マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない（くろさきくんのいいなりになんてならない）
第07巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
映画が大ヒット☆悪魔級ドS男子とのドキドキラブ最新作！ 黒崎（くろさき）くんへの気持ちを自覚した由宇（ゆう）だけど、親友・芽衣子（めいこ）が恋のライバル！ 友情のために自分の気持ちは秘めていよう…。そう決めたのに、なぜか芽衣子と一緒に隠れることになっちゃったのは黒崎くんの部屋のクローゼットの中!? 文化祭準備で浮き立つ校内で、黒悪魔＆白王子との恋愛関係が急展開☆
簡潔完結感想文
- 寮生活も約半年で男子エリア初潜入。悪事の発端は友人なのでヒロインは無罪です。
- 史上最低に落ち込むヒロインを それぞれに元気づける2人の王子様。そういう漫画。
- 女性の友情は回復したが、男性の方が崩壊寸前!? 恋の障害ばかりでゴールが見えない。
漫画的に いつかは やってみたかった寮の男子エリアへの潜入を いよいよ果たす 7巻。
『7巻』では これまで描写が無かった黒崎（くろさき）そして白河（しらかわ）の寮での部屋が紹介される。これは2人の王子に夢中な読者には大変 嬉しい場面だろう。そして単なる部屋の紹介ではなく、読者の分身であるヒロイン・由宇（ゆう）を彼らの部屋に潜入することで、彼らの部屋の様子を実況中継する仕組みになっている。
…が、ここで問題なのは寮の男子エリアに女生徒が入ることは ご法度だということ。そこで作者が編み出したのが、巻き込まれ型ヒロイン・由宇のフル活用。今回、由宇が王子の部屋に訪問するのは、本来 寮生ではない芽衣子（めいこ）の強い希望というエクスキューズを用意している。
作者が周到なのは、由宇に罪がないようにために、様々な条件を用意した点だ。1つは由宇が芽衣子に協力せざるを得ない状況を作り出している。同じ人＝黒崎を好きになったことを言えない罪悪感が由宇を芽衣子に協力させる。これは由宇の自己保身でもあるのだが、芽衣子に協力する健気なヒロインを演じることによって罪の意識を帳消しにしようとしている。そして もう1人の友人・タラコちゃんが男子エリアに潜入済みという先例を作ることで、潜入のハードルを下げているのも巧い。ヒロインの善性を守るために本書で一番（無駄に）努力しているような気がしてならない。
逆に言えば、作者が いつかは やってみたかった男子エリアへの潜入を、芽衣子に全ての罪を被せたと言えよう。この辺、作者の悪意や酷薄さを感じる。由宇はヒロインだから邪心を持たせる訳にはいかないのは分かるが、友情だなんだ綺麗に話をまとめている振りをして、芽衣子を汚している。
男子エリアへの潜入、在室だった白河の部屋への侵入はまだしも、不在の黒崎の部屋に入ろうとする芽衣子は明らかに行き過ぎであった。もっと理知的な人だと思っていたのに、作家の都合で性格を改変させられた気がしてならない。強引に そうするのは その後の「別冊フレンド」的な胸キュン場面をどうしても作りたかったからで、そのためにキャラを不自然に動かした。ただでさえ おまけ みたいな立ち位置しか与えられていない芽衣子に、こんなことをさせて心は痛まないのだろうか。
そして芽衣子は、盗撮そして家宅侵入と罪を重ねていくから、ますます由宇との差が広がる。この巻で芽衣子は黒崎との恋での由宇の優位を認め、自分から身を引いていく。穢れた人間には王子と恋愛をする資格はない。ライバルが自分で身を引いて、ヒロインの地位も恋も守られる…。
これは芽衣子自身の罪もあるが、考えてみれば芽衣子が盗撮したのは、由宇が芽衣子に頼まれて撮影しているの黒崎の写真を送らなかったからだし、寮への侵入も寮生の由宇が芽衣子を強く制止するべきだった。こうして由宇は何もしないまま自分だけ罪から逃れ、芽衣子だけが非常識な人間となっていった。
今回、芽衣子は自滅の道を選ばされた、と言えよう。その犯人は言わずもがな。由宇、恐ろしい子…ッ!!
寮の食堂という公共の場で いきなりキスをかます黒崎。理由は「そういう気分になったからした」。ヤバい、ちょっと精神的に問題あるやつだ。これの どこを好きになるの⁉
その非常識な振る舞いに対して抗議する由宇。だが黒崎は由宇の嫌がる顔が好きだからすると開き直る。彼女が いちいち歯向かってくるところにおもしろさを感じ、そして興奮しているのだろう（私見）。黒崎にとって由宇は自分に抵抗する稀有な人だから お気に入りなのだ。
以前も書いたが、由宇の本来の人格（中学生時代まで）なら彼女も周囲と同じく黒崎に視線だけで圧倒されただろう。だが、メイクをして別人格を憑依させている状態だからこそ、由宇は黒崎に対抗できた。そして それが恋愛の入り口であった。このタイミングが合ったからこそ、お互いが気になる存在になった。
黒崎と由宇のキスを間近で見て、由宇は芽衣子に黒崎との交際を疑われる。が、交際の事実はないので否定する。だが由宇が抱える黒崎への恋心については言えないまま。
キスを目撃、寮という非日常空間だからか舞い上がった芽衣子は、寮の男子エリアへの潜入を提案する。上述の通り、芽衣子に全ての罪を被せて、由宇が巻き込まれるだけの清らかな存在にしているのがエグい。盗撮したり無断で部屋に入ったり、芽衣子は正攻法の手段を使わなかったから恋の敗者になるのが必定なのだろう。そんな子に見えないのに悪い人間にされてしまったような気がしてならない。王子たちの お部屋紹介をしたいのは作者側の都合もあるだろうに…。
男子エリアに潜入した2人は白王子、そして黒崎の順で回る。そういえば2人の寮の部屋が見られるのは初めてですね。白河は在室で、猫探しという理由もあって合法的に中に入れてもらったが、黒崎の部屋へは無断で侵入。そこへ黒崎が帰ってきて、女性陣はクローゼットの中に咄嗟に隠れる。
姿勢を変えた拍子に外に出てしまい黒崎に潜入がバレる。更には寮監さんの設備チェックが入り大ピンチ。そこで由宇は白河と一緒のベッドに入って危機をしのぐ。これは修学旅行での先生の見回りのヤツですね。どこまでもオリジナリティーがないなぁ…。
『6巻』に続いて男性と同衾することによって、由宇は比較対象ができたと言える。黒崎とは違い ほぼ同じ状況になってもやはり白河には恋愛感情を覚えない由宇。それは黒崎におけるキスしたい気持ちと類似しているだろう。が、白河は由宇と同じベッドに入り、『6巻』の由宇と同じく恋愛感情が爆発したようだ。白河は あぁ見えてトロい。何もかも黒崎に後塵を拝しているからコンプレックスが生まれるのだろう。
文化祭も、黒崎（と白河）メインの話となる。黒崎が他者に寛容になる様子は見ていて楽しいが、そもそもの出発点が最悪なだけで、これが普通であることを忘れてはいけない。
ちなみに この巻では小兼井が登場し、芽衣子との恋愛フラグが立ったと思ったら、別に結ばれることもなくフェイドアウト。黒白王子に続く成績3位なのに、目立たないまま。黒崎たちばかり目立たせ、他キャラが活きてこない残念な作品である。
少女漫画の文化祭はキャラにコスプレをさせるのが主目的といっても過言ではない。由宇のクラスもそうなるが、黒崎は自分が衣装を着る条件として衣装制作に由宇を指名する。
まずは黒崎の体型の採寸からドキドキ。身体を密着したまま話をする2人。その会話で思わず黒崎の表情が和らぐ。男性同士でしか見せないと思っていた無邪気な表情に胸が高鳴る由宇。そんな彼女を見て、黒崎も動揺する。2人が普通の男女のドキドキを体験しているシーンが貴重！両片想いの状態が一番ヤキモキし、そして胸がいっぱいになる状態です。
採寸が終わった由宇の表情を見て、芽衣子は由宇が黒崎を好きだと分かってしまう。由宇は芽衣子が推理して真相に辿り着いてから自分の本心を話す。自分が傷つくことや相手を傷つけるリスクを取らないまま、相手に察してもらう。ヒロインらしい曖昧さだ。だが、そのことで芽衣子は由宇が自分を過小評価していると怒ってしまった。自分を守りたかったし、相手を信頼しきれていなかった。ここまで大きな由宇の失敗は初めての描写だろうか。
文化祭の準備でも芽衣子と距離が出来る。一応、仲良し3人組の設定なので、こんな時はタラコちゃんが両者の仲を取り持つのが普通なのだろうが、タラコちゃんは何を考えているか分からないし、彼女も彼女で何か抱えているらしき描写があるので この問題にはタッチしないのだろう。
そんな由宇の様子を見て、黒崎なりに彼女を元気づけようとする。白河にも由宇の落ち込みは伝わってしまう。王子たちは視線一つ、顔の傷一つでなんでも見通すエスパーなのです。友情と恋の板挟みを白河に相談するが、それは近い将来、黒崎と白河の間でも起きることでもあった。それは次の巻の お話。
ここで急遽、芽衣子たちとの出会いのシーンが挿まれるが、これまで友情がしっかり描かれている場面が少ないので、由宇の切実さが伝わらないのが残念な所。ずっと王子たちの魅力を伝えることに特化し過ぎた弊害が出ている。もう少しバランスが整っていれば由宇の孤独が浮き上がるのだが、男性たちに囲まれて幸せにしか見えないのが欠点となる。
芽衣子との仲直りは、由宇が入学式と同じように彼女を庇うことから始まった。クラスの出し物のアトラクションの試技を頼まれた芽衣子が困っており、それを由宇が交代する。
そうして自分を犠牲にするヒロイン力を見せた由宇に、黒崎が声を掛ける。彼には芽衣子との関係性も見破られ、逃げずに向き合えと叱咤激励してくれる。その言葉に勇気を貰い、由宇は芽衣子に偽りのない本心を話す。
だが、その途中 高所でバランスを崩す。それを身を挺して助けるのが黒崎。彼によって仲直りは出来るし、ナイトになるし、間違いなく黒崎はヒーローとなる、そして その目撃していても動けなかった白河は、自分と黒崎との違いを思い知らされる（それにしても このアトラクション、危険性が高すぎて許可されないと思うのだが…）。
芽衣子は由宇と一緒だったから黒崎との思い出が出来たと感謝する。そして彼女は事実上の撤退宣言をする。こうして友情は維持されたまま、恋愛の障害は取り払われていく。
芽衣子の気配りで、黒崎と2人で下校することになった由宇。由宇は今日1日の黒崎の働きに素直に感謝する。その しおらしい様子を見て黒崎は由宇に元気が戻ったことを確認し、「おまえは俺のことだけで あたふたしとけ」と命令する。
こうして巻頭とおなじくキスをしたい気分になった黒崎は顔を近づけるが、今度は由宇は自分から反撃を試み、彼の耳を噛む。
これ以上 黒崎に ふり回されたくない由宇は、黒崎に自分の好意をバレる訳にはいかない。恋愛は好きになった方が負けの頭脳戦なのである。ここからは「ゆう様は告らせたい」が始まる。きっと先は長いぞーーー。
そして白河にも動きがあり…。
