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少女漫画と小説の感想ブログです

未来の旦那さんとの結婚資金のため高校3年生3学期にバイトを始める「受験生」。

カンナとでっち(6) (別冊フレンドコミックス)
餡蜜(あんみつ)
カンナとでっち
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「一人前になったら結婚しよう」と見習い大工・勝仁(かつひと)にプロポーズされたカンナ。数日後、カンナの父に結婚の許可をもらいに行くけれど、父は驚きのあまりギックリ腰に!! 父が休んでいる間、一人で仕事をこなした勝仁。すると父が「3/4人前だな」とほめ言葉をかけてくれて、一人前まで、結婚まで大きく前進!…と思ったけど、女の子の大工さん・槙(まき)登場で!? 別冊フレンドにて連載中☆ 職人男子とドキドキ同居ラブ!

簡潔完結感想文

  • 2人の中で結婚の意思が固まり、早速 結婚資金を調達しようと動く高校3年生3学期。
  • 結婚を焦るあまり、早く結果を出したい勝仁。職人の世界って そうじゃないような…。
  • カンナは勝手にライバル認定した女性大工への対抗策で勝仁の良い嫁アピールを開始。

愛脳 ならぬ 結婚脳の度が過ぎて恐怖すら感じる 6巻。

少女漫画的には結婚=これ以上ないハッピーエンドのはずなんだけど、本書の場合、結婚に向かって猪突猛進する若い男女の姿が狂信的に見えて怖い。

ヒーローの勝仁(かつひと)が そこをゴールにする動機は1話目から描かれているので、本書のゴールが2人の結婚であることには異議はない。彼が大工になることを目指したのは自分で建てた家に大切な人と住むという夢を、ヒロイン・カンナの父から教えてもらったから。その夢を実現するために、彼が結婚に対して やや前のめりになるのは分かる。

制約で読者をドキドキさせた掟に加えて、将来の目標があることで彼らが常に前進していることが分かり、それが読者の心をも巻き込んでいく。

だが問題はカンナだ。ここのところ ずっと彼女に対する疑問を書いているが、カンナは将来的に男に寄り掛かることしか考えていないのが残念でならない。なぜ彼女もまた結婚しかないと思い込んでいるのだろうか。

それよりもカンナには差し迫った問題があるだろう、と言いたい。それが高校卒業後の進路だ。カンナは既に高校3年生の3学期を迎えているというのに、本書は全く彼女の進路問題に触れない。以前は高校3年生の自分を「受験生」と定義していたカンナは、あろうことか今回からバイトを始める始末。このカンナの進路問題が気になって何も頭に入ってこない。
あれだけ娘を溺愛する父親は、なぜカンナの卒業後の進路は無視するのだろうか。大工との恋愛・結婚しか切り取っていない不自然さがいよいよ極大に達している気がしてならない。

そして『6巻』後半のカンナが勝仁を支えようと彼を売り込む営業も、幼稚すぎて悲しくなるレベル。見習いの大工の営業をして、営業先に何の得があるのだろうか。少なくとも父と祖父が大工の小田原(おだわら)工務店の一人娘なのに、業界の習慣や知識を何も持たず、ただ勝仁を売り込むためだけに工務店の評判を落としかねない常識が欠落した行動を取った。これで勝仁はカンナを一層 好きになったみたいだが、私はカンナが一層 嫌いになりそうだ。

未来の夫を売り込む妻 気取りか…。はたまた子供の友達作りに しゃしゃり出てくる母親か…。

これは勝仁と同業の女性大工・槙への対抗心から取った行動なのだろうが、大工たちが一人前になるために努力を重ねているなら、カンナも将来を腰を据えて考えるべきだった。勝仁の支えになりたいのなら、未来の大工の売り込みなどしないで、もっと大工の妻として必要な素養や知識を勉強するなり、もっと手段はあるはずだ。幸いカンナには大工の妻として生活をしている母親と言う頼もしい存在がいるのだから、彼女から仕事や姿勢を学べばいい。

思いつきで始めたチラシ配りをヒロインの努力と成長にするには無理がある。なぜ作者は こんなにも長い連載期間をもらっているのに、カンナに何もさせないし、将来を考えてあげないのだろうか。この21世紀の時代、大工の妻が絶対に家に入らなくてはならない、というものでもないだろう。勝仁が一人前になるのは まだ数年先かもしれないのだから、カンナも自分の人生を歩むべきなのに。本書は好きになる人も、人生も、選択肢が狭すぎて あまり憧れる要素がない。


うやら作者はカンナが高校生の内に物語を終わらせたいらしい。読切短編から連載が始まった当初は、掲載号と季節が一致していたが、やがて そこにズレが生じ始め、今は もはやサザエさん時空と言える。

高校生の内に ある程度の決着をつけるから、カンナの卒業後を考えていないのかもしれない。

勝仁にしてもコツコツと毎日 技術を磨く職人の世界なのに、自分の能力を認めてもらおうと焦ってばかりなのが気になる。この世界は努力を重ねることで、いつしか親方の方から その能力を認められ、一人前になるのだろう。だが勝仁は自分から親方の評価を欲しがっている。そんな焦りの中で仕事をしてもミスや怪我をするだけだと思うが、物語は大団円に向けて、そんな勝仁の姿勢を肯定してしまっている。

カンナや勝仁をはじめ、作品全体が空転しているような気がしてならない。高校生という期間限定の立場と、大工という職業の相性が どんどん悪くなっているような気がする。作者は もう少し先までかれらの進路を用意してあげて、余裕のある展開を心掛けるべきだったのではないだろうか。


仁からプロポーズされたカンナは、早速 結婚資金を心配する。そこでアルバイトをすることにしたカンナは、なりゆきで和菓子屋の窮地を救うことになった。和菓子職人も大工と同じ職人で、共通点を見出したカンナは張り切る。ってか、お前、進路は…? バイトしている場合なのか…??

週末の全国の お菓子の祭典・菓子博で和菓子を売り込むカンナだったが、上手くいかない。そのピンチを救うのは勝仁。勝仁はパフォーマンスと見た目の良さをフル活用して、女性客を呼び込む。カンナは1人じゃ何も出来ないけど、これからは1人でやる必要もないという二人三脚で これからは人生を切り拓く。こうして結婚資金を少しずつ貯める2人であった。


持ちの固まった2人は、交際宣言の時と同じく、カンナの父の前に正座をして将来的な結婚を宣言する。これは2人の交際が真剣であることをカンナの両親に伝えるためでもあった。

その宣言に衝撃を受けたカンナの父はギックリ腰になってしまう。そこで勝仁が父の分の仕事をすることを願い出る。ただし まだまだ半人前の勝仁なので、凌(りょう)が監督役として駆り出される。

勝仁が何かに急き立てられるように作業するのを見て、凌は事情を聞き、手を貸す。1話だけライバルだったが、もう完全に協力してくれている。出てくる大工は全員 良い人というのが本書のルール。

バイト終わりのカンナが現場を覗いても気づかないほどに集中している勝仁。カンナは それを寂しく思うのではなく、そんな彼を また好きになったことだろう。
3日後、カンナの父も完全復活し、現場に顔を見せる。そこでカンナの父は凌に礼を言い、作業がきれいな仕上がりであることに感謝するが、その作業は全て勝仁の手によるもの。

こうして父は勝仁を認めざるを得なくなり、半人前から3/4人前に格上げされる。


の作業現場はカンナが通う学校の横。ってか カンナは いつまで学校に通っているんだ…⁉ もう受験シーズン、そして卒業式だろうに。

その現場には女性の大工・花岡 槙(はなおか まき)が見習い3年目として働いていた。槙はカンナや勝仁と同じ年。同じ大工同士、勝仁と槙の息の合った作業風景を見て、カンナは焼きもちを妬く。現場が学校から見えなければ気にならなかったはずだが、どうしても見えてしまうからイチャイチャしているように見えてしまうのだろう。

当て馬大工・凌に続いて女性大工・槙が登場。海の家のバイトで出会った お色気お姉さんの悪夢再び⁉

父の背中を追い、それを夢として追っている槙はカンナにとって眩しい存在。同じような境遇で生まれ育った もう1つの自分の可能性に見えるだろう。だから もし自分も大工になる道を選んでいれば、勝仁ともっと話が合う、もっと彼のことを理解できるのではないか、という思いが拭えなくなる。

その寂しさを埋めるかのように、カンナは夜中に勝仁の布団に潜り込む。掟に従いキスはしないが裸で布団に入る2人。これは法の盲点をついていて許される事なのか…??

だが翌朝、勝仁が目を覚ますと、布団には旅に出るというカンナの置き手紙があって…。


田原家を出た人が避難場所として使うのは、祖父母の家と相場が決まっている(『3巻』で交際宣言をした勝仁の追放)。

勝仁のために自分が何が出来るかと考えたカンナは、小田原工務店の営業をして顔を広めて、将来的に勝仁への声が掛かりやすくなる環境を整えようとする。自作のチラシを作って、工務店を回るカンナ。だが自分の家がそうであるように、彼らには昔からの つき合いがあり、新規のセールスは お断り状態。

打ちのめされたカンナを助けるのは通りかかった槙(彼女の家の近所だから会うのは偶然じゃない)。槙に住宅展示場に連れてこられ、そこで お客さんに営業をかけると良いと助言される。そうしてチラシを配るカンナだが、具体的な質問には何一つ答えられない。今 売っていない商品を売り込まれても客は困るばかりだろう。そんなことにも気づかないカンナって…。

だが子供たちに自作の木の家が好評で、その親に勝仁のセールスをして、一定の効果は出た。その様子を槙から連絡を受け駆け付けた勝仁が見て、彼は心を強く打たれる。ようやく再会したカンナを抱きしめ、心配させるなとカンナを叱る。

カンナは正直に槙と比べて夢がない自分のことを話す。だが槙はファザコンで勝仁のことなど眼中になかった。全てはカンナの思い込みで、彼女だけが空回っていただけ。もし槙が本当に勝仁を好きになっても、凌の時と同様、告白して あっという間に引き下がるだろう。本書における大工たちは気持ちの良い人しかいないのだから。

こうして娘の行動を知り、本気だと悟ったカンナの父が、娘を手放す ある決心をする。
この父の心の動きは理解がしやすいですね。『6巻』中盤では勝仁が親方に認められるために努力をしていたし、終盤はカンナの勝仁への熱い想いが嫌でも分かる行動をしていた。彼らの決心が本物であるから、父も いよいよ娘を自分以外の男に託す気持ちになったのだろう。