰を反って お尻を突き出す感じで お願いしまーす。

そして『4巻』では表記の不統一が気になった。「付き合う」だったり「つきあう」だったり、同じ回の中でも表記が違うのが目につき、細かい部分まで神経を届かせて欲しいと思った。

このところ ギスギスした雰囲気が漂い、ヒーロー候補の和久井(わくい)までも闇堕ちしてしまっていたが、『4巻』で そんな暗い雰囲気も終わり、元のように和久井 → ひな子 → 椎名(しいな)という三角関係がメインとなる。そして椎名が徐々に恋に目覚めたように見え、ますます目が離せない展開になっている。

そんな変わりゆく関係性を繊細に描いていて、人を好きになる/人に好きになってもらう幸福感が伝わってくる。

そして今回は、クラスメイトの女子生徒・秦(はた)の処理の仕方に作者の手腕を感じた。『3巻』では ひな子の女性ライバルとして立ちはだかり、彼女に明確な悪意を向けた秦。少女漫画においては、ヒロインへの悪意は重罪。本来なら秦は作品外追放の処分が妥当なのだが、そうすると4人しかいない女子生徒が減ってしまうので、彼女を どうにか無害化・無力化するのに慎重な作業と集中力が必要とされる。

それに必要なのが ひな子の「ヒロイン力」。作品を司る ひな子が秦を許せば、彼女はライバルから友人へと転生する資格が生まれる。このところ男性に守られるばかりであった ひな子が、自分から行動し、広い心を見せることで その実力を見せつけた、とも言える。

更に作品側は、秦に一切の未練を持たないことを証明させるように、彼女に失恋の儀式を強制する。椎名に しっかりとフラれ、秦も完全に諦めたことを読者に分かりやすく提示することで彼女に二心がないことを示す。作品内でヒーローを愛する気持ちを持てるのはヒロインだけ。少女漫画世界は、一部の人にしか恋愛の自由がない非常に息苦しい世界なのだ。今回のように わざわざ「踏み絵」をさせてまで、恋愛関係が絶対にないことを証明させる。

このようにライバルが友人枠へと転生するには、多大なエネルギーが必要なのだ。この時、実は一番 厄介な存在は読者だろう。読者に許してもらうために、わざわざフラれ、恥を かかなければならない。その一連のプロセスに丁寧さを感じた。

秦が きっぱりフラれることが友達の第一歩。でも ひな子までも間接的に失恋している気が…。

だ相変わらず、和久井が三角関係の一角を担うというよりも、ひな子と椎名の障害としてしか機能していない。彼は本当に「当て馬」で椎名が恋心を自覚するために ひな子の周囲をうろついているだけだ。

気になるのは1話や1シーンの中での人の出入りが激しい点。それが作品のスピード感に繋がるのだろうけど、じっくり腰を据えてエピソードを深めるというよりは、1人の男性と良い雰囲気の直前に、別の男性が現れ、物語の進行を阻止しているように思える。

短いスパンで男性陣が ひな子の前に現れては去っていくのだが、一歩 間違えると ひな子が男性2人の間を行ったり来たりしているように見えてしまう。

どちらのヒーローにも見せ場を作って、一進一退の恋愛レースを見せたいのだろうが、いつも男性がそばにいる状況が優先されてしまっている。秦とも仲良くなったのだから1話ぐらい、女性4人の再出発を描いたエピソードも読みたかったかも。あまりにも女性陣の影が薄い。


な子は今回の騒動を、4人しかいない女子生徒の中で壁のあった秦と仲良くなるチャンスだと前向きに捉える。秦は そんな ひな子を偽善者などと口悪くいいながらも、秦にとって自分を受け入れてくれる女子生徒は初めての存在で内心 嬉しい。

こうして体育祭のリレーで女子生徒4人で繋いだバトンは、アクシデントもありながらも勝利を掴む。転んでも立ち上がり、自分を信じてくれる ひな子を見て、秦は自分の所業を謝罪する。そして腹を割って話せるようになった秦は、これまでの自分の話をする。

その中で、椎名にとっての大事な人の証にもなっていた手の甲のケガも、椎名によるものではなく、勘違いした ひな子を利用しただけだと分かった。しかも秦は椎名に中学の時にフラれていた。だが秦が納得できなくて椎名に執着していただけ。だから秦は もう一度、最後の告白をして、見事に玉砕する。

これにより、秦と椎名の関係は完全にクリーンになった。秦が いつまでも未練を示すことはなくなり、女性ライバルの看板を下ろすことで、ひな子の友達に初めてなれる。告白は友情のための通過儀礼であった。

椎名は秦の告白に対し、秦は妹みたいなもの だと答えた。それはいいのだが、椎名の誰とも つきあう気はない、という返事は、ひな子にもダメージを与えたと思われる。彼女という亡霊は消えても、まだまだ両想いには遠そうだ。


して秦の他に もう一人、善人化するのが和久井。秦の暗躍を知りながら利己的な考えにより真実をひな子に教えなかったのが和久井の罪となる。

しかし ひな子は そちらも水に流す。『3巻』で男子生徒から守ってくれたのは間違いなく和久井だから、その行動を感謝する。こうして和久井は また ひな子のことが好きになる。そして この闇堕ちがあるからこそ、今後 一層 和久井は ひな子に対してストレートな愛情を伝えるだろう。

だが、ひな子は和久井と距離が縮まるのを実感する度、告白を断って彼との関係が崩れるのが怖い。だから返事をしなかったのだが、中途半端な自分を変えるために和久井に お断りしようとするが、和久井は返事を拒絶することで恋愛に決着を付けさせない。

現段階では答えは分かっている。それなら聞かずに長期戦に持ち込むというのが和久井の戦法らしい。諦めなければ試合は終了しないのだ。ひな子の恋が成就するまでは和久井は ひな子を好きでい続けるのだろう。


休みに突入してしばらくした頃、電話番号も知らない椎名から急に呼び出された ひな子。当然デートなどではなく、クラスメイトたちと久々に再会する企画だった。なんと秦は、髪型を変え、目を隠すほどの前髪はなくなり、彼女の視界は良好となった。

ここでは肝試し回となる。秦は肝試しのペアのくじをひな子と交換して、椎名とひな子をペアにする。これは彼女の お詫びの印。そして完全に秦が恋愛戦線から撤退した証拠でもある。

この回ではひな子が椎名と初めて2人で行動した『1巻』のスタンプラリーとの変化が如実になる。似たようなイベントを重ねることで、かえって違いが浮き出るという面白い試みである。

ひな子はオバケが苦手。逆に椎名は怖いのが好き。2人の間には そんな会話も笑顔も増えて、しかも ひな子も椎名への恋心を自覚している点が違う。
途中で恐怖で腰の抜けた ひな子に椎名は手を差し伸べる。ここも前回との変化。女性嫌いで冷淡だった椎名が、その手を握るのを許すのだから。ひな子じゃなくても自分が「トクベツ」なのではと勘違いしてしまう。
しかし同時に、椎名の秦への返事から、ひな子が手を求めても、その手は拒絶されることが予想される。そこが本書の もどかしく面白いところだ。


の前の流れを知らない和久井は、仲良く手を繋いでいる2人を見て動揺し、そして ひな子を攫う。その恋の成就を邪魔するぐらいしか彼には残されていない。

2人で丘の斜面で寝転がる。再び罪悪感が無くなった和久井は再びグイグイくる。
星空を見上げた後、元の場所に戻ろうと立ち上がろうとした ひな子がよろめき、和久井に倒れ込み、2人はタオル1枚隔てた事故チューをしてしまう。

そして椎名はちょうど事故チューの場面だけを目的していた。これは和久井が手を繋いでいる2人にショックを受けたのと同じで、その前の流れを知らないから、2人の関係が特別なものに見えてしまう。もし両方のイベントを見ている昔の秦みたいな人がいたら、一晩で1人の男と手を繋ぎ、もう1人の男とキスをする ひな子は二股状態に見えることだろう。私も若干そんな気もするし…。

今回は事故チューなので私の中で恋愛イベント「キス」には該当しませんが、ひな子の中ではファーストキスという認識になっている。こうして和久井が恋愛イベント的には一歩リードするという流れなのかな。


いては夏祭り回。この日、顔を合わせた椎名がひな子に素っ気ないのは、事故チューのことが念頭にあるからか。冷たいことがひな子の希望になるのだが、彼女はそれを知らない

そして ひな子は和久井の顔が見られない。和久井は動揺を見せず、むしろ ひな子を避けているように見える。本書は こういう人を避ける描写が多いですね。

ひな子は和久井に避けられることによって、それにより いつも和久井の親し気な空気に助けられていたことを実感する。北風と太陽、飴と鞭みたいにゴン攻めの和久井は、時には一歩 引いた時のが逆に印象に残るのかもしれない。

そうして俯く ひな子に声を掛けるのは椎名。そして彼は ひな子に「付き合ってるんだろ 和久井と」と問う。序盤なら椎名が他者の恋愛関係に首を突っ込むなんて考えられない話。和久井が引くと、椎名が攻める、ひな子は いつもパラダイス。

夏祭りの喧騒から離れて座っていると、たった4ページの間でイケメンが交互に寄ってくる。うーん。

解だという ひな子の答えを聞いた椎名は それだけで立ち去り、入れ替わりに和久井が顔を出す。肝試し回と同じく、二股恋愛のように 1つのイベントで どちらにも良い顔をする ひな子という状況が続く。

ひな子は和久井に事故チューのことを謝る。そして和久井も ひな子に素っ気ないのは、恥ずかしくて目が合わせられないから という自分の心境を話す。照れる和久井はひな子にとって新鮮。

和久井と交流したので次は椎名のターンとなるが、やっぱり以前の それぞれのデート回のように、肝試しは椎名、夏祭りは和久井と別々に分けるぐらいで良かったのではないか。ちょっと気が散る。

クラスメイトたちが三々五々と解散し、残った椎名は ひな子を家まで送るという。その帰り道、椎名は 怒ったように「百瀬(ひな子)は つきあってなくてもキスできるんだな」という。

それは椎名が和久井との事故チューを目撃したことを意味していた。そして椎名は前後関係を知らないから、ひな子が尻軽な人間だと軽蔑しているらしい。


名は ひな子に弁解も許さず背を向けて、ひな子は誤解されたまま夏休みが明ける。あの事故チューで椎名も頭が いっぱいいっぱいで、相手の言葉すら耳に入らないのだろうか。

学校では和久井が いつも通りに接してくれて話していても、ひな子は それを椎名が誤解しているのでは、と気が気じゃない。

だからひな子は椎名に説明の機会を設ける。椎名自身は説明を拒絶するが、ひな子が知ってほしいと、グッと前に出る。こういう椎名の冷淡な態度にも負けないところが ひな子らしい。時に冷徹な椎名に ずっと交流してくれるから、椎名も ひな子を見直したのだろう。

ひな子は事故チューの経緯を説明する。それを実践して見せた時、当然2人の顔が急接近する。この場面、2人が立ったままだと、身長差があり当日の状況の再現にならないから、この説明の際、椎名は保健室のベッドで上半身を起こしている状態になっている。深読みすれば、椎名は眠れないほど ひな子の事故チューを気にしていて寝不足になったと考えられる。

ひな子は説明に一生懸命で気づかなかったが、椎名が赤面しているのを見て、自分の行動の大胆さを認識する。

その事実に椎名は安堵しているように見え、更に和久井から呼び出された ひな子の行動を阻止しているような態度を取る。どうやら椎名は「嫉妬」しているようだ。

椎名は心配事が一つ減ったが、興奮要素が一つ増え、また眠れないかもしれない…。


「雛鳥のワルツ 番外編」…
ずっと犬猿の仲の和久井と椎名の中学生時代の話。
この頃も和久井が椎名の咬ませ犬になっているのだが、和久井のことを一番 認めている人間が椎名という話でもある。決して仲良くはならないが腐れ縁が続いている。

2人ともあまり自覚はなさそうだが、中学時には(高校でも)学校の人気ツートップなのだろう。そして その両者から愛され始めている ひな子。もし女子生徒が4人の学校ではなく、普通の男女比の共学校だったら、ひな子は昔の秦のように女子生徒からの嫉妬が凄かっただろう。
逆ハーレム状態は、余計な恋愛ノイズを消すという穏やかな環境を保持するためなのかもしれない。