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少女漫画と小説の感想ブログです

法学部の学生は20代前半で3人の子供の母親になり、いつの間にかに看護師になる。

そんなんじゃねえよ(7) (フラワーコミックス)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

教育実習生を相手に暴力沙汰を起こして停学になった静(シズカ)と哲(テツ)。だけど二人きりの自宅謹慎であやしいムードになったところに仁村(にむら)がやってきた。哲と仁村の火花が散る中で反省文なんて書けやしない!その夜、哲が静をかばって事故に!?絶好調ハイテンションLOVE2兄妹ストーリー衝撃の第7巻!

簡潔完結感想文

  • 交通事故という命の一大事が、女性たちの心を揺さぶり、人のトラウマを蘇らせる。
  • 貴下ら男達は女王たる 私に従えばよい、という態度を獲得するまでの若かりし母。
  • 2人の兄を優先され、2回も手を振り払われたけど、それでも君の手を離したくない。

通事故に過去回、二股などなどイベント盛りだくさんの 7巻。

少女漫画的な潔癖さとは無縁の本書。
静(しずか)と哲(てつ)、兄妹かもしれない2人の恋心は、兄妹かもしれない内に決着がつく。
しかも静は仁村(にむら)というクラスメイトと交際中の身でありながら…。

「どうして うまくいきっこない恋愛ばかりを選んでしまうのか
 それが真宮(まみや)家の『血』なのだとしたら やるせない話だ」

と、全ての事情を知る彼らの母・涼子(りょうこ)は、彼らの恋愛を見て思う。

学生結婚をしているのに別の女性を愛する兄・享一(きょういち)、
その兄の妻に好意を抱いてしまう俊二(しゅんじ)。

確かに真宮家の人間は「うまくいきっこない恋愛」を選んでいるが、
その他にも恋愛を同時進行させる癖があるみたいだ。
だから、親が誰だか不確定な3兄妹が誕生してしまう。

その血筋は俊二の娘である静にも受け継がれていて、
彼は本当に好きな人がありながら、別の男性とも交際するし、
自分の身近な男性には自分を好きでいて欲しい。

様々な「困ったさん」を紹介してきた本書だが、一番の厄介者はヒロイン・静かもしれない。

静には身辺整理をしてから恋愛を進めて欲しかったなぁ。
そのために、自分から身を引いた部分もあっただろうに。

その理性を乗り越えさせるための交通事故だとは頭では理解できるが、
これでは ずっと男に守られてばかりの姫になってしまう。

みにくいアヒルの子であった静が、しっかりと白鳥になるまでの変化を見せて欲しかったが、
自分がアヒルか白鳥なのか、兄と血が繋がっているのか いないのか、
見定める前に恋心を優先させてしまったのが残念。
やはり血縁問題の解決が先ではないのか。

ただし、ここで一つ傍証となるのは、
真実を全てを知っている母が、彼らが口づけや抱擁を交わすのを見ても止めなかったという事。
これは彼らの恋愛に禁忌がない事を意味するのではないか。

でも少女漫画的には、自力で血縁がないことを証明してから、恋愛関係になって欲しかった。
しかも上述の通り、静は仁村という彼氏をキープしたままだし。
血縁がはっきりするまでは、間違っても妊娠しないでいただきたいが…。


育実習生への暴力沙汰で停学処分中の静と哲。
そこへ彼女である静の様子を見に、仁村が訪問する。

静が自分に見せない部分が多いことを仁村は見抜く。
「静ちゃんは烈(れつ)さんのために停学になって 哲さんのために哲さんを つき放して
 俺のために俺とつき合っている」

静を傷つけているようで、そんな静から決して離れられない仁村がいることで、静最強説が補強される。

静がヒロイン・聖母気質によって男性に合わせていると仁村は推測したのだ。

確かに静の仁村への感情は好意ではなく、厚意にも見て取れる。
母に つき放されている世界で一人ぼっちの彼に つくす、それは気高いアタシでいるための手段。

いくら仁村に えぐるような言葉を吐かれても、静が逆襲や逆ギレをしないのは、
静が仁村との関係を維持したいぐらいに、彼のことを「嫌いじゃないから」。
でも問題なのは、哲には許容する範囲と、仁村への範囲が違う事だろう。

あと完読すれば見えてくるのは、(※ネタバレ)哲と同じ匂いがするから、ではないか。
結局、静という人は兄と、兄に似た人(血縁者)、ような気がしてならない。


んな微妙な三角関係が再燃する中、交通事故が起こる。
静を守って哲が怪我をした。

最終回が近いのかと思った。
もしくは弟・哲の死去で、兄の烈が本気を出す『タッチ』パターン。

この無駄に劇的な展開は、両家の母親を対面させる手段である。
これによって仁村の母・遥(はるか)と、静たちの母・涼子が顔見知りであることが証明された。

仁村の母は、夫から涼子の子供が事故に遭ったと知り、居ても立ってもいられず病院へ駆けつけた。
そして仁村の母は烈に異常な執着を見せていることも分かる。


哲の見舞いに来た仁村と静は会う。
そこで哲が気を利かせて退室したが、静は仁村の手を払って、哲を追っていく。
仁村は、烈に続いて哲と、2回連続、自分よりも交際相手の兄を優先させられた。
これは静の酷すぎる仕打ちである。

交通事故、そして死への恐怖は それぞれの心を千々に乱す。

まず兄妹の母は夫や義兄たちが事故死した過去を思い出してしまう。
これが過去編の導入部となっていく。

そして静も、哲がこの世からいなくなる恐怖を覚え、彼以上に大事な人がいないことを再確認してしまった。
そんな静の気持ちを確かめた哲と静は唇を交わす。

命の危機が2人を近づけるのは分かるが、
上述の通り、2人の関係が「兄妹」のまま近づいちゃうのは、疑問が残る。
情動で動いてしまうのも真宮家の血なのか。


こで話は切り替わり、母・涼子の高校3年生からを描く過去編となる。

美貌が故に噂だけが先行し、クラスで孤立していた涼子。
そんな彼女に下心なく近づいたのは、後に夫となる俊二だけだった。

生まれついての「女王」である母に対して、下僕願望の男はたくさんいたが、
母に対しても屈託のない言葉を並べるのは俊二が初めてだった。

女王であることの覚悟のないうちから、誤解や噂だけが先行していた涼子。
誰も彼女が傷ついていることを知らない。

そして俊二が自分を好きなのではないか、と疑い始めた頃、
俊二が叶わぬ恋をしていることを知ってしまう。
相手は彼の兄嫁。

涼子の孤立は深まる。

だが、涼子に対する悪意に対して、俊二は牙を剥いてくれた。
ここぞ、というと時に強いのは娘である静に受け継がれた気質か。
更に俊二だけは、涼子の人に見せない苦悩をしっかりと分かってくれていた。
俊二が等身大の自分を かわいいと思ってくれていること、その優しさに、涼子は涙を流す。

人前で泣ける、それは静が兄達の前でしか泣けないように、
気を許した間柄でないと出来ないこと。
高校生活も終わりに近づくころ、彼女は自分の俊二への気持ちを認める。


して大学進学。
俊二は経済学部、涼子は法学部と、同じ大学に合格する。
これは涼子が彼の「志望校をガッチリと調べて」おいたから。

にしても、法学部に入学した涼子が、どういう経緯で看護師になったのかは謎。
しかも彼女は若くして子供を授かったり預かったりしている。
資格を取る時間も経済的余裕もなかったはずだが…。


大学では、大学デビューすることで、初めから女王然と振る舞う涼子。

その大学には俊二の兄・享一と、彼が学生結婚した妻・七瀬がいた。
未だに七瀬に想いを寄せる俊二。

そんな頃、涼子は、享一が駅のホームで七瀬以外の女性を愛おしく触れている場面を目撃する。

4人が4人とも片想い状態の中、
七瀬の提案で、彼女たち夫婦と、その弟の俊二、そして涼子で海に行く。
ここで訪れた海は、かつて静が哲と距離を置くことを決意した あの海だろうか。

一緒にいて楽しいはずがない4人だが、
涼子が何もかも、自分の俊二への好意も暴露することで、事態は一変する。

4人の男女の「思い思われ、ふりふられ」な恋愛の過去回。そこに結婚や妊娠が絡むから20代は複雑。

俊二と想いを通わせることで、事態は丸く収まったように見えたが…。

涼子にとって、やはり俊二は最愛の人だろう。
もしかしたら生涯でたった1つの恋なのかもしれない。
こうやって親世代が立体的に浮かび上がってくると、この後の悲劇が一層 辛くなる。

俊二への変わらぬ愛が、彼女に3人の子育てを全うさせる原動力なのではないか。
静が「間宮の血」を発動させている現在、真のヒロインは母・涼子である気がしてならない。


…と、再び話は現代に戻る。

哲とキスをしながらも、仁村と別れるキッカケを掴めない静。
フタマタ女、稀代の悪女の誕生である。

本当は仁村も もう分かっているだろう。
彼は静の中で哲だけじゃなく、烈よりも下位に位置しているのだから。
でも仁村が彼氏の振りをするのは、未来の確証がない静の傍にいてあげたいという優しさがあるから。

結局、仁村も兄達同様に、静のことを甘やかしていると言える。
もちろん、兄達が静に忠誠を誓ったのと同様に、
仁村も静の芯の強さを思い知ったから離れられないんだけど。

静はもう母の涼子とは別種の、男たちを服従させる術を身につけているのか。
ただ、誰の手も離さないまま、自分だけが幸せになるような気配が嫌だなぁ…。

そして、まだまだ過去編で明かされていない部分は多い。
誰と誰の間に、どの子供が生まれたのか。
少女漫画らしからぬハタチそこそこの乱れた人間関係が続く…。