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少女漫画と小説の感想ブログです

両想いの前も後も闘い続ける戦闘狂ヒロイン。でも一番 向き合うべき弱い自分からは目を背ける。

微熱少女〔小学館文庫〕 (1) (小学館文庫 みC 4)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
微熱少女(びねつしょうじょ)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

里菜は中3の女の子。毎朝、駅で会う高校生の高柳に、ずっと憧れています。思いきって声をかけたら、高柳はライブのチケットをくれました。でも、里菜はライブを盛り上げるための笑い者にされて…。そんな里菜を助けてくれたのが、高柳の友人のヒロでした。里菜とヒロはごく自然にキスをして!?

簡潔完結感想文

  • 単行本は全10巻ですが、最初の2巻、最後の2巻で十分。中盤の中身の無さで微妙少女漫画。
  • 序盤のヒロインは自分の恋路を自分で切り拓いてる。無口な彼の お陰で空回りが全力運転。
  • 交際する前から同じ学校の受験を宣言するヒロイン。恋愛脳・地雷女、危険な匂いが漂う。

が成就するまでのハードルが凄い作品の 1巻(文庫版)。

私にとって初の宮坂作品。
単行本全10巻の超長期作品だが、正直なところ「微熱」ならぬ「微妙」。
特に中盤の当て馬とライバルの連続出現には辟易するばかり。主人公たち2人の恋の障害になる新キャラに何か意味があればいいのだが、彼らは2人の交際に すれ違いを生み出すためだけに用意されるだけ。2人がすれ違いと仲直りを繰り返す単調な展開が続き、そして次のトラブルに過去の経験は全く活きない。すれ違い自体も、ヒロインだけが空回っているばかりで面白くない。最初は大したことなかった事でも、トラブルの種はヒロインの心の中で何百倍にも膨れ上がって大きな問題のように取り扱われる。読者側もヒロインの問題を自分のことのように思える豊かな感受性があれば問題ないのだろうが、私のような心無い人間には響くものがなかった。

そんな中で良かったのが、この文庫版『1巻』に相当する交際までの紆余曲折のある展開。完全に推測だが、作者は交際までの流れだけは最初から作っていたと思われる。長期的展望がなかったからこそ、中盤の体たらくになったのか…。
そして この『1巻』の間だけはヒロインが自分で運命を切り拓いている場面が多い。多少(いや かなり)描写不足で話の飛躍が激しく、ついていけない部分もあるが、この恋に懸けるヒロインの懸命さが、彼女の前に立ちはだかる数々の試練や障害によって演出される。その試練に負けなかったことが やがてヒーローの心も動かし、自分たちの交際を獲得するために2人で立ち向かうという流れもある。経験不足と幼さで危うい所もあるが、自分たちの真剣さを周囲に理解してもらおうという固い決意と熱い情熱を感じられ、それがカタルシスに繋がる。残念なのは交際後は2人で協力する場面が少なく、カタルシスが味わえないことである。

少女漫画の恋愛的にも、そして作品的にも早くも『1巻』でピークを迎える。ここまでは面白かったので、作者の次の作品で どう中盤の展開が改善されているのかが楽しみである。2022年では作家生活も30年以上になった人気作家には読むべき作品は まだまだある。


学3年生の如月 里菜(きさらぎ りな)は、毎朝 電車で見かける高校生の男子生徒に恋をしていた。ある日、一大決心をして名前も知らない彼と お近づきになるために一歩前に進む場面から物語は始まる。

彼と目が合って いざ、という時に、自分の母親が大声で自分を捜しながら音楽のテストで使う笛を振り回して近づく。彼に話し掛けるために唇を色付かせた里菜にとって、笛という忘れ物や過保護な母親は自分の幼稚さの象徴なのだろう。そんな母から隠れていた時に、助けてくれたのは、好きな男性、ではなくて、その人の友人だった。

ヒロインをピンチ(?)から救出するのはヒーローの条件である。一体、本書では誰がヒーローなのかという先が見えないところが面白い。
だが彼は、子供だと思われたくない里菜が目を背けた笛を母から預かっていた。そのことに羞恥を覚え、同じ電車に乗れない、転校しなければ、と考え、考え込んだ末に倒れてしまう…。身体が弱く よく貧血を起こすという里菜。小学校から一貫校である女子校に通い、身体も弱sいという里菜の特徴が、彼女が純粋培養されたことを一層 際立てている。

好きな人の前で失態が続く里菜だったが、別れ際に好きな人が学園祭のバンドのチケットをくれる。里菜の名前を呼んで去っていく彼から貰ったチケットには、「宇佐美(うさみ)ヒロ 高1」っという情報が手書きされていた。自分の名前を呼ばれ、宇佐美ヒロは忘れられない名前になるのだが…。

好きな人に名前を呼ばれ、好きな人の名前を知った一日。しかし運命は急転直下の荒唐無稽⁉

待された学園祭では好きな人は輝いていた。だがバンドに熱狂する女性たちの声援は謎のメンバー「タカ」に集中している。里菜だけは「ヒロ」の応援グッズを作り、ボーカルの その人に声援を送るのだが…。

里菜の応援に反応したのは、好きな人。しかし彼が観客に自分の名前を聞くと「高柳(たかやなぎ)リュウジ」という答えが返ってくる。そう、里菜は間違っていた。里菜が電車内で迷惑をかけた人物こそ「宇佐美ヒロ」だったのだ!

自分が好きな人にからかわれていたと知った里菜は落ち込む。そんな居たたまれない彼女を救うのは またしてもヒロ。悲しみの中、眠ってしまう里菜だったが、次に目を開けた際に見たのは、弓道をするヒロの凛々しい姿だった。

その姿に里菜の鼓動がはやくなり、指先からつま先まで微熱が伝わる。そんな彼女に、ヒロはキスをするのだった…。
出ました、少女漫画名物、1話での意味不明なキス。特に本書の場合、キスをする意味が全く分からない。まずヒロが突然 キス(性暴力)をするような人間ではないから。この後の彼の奥手っぷり、そして誠実さを考えると、こんなに衝動的な行動をする訳がない。そして彼の心理面からも この行動は謎。この後に多紀(たき)のエピソードを用意しているのなら尚更キスはしないだろう。
読者の心を1話で掴もうという作者や編集側の意図は、1話の最後にキスというゴールに設定され、そのノルマをこなすためだけに意味不明な行動となる。作品は、こうやって王道の手法を使って長期連載の糸口は掴んだものの、後世の人間から見れば、作品として一貫性のない展開が瑕疵として見えるだけである。

そしてキス以外の1話がそこまで上手くない。好きな人の名前が人違いだった、というのは面白いが、2人が互いに惹かれる要素が不足したままで、里菜の心がリュウジから離れる理由もあまりない。眠った人を弓道場の脇に置いて、いきなり弓道をするヒロの行動も意味が不明だ。彼が里菜に自分の得意なこと、格好いい所を見せたいというのであれば、それも仕方ないが、ヒロにそんな意図はなく、唐突な場面転換とキスの違和感だけが残る。

また里菜が1話で感じる悲しみや恥ずかしさも、それほど大事には思えず、彼女が勝手に落ち込んでるだけ。これは本書を通じて、最初っから最後まで通底する欠点だろう。何もかもが里菜の一人舞台なのだ。自作自演で大騒ぎして、その自分の行動に精神も動揺していくという負の連鎖ばかり続く。

リュウジのことを嫌いになったり諦めるエピソードがないままヒロに心を射抜かれる。ただの惚れやすい人??

まれて初めてのキスにドキドキする里菜。突然、唇を奪われても嫌じゃなかった。キス1つで彼女の世界は変わった。そしてキス1つで、1つ前の恋はもう忘れ去られる。どうして里菜が もうリュウジにドキドキしないのか、どうやって彼の気持ちを吹っ切ったのかなど心情の説明が欲しいところ。これも1話のキスと同じで、ヒーローはヒロ、というゴールばかりが作者にあるから、説明を放棄してしまうのだろう。

だが、次に顔を合わせたヒロは素っ気ない。話し掛けてくるのはリュウジだけ。ぶっきら棒なヒロだけど、車内が揺れれば助けてくれる。だが口はきかないし、目も合わない。そんな彼を里菜は知りたい。だからバンドのライブに顔を出し、ヒロに問い質そうとする。
しかしヒロは客席から現れた。彼はバンドの助っ人らしい。ヒロはリュウジに会うなら裏にまわるといいとアドバイスをしてくれた。里菜はヒロが口をきいてくれたことが嬉しく、用意していた質問を繰り出そうとするが、ヒロが放った言葉は「キスのことなら忘れて オレも忘れるから」という衝撃的なものだった。その場のノリ、なんの感情もない、この先どうにかなるつもりもない、となかったことにされてしまう。この言葉の数々は非情で、ヒロが人でなしに見えるが、これも彼の気遣いだということが後に判明する。そして これはヒロの動揺でもあるだろう。自分がしてしまった行動に自分でも動揺し、自分が衝動的に女性にキスをするような人間だと思いたくないからこそ、そして里菜に特別な感情があることを認めたくないからこそ、強い言葉で否定するのだろう。

ヒロの言葉に放心する里菜をリュウジが舞台に上げ、更には舞台上でキスをする。里菜は その突然のキスに涙を流し走り去る。この2回目のキスは1回目のキスとの比較対象で、里菜の男性2人への気持ちの違いが鮮明になる。もう好きだったリュウジにキスされても感情は動かないのだ。ただ、ここはヒロにおける里菜と多紀の比較のように、里菜の中のヒロとリュウジの比較をして、リュウジへの想いを上手に処理しないといけなかっただろう。それがないから里菜がただの恋多き女に見えてしまう。

ライブ会場から逃亡する里菜を追いかけるのはヒロ。その際の会話で、ヒロが勘違いをしていることが判明していく。彼は里菜が好きなのはリュウジだと思い込んでいるから、キスを否定し、里菜との接触を最小限にしていた。
だが、里菜はもう(あっという間に)ヒロに恋をしている。ヒロだけが特別だと告げる里菜に、ヒロも自分の混乱を告げ、2人は気持ちを近づける。ただ、この場面の、一連の化粧のエピソードが分からない。「また 私を変えてくれた…」というのが里菜は好意的に受け入れているが、自分という素材を100%活かす彼から見た自分が化粧の中に見えて嬉しかったのだろうか。

ヒロは里菜を自宅まで送り届ける。その道中で、ヒロには女性との交際もキスも経験がなく、お互い初めて同士の恋愛だということが分かり、それが里菜の心を浮き足立たせるのであった…。


が、翌日からヒロは通学の時間をずらしたことが里菜を不安にさせる。里菜が原因だと不安を煽る、ヒロの幼なじみのリュウジに里菜は、全てを話し相談するのだが…。

けれど翌日、里菜が早起きしてヒロを待つと、部活の朝練で早いだけという事実が判明する。その事実に安心して電車内で眠る里菜だったが、ヒロは リュウジに何もかも話す里菜に、サイテーだと立腹していた。里菜はヒロに軽い女に見られたらしい。そしてリュウジからすぐに自分に乗り換えた事実もヒロからの心証を悪くしていた。
里菜に障害を用意するためとはいえ、この時のヒロの豹変はサイコパスのように見える。一度 怒らせると なかなか機嫌が直らない頑固なオヤジのようである。彼もまた扱いが難しい人間なのかもしれない。
怒りながら背を向けるヒロを追いかけようとする里菜だが、身体の弱さが出てしまい、うずくまるばかり。いつもはピンチを助けてくれるヒロだが、今は振り返りもせず先に行く…。

だから里菜はヒロの朝練に乱入する。他校の、しかも弓道場の中で、彼と的の間に立ち、話を聞いてくれるまでどかない、と宣言する。立ち去ろうとするヒロに、ヒロさんが好き…! 同じ高校 受けます…!と自分の気持ちをぶつける。
高校 受かったら自分の本気度を認めてほしいと里菜は願う。それに対しヒロが「一人で熱くなって勝手なことゆうなよ 迷惑だ」と言うのは、この後の里菜にも言える言葉だろう。いつでも里菜は自分の言葉しか持たない。
また、この恋のためなら死ねる、というのも劇場型の里菜らしい言い分である。ヒロに心を射抜かれた自分は本当に矢で射抜かれても構わないという。出会って間もなくなのに、この恋しかないという思い込みが激しい。里菜と同じように激情を持っている読者でないと、どこに好きになる要素があったのかが乏しすぎて説得力に欠ける。
そして なぜ里菜がヒロと同じ学校に通うことを決断したかの理由も不明だ。一緒の学校なら会う時間は長くなるかもしれないが、まだ交際してもいない段階から彼を追うのは失恋のリスクを全く考えていない証拠だろう。

言いたいことを言ったら里菜は倒れる。本書の病弱設定は便利に使われ、自由自在である。

ちなみにヒロの部活は1話でも登場した弓道で、弓道歴は11年になる。どうやら『1巻』では部内一 ウマいという設定だが、後々登場するキャラクタの方が上手かったりする矛盾が生まれるのが気になる。こういうところも本書の連載が当初の予定よりも はるかに長期化したことの証拠だろうか。

この頃の里菜には運命に立ち向かい、ヒロと対話する勇気があった。だから読者は共感したのに中盤は…。

れた里菜に その後ヒロは何も告げない。だが自分が出るライブのチケットを家のポストに投函してくれるなど、彼が里菜に関心がない訳ではないらしい。
ライブの打ち上げで里菜が見るのは お酒に弱いヒロの姿。無口な彼が陽気になって多弁になり、服も脱ぎだす。強引に里菜に迫るヒロだったが、彼が眠る前に口走ったのは「多紀」という名前だった…。

眠りこけたヒロをバンドメンバーと一緒に送り届ける里菜。だがメンバーは家の前で退散し、家に入るのは里菜だけになる。中から出てきたのはヒロの兄弟たち。全員で5人兄弟らしい。これはヒロが女性に とことん縁がなかったという証明でもあるのか。女子校育ちの里菜と、母の出ていった男性ばかりの家で暮らすヒロの、免疫のない恋愛が始まろうとしていたはずなのだが…。

里菜のヒロと同じ高校進学のプランは、親に内緒で着々と進む。ヒロの口走った「多紀」という人捜しも兼ねて、願書を貰いに行く里菜。
迷い込んだ弓道場で里菜は、以前ライブで出会った、一人称がアタシの「オカマさん」に再会する。その人は弓道部の部員でもあるらしい(この後、この人が弓道やっている場面なんて あったか⁉)
オカマさん こと秋本(あきもと)から 女生徒用の制服を借り、学校に潜入する里菜。一足早く同じ高校生気分を満喫する。

だが秋本からいるように指示された準備室に現れたヒロは、隠れている里菜に向かって、多紀のことが好きなんだといい…。

その言葉に里菜がバランスを崩すと、着ていた制服から、秋本 多紀の生徒手帳が出てくる。そう親切なオカマさん こと秋本さんこそが多紀だったのだ。ヒロの告白によって本当に彼は多紀のことが好きだと言う事が判明する。
ヒロが自分の事を好きだとは思ってもいない、多紀が頃合いを見計らって顔を出すが、それがヒロには質の悪い悪戯だと判断されてしまう。多紀に仕立てた里菜に告白する様子を多紀と里菜が嘲笑すると思ったのだろう。
軽薄な人間が嫌いなヒロは、再び里菜に冷たい視線を向けてしまう…。

絶望の里菜に声を掛けるのは またしてもリュウジ。里菜も前回の反省もなくリュウジに経緯を洗いざらい報告する。多紀の名前こそ出さなかったものの、数々のヒントでリュウジにはヒロの好きな人が判明する。
ただし里菜には多紀に対する悪感情がないため嫉妬もしないらしい。これは この後も多紀が引き続き活躍する展開を考えてのことだろうか。少女漫画では同性をライバルに位置付けると、その人は排除される運命ですからね。多紀をライバル認定しないことで彼女を延命させたのだろう。


ラれることよりも、嫌われたままの現状を改善しようと、里菜はヒロを駅で待ち、謝罪をする。こういう前向きな行動の里菜は好感が持てる。

ヒロが話すには、彼にとって多紀とリュウジは幼なじみで、幼い頃からの弓道仲間でもあった。多紀が女を意識させないことも一緒にいる理由らしい。
都合の悪い話を聞くと倒れそうになる便利な里菜。そんな彼女の様子を見て、ヒロは目的地を前にして電車を降りて介抱してくれる。
彼らが積み重ねてきた時間や思い出には自分には敵わない。ヒロが優しい顔して多紀を語ったとしても、自分はあきらめないと、好きでいることを宣言する。やっぱり交際前のヒロインの強さは素敵で清々しいものがある。

だが次にヒロに会った時、彼は多紀との交際を宣言。それにショックを受ける間もなく、横から現れたリュウジが里菜との交際を宣言して…⁉
もう何でもありの展開である。


うして始まる遊園地でのWデートという謎展開。
だがヒロは不機嫌。また軽い女だと思われていると傷つく里菜だが、そりゃあそうだろう。少女漫画だから仕方ないが、なんで里菜が遊園地に来るのかという根拠が薄弱すぎる。

どうやらリュウジには狙いがあるらしく、ヒロをダシにして里菜を思い通りに動かせるが、里菜はヒロに反抗するような態度で彼から遠ざかってしまう。同じように多紀も狙いがあって、この日をセッティングしたらしいが、その説明を聞く前に里菜は逃亡する。人の話を最後まで聞かないというヒロインらしい行動である。

里菜の捜索の中、多紀はヒロの間違いを正す。彼の自分への想いは、友達レベルであって恋愛感情ではないということ。ヒロが感情を乱すのは里菜だけだと鈍感なヒロの気持ちを紐解いてあげるのであった。そういう意味でも多紀は里菜のライバルではなかったのですね。ちなみに多紀はリュウジを好きなのかと思ったが、そのハッキリした描写は最後までなかった(はず)。

自分の気持ちを他人に指摘され、改めてヒロは里菜を探す。1人で観覧車に乗ろうとする里菜にヒロは追いつき、2人で乗り込む。やはり観覧車は少女漫画で一番大事なアトラクションです。

ヒロは自分の気持ちを説明する前に、まず「恋人と頂上でKISSすると願いが叶う」観覧車の中で二度目のキスをする。こうしてヒロの1番になりたい、という里菜の願いは叶うことになる。

そして後から彼の心境について説明がある。驚くことにヒロは「多紀とのことはホントは違うからっ お互い友達にしか思ってないから」と一瞬で気持ちを切り替えたらしい。これで2人とも同じ土俵に立ったということか。それは里菜がリュウジからヒロに秒で乗り換えたように、ヒロも多紀から里菜へ心変わりのスイッチが早かった。互いに比較対象があるからこそ、本物の恋心を確かめられた、ということか。だが何度も言う通り、比較するのは分かるが、里菜とヒロが好きになる場面や、この恋が本物っぽく見えるようなエピソードが乏しすぎて、妄信にしか思えない。


うやくヒロとの気持ちが通じたかと思いきや、里菜に立ちはだかるのは受験の壁。といっても、しなくてもいい受験をするための母親の反対の壁、である。

里菜の中で勝手に同じ高校に行くことが最優先事項になっているが、受験することの客観的なメリットがまるで説明されないで話ばかりが進む。まるで違う学校だと恋愛が出来ないと言わんばかりだが、それなら もう少し障害が何なのかをクリアにするべきだろう。ヒロが部活で一緒に帰れる可能性が低いとか、門限があるから毎日ラッシュ時の電車の往復だけが逢瀬の全てとか、受験をする目的が欲しい。

しかも里菜は小学校からエスカレーター式の学校に入っている。にしても彼女はいつから身体が弱い設定なのだろうか。「幼い頃」かららしいが、彼女が持病とどう向き合って、どう生活しているのかは見えてこない。

里菜の母親が反対するのは娘の体調を気遣ってのこと。受験が彼女の負担になるから止めてほしい。また当然、動機の面も不純と考え、大事に育ててきた娘が男に走って将来を間違えるかもしれないことに危惧を覚える。

反対の理由は金銭面ではない。だが現実的に考えれば、娘がエスカレーター式を降りるのは、これまでの学費を考えると頭が痛い問題だろう(ヒロの学校も私立っぽいし、入学金などを考えたら留まる方が身を切らないだろう)。しかも後々判明するが、両親は19歳で「授かり婚」をしたらしい。そんな彼らの間に生まれた里菜が、小学校受験をして私立の学費を払い(親は まだ25歳)、しかもマイホームを建設するなど莫大なお金を使っている。その上、里菜にかかる医療費だってバカにはならないだろう。資産家なのか、父親が よほど有能なのか。いや、これは少女漫画らしい金銭感覚のない設定であろう。


を説得中も高熱を出す里菜。だが、ヒロに会えないまま年明けを迎え、中途半端な状態は嫌だと家を抜け出す。彼女はこうして自分の体調を悪化させるのだ。ヒロインはバカでなければ務まらない。

そして倒れる。これにはヒロも体調管理の出来ない里菜に怒りを隠さないが、ヒロに会いたいという里菜の言葉、そして不安の数々を聞き赤面する。里菜をおぶって彼女の家に送り届けたヒロは、出てきた両親に自己紹介をし、交際の許しを求める。ここからは里菜だけでなくヒロと一緒に2人での戦いとなる。この共闘は面白いが、中盤以降は続かないのが残念。

母親の頑なな態度に その日は引き下がるヒロだが、あきらめないことも宣言して辞去する。
里菜は自分の失敗で、交際も受験も苦境に立たせるが、それでもヒロが頭を下げて交際を願ったことで里菜は幸福感でいっぱい。本当に反省しない人なのである。

後日、ヒロは改めて訪問し、両親との4者面談が行われる。母親の心配を受けて、ヒロはムリのない交際を宣言する。勝手にデートしないし、門限も守るというのが彼のマニュフェスト。1話のキスを除けば、ヒロは最初からちゃんとはしていたが、いきなりキャラが変わったようにも見える。里菜も含め主人公たちの立ち位置が安定しない漫画である。

そんな真摯な態度を受けて、母も譲歩する。里菜の受験を認めるが、交際は親がコントロールするという条件を出す。ヒロはともかく、これは暴走娘の里菜が守れるはずもないと思わざるを得ない。母の譲歩がヒロによって何とか引き出せたのに、その裁定に不満を隠せないし。


かだが光明が見え始め、2人は我慢の時期を迎える。しばらくは受験勉強に精を出すが、ヒロの写真が欲しいからと家を抜け出そうとしたりと、覚悟が足りない里菜。
でも数日間、勉強したら初詣に行く許可だけは出た(母親も甘い。というか受験に対する意識が甘い)。
里菜を初詣に呼び出した多紀の采配でヒロとも会えて喜ぶ里菜。だが真面目なヒロは親に隠れて会うことに罪悪感を覚え、心から楽しんでいない。それが すれ違いとなり里菜はヒロから逃亡。ヒロは こんな幼稚な中学生のどこが良いというのか…。

2人がどうにか仲直りをしている時に、里菜の両親に会ってしまう。これが母親の機嫌を損ね、受験も恋愛も白紙に戻る。

だが、その逆境がヒロインを輝かせる。母親を見返すために頑張り、母に負けないということは、受験にも、離ればなれに この期間にも負けないと言うことであった。ヒロに手紙を出し、自分から彼との接触を断ち、受験に邁進しようとする。

受験料も自分で納め、最後まで里菜はヒロの高校への受験を譲らない。その熱意は やがて伝わり、受験当日、母は お弁当など用意し、里菜の体調を心配してくれた。だが、駅でヒロから贈られた祈願成就のお守りを落とし、同時に里菜も倒れてしまう…。根を詰め受験勉強をしたことが過労となって出てしまったらしい。


じ高校に行くどころか、その第一関門である受験すら果たせなかったことで里菜は自分の弱い身体を恨む。

そんな里菜をヒロが慰問に訪れる。しかし里菜は自分の計画が上手くいかなかった自暴自棄で、恋愛を諦め、母親への悪口になってしまうが、ヒロは彼女を一喝する。そして それはヒロが里菜の本音を引き出すための計算だった。

ヒロの お陰で立ち直った里菜は、失くした お守りをヒロと一緒に探して、他の学校への受験に気持ちを切り替える。

結局、娘に甘い母親はヒロの高校の2次試験に申し込んでくれていた。当日の朝になって その事実を伝えるのはどうかと思うが、今度は里菜は無事に受験をし、合格するのだった。受験が教えてくれた一番のことは、周囲の人の温かさ、ありがたさではないか。こうして里菜は人間的に大きくなる。まぁ、こういう成長は何度もリセットされてしまい、里菜は同じ過ちを繰り返す訳ですが…。


菜は通いなれた学校を離れ、新天地に歩みを進める。
中学の卒業に寂しさを覚える里菜にヒロは「こうこう言ったら 新しい友達いっぱいできる」というが、ほとんど出来ませんでしたね…。里菜の世界は広がらず、これまでのレギュラーメンバか、新キャラたちが続々参戦しては立ち去っていくばかり。
里菜がヒロの高校に行く意味があったのかは、非常に微妙なところ。新キャラ参入が容易になったのは確かだが、それが2人の交際に意味があったのかというと別である。高校入学までが面白かっただけに、その後の構成が残念である。

交際後の第1話というべく、里菜一家とヒロたち幼なじみ3人のキャンプもコメディ色が強い。春先の冷たい湖を上半身裸のヒロが泳ぐというサービス&ヒーロータイムが見所か。
作者自身もこの先の展開を見通せないのか、あまり天気の良くないキャンプ回。新たに交際という航海を始めた2人だが、推進力を失い、遭難してしまいそうな気がしてならない。やはり少女漫画では推進力は恋の障害しかないのではないか…。