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少女漫画と小説の感想ブログです

さえぎるものは ぶっ飛ばして まとわりつくもの かわして、微熱があっても全力少女。

微熱少女〔小学館文庫〕 (2) (小学館文庫 みC 5)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
微熱少女(びねつしょうじょ)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ヒロと同じ高校に入学した里菜は、部活もヒロと一緒の弓道部に入る。しかし、弓道部にはヒロのことを狙っている、ヒロの中学の後輩・緒沢百合も入部してきて…!?

簡潔完結感想文

  • 高校入学。続々と登場する交際を邪魔する刺客をちぎっては投げ ちぎっては投げ の連続…。
  • 『1巻』の設定ガン無視の弓道部。部員設定の多紀は部外者、部内一の実力のヒロは部内二。
  • 試合開始のゴングのように、キスをすると戦闘開始。そして相手を降参させるのもキス?

女漫画ヒロインとは、学習しない女のことである、の 2巻(文庫版)。

交際も安定期に入ると、少女漫画は新キャラを召喚し出す。
その新キャラが一暴れするのが1ターンで、ターンが終わると日常回を挿み、それが終わると新キャラが また暴れ出す。本書の文庫版『2巻』~『4巻』は その繰り返し。障害を乗り越えてレベルアップしたかと思われた2人の絆は、あっという間にリセットされて、また一から経験値を積み上げる。全体を俯瞰的・大局的に見られる余裕のある作者の場合、同じ間違いを繰り返さなかったり、トラブルにも大きな意味を潜ませたりするが、本書の場合は余裕がなく連載の継続だけを目的にしている節があるので本当に同じことが繰り返されるだけ。これが読者の徒労感に繋がる。レベルアップしたはずなのに勝手にセーブデータは消え、また同じことを繰り返すだけ。

特に本書のヒロイン・里菜(りな)は、思考も行動も空回りして、自分で泥沼にはまっていくタイプで、物の見方は大変 狭い。それは人を気遣う余裕がないと言うことで、いつも自分の不幸を呪って、周囲に当たり散らすばかり。当たり散らすのは両親や、恋人となったヒロだけなので この甘えた態度こそが里菜の愛情表現という見方も出来なくはないが、いつも自分の言いたいことばかり言って逃げるか倒れるかしかしない彼女には辟易する。しかも彼女は幼い頃から病弱で、入院を繰り返すような人生を送っているにもかかわらず、だ。これは健康な人の偏見かもしれないが、病気と向き合ってきた人は もっと周囲を見渡せると思う。それだけ怖い思いや人とは違う生き方を進まなければならない苦悩があるから。なのに、里菜には それを一切 感じない。里菜は120%恋愛脳で いつまでも幼いままなのに、物語は便利に彼女の身体の不調を利用する。いつまでも彼女の人生という背景が見えてこないことに段々 腹が立ってくる。
里菜が入院生活の変わらない風景や日常にストレスを感じるように、私たち読者も同じ話の同じ展開にはストレスを感じる。

『1巻』が里菜が自分で人生を切り拓いてきただけに、その結果である高校生活が こんなにも単調であることが残念でならない。開拓者であったはずの里菜が ずっと被害者意識の強い人間になり、物語から勢いが消えた。
ただ、この『2巻』は まだいい。交際後に男女それぞれのライバル・当て馬が登場して初めてカップル2人の絆が試されるのは、読者も未経験のことだから。問題は この後である。再読するのも気が重い…。


菜は努力の末に勝ち取ったヒロと同じ高校への入学し、文庫版『2巻』から新章に突入する。里菜にとっては初めての共学。ここで新しい友人や人間関係を構築していけば良かったが、恋愛メインで登場人物の布陣も変わらない。早々に里菜も感じているように、同じ学校に通うメリットを提示できていない。

交際が順調にいかない理由は2つある。1つ目が里菜が昨年度 この学校でヒロに大告白したことで新聞部に狙われるという状況。里菜は目立ちたくないから新聞部の目から逃げるが、それがヒロとの接触の機会を減らすことにもなってしまう。毎日一緒にいられる環境なのに、隠れて付き合うみたいな状況となり、同じ高校である意味がない。

そして もう1つの理由が、ヒロを追って弓道部に入部した里菜が、幼少期の「隣のお兄さん」の音羽 夏希(おとわ なつき)こと ナツ兄に再会したこと。
ナツ兄は弓道部の部長で、全国大会1位の実力。副部長であるヒロは2位らしい。でも『1巻』ではヒロが部内一上手いという話だったのだが、ナツ兄という新キャラを立てて、ヒロに負けない魅力にするために設定を曲げたらしい。弓道部設定だった多紀も初登場以降、部活動をする場面はない。弓道部は設定があやふやで、人の出入りも激しい。

ナツ兄は里菜の初恋の相手でもあった。彼は恋路を邪魔する第1の刺客といえよう。ここからライバルとのエンドレスな恋愛バトルが始まる。交際経験のない2人だが、相手のことを自分より知る相手というのは元カノ・元カレに相当する立場であろう。ナツ兄も この後に登場する百合(ゆり)も その点は同じ。恋人である自分が知り得ない その人の過去を知っていることが、生理的に受け付けないのだ。

割とキャパシティーが狭いヒロは あからさまに不機嫌になる。ヒロは無口だが、感情は髪型に露骨に出るらしく、不機嫌になると髪型が尖っていく。里菜も さっさと誤解を解けばいいのだが、新聞部の弱みを握ろうとする空回りし、ヒロと話し合うことも出来ないで泣く。これが すれ違いの基本パターンとなる。

仲直りのキッカケがヒロのために作った お弁当なのは『1巻』ラストで お弁当の中身がぐちゃぐちゃになってしまったことへのリベンジの意味もあるのかな。
里菜がお弁当に託したメッセージを見てナツ兄は退散する。ただし彼は2人の恋路を天然で邪魔していただけなので、彼らが恋人だと知れば素直に引き下がる。ナツ兄は里菜に積極的な好意を持たないし、キスをしたりしないので、今後も物語への参入を許される。もしキスをしたりヒロインに危害を加えたりすると少女漫画は容赦なく その人の存在を抹消してしまう独裁体制なのだ。この後の百合など撤退後は二度と姿を見せない。
ヒロにとって夏希先輩は大きな壁だからこそ、焦り、そして大人げない態度になったという心の動きが良かった。もう一つの邪魔者・新聞部に対しても真剣交際を宣言することで、噂を立てられることを阻止する。知り合って7ヶ月。今日ほど こんなにヒロを好きだと思った日はない、と絆が深まったようだ…。


…が、そんな絆はすぐに崩壊する。
せっかく同じ高校に入ったのに、交際は あんまり以前と変わらず、2人きりでデートをしたこともない。そんな すれ違いが始まる予感がする中で出会うのが、第2の刺客・有馬 一人(ありま かずと)、そして第3の刺客・緒沢 百合(おざわ ゆり)である。中盤は新キャラ祭り開催中。

リュウジのバンドのライブで里菜が有馬の楽器を壊し、怪我をさせたことから2人の交流が始まる。出会って間もなく慰謝料がわりにオレとつきあえという意味不明な展開。怪我の治療代+ギター代30万円か、ヒロと別れて有馬と付き合うか、そう迫られる里菜。これは ただの少女漫画展開なのか、それとも里菜の知らない因縁があるのか。ちなみに この有馬、これまで登校してこなかったが里菜のクラスメイトという設定。一応、里菜の新たな友人でもあるのか…?

2010年代に よく見られた俺様ヒーローのような有馬の唐突な台詞。髪は長いが気は短い!?

もう1人の刺客・百合はヒロの中学の後輩という設定。ヒロのことを熟知しているので、これは里菜においてのナツ兄と同じ立ち位置といえる。
明らかにヒロに好意を持つ百合は、里菜を押し退けヒロの隣という立場を確保し、無口な彼とも話が合うという特性を持ち合わせる。

押し退けられた里菜は街中で泣いて落ち込む。そんな彼女に声を掛けるのは有馬。彼は里菜に寄り添ってくれ、優しさを見せたかと思いきや、意味不明な突然のキス! キスが恋仲の合図なのだろうか。でも『1巻』ではリュウジや多紀(たき)が里菜にキスしてたけど、友人でしかないから特定の法則性はないようだ。

しかも有馬とのキスをヒロに見られてしまう。その後、ヒロが怒りに任せて、ちっとも ときめかないキスを迫ってきたことに里菜は反発する。里菜もだけれど、ヒロも交際に不和が生じた際の解消法を知らない男なのだ。だから険悪になると2人の仲は こじれる一方。


互いに仲直りをしようとするが、百合に阻止され、その思いは相手に伝わらない。この辺は加害者が有利かつ情報強者という少女漫画の典型的な展開が続く。有馬だけは百合の狡猾な手段を見抜いているらしい。同じ種族だから感じ取るものがあるのか。

圧倒的不利な展開に、里菜が百合や現実から逃げ出すと、有馬そしてヒロが追いかけて来てくれる。もう、この状況が百合よりも里菜こそが勝者と言わんばかりだが、余裕のない里菜はヒロに反発するばかり。百合にすることの何もかもがヒロに不満となって噴き出してしまう。里菜のワガママはヒステリーを起こしているようで幻滅する。

袋小路に入ったかと思いきや、またも便利に里菜が倒れることでヒロの優しさや心遣いを知り胸キュンする里菜。互いに口が上手くないから言葉では伝わらないけど行動では伝わる。その行動を起こさせるために里菜の病弱設定は使われる。

素直になった里菜が対話を望み、互いに不平や不満、失敗や嫉妬も全部 吐き出して同じ気持ちに落ちつく。


うして絆を取り戻し、精神的に余裕が出来た里菜は、百合の妨害にも負けない気概を持つ。だがそれが百合の闘争心に火をつけることになる。

遂に初めて2人きりでのデートを約束するのだが、百合の最後の足掻きに振り回される。彼らのデート予定日に、この日の里菜と同じ髪型、そしてヒロが里菜にプレゼントする予定の口紅を塗って百合は道場にヒロを呼び出す。
そこで強引にキスを迫る百合に驚くヒロだったが、彼女を拒絶し、里菜と合流する。だが動揺は隠せず、そして口紅をぬぐった指を里菜に見られてしまい、里菜はキスに勘づいてしまい…。

雨の中、ヒロと別れたため、里菜は熱を出す。が、百合の挑発行為は我慢の限界に達し、今回は母親の許諾を得て、ヒロの正統な彼女としての行動に出た。何だかんだで母は里菜の応援団であることが微笑ましい。

百合の前で自分たちの絆を見せつけることで、彼女と直接対決をすることなく、百合は自らの敗北を認めて物語から立ち去る。これ以降、同じ学校、同じ部活なのに彼女の姿を見ることはない。そして女性同士で直接対決をしないことが里菜の品格を保っているような気がする。ヒロインが暴言を吐いたり暴力で邪魔者を排除したら相手と同じレベルになってしまう。そうしないことで勝者と敗者、聖母と悪者という構図を明確にする。

ヒロインは恋のライバルの自滅を待つのが主な お仕事。非暴力主義を貫くことで自然と地位が上がる。

一難去ると通常回となる。今回は弓道部の夏休み合宿(校内)。
里菜の参加を渋る母に どうにか合宿の参加を認めさせるが、彼らには監視者が2組いる。

1組目は里菜の両親。定期的に連絡を入れ、ヒロとの淫らな関係を事前阻止しようとする。
2組目はリュウジと多紀の「のぞき隊」コンビ。

夜の学校の肝だめしで急接近し、2人はキス以上の関係を意識し始める。ここも少女漫画の基本展開。ライバルの登場、そしてライバルが退散したら、肉体関係を匂わせて読者の興味を継続させるというのが中盤の基本構造。この肉体関係の匂わせも 1回目は楽しいんですけどね…。

夏休みは続き、海回。
真面目に宿題をやろうとするヒロを海に誘うのはリュウジと多紀のコンビ。これは遊びに誘えない里菜の願望を叶えるものでもあった。リュウジたちの お節介は邪魔な時もあるけれど、物語の導入や展開を支える便利なコンビである。憎らしいけど憎めない。

しかし出発を前に里菜は1~2週間の検査入院を母に入れられてしまった。
検査入院が別れの原因になると妄想した里菜は入院初日で逃亡。病院関係者や親への迷惑や、金銭面は全く考えないいくら女性ライバルと直接対決をしなくても、こういう稚拙な行動が好きになれないところ。

ヒロは駅で里菜の到着を待っていてくれた。
だが、彼は里菜を連れて帰路につく。里菜の両親としっかり連絡を取っているヒロは、検査入院をすることも抜け出したことも知っていたのだ。そして里菜の行動を叱責する。ヒロの誠実さが際立つ。

だがヒロの言葉も、自分の願望を優先するばかりの里菜には届かない。またもやヒロから逃亡するが、身体は限界でやがて捕獲される。彼女の気持ちも分かってあげるヒロは里菜の心理的な不安を丁寧に除去し、出来るだけ里菜の願いを叶えてやろうとする。どれだけスパダリなのか。ヒロはちょっとずつ器を広げているのかな。それとも この回はライバルがいないから気持ちに余裕があるだけか。

ヒロの成長の反面、高校受験の時に成長したはずの里菜がリセットされているのが気になる。今回のヒロが言う、周囲が里菜を好きだから心配している、というのは高校受験時に里菜が実感した思いだったはずなのに。この辺は、里菜の身体が弱く病気と向き合ってきた人生との矛盾や齟齬を感じる。なぜ彼女は こうもワガママ放題育ってしまったのか。


れど いざ検査入院をしたらすれ違う2人。入院中に2学期が始まったこともあって、会えない日もある。

そこに不満が溜まり、わざわざヒロが時間を縫って会いに来てくれた際もヒロの態度が気に入らずにヒロに棘のある言い方をしてしまう。ヒロも相手のことを考えられず、自分の都合を隠せないのが まだまだ子供という感じ。関係性が3歩進んだら2歩どころか、きっかり3歩戻るのが彼らのダメなところ。

そして感動するほど絆が深まったと思った次の回で、早くも亀裂が発生するのも残念な展開。感動を返せと言いたくなる。

気まずくなったヒロから逃亡した先で会ったのが、有馬の弟。そこに有馬も現れ、百合に続いては彼のターンになっていく。
怖そうに見えて実は優しい有馬に安心感を覚え、距離が接近したところに、反省したヒロが現れて…⁉

百合と有馬、男女こそ逆であるが、同じことが繰り返されるのである。また里菜のヒステリー発狂を見ると思うと頭が痛い…。