《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋もバイトも2年目突入。仕事は自分から取りに行くが、恋愛は自分を押しつけないのがマナー。

ハッスルで行こう 2 (白泉社文庫)
なかじ有紀(なかじ ゆき)
ハッスルで行こう(ハッスルでいこう)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

調理師科を無事卒業したが、「まだまだ学びたいことがある」と製菓技術専門科に進んだ海里。そこで強力なライバルに出会い!? 一方ピッコロは、夏己に引き抜き話が舞い込んだり、海里の姉の結婚式2次会を開いたりと忙しい日々で…!?

簡潔完結感想文

  • 専門学校もバイトも2年目突入。新キャラに初紹介のイベント、個人回など盛りだくさん。
  • 親族を続々と投入するのが白泉社漫画の長編連載。そのために主人公は4人兄弟なのか⁉
  • 慰安旅行先の京都では恋愛要素が少し濃いめの味付け。それよりも目的は和食で口直し?

を通して実現することのバリエーションが豊かな 2巻。

本書の料理には愛がある。
例えば『2巻』で主人公・海里(かいり)が姉の結婚のために姉の好物を採り入れて作るケーキは その象徴たるものだろう。他にも彼は妹のために多忙な時間を縫ってケーキ作りを指南するが、海里が妹へ教えることも愛だし、妹がケーキを作るのも大好きな人へ想いを伝えるためである。また普段は ぶっきらぼうなシェフ・夏己(なつき)が倒れた千帆(ちほ)のためにレバーを混ぜた料理を作るのも、夏己が千帆の貧血を心配してのことで、言葉には出さない彼なりの愛がこもっている。同じ専門学校・バイト先の玲奈(れな)が海里のために家庭料理を極めようとするのも愛。料理の技術だけでなく、本書の料理には愛が調味料としてあるから どれも美味しそうに見える。誰もが料理に真剣で、かつ心も身体も健全な者たちが作るから、心まで満たされるのである。

自分の成長と祝福の気持ちと姉の好物を1つのケーキにして形作る。そのための努力は惜しまない。

愛に関しては本当に進みが ゆっくり。『2巻』ラストでは知り合ってから2年目の10月になるというのに、少しも進展がない。逆に海里が好きな彩(あかり)が彼の事を恋愛対象として見ていないこと判明する逆風の状態である。通常の高校生の恋愛で1年半以上、何の恋愛イベントも胸キュン場面もないまま進むのは あり得ないだろう。それを可能にするのが、恋愛要素を補填するような料理描写と、そして彼らの前向きなバイタリティだろう。勉強もろくにしないで恋愛のことだけ考えている恋愛特化型の少女漫画と違って、本書では毎日やる事も考える事もいっぱいあることが分かるから読者もそれで満たされる面がある。そして『1巻』でも書いたが、恋愛に焦燥や嫉妬がないからこそ本書の空気は穏やかなのだ。

一方で、仕事として料理に携わっている人々だが、年齢的なこともあり、彼らの様子は仲良しサークルのようにも見える。恋愛禁止の不文律があるかのように直接的な行動を起こさない お行儀の良いサークル。どうしても作品自体が誰も欠けることを許さない所があるように思え、良い風に捉えれば それが青春の香りを醸し出すが、悪い風に捉えると彼らがモラトリアムの期間を少しでも長引かせようとしているように見える。トラットリ・ピッコロには抜ける人もいないし、新バイトも入らない。いるはずのパートの方も、マスター自体も排除しがちで、若者たちだけのユートピア、閉鎖的な空間になってしまっているように見える。クラスメイトや部活・バイト、どんな社会においても このメンバーがベストという感覚は分からないでもないが…。


9話は、ビルのテナントを管理する御曹司からの夏己の引き抜き話。
自分の店を持ちたいのは料理人の夢。そのためには資金がいる。だから それを一足飛びにクリアするのが御曹司からの話で悪くない。トラットリア・ピッコロのスタッフたちは好条件に心配するが、夏生は一顧だにせず断る。彼らは与えられた容れ物ではなく自分の手で開く店が欲しいのだ。
この話で海里たちは専門学校を卒業し調理師免許を取得する。

10話からが2年目となる。
物語が進むと親族を続々投入しがちな少女漫画(特に白泉社)ですが、本書では4人兄弟である海里の姉弟妹が次々に参入する。
今回は20歳の海里の姉・美穂(みほ)が登場。彼女が15歳年上の35歳の男性(死別でバツ1)と結婚をして、結婚式の2次会をピッコロで開くという お話。姉・美穂は海里に似ているが、雰囲気は玲奈に似ている。気を抜くと玲奈に見えるので注意が必要である。また画力の面で結婚相手の35歳の男は10代の海里と全く同じ肌ツヤ・体型をしているので重要なポイントである年の差感があまり出ていないのが残念なところ。
海里は姉の好物を使用したケーキ作りに邁進する。飲食店では こういう人生の節目の お役に立つこともあるのだろう。新しく夫婦になった姉たちも『1巻』で登場した専門学校の先生みたいに結婚25周年の お祝いをするぐらい幸せに過ごして欲しいものだ。


11話は2年目で製菓技術専門科に進学した海里の日々が描かれる。彩と玲奈は西洋料理クラスらしい。
ここで新キャラ・倉石 圭介(くらいし けいすけ)が登場。同じ科・同じ班になる前から倉石は海里を認識していたが、海里は知らなかった。
倉石が海里に目をつけたのが『1巻』の卒業展示。賞を取ったのは倉石だが、倉石自身は海里の作品に魅了された。これは海里が作品を制作する中で目標とした、お菓子で作られた作品を見た子供の頃の自分が憧れた感情と似ているのではないか。海里の作品は未熟だった部分もあるが、ちゃんと心を動かしている。その後、海里は倉石が、卒業展示で自分が投票した作品の作者だと知り、2人は相思相愛であることが分かる。篤郎が目標なら、倉石は様々な面で海里の身近なライバルといったところか。ラストで倉石も彩を好きらしいことが分かり、海里は一層 負けられない。


12話。夏己と千帆の話。17歳の千帆が19歳の夏己と出会った時から年齢差があるが、千帆は物怖じしなかった。素直になれなくて上手くいかないカップルと言った所か。その昔、千帆がピッコロの2階で狸寝入りをしている際に夏己から頬にキスをされたが、それ以上の目立った進展はない。けれど少しだけ特別扱い。そんな関係性が続く。クールデレっぽい夏己の愛情は分かりにくいのだろう。
でも夏己は ぶっきらぼうに見えて周囲をしっかり見ている。そんな彼だから千帆も、そして彩も彼に惹かれてしまうのだろう。
この話では篤郎にも姉がいることが判明。その姉が美容室を開くので篤郎やピッコロスタッフが店名の入ったティッシュ配りをする。本書の登場人物は基本的に兄弟仲が良い。


13話。学校の体育祭の話。体育祭自体は去年も開催されたらしいが、本書では初めての描写。
体育祭や試験など海里が多忙な時に、彼の妹・唯(ゆい)がバースデーケーキの作り方を兄に習いに、4時間かけて奈良から出てくる。自分がどんなに忙しくても妹に対して愛情深く接し、彼女の納得がいくまで指導する。
この回は海里が大活躍で、体育祭でも優勝に大きく貢献する。こういう海里の良さが徐々に彩に伝わっていくのかな。確かにどんだけ知っていっても海里の悪いところは出てこない。
基本的に海里は人がいいので、どんな事にも巻き込まれやすい。料理というテーマからは外れるが、誘拐事件に巻き込まれる姿が容易に想像できるので、そんなテイストの話も読んでみたい。

ピッコロ内では男性陣が年上なので いじられキャラだが、今回は頼りがいのある お兄さん・海里。

14話は篤郎に見合いが持ち込まれる。
これは9話の夏己の引き抜き話に似ているかも。引き抜きではないが、誰かが結婚したり、どこかが恋人関係に収まったら、この面々の この関係性が終わってしまう、というモラトリアムの危機という側面は同じだろう。プライベートでは何も決着をつけない、何も動かないことが男女6人の円満の秘訣なのかもしれない。
一度は断ったはずの篤郎の見合いが急遽 実施され、彼不在のピッコロは大慌て。篤郎の穴を埋めるために、それぞれ いつもより難しい役割に挑戦する。人が抜けた方が、技術や地位のステップアップに繋がるのでは、また6人がフルで稼働しなくてもピッコロは大丈夫なのでは、と思ってしまった。


15・16話は10月に入り、ピッコロで慰安旅行が企画され、京都に旅行へ行く一同の話。
兵庫(関西)の人から見ると京都は、そんなに「遠出」じゃないんですね。3つの三角関係を形成する6人の男女での旅行。ここもサークル活動っぽい(マスターはいるけど)。ちなみに慰安旅行は去年もあったらしいが、体育祭といい、2年目に初出しの話題が多い。

恋愛に関しては、ちょっとずつ思惑が入り乱れるものの、やはり決定打はなく、基本的に取材旅行を基にした観光案内といった感じ。ピッコロとは違う和食がメインとなるので口直しには良いかもしれない。
この旅行で海里は彩との進展を狙うが、川下りで隣になるのが せいぜいであった。しかも彩は夏己を「憧れの人」と海里に伝える。彩は夏己が好きなのか、そして そんな話をされる自分は完全に友達なのか、と悶々とする海里だった。
恋愛が進展ないどころか逆風を意識して、京都編は続く。