杉山 美和子(すぎやま みわこ)
True Love
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
杉山美和子が挑戦する恋の形は、好きになってはいけない相手を愛してしまう禁じられた恋の物語。妹を好きになってしまった兄・弓弦。みんなに祝福される恋じゃないってわかっているけど、人を好きになってしまう心は、どうしても止められず・・・好きになればなるほど苦しいのに、愛し続けることを選ぶ兄。
なんの打算もなくただただ愛おしいと思う気持ちをタイトル「True Love」に込めました。
簡潔完結感想文
- 前作と同じ精神年齢の低そうなヒロインの名門校ライフ with イケメン。まだまだ導入部。
- 深夜3時に自分の気持ちを ぶつけてくる似たもの母娘。相手の都合を全く考えないのか。
- どれだけハードルが高くても今度こそ兄と同じ学校に通うための努力は出来るヒロイン。
動き始めたジェットコースターは まだまだ上昇しているだけ。落ちるのは ここから、の 1巻。
夢中になった。本書は、読者に この恋はどうなってしまうのだろう という気持ちを継続させる仕掛けに満ちていて、最後まで一気呵成に読んだ。
でも、最初に思ったのは前作『花にけだもの』と同じような人物配置、そして似たような導入部であるということ。今回もヒロインは年齢よりも幼く、そしてヒーローは容姿端麗・頭脳明晰という分かりやすい演出に辟易した。掲載雑誌の関係もあるが、作者にとって女性とは可愛く庇護の対象で、男性は非の打ちどころがないというのが理想なのかと世界観の狭さを感じずにはいられなかった。
そして そんな幼いヒロインが、一目惚れといえる完璧なヒーローの後を追って同じ学校に入るというのも同じだった。頭の動きの鈍そうなヒロインが名門校に入学する展開は前作と同じで、ご都合主義を感じずにはいられない。その展開を見た時、早計にも私は作者の限界を見たと勘違いした。
周囲の人間も前作と似ていて、特にヒロインの友人は そっくり(『1巻』では未登場)。同じ年だがヒロインよりもスタイルが良く大人びて見える人。黒髪も前作と同じで、ヒロインに対しての役割も似たようなものだと容易に想像され、それでまた ウンザリした。
だが、本書ではヒロインの当初の幼さは狙ったものだったことが遅ればせながら後半になって分かった。その証拠に終盤のヒロインは とても大人びた表情をする女性と呼ぶのに相応しい人間になっていた。幼いままではいられない、周囲の人を全員 傷つけるような恋愛を経験することが、彼女の運命だった。その落差こそ、読者を魅了して止まない点である。
もしかしたら主人公兄妹のように6歳までは同じ家庭で育ったのに、9年後に再会してみたら全然スペックが違っていた、ということを体現しているのかもしれない。さすがに それは穿ち過ぎか…。『花とけだもの』と本書は姉妹関係にありながら、その到達点が全く違う。その違いから作者の成長が感じられた。
このように本書は作者が描きたい内容を最初から最後まで描けたのではないかと思う。私はそういう作品が大好きだ。『花にけだもの』が大ヒットし、ある程度の連載期間が確保され、そして作者は新連載でも高い読者人気を保つ実力があったからこそ可能であった。
作者は毎回、面白い展開を用意しながらも、描きたい場面に向かって用意周到に準備し、そして読者にとって忘れられない物語を完成させた。元々ハイレベルな画力があったが、今回は そこに構成力が加わり、大変 充実した作品となった。そういう心・技・体が揃った作品は少ない。大ヒット作の次も きちんとヒットさせるのは本当に凄い。
知性的なイケメンが、おバカさそうなヒロインに突然 キスをするというのも前作と一緒だが、初日でキスをした前作と違うのは彼らには重ねてきた年月がある。
ヒロインが幼くいられたのは、それだけ彼女が周囲に恵まれ、何も考えずに幸せに暮らせてきたからでもある。ここから彼女を大人にするのは この恋の障害たちである。その意味では不幸が人を大人にすると言えよう。
だからヒーローが理性的で大人っぽく見えるのは、彼の苦悩の深さの表れでもある。ヒロインが『1巻』の最後に再会の為の努力をしたように、ヒーローは9年間 努力をし続けた。ずっと その人に会いたいと悶え悩み 苦しんできたからこそ、彼は大人になり、その苦しみの分、恋心を大きく育ってきた。
同じ家に育った彼ら2人だが、物語の始まりで知性や精神年齢などに差があるのも彼らの育ちの違いなのである。
ただし最初から最後までジェットコースターのような展開だが、後から その風景を思い出してみると、違和感がある部分が なくはない。本書に瑕疵や描写不足があることは否めない。特に両親の視点から見ると、なんで、と思う部分もあるのだが、子供たちの波乱万丈な起伏を重視したからであろう。
この『1巻』でも両親は離婚し、その9年後に かつての配偶者と再婚している。離婚時は子供が低年齢であったため、結婚生活をタブー視してしまうのも仕方ない部分もあるが、今回の再婚にあたっては、かつての離婚のことを子供たちに説明するべきではないか。
そういう細かい描写が無いのは、それもこれも親が子供たち(特にヒロイン・愛衣(あい))が波乱万丈な人生を送るためだけに必要で、親の結婚・離婚などは ただの背景装置に過ぎないからだろう。この辺は、作者の親への配慮の無さというか、無慈悲な部分である。複雑な境遇が生まれれば、親に思考など必要ないと言わんばかりである。前作『花とけだもの』もヒロインは親に恵まれていなかった。掲載雑誌が低年齢向けの少女漫画誌だから、親を分かりやすくダメな人間に描いているのかもしれないが、作者の親への不信が滲み出ているような気がしてならない。
『1巻』は まだ物語の導入部。だが『1巻』のラストシーンを見たら もう読者は次を読まずには いられないだろう。
特に良かったのは、幼かった頃の子供たちの願いが叶うところである。
保育園に通う愛衣(あい)と小学1年生の弓弦(ゆずる)の兄妹は小さい頃から仲良し。だが父母は顔を合わせれば喧嘩ばかりで、家庭は冷え切っていた。そんな2人の仲直りを、そして家族全員が仲良く暮らせることを兄妹は願い、彼らは流れ星や神社のお参りで、一緒に暮らせることを切に願っていた。
ちなみに保育園のシーンで出てきた意地悪な男の子・ケータくん は、絶対に高校生編で再登場すると思っていたが、出てこなかった。成長したらイケメンになりそうな顔なので、9年前に好きだった愛衣に対して当て馬行動をすると思ってたのに…。
だが家族旅行の最中も、夫婦は喧嘩し、離婚を切り出すような状況は変わらず、幼い子供たちの願いは叶わず、父母は離婚、そして子供たちはそれぞれ母と娘、父と息子に分かれて暮らすことになった。
ここは家族の存続のそうだが、兄と一緒に小学校に通う、という小さな願いさえも叶わない現実が苦しい。
だが その9年後、彼らの願いは天に通じていたことが判明するのだった…!
14歳になった中学3年生の愛衣は、両親の離婚後、東京から長野県の母の実家で祖父母と3世代で暮らす家で育つことになった。ある日、その家に消印も差し出し人も無い一通の手紙が投函されていた。「会いに行く。」とだけ書かれた手紙には、願いが叶う流れ星の写真が印刷されていた…。
その日、愛衣が学校に行くと校門の前に1人の男性を発見する。愛衣を一目見るなり、引き寄せ抱きしめる その男性こそ成長した弓弦だった。精神的には6歳の頃と変わらない愛衣に対し、兄は大人びていた。
放課後の再会を約束し、愛衣は授業を受ける。遅れて待ち合わせの場所に愛衣が行くと、弓弦は座って眠っていた。愛衣は この時初めて、兄を上から見ることになり、まじまじと観察する。
ここで分かりにくい描写が、この時 愛衣が弓弦の靴のサイズが分かること。前後の描写から弓弦が靴を脱いでいると推測できなくもないが、いきなり靴を目測で計っているようにも見える。兄を つぶさに観察し、読者に弓弦のプロフィールや特徴を教える場面なのだろうが、説明が不足している。
やがて目を覚ました兄は、いきなり説教くさいことを言い出す。愛衣が周囲に勧められて つけたグロスを見るやいなや、色気づいたと批判し、そこから先入観で彼女を批判する。そんな言葉に愛衣は傷つき、兄の側から離れることで、涙を隠そうとするが、転びそうになり逆に兄に助けられる。
泣き顔を見られ、愛衣は悲しい再会になったと悔やむが、この兄の態度は、彼の困惑でもあった。愛衣にとって兄の外見が変わったように見えたように、弓弦もまた妹の変化に戸惑っていたのだ。愛衣が可愛いからこそ意地悪を言ってしまう。それは上述の保育園児・ケータと変わらないメンタルと言えよう。
だが弓弦がウルトラハイスペックであることが明らかになる。通っている高校は偏差値75の全国トップクラスで、彼は3か国語を操るトライリンガルであった。父の仕事の関係で これまでアメリカ・ドイツで暮らしてきた帰国子女なのだ。
そして現在は父はアメリカ在住で、弓弦は東京のアパートで1人暮らしをして2年になる。この辺は東京から田舎に引っ越した愛衣との対照性になり、彼女の羨望を集める要素になる。
こういう分かりやすいエリート設定は、低年齢読者たちがヒーローに憧れるように付与されるのだろう。ただ本書の場合は、そういう肩書に惚れさせるという効果だけではなく、その高いハードルが後の愛衣の努力として扱われる。この部分は一石二鳥になっていて本当に感心する。
兄との会話中に、愛衣の同級生が彼らを発見し、一緒にお茶に誘われるが、2人は互いの意思で2人きりで過ごすことを決めた。こうして愛衣の特別性が演出され、読者も愛されていることを実感する。ここは一足先に2人が秘密の交際しているような描写で目が離せない。
だが兄が東京に帰る時間となり、2人の束の間の再会は突然に終わる。
帰り際、兄は母に自分との再会を秘密にするように告げる。後の展開を考えれば、弓弦が愛衣に会ったのはサプライズの予告であり、一刻も早く愛衣に会いたいと願い、急いた行動なのだろう。そんな自分の心を母親に知られる訳にはいかないから、愛衣に口止めをした。
愛衣の方は、兄の連絡先と写真を要求する。これは兄との繋がりを少しでも保ちたい、自分は持っていないから兄のスマホの中だけでも今日の思い出を形にして残したいという愛衣の切実な願望なのだろう。
互いに「かわいい」「カッコイイ」と告げ合い、彼らの1日は終わる。この胸の高鳴りに名前を付けるとしたら何になるのだろう。愛衣は秘密の共有や兄との再会に浮かれている部分が大きいだろうが、弓弦は違うだろう。
弓弦はクールに見えて、感情が顔に出やすく、私の大好きな赤面する男性「赤メン」なのだが、本書においては設定が設定なので あまり刺さらない。兄妹モノにドキドキするような心を私は全く持ち合わせていない。許されない禁断感が読者に受けるのだろうか。
兄と連絡を取るために、愛衣はスマホを持とうと お店に行くと、運よく通りかかった母にプレゼントしてもらえることになった。この1年の愛衣は、自分が願うこと何もかもが叶い出すラッキーな年である。幼少期に願いを叶えてくれなかった神様の罪滅ぼしだろうか。
そこからは愛衣は兄と連絡を取ることに浮かれる。愛衣は何度もメール着信をチェックし、彼の連絡を待つ。だが数時間、連絡がないからと深夜に 電話をしてしまう。だが兄はメールが苦手で、自分から愛衣に連絡を取らないという。
誰にも聞かれない秘密の会話を2人きりでする特別感も良いが、愛衣の中に会いたいという気持ちが募る。そして愛衣の願いは即、叶えられる。
兄との通話直後、母から連絡があり、母は別れた夫、つまり愛衣の父との再婚を宣言する。こうして兄に会いたいという彼女の願いは叶えられることになる。家族がまた平和に暮らせる。9年前にずっと願い続けていたことが、叶おうとしている。
とても劇的な展開だが、母はなぜ深夜3時に外にいて、娘に電話を掛けるのだろうかが とても謎。星空が見えるということは長野の夜道を深夜3時に歩いているのか。そして愛衣の両親の間で再婚話はどう進んだのかなどは全く分からない。
この日は父が在住するアメリカから長野まで会いに来たのだろうか。そして深夜3時までデートをして、再婚への道筋をつけたのか。もしや母は父との「事後」なのではないか。そんな心身ともに満たされた状態だから浮かれて深夜3時に電話を掛けてきたのか。
愛衣といい母といい、迷惑も顧みず、自分の中の欲求を抑えられず、深夜3時に電話をする無神経さが この母娘は似ている。
そこからの9か月、愛衣は兄と同じ高校に通うために努力した。だが偏差値75である。
これは大変 無謀な挑戦ではあるが、愛衣が兄と同じ学校に通いたいと思っていた9年前の願いが やっと叶うチャンスなのだ。それは神頼みをしないで愛衣が独力で叶えるべき願いだ。その純粋な願いのために愛衣は信じられないパワーを発揮する。受験間際に弓弦が せめてもの助力として お守りを渡しているが、例えそれがなくても、愛衣は そこまでの努力で難関を突破しただろう。
愛衣は受験勉強のモチベーションとして合格を果たしたら兄と出掛けることを お願いする。
こうして桜が咲いた4月。彼らの新生活は始まる。母は愛衣が通う高校が、「偶然」、弓弦と同じであることに驚いていたが、これは彼らが手繰り寄せた必然である。
新生活に喜色満面の愛衣だったが、引っ越し作業中、カーテンを取り付けていた愛衣がバランスを崩し、2人は事故チューをしてしまう。それに動揺する2人だったが、弓弦は覚悟を決めたように、愛衣に対して意識的に もう1度キスをする…!