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少女漫画と小説の感想ブログです

身長格差のカップルが 受験に際し、学力格差で関係性が逆転。大きな彼の小さな器。

ひよ恋 14 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
雪丸 もえ(ゆきまる もえ)
ひよ恋(ひよこい)
第14巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

高校生活最後の体育祭も終わり、いよいよ受験シーズン突入! 励ましあいながら夢に向かって頑張るひより&結心だけど──!? 【同時収録】ひよ恋 番外編─コウくんとりっちゃんの事情─/ひよんコマ/おまけまんが みったんの放課後日誌

簡潔完結感想文

  • 律花の弟や、一人っ子の ひより が国公立限定の予備校禁止と家庭の事情が出てくる。
  • 結心が背伸びしても叶わない学力。1話とは逆で 結心が ひより の才能に劣等感を持つ。
  • お互いのために距離を置く2人だが、精神的に支え合う大切さを知って受験に臨む…。

長という物差しから、学力という物差しで自分を測る受験生たちの 最終14巻。

最終巻にして受験を前に距離が少しずつ離れ、仲が険悪になる2人。
今回、作中で一番 ヒーロー・結心(ゆうしん)がピリついていた。

その理由が2人の学力差。
受験では学力という物差しが重視され、その点では結心はヒロイン・ひより に背伸びをしても勝てない。

いつでも人に優しい結心の嫌味ったらしい言葉。それだけ彼に余裕がないという事なのだろう。

私は この逆転現象が非常に面白かった。
そして これはきっと『1巻』1話の時の ひより の状況が結心に入れ替わっていると言えるだろう。

1話では自然体で友達に囲まれ、ひより にも屈託なく話しかける結心の事を ひより は苦手としていた。
自分が抱える苦悩とは無縁に生きるような彼に劣等感を覚え、それが精神的な距離となっていた。

それが受験生となった今、結心側が劣等感を抱える事になる。
ひより は1年生の頃から成績優秀で、ひより と結心が志望校とする大学に入れる可能性が高い。

物語の設定としては、ひより は おそらく家庭の経済的理由から国公立大学、そして予備校通いを禁止されている。
これは ひより の家庭が貧しい事を訴えたいのではなく、
彼女が難関大学にも一人で勉強するぐらいで合格する、という頭の良さを表しているのだろう。

それに対し結心は予備校に通い、頭がパンクし キャラ変するほど真面目に勉強をしている。
それでも余裕をもって勉強する ひより に追いつけない差がある。

それが結心に初めて ひより への劣等感を覚えさせ、そして それが苛立ちにもなっていく。
ずっと一緒にいられるように努力しているが、それが叶わないかもしれない焦燥。

身長差意外に2人に生まれた新たな格差に ひより たちはどう対処して良いか分からない。
これは健やかなる時の交際ではなく、病める時の交際の形であろう。
これからも2人が長い人生の同伴者となるのなら、こういう時の乗り越え方も学ばなくてはならない。

最終巻で1話に対応した話を作っているのが秀逸。
本書は身長差50cmカップルという分かりやすい特徴だけでなく、
話の作り方が丁寧で繊細だからこそ人気を得たのだと分かる。

作者が最後まで登場人物たちに愛情を注いでくれたからこそ、こんなに清々しい大団円となった。


よいよゴール(目標)が決まり、スタートした ひより の人生という名のリレー。
目標まで進むには、努力というバトンを持って、倒れても自分の力で立ち上がり、また走り出さなければならない。

こうして2人とも進みたい大学と学部が決まって走り出した。

何と2人は以心伝心で、同じ大学に行きたいとは思っていたが、密かに決めていた学部まで一緒。
2人が学部まで同じなのは進路届を見ている教師たちしか知らない事。
ただし結心は相当 頑張らないと ひより の学力には追いつけなさそう。

ここで謎なのが、夏休み中に予備校通いしていた結心が、一度やめて10月に入ってから また通い出している事。

確かに夏休み明けは、ひより の家で一緒に勉強している場面があったが、
それにしても10月から本腰を入れて通いだす生徒なんて、予備校側も面倒が みきれないのではないか。

ちなみに ひより は親の反対により予備校に通えない(夏期講習は行った)。
1人っ子なのに学校は国公立縛りだったり、色々と経済的制約が多いみたいだ。
(実際は 上記の通り、ひより の優秀さの傍証なのだろう)


陰矢の如し。
勉強だけをしていたら、次の回では もう2学期も終わりを迎えようとしていた。

この頃は1人また1人進路が決まっていく時期。
それは本当に卒業が間近に迫り、卒業後には同じ空間にいられない現実を突きつけるのだった。

そんな不安は、息抜きのために設けた結心とのクリスマスデートにも顔を出す。

デート中に予備校という ひより の知らない世界の友人たちから結心が声を掛けられたのを見て、
ひより は結心の中の自分に入れない領域を感じてしまう。

それに対して結心も上述の通り、ひより へのコンプレックスが芽を出していた。
これまでは人間的な器が大きかった結心は ひより に対して尊敬する部分はあっても劣等感はなかった。
だが、受験を前に否応なしに「学力」という分かりやすい物差しで比べた時、
彼女に対して、彼氏である自分は劣っていると自覚し続けたのだろう。

結心が予備校の人と話が合ったり、気軽に勉強の事が聞けるのは、
彼らとは、予備校に通う事で自分を奮い立たせているという共通点があるからだろう。
1人でコツコツ勉強できる ひより とは姿勢が違うのだ。


んな2人の違いが如実になり、ひより は お互いのためを思っての別離を決断する。

同じ目標でも、違うルートを歩むのなら、それぞれ黙々と自分のペースで歩いていた方が、
相手を困らせることなく、自分も迷うことがないという考えだろう。

これによって結心は成績が向上する一方、ひより は成績を落とす。
ちなみに、この時の成績表に数学とか理科とかあるけど、ひより は理数系なんですかね。
あと理科ってのも大雑把すぎやしませんか?
作者自身が大学受験をしなかったからか、それとも読者層に合わせたのか。

校内で会わないよう努める2人が別れたという噂が駆け巡るセンター試験直前(現・大学入学共通テスト)、
結心が風邪を引いてしまった。
ひより は その情報すらも人から伝え聞くほど2人は距離を遠くなっていた。

ここからは ひより の最後のヒロイン的行動ですかね。
風邪の対策グッズを買い込んで結心の家に向かう ひより。

だが結心の方は学校に行こうとしていた。
それは ひより が成績を落としている事を結心が知った際に、
担任から「(恋人が)一緒にいるだけで心強い」という言葉を送られていたから。
直接の交流は無くても、彼女の傍にいて精神的な支えになれれば、という考えなのだろう。

この時、結心は成績低下と、そして ひより が同じ学部を受ける事を初めて知る。
以心伝心で2人とも同じ目標を抱いていた事は結心にとって嬉しいだろう。

でも いくら学校公認のカップルとはいえ他生徒の成績や志望校を知らせるのはマズい気がするなぁ。
まぁ、だからこそ ようやく巡り会えた2人が、同じ目標を持っているという奇跡の演出にもなるんだけどさ…。

ここは巡り会うまで、2人が互いの背中を追っているのが良いですね。
傍にいる事で、風邪や成績不振などの不安を少しでも解消してもらおうという相手への気遣いが根本ある。
ずっと逃げてばかりだった ひより が、彼のために走り続ける姿勢が胸を打つ。

最後の最後で逃げないで、向き合い続ける事を選んだ、と言える。
そうして結心から勇気と目標を貰った ひより は、気力の低下から脱出し、万全の態勢で受験に臨む。

思いっ切り甘やかしてくれた律花や夏輝。衝突する事もあったコウ・礼奈・秋穂。みんなズッ友☆

終話は、また時間が進んで卒業式の日となる。
大学受験も無事終わり、晴れやかな気持ちで臨む卒業式。

それは1年生の12月に学校に始めて登校した時とは まるで違う心境。
卒業式後、結心が ひより を呼び出したのは、1年の時に使用していた教室。
初めて会った時のように席に隣同士で座る2人。

そこで結心が教師を目指そうと思った理由が語られる。
その理由は ひより にあった。
ひより が自分の「何気なく言ったことも 大事に覚えてて」
「自分にとっての当たり前が他人の力になれることあるのかもしれない」と思ったからであった。

…そうだったのか。
受験に合格してから志望動機を聞いたなぁ。

教室を出る際は2人で思い出を刻み、友達と写真を撮り、彼らの高校生活は終わる。

ラストは3年の月日が流れ、教育実習生として母校に戻ってきた2人。

一応、駆け足で3年間の月日で変わった友人たちの近況が語られるが、
大事なのは また この学校の1年4組の教室の前で、
生徒ではなく違う立場で2人が並んでいる姿が見られることだろう。

始まりの場所が、物語の終わりの場所になっているのも素晴らしい。
結心は将来の約束っぽい事も口にしている、
いつまでも幸せでいて欲しいと心から思うカップルである。


ひよ恋 番外編─コウくんとりっちゃんの事情─」…
放課後、律花がコウを家に誘ったことから起きる一幕。

最終回間際にして律花に弟がいる設定が生まれている。
そんな弟とコウとの奇妙な交流がメインの話。
弟くんが自覚的なシスコンで、そんな彼ともコウは いつもの温度で上手くやっている。

確かに律花はお姉さんっぽいけど、そんな設定があるのなら ひより と弟との会話なども読みたかった。
「みったんの放課後日誌」…
本編では叶わなかった3年後の世界での全員集合の話。

最終回で出番がなかった妃(きさき)が登場し、一つの大きな謎を残していく。
まさか最終回後の おまけ漫画で秋穂(あきほ)の失恋が確定するとは思わなかった。
本書で唯一、メイン級キャラでカップリングされなかった人。
整形とキャラ変で頑張った割に、最終盤の登場だったから出番も少ないし。