《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男性は一途なのに対し、女性は心変わりする側。愛された方が幸せという教えだろうか。

ハッスルで行こう 3 (白泉社文庫)
なかじ有紀(なかじ ゆき)
ハッスルで行こう(ハッスルでいこう)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

それぞれの思いを胸に抱えながら、京都旅行を満喫したピッコロのメンバー。海里と篤郎の料理コンクール出品、彩の厨房デビューなど、ピッコロに様々な変化が訪れて…!? 美味しいグルメラブ☆コメディ!

簡潔完結感想文

  • 京都旅行で一緒にいて分かったのは、大切な人たちを大切にする君の美しい姿勢。
  • 恋人がテーマの作品をコンクールに挑戦する調理人たちは作りながら 愛を募らせる。
  • 募らせた愛は言葉になり、恋愛が動く。周囲の恋愛を整備して主人公に道を作る!?

2年弱なにも動かないけど、この恋は だんだん「愛になる」 3巻。

少女漫画の中で、これだけ動かない男性主人公も珍しいのではないか。
壁ドンしたり、強引にキスをするなど性暴力を振るってもイケメン無罪が適用される少女漫画世界において、もはや動かないことが主人公・海里(かいり)の個性になっている。
直接的な行動でなくても、人に対する心持ちや、自分の志、たゆまぬ努力といった その人の生き方や姿勢で、人を好きになっていくのが本書である。本書に出てくる男女6人には、それぞれ良い点が描かれていて、誰もが好きになるのが分かるなーという共感を覚えるキャラクターとなっている。
『3巻』では海里をカップルにさせる地ならしが行われている。料理人としては日々 努力と成長をしているが恋愛的には海里は動かないまま、海里が望む未来の到来を用意している。男女6人で三角関係が3つも生まれているが、誰もが動かないまま、自分の恋愛に決着を付けることで、彼らの関係に波風は立たない。そういう意味では作品は恋愛よりも友情・人間関係を重視していると言えよう。それに心地良さを覚えるか、物足りなさを覚えるかは、読者が少女漫画に どんな内容を望んでいるかによるだろう。

このような構成によって問題が起きるとすれば、海里と彩(あかり)が目立たないことだろう。また悪い言い方をすれば、海里は最後まで自分から動かず漁夫の利を狙っているように見えてしまう。そして海里が動かない根拠がないのも気になる。仕事が忙しい、一人前になるまで恋は自制するなど、何かしらの理由があれば分かりやすいが、それを示さないままに恋が保留していて、周囲だけが動いて、海里に有利な状況を整備しているようにも見えてしまう。これが作者の信念である、誰も嫌な気持ちにならないようにするためであるのは分かるのだが、海里びいきが過ぎるというか、鈍感なようでいて一番 周囲の心の変化に敏感な策士のように見える。
だから自分の恋心を楽しみ、行動している篤郎(とくろう)や玲奈(れな)、そして2人だけの世界を構築している夏己(なつき)や千帆(ちほ)の方が生き生きとしているように見えてしまう。
海里にとって これが初めての恋愛ではないことは明らかなのに、ここまで奥手な理由は作品の雰囲気を守るためでしかない。10代の2年間は長い。彩が急に誰かと付き合ったりして、海里が泣くほど後悔しても おかしくはない。作者が描きたいこと、ものは分かるが、私は恋愛漫画としては気が長すぎると思った。


た、作中で ただ男性びいきが過ぎるような気がしてならない。仕事面でも男性の方が優秀で、海里と同じ立場にいたい彩は いつも彼の後を追うばかり。料理人としてもパティシエの篤郎と海里の男性2人の方が、華やかな西洋料理を作れるのでコンクールの参加も この2人だけ。これについては理由もあるが、西洋料理をメインに学ぶ彩や玲奈を 余りにも ないがしろにしてはいないか。
恋愛面に関しても、男性の気持ちは絶対に揺るがないが、女性は移り気で、彼女たちの心持ちが恋愛の結末を握る。そういう意味では、女性の方に決定権があり、彼女たちはずっと愛されているのだから、読者としても満足な内容であろう。ただ男女6人で3組のカップルを描くのであれば、男女で役割を分けるのでなく、様々なパターンを用意して欲しかった。

1回目のバイク2人乗りの描写。本書の男性は全員バイク乗り。1990年代の恋の必須アイテムなのか?

17話は京都慰安旅行編の続き。
あまり他人の恋に敏感ではない海里も、直接言われたり、状況証拠を見たりで、ピッコロ内の恋愛関係が分かり始めた(彼を好きな玲奈の気持ち以外)。海里は彩が誰を好きか分かっても、自分の好きな人たち(友人・千帆や夏己)の想いを最優先にする彩を見て そういう彼女の心の持ち方に改めて惹かれる。
彩も自分の夏己への気持ちを「憧れ」として片を付ける。海里に告げたのは、その処理の終了を意味していた。海里にとって死刑宣告みたいな告白も、同時に これからは彼に希望があるということかもしれない。


久々にピッコロや専門学校の日常風景を描くのが18話。
ここで臨時講師によってコンクールに挑戦する魅力が語られるのは、後の布石なのか。

続いて19話は男女6人の休日の過ごし方、といったところか。
ここで海里の4姉弟妹の最後の1人、末っ子・湊(みなと)が登場する。『2巻』で登場した妹の唯(ゆい)が再び登場し、海里を先生に両親の結婚祝いの お菓子を作る。面倒見が良い海里も好きだが、4時間かかる道のりを幼い弟を連れて来た中学生の唯ちゃんも偉い。
玲奈は「運命の男性」に14歳で出会っていると占い師に告げられる。これは篤郎との関係に該当し、彼とのフラグが立ったということか。これで男女6人3組のカップリングだけは決まった。実現は先だろうから、今後の焦点は、玲奈がどう海里への想いに けり をつけるか、になる。
そのフラグ通り、玲奈は街中で篤郎に会い、彼とお茶をし、遊園地に行く。最後に乗るのは少女漫画で一番大事なアトラクション・観覧車。少女漫画において観覧車に一緒に乗った男女の恋愛成就率は かなり高い。ここから篤郎にシフトしていくのだろうか。


2話続けて物語の中心となる玲奈の風邪回が20話。
彼女のために動くピッコロの面々の優しさが伝わる。夏己は千帆の失敗をフォローし おかゆ を作り、篤郎はパフェを作って己の腕を有効活用する。海里はプリンを、彩はパンプティング。お互い玲奈の好みを熟知しているのか、それとも贈った方の2人が気が合うのか。
玲奈が風邪で休み、千帆も所用で定刻通りに帰ったピッコロは、人手が足りない。だが篤郎のお見合い回と同じく(『2巻』)、残りのメンバーが奮闘するため何とか店が回る。この回で初めてと言っていいぐらいマスターが料理している場面が描かれている。
ほぼ1人でホールを担当して疲弊した彩を海里はバイクで送る。その前の玲奈に続いて彩、バイクは男女の距離を近づけるツールなのかもしれない(海里は いつからバイク所有者になったんだ? 以前は自転車でピッコロ通ってなかったか。)

2回目の2人乗り。前回と違って海里も意識。バイク2人乗りの描写、2010年以降の作品では見ないなぁ。

こまでの頑張りが評価され、コック見習いとしてコックコート(調理用白衣)をマスターから渡された彩が厨房デビューする21話。
男性ばかりの職場に女性が入ると不便なことも多く、彼女の帰宅後、男性たちが彼女のために物の配置を変えるのが良い。こうやって女性が社会に進出すると、見えなかったものが見えてくるのだろう。
この回はマスターにも焦点が当たる。営業中はホールと厨房を行き来してサービスに務める。これまで描かれていなかっただけで、ちゃんと役割はあるのだ。そして彼が動き回るのは、お客様が満足して「幸せ」になるような店にするため。これは海里が将来的に目指す自分のお店作りの信念と似ている。だから彼にとってピッコロは理想の職場なのだろう。

そんなマスターが篤郎、そして海里に西洋料理コンクールへの出品を打診する。篤郎は一般、海里は若年の部。こういう話が回ってくること自体がマスターから認められている証拠。新たな目標が海里を成長させる。
パティシエとパティシエ志望の2人が、バリバリの西洋料理コンクールに出品する動機としては、細工・盛り付けのセンスがあるかららしい。夏己の方が料理人としての腕は高いのだろうが、コンクール向きなのは彼らの方ということだろうか。女性たちは店に料理を出す域にまで達していないので、マスターの推薦を得られないということか。


22話でコンクールが開催される。
3日目にエントリーしている海里だが、1日目の展示に圧倒され、アイデアの変更をする。焦りは募るのに、同じくらいワクワクしている。こういう好奇心や探求心、気後れしない性格が彼の強みであろう。
決められた作品テーマが恋人ということもあり、改めて彩の良い部分を思い返す海里。
出品を明日に控え、海里はピッコロの厨房を借り、料理を作る。玲奈は自宅がテンポの2階ということもあり、海里に差し入れの夜食を提供する。これには海里の心も少し動いたかのように見える。まぁ、海里が恋人というテーマで連想するのは彩であって、玲奈でないのが切ない現実なのだけど。
結果は海里は銅賞。そして篤郎は金賞を獲得する。

そんな篤郎を心から褒める玲奈。あったかい篤郎に、こんな風に想われる女性は幸せだと言う彼女に、篤郎は6年以上の想いを伝えるのだった…。もう終盤なのだけど、ここで本書で初めて、直接的な恋愛描写になっている。しかも動くのは周りの人ばかりで、海里の動かなさが悪目立ちする。


白場面から続く23話。篤郎は返事を聞かない。なぜなら玲奈が海里を好きなことは見ていて分かるから。
それでも玲奈は海里の何気ない一言で浮足立つ。一方、彩も専門学校1年時の友人と久々に会い、友人たちは海里の活躍を我が事のように話し喜ぶ彩の姿を見て、彼女の中にある恋心の萌芽を見抜く。いよいよ 終わりも見据える頃になり、恋愛事情が整理されていく。

2回目の入学希望者を招く1日体験入学の1日を描くのが24話。
役割分担では海里は玲奈と、彩は倉石(くらいし)とペアになる。倉石が海里の仮想敵で、倉石がどんなに彼女のことをよく見ていても譲れないと強い決意を固める。いよいよ その気持ちが海里を動かすか⁉

代わる代わる現れる体験入学の生徒の前で忙しく実演を重ねる海里と玲奈。その休憩中に、海里が彩の声のアナウンスに反応していることに玲奈が気づく。篤郎が、玲奈が海里を好きでも、彼女をたった一人の女性と思うように、海里も彩のことだけを見えている。

上述の通り、本書では男性陣は一途。そして女性陣が心変わりをすることで、男性陣の願いが叶う展開となる。ここら辺は作者の趣味なのか。玲奈みたいに積極的に動く女性の想いが届くパターンも見たかった(千帆は何か違う)。