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少女漫画と小説の感想ブログです

いつも自分のことばかりでヒロさんの気持ちなんて考えようとしなかった…、という絶望的なループ。

微熱少女〔小学館文庫〕 (5) (小学館文庫 みC 8)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
微熱少女(びねつしょうじょ)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

体の弱い里菜のために、医者になる決心をしたヒロ。しかし、広島にある大学に進学することに!大学生活を送る6年間、ふたりは離ればなれになってしまう。

簡潔完結感想文

  • 交際の入り口で立ちはだかった母親が 交際の終わりを促す。ヒロ突然の覚醒。
  • 綺麗な身体の内に、私が生きている内に抱いてというヒロインの悲しい現実。
  • ハッピーエンドだが一人前の男の約束が簡単に破られることへの違和感が勝る。

実味の薄いマニュフェストは なし崩しに瓦解していく 最終5巻(文庫版)。

最終巻は別れの危機である。ヒロイン・里菜(りな)と恋人・ヒロとの遠距離恋愛の危機に加えて、里菜自身の体調の変化が加わり、若く幼い2人は自分たちで2人の未来を決定していく。
交際が始まる『1巻』と、交際の転機となる『5巻』は2人が未来を模索し、自分たちの最大限の努力を重ねる様子が描かれている。また交際前の『1巻』は里菜と母親との闘争だったが、『5巻』はヒロと里菜の母親との根競べといった印象を受ける。病気がちの娘を心配する母親が、娘の生き方を認め、娘の愛する人に彼女を託していく子離れの話のようにも見える。母もまた学校のライバルたちと同じように、2人の愛の強さを見せつけられ、2人を邪魔する気持ちが萎んでいく。これまで同様、直接戦うことはないが、相手の態度を変えさせるのが「ヒロイン力」なのである。

自分の考えを押し通そうと相手(里菜)の気持ちを考えない。母は未来の里菜の姿なのかもしれない。

里菜の病気をクライマックスに使うことは初めから分かっていましたが…、最終回を前に2人の絆が急激に高まっていることが気になる。もうちょっと段階的に2人の交際が深まる様子や、離れても大丈夫という確証が分かるようなエピソードがあれば良かったのですが、本書の場合、急にヒロも里菜も物分かりが良くなってしまって、理想的な人間に描かれている。特にヒロは『5巻』での成長が顕著で、里菜や彼女との交際を守るために これまでとは人格が違うような冷静さを見せる。里菜が窮地になると「ヒロイン力」を発揮するように、ヒロも謎の「ヒーロー力」を発揮していて急激に大人になっていった。彼の側のモノローグがないため、彼にどんな心境の変化があったのかが分かりにくい。

また、最終盤での里菜が手術を受ける展開では、かつてのヒロのライバル・有馬(ありま)の再登場を期待したが それが無かったのが本当に残念。有馬の胸にも手術した痕があることから、里菜の最大の理解者になる下準備は整っていた。『3巻』での彼の退場は自然消滅のようで、どこで里菜を諦めたのかも分からないような展開だったので、これが有馬の再登場のための布石になるかと思っていた。結局、彼の背景(病気のことや病院を経営(?)している複雑そうな家族関係)は宙ぶらりんのまま放置された。

連載は1998年~2001年。当時の「少女コミック」連載作品の中では正統派の恋愛漫画だったのではないか。ちょっと少女趣味が強すぎて登場人物たちも作者も稚拙なところが目立ったが、過激な内容に走らずに2人の交際の様子を見事に描き切った。本書連載開始から約25年を経ても活躍している作者が、この後どう成長を見せるのか楽しみである。


ロが受験モードのため、キス禁止を一方的に宣言。しかも勉強に時間を割き、デートも延期の連続。里菜も言っているが、この直前の回で「受験までの間できる限り一緒にいよう」と言っておいて勝手な男だ。

そんな現状の中、3回目のクリスマスが到来する。交際して3年目を迎えてもヒロのために何をしていいのか分からない里菜に対して涼子(りょうこ)がアドバイスをしている。涼子が友達枠として機能している。ヒロインに冷静な友人がいないと暴走や悪循環をしてしまう。涼子は恋愛バトルで唯一 生き残った人間と言えよう。『5巻』には後輩・也汰(なりた)も出てこないし。

里菜はヒロが通う予備校の女性の先生に やきもち を妬く。どうも里菜は大人っぽい綺麗な女性に対しての敵意が凄い。これは自分のコンプレックスの裏返しか。クリスマス当日も、ヒロを待つ里菜の前に その仮想敵の女性が現れる。彼女 曰く、ヒロは日本でも5本指に入る難関校を受験するらしい。秋まで勉強している様子もなかったが、いきなり地位を向上させてきたぞ。弓道も全国二位に、トップクラスの大学と、最後までヒロの付加価値を高めようと必死である。

そして重要なのはヒロの志望校が広島にあるということ。自分だけがその事実を知らなかったことに落ち込み、里菜はまた負の連鎖にハマる。何回ケンカしてもヒロに遠慮して、溝は深まるばかり。更に里菜のストレスは彼女の体調にも影響する。

クリスマス同様に3回目を迎えるのは、母の許可を得て2人で行く初詣。1回目は里菜の高校受験に対する問題が山積みだったが、今回はヒロの大学受験前で、時間こそ経過したが、あんまり成長を感じない2人だなぁ。3回目にして里菜の両親が初めて不参加となる。これは この後の展開のためか。


詣で初めてヒロの口から直接、広島の大学行きを聞き、里菜は倒れる。精神的ストレスが左右しているとはいえ、コメディ回では元気なのにシリアス回では倒れまくるのは気になる。
今回も里菜は検査入院となる。ヒロは受験勉強の合間を縫って会いにくるが、里菜はヒロを拒絶する。自分の心の平穏を乱す者は、ヒロであっても会いたくない。最後まで相手の立場に立って物を考えられない人間である。

里菜が最後まで成長しない代わりに、大学受験を前に人生を真面目に考えたからかヒロが急激に成長する。
そして どうやらヒロの家庭は経済的余裕がないらしい。その話が出るのは年明けの受験直前なのは変だが、どうやらヒロは自分で金銭面の問題の解決策を用意した。それが作品未登場の母を頼ること。医師で広島在住の母に出世払いで学費を援助してもらうらしい。物凄い唐突な角度から母が登場する。

そう、ヒロは里菜のために医者になることを決めていた。それが彼女を支えてあげることだと思ったから。ヒロは自分の正直な胸の内を手紙にして里菜に送った。ヒロは何かというと手紙で口下手な自分の気持ちを代弁しようとするところがある。何と言う深い愛情、思い遣り、と思う一方で、3年生に突入して進路を決定する秋まで、つまらないことで すれ違ってばかりいたので、急ごしらえの美談に見えてしまう。

こうして里菜は作中で何回目か分からない、「いつも自分のことばかりでヒロさんの気持ちなんて考えようとしなかった…」という常套句の反省を繰り返す。すれ違いの修復がいつも同じ展開、同じ言葉なのには本当に辟易する。2年以上の交際で何も学んでいない感じがするから、ガッカリする。


ロの試験日は2月14日のバレンタインデー。里菜は広島にチョコを渡しに行こうとして、母の反対を押し切り父に協力してもらいヒロに会う。集合場所はヒロが受験をする大学。広い敷地に1人ではしゃぎ、疲労が出た里菜を気遣うのは謎の女性。里菜の名前を知り、彼女を知るらしい その女性にストーカー疑惑を持ち出す里菜。って、このパターンはヒロの祖父でありましたね(『3巻』)。そう、同じパターンなのは、この女性こそヒロの母親だから。

父の手違いでホテルの予約が入っていなかったこともあり里菜は、広島でヒロが お世話になっている家に宿泊する。それがヒロの母親の家。再婚している雰囲気もない1人暮らしの彼女の家は3階建ての大きな お家。医者=金持ちのイメージからだろうか。管理が大変そうだ。ヒロは以前から母と連絡を取っており、里菜の写真も見せたり話を聞かせたりしているらしい。ここも後付け設定っぽさが隠せない。

受験10日前、2人は幸福に包まれていた。だが里菜の検査結果が思わしくなかった。帰宅するなり里菜は再び検査入院をすると聞かされるが、そのまま手術をする可能性が高いという情報を母は伝えられなかった。小さい頃から続いていた心臓への負担はそれだけ大きくなったという。


がて広島から戻り受験結果を報告しに来たヒロに、母は娘に内緒で、別れてくれと頼む。手術自体は決して難しいものではないが、ヒロとの交際が続けば無理をして余計に身体をこわすかもしれない、その危惧からヒロは別れてほしいと訴える。要するに この2年以上の交際でヒロは里菜の身体的負担になっていたというのが母親の下したジャッジなのだろうか。
その話を秘密にしたままヒロは自分の合格を告げる。嬉しい報告のはずなのにヒロの表情が暗さを帯びるのは交際の未来に暗雲が立ち込めているからだろう。

そこでヒロが下したのは医者になるまでの6年間、里菜に会わないというもの。会わないどころか電話もしないという。これはヒロの、医者になって一人前になって里菜を任せてもらうための決意だった。
里菜はその言葉を信じる。てっきり泣き喚くと思ったが、現時点で交際が順調だから、すんなりと受け入れる。涼子編での距離を置こうと提案された時も涙が出ていなかったが、現実感がないのだろうか。なぜヒロの一方的で、里菜に我慢を強いるような提案を すぐに納得できるのか不思議でならない。里菜もまた最終回を前に急に物分かりが良くなる。このキャラ変は不自然にしか思えない。
そしてヒロの医者=一人前という理論も あんまり分からない。胸を張れる自分になるため一意専心 努力するということなのだろうが、医師免許を持つことは医者のスタート地点であって、そこから一人前になるために働きながら学ぶような気がする…。

ヒロの言葉は自分の決意、志の高さを表すもの。守れたら美談だったが、守れない約束だとねぇ…。

6年間会わないという決断を下した2人に、母は1日だけの外出を許可する。だが里菜は この時 初めて手術をすることを告げられる。ヒロに抱かれる前に自分の身体に傷がつくこと、傷が残るかもしれないことを里菜は気にする。それは6年間会わないことよりも里菜の中で受け入れられないことだった。
だから里菜はヒロが広島に行く前に、自分が手術を受ける前にヒロに抱かれることを願う。身体的に一番 綺麗な私を抱いてほしい。だがヒロは身体の傷で里菜への気持ちは揺らがない、と怒気を込めて言う。目標が出来たからかヒロが急成長している。
だがヒロの腕の中で里菜の体調が悪化。そのまま手術になってしまう。この不測の事態に早くもヒロは離れることに不安を覚える。

手術は無事終了。だが里菜は術後3日、目を覚まさなかった…。うわ言でヒロの名前を呼ぶ里菜。術後ヒロを遠ざけていた母もヒロに助けを求め、ヒロが手を握ると里菜は目を覚ます。
目を覚ました里菜は、ヒロに抱いてと懇願する。前は綺麗な身体のままだったが、今回は生きている内に、と前提が大きく違うのが悲しい。まぁ この後の展開を見ると、術後で心身ともに弱って気弱になっているだけとも見えるが。

この娘の決断を母が陰で見守り、止めないのが印象的である。2人の愛が母の説得を成功したと言える。性交に関しては、何も知らない父親が病室へ入ろうとするのを阻止する夫婦の会話で、病室内を流れる若き2人の良いムードは台無しになってしまう。


がてヒロたち3年生の卒業式を迎え、里菜の両親は娘の代わりにヒロに会う。母親は別れさせようとしたことを謝罪するが、ヒロも母の気持ちを理解している。学校内でライバルたちとの小さく、そして長い長い戦いはあったものの、ヒロは里菜の両親に対しては常に誠実だったことは間違いない。
だがヒロは里菜に会うと里菜を連れ去ってしまいそうだからと卒業式後、そのまま広島へと発つという…。

その事実を知った里菜は駅へと動く。母も止めない。里菜はホームを走るが、ヒロの乗る電車は走り出し、彼らは視線を交わすことしか出来なかった。
うーーーーん、ドラマチックな場面なんだけど術後すぐ走るってどうなの?? 結局、ヒロのために里菜が無理をする生き方には変わりない気がしてしまうなぁ。こうして遠距離恋愛を演出するのはいいけど、その前の出来事を否定するような描写になっているのは気になるところ。


こうして次の場面は6年後になるかと思いきや、新年度が始まって1か月後に里菜はヒロに会いに行くという これまた前言撤回の展開に唖然とするばかり。
約束は途端に破られる。これも演出のためだけに大袈裟な公約をして、結局それが守られないという残念な事例になった。10代の2人が6年間会わないのは非現実的だと思ったのか。それとも そもそもヒロが里菜の母親に会わないと言ったのは、即座に別れることを回避するための譲歩案、ヒロなりの交渉術だったという可能性もなくはない。急に頭がよくなり、精神的にも成長したヒロは、そういう狡猾な面を持ち合わせた、という表現だとしたら天晴れ(絶対に違うと思うが)。

駅で別れる際、ヒロは電車に乗ろうとする里菜の手を引き、引き止める。「本当はオレも6年なんて待てない…っ」と本音を爆発。6年間は、そのぐらいの覚悟、という話なんだろうけど、その場の気分の盛り上がりによる嘘にも見えてしまうのが良くない。大言壮語のマニュフェストは、やがて失望に変わっていくのが世の常である。


最終話はラブホの2人の様子となる。彼ららしい実直な行動で良かったのではないでしょうか。
ただモノローグが安っぽいのが気になる。綺麗な言葉でまとめているが、幼稚な すれ違いも美化して恋愛脳は おめでたい。
また、リュウジと多紀の その後に関しても雑な展開だった。伏線も何もなく(特に多紀)、変な登場をさせるぐらいなら放っておいても良かったのではないか。


「CHU♥っとオヤスミ」…
「初夢で好きな人とキスできる まじない」のせいで異世界へと迷い込んでしまった2人の顛末を描く。

恋愛禁止、男女が一緒にいることも禁止するのが「憲法」になっている世界に転生してしまった2人が、タイムリミットのある中で、追ってから逃げ、気持ちを通わすスピード感のある物語。この世界は少子化が進んでいそうだなぁ。

本編より前の1995年の作品で絵柄が 何だか渡瀬悠宇さんっぽい。そして そもそも初夢って、新年すぐ見る夢のことじゃないような…。