《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

長編化によってレース種目が100m走から持久走になっても、目指すべきゴールは一つ。

カンナとでっち(7) (別冊フレンドコミックス)
餡蜜(あんみつ)
カンナとでっち
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「一人前の大工になったら婿養子として受け入れてやる」とカンナパパに結婚の仮承諾を得た勝仁(かつひと)。カンナと勝仁、ついに結婚…!!と思っていたけれど、2人の婚前旅行にパパはついてくるし、勝仁はなかなか一人前になれなくて…!? 2人はちゃんとゴールインできるの――!!? 番外編も収録! カンナと勝仁の特別な日が見れるかも!?  イケメン職人男子とのドキドキ同居ストーリー、最終巻!

簡潔完結感想文

  • 晴れて婚約者となり、彼の関係者にも改めて ご挨拶。婚前旅行もあるよ☆
  • いつまでも夫を支え夫婦仲睦まじいカンナの両親は彼らの理想形で未来形。
  • でっち が鉋とカンナを使いこなすには2~3年が必要と言われてから3年後に…。

由に恋人でいる期間が余りに短かった 最終7巻。

ハッピーエンドなのに思い返してみれば、なにかと不自由な恋愛だったなぁという感想が浮かんでしまう。作品に緊張感とドキドキを保ったのはカンナの父や勝仁(かつひと)が設けた「掟」だとは思うが、このせいで10代の彼らが伸び伸びと恋愛する様子が描けなくなってしまった。

高校生でありながら婚約者同士ってのが胸キュンなのかなぁ…? 恋人同士である時間が短すぎる。

特に後半は作品もヒロインたちも結婚というゴールに向かって走っており、それによって恋人よりも婚約者としての発言になり、人生を見据えた描写が多くなった。結婚は目指すが、掟があるために身動きが取れなくなり、結果、3年間 キスもしない、まるで戦前のような旧態依然とした恋愛様式になってしまった。
職人の世界は見習い期間中は恋愛に現を抜かす人間は なまっちょろい、軟派な人間というレッテルが貼られたのも気になる。勝仁は早々にカンナに手を出したけれど、カンナはキスも ろくにできないという中途半端な飼い殺し状態となった。これでは勝仁の印象も悪いし、カンナの恋愛イベントが見たい読者は満たされないままになった。

ただし最終回で2年半の時間を飛ばして、彼らが掟を守り、しっかりと一人前になるまで我慢したことを描くことで感動が生まれていたのは ちゃんと評価しないといけない。自分たちで作った掟を守ったからこそ、その後に その前に父親から発布された掟(改)も撤回させることが出来た。自分たちを縛るものを自分たちの努力と忍耐力で周囲に文句なしに認められていくという流れは非常に清々しい。


かし やはり作品に緊張感を保たせるための掟だったが、結果的に作品が一番 掟に絡めとられていたように思う。何も出来ないけど、何かさせないと読者が喜ぶ場面が作れない。そんな自縄自縛に悩まされた中盤だったのではないか。そして後半も、結婚というゴールに向かうために高校在学中に一定の結論を出すことになり、ヒロインたちが行き急いでいるように見えてしまった。厳しいルールと既定のルートという不自由さが悪目立ちしてしまった。

そして繰り返しになるが、ヒロイン・カンナの立ち位置に大いに疑問が残る。高校在学中に婚約状態になり、彼らは結婚するというゴールを見せたのはいいが、カンナが自分で拓く人生が何も描かれなかった。勝仁と結婚する、という将来が明確にあるのなら、カンナが勝仁を支えるために将来像を描く場面が欲しかった。最終回で20歳を超えたカンナは実家の小田原(おだわら)工務店の事務を手伝っているという進路が唐突に示されるが、結局、カンナの役割は勝仁の「応援」という抽象的なものに納まっているのが非常に残念だ。

なぜ彼女は、恋人である勝仁が明確な夢を持ち、その実現に日々努力する姿を見て焦燥や刺激を受けないのだろうか。恋愛面においても、カンナは勝仁に好かれるための努力を特にしないで、流れで両想いになってるし、作品に甘やかされている。大工の妻になるという未来が決定づけられているにしても、同じく大工の母に心得を聞くとか、料理を習うとか花嫁修業の一つでもあればいいのに、高校3年生3学期までフラフラとしていた。しかも結果的に、実家の手伝いというイージーな選択をしている。

ヒロインの努力が余りにも少ない作品で、大工関係者が近場で くっつくだけの話にになってしまった。もっともっと想像力を働かせれば作品に動きを出すことは可能だったのにと惜しく思う。それもこれも急な初連載だったので仕方ない部分もあるだろう。次の作品で 今回の反省点が活かされているかで作者の成長を感じたいと思う。


かった点は、勝手に予想していたクライマックスが大きく外れたこと。

1つは、3Kとも言われる大工の職場環境だから、最後に勝仁に不幸な事故が起きるのかと心配していたが、それは無かったこと。建設現場で高所から落下し、怪我をすることで感動の場面は簡単に作れると思うが、そういう湿っぽい展開にしなかったのは本書らしかったと言える。恋愛面もライバルと思しき人が出てきても、嫌がらせなどせず、スッと退却していたし。

もう1つは少女漫画の王道と言えるヒーロー側のトラウマが出てこなかったこと。てっきり勝仁が児童養護施設に入った過去に関するトラウマが出てくるかと思ったが、それもなかった。これは安心材料でもあるが、残念な部分でもある。結局、勝仁がどうして天涯孤独になったのかは、明かされないままとなった。死別なのか離婚なのか育児放棄なのか、結局 勝仁の本当の親については何も描写が無かった。ただ これも、作風に合わないし、重たすぎる展開になるので、なくて良かった。

飽くまでラブコメを貫いたことで どこを読んでも楽しい作品になったのではないか。


ンナの父は、勝仁を婿養子として受け入れ、家業の小田原工務店を継いでもらうと告げる。父の心変わりは、娘が家出をして、その心配を本気でしてくれる勝仁の姿を見たからであった。まだまだ修行中という前提でありながらも、カンナと結婚し工務店を継がせてもらえる寛大とも言える計らいに勝仁は感涙する。

そして後日、勝仁は、カンナを自分が育った施設に連れていく。カンナの訪問は2度目だが、今回は勝仁の婚約者として紹介される。

その施設で一番新しく入った子のために勝仁は壊れた机を新調することになった。勝仁は材料を購入し、カンナは道具を取りに戻るという息の合ったところを見て施設の職員たちも安心する。そして彼らは勝仁が『1巻』の頃とは顔つきが変わったことを指摘する。カンナ父子のように毎日見ていると気づきにくいが、『1巻』以来、1年半ぶりに会う彼らから見ると分かることもあるのだろう。

こうしてカンナは勝仁側の関係者に挨拶をして、一層 結婚へ前進する。


前旅行、と読者に何かを期待させるような広告詐欺となった ただの家族旅行。彼らの行く所は木造建築の方が似合うからか、ホテルではなく旅館で、和風といえば温泉がつきもので『5巻』に続いて温泉シーンがある。

日中は一応、親子別々に行動するが、父の監視は厳しい。ってか隙を見てキスをしようとする勝仁に信用が置けん。どうも軟派なんだよなぁ、この男。最初の印象もチャラいだったし、どうして こんなに女性慣れしているのかが気になるところ。

旅先のアスレチックに立ち寄った彼らは、2人も困難や恐怖を共に乗り越えていく。これは もう恋人と言うよりも夫婦としての絆の域に達していて、ドキドキの種類が少女漫画読者が求める それとは違うような気がする。
このアスレチックでの様子が今後の2人の夫婦像になるのだろうか。カンナが恐怖で立ち止まってしまっても、勝仁がいつも優しい言葉でカンナに前に進む勇気をくれる。でもカンナは勝仁に何をしてあげられるのだろうか…。


終回は そこから2年半が経過する。20歳を過ぎた彼らだが、まだ結婚はしていない。なぜなら勝仁は まだ3/4人前のままだから。

なんと ここでカンナの将来が語られ、事務を手伝っているという。この時点でカンナの高校卒業後は4年制大学ではないみたいだが、短大や専門学校は出たのだろうか…。謎の「受験生」設定。

結婚が許されてから長い春になりかえけていたカンナだが、勝仁が一人前になるための試験である床の間を任されたことを知り、見学に向かう。そこでは勝仁は集中力と根気のいる作業に悪戦苦闘していた。カンナは応援ぐらいしか出来ないが、その応援が勝仁の力になっているという言葉を貰う。本当に何も努力をしないヒロインだなぁ…。

勝仁は、無事に床の間を完成させるが、親方はダメ出しをしないだけで無言。だが後日、実際に住人が入居し、大事に床の間が飾られているのを見学させてもらい、勝仁は自分を誇れる自分になれた。

この夜、両親から呼び出された2人は、父親から掟(改)の破棄を伝えられる。そのキッカケは、日中の お宅訪問だった。ここで父親は、施主にお礼を言われて はじめて一人前の大工になれる、と教えを伝えた。つまり勝仁が一人前になったのは、床の間を完成させた日ではなく、お礼を言われた この日なのだ(彼らは自分からお礼を聞きに行った気もするが…)。

こうして一人前となった勝仁は、カンナを仕事場に呼んで、鉋くずで作った花束をプレゼントする。
鉋(かんな)を上手に扱えるようになるのは2~3年要するというのが、かつての父親の言葉だったが(『1巻』)、そこから3年、勝仁は毎日のように鉋がけの練習をして、そして花束を作れるほどの鉋がけに成功しているという証明でもあるのだろう。

鉋を自由に扱えることが、カンナと自由に交際できることと重なっている。こうして2人は、約3年越しのキスをする。ただ本当にキスをしなかったのかは、この2人なので怪しい所である…。

勝仁は この3年間努力を重ねてきたが、カンナは何もせず成長が感じられないのが残念でならない。

そして そこから また数年後の世界に場面は飛ぶ。玄(げん)と名付けられた彼らの息子は、父親の作業現場に見学に行く。「玄さん」は勝仁が手に入れた最初の大工道具である金づちが名前の由来だろうか(息子が本当に玄という名前なのか、それとも玄太の玄なのかは不明だけど)。大工道具を溺愛する勝仁に、その名前を貰ったということは この息子も長らく愛される事であろう。もし第2子が生まれたら鋸(のこぎり)の「がんちゃん」を由来とする「丸(がん)」だろうか。

そして この作業現場は勝仁が建設中の「わが家」である。こうして勝仁が子供の頃に、親方から貰った夢は実現しようとしている。結婚エンドも多い少女漫画だが、自分で建てた家に住むという終わり方は本書ぐらいだろう。

この家の中では どんな幸福な時間が流れるのだろうか…。


「カンナとでっち 番外編」…
勝仁とカンナの結婚式を間近に控えた頃、女性大工の槙(まき)は年上の男性大工・凌(りょう)と一緒に お祝いを作ることにした。凌は お祝い自体は否定しないが、初対面の槙には塩対応。だが作業を通して お互いを認めていく2人。

本編の感じでいくと、凌は自分の仕事に理解がある女性じゃないと好きにならないような描写があり、男が夢を追うことを美徳と考えるカンナのような女性にしか心を開かないと思われた。槙に対しては同業だから そんな心配がないと考えたのか。凌が槙に惹かれた部分が ちょっと分かりにくい。

ただ凌は この番外編では彼が年上の大人である部分がしっかり描かれていたので、本編の何倍も格好良く見えた。なので槙がファザコンの壁を簡単に壊されるのは よく分かる。