雪丸 もえ(ゆきまる もえ)
ひよ恋(ひよこい)
第11巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
付き合って初めてのクリスマス。結心とデートすることになったひよりは、プレゼントの準備もカンペキ。でも、待ち合わせの時間を過ぎても彼は現れなくて──!? 【同時収録】ひよ恋 番外編/ひよんコマ/おまけまんが たな恋
簡潔完結感想文
- 携帯電話など無くても相手の事を信じる心があれば、クリスマスに奇跡は起きる。
- 物語も終盤に差し掛かったので友人の恋が連発。登場人物を続々とカップリング。
- 結心はイケメン化、コウはモテモテ。魅力的なのは そういう部分じゃないのに…。
モブ女性たちの黄色い歓声は、ヒロインの優越感に変換される 11巻。
相変わらず話の作り方が丁寧で好感ばかりの本書。
ただ1つだけ気になるのが、このところの男性陣への付加価値。
ヒーローの結心(ゆうしん)は、いつの間にかにイケメンになっているし、
陰キャで友達もいないようなコウも、昔からモテていた設定が急に追加される。
こういうのを蛇足というのではないでしょうか。
読者にとっても、作中の女性にとっても結心の存在感は顔じゃない。
そこにいるだけで輪の中心になって、クラスの端々まで照らしてくれるような太陽みたいな人。
その心根が美しいのであって、見た目は身長以外に特徴はなかったはず。
それはコウも同じで、彼の場合は結心と逆で人の輪の外にいるのが魅力となっていた。
恋愛に無関係で、男性にしては低い身長が原因で嫌な思いをしてきたから こじれたはずの彼。
そんなコンプレックスから毒舌をまき散らしていたと思われるのに、急にモテ設定を ねじ込んだ。
そして よりにもよって連載が長期化した10巻前後から その兆候が顕著になるのが残念だ。
モブ女性たちにキャーキャー言わせて、男性の価値を高めるのは少女漫画の常套手段。
だが、それを使わずとも結心とコウは十分に魅力的で、それぞれ好きになった。
なのに、ここのところ やたらと彼らがモテる事を強調していて、
ここまで読み続けてきた読者には、彼らを好きになったキッカケを汚されたように思うのではないか。
これは何の意図があるのだろうか。
主役たちが恋人になって久しいから、雑誌連載時の新規読者に こんなに素敵な男性と恋をしているんだよ、というアピールだろうか。
またコウの場合は、ヒロイン・ひより にフラれて、
落ちそうな彼の価値を下げ止まるようにして、
彼を想う律花(りつか)の恋愛を意味あるものにしたかったのか。
こんな小物を大物に見えるようにする手法など使わなくても結心は人間的に しっかり大きい。
作者自身が もうちょっと この「ひよ恋」の歩みの確かさを信じて欲しかった。
冒頭は前巻に引き続きクリスマス回。
結心にクリスマスプレゼントを用意するために始めたバイトが、
約束のイヴの日まで入ってしまい、大急ぎでプレゼントを用意する ひより。
律花と品物を物色していると、コウと遭遇し、彼にも選んでもらう事にする。
コウにとっては自分をフッた相手の交際相手のプレゼントを選ぶという生き地獄のような状態だが、
久々に いつも通りの会話が出来て ホッとしたのは ひより だけじゃないだろう。
3人で街中を歩いている時に、ひより は気を利かせて律花とコウを2人にする。
だが それは独力でデート服を選ばなくてはならない事を意味していた。
これまでは律花にコーディネイトしてもらっていたが、それが出来ずに尻込みしかけるが、
結心との待ち合わせ時間が迫っているため、背に腹は代えられない。
こういう所も ひより の成長の一つだろう。
だが待ち合わせ時間を過ぎても結心は現れない。
彼の方もプレゼントのために始めたバイトが急遽延長になり、
そして ひより が携帯電話を落とした事に気づかないままなので すれ違いが生じる。
ここは喧嘩による仲直りや、サプライズを計画した事で生じる秘密からの すれ違いなどと同じく、
彼が来ない不安や悲しみが、やっと会えた時に一気に喜びに反転するという便利な展開となる。
一つ疑問なのは、待ち合わせをしているのなら、
少なくとも その場に到着したら連絡がないか携帯電話をチェックするだろう、ということ。
約束の時間を30分過ぎても、ただ立ち尽くすばかりの描写は、演出として前時代的・非現実的すぎるかな。
ただ この場面で良かったのは、お互いの信頼感が ちゃんと描けている所。
ひより は結心を信じ続け、遅れても彼は来てくれると信じているから その場所に留まり続ける。
そして結心は遅れて到着しても、ひより は怒って無断で帰るような人ではないと信じ続けている。
携帯電話のいう便利なツールがなくても、信じあう心があれば2人は出会える。
描かれているのは、ようやく出会えてキスをし、プレゼントを交換する場面まで。
この後、どこに行ったのかとか、どんなデートをしたのかは描かれない。
まさか このまま夜の街に消えていった、…なんてことは まるでない はずだ。
大きな話が終わって、話題転換のためか2回続けて「友人の恋」パートとなる。
最初の友人は夏輝(なつき)。
『1巻』からずっと ひより に甘く接してくれた人なので応援したい気持ちはある。
…が、いかんせん私は「友人の恋」が苦手なので感想は駆け足で。
夏輝はスーパーでのバイト中に、近所に住む ふわふわ系男子大学生に告白をされた。
自分には似合わないタイプと思い遠ざける夏輝に、ひより は自信を持たせる言葉を連発する。
いつも ひより に優しく接してくれた夏輝に対して、
今回は、逃げようとする夏輝に ひより が問題と向き合う勇気を与えている。
友人の恋まで応援できるようになったのが ひより の成長であろう。
もしくは勝者の余裕か。
続いては、2月のバレンタイン回。
(ってか年が明けてたんですね)
今回の「友人の恋」は律花。
物語も終盤だから、友人たちを続々とカップリングさせにきている。
こういう最後は全員がハッピーエンドにしなければならないという
仲良しクラブの同調圧力なのは「りぼん」っぽい点である。
あれっ? と思うのは、
コウの、昨年はバレンタインに机に勝手にチョコが何個も入っていた、という話。
ここが、コウがモテ設定になっていて違和感を感じたところ。
世界を斜に見ている、陰キャじゃなかったっけ…⁉
ここのところ、キャラへの作者の愛が強すぎて、過去が改変されていく気がする。
今年の ひより は昨年とは逆で、律花がコウにチョコを渡せるように手伝う。
これ、律花からすれば、また余計な お節介&自分が惨めになるような提案だと思うのだが、
そういう ひより への非難のターンは、修学旅行の前後に終わっているので反発はない。
ひより は去年は「義理」という設定で結心にチョコを渡したが、今年は本命。
結心も今年は彼女がいるため、義理でも ひより以外のチョコは貰わないと心に決めているらしい。
こうやって先に ひより の不安を払拭する事で、
物語の主眼が律花からブレないようにしているのが上手い。
結心の発言がなければ、ひより は結心がチョコを貰う度にモヤモヤしてしまいますからね。
(それでも結心の意志と関係なくチョコは渡され続ける。…が、それも ひより の幸せ者の演出の一部か?)
律花の想いは、一筋縄ではいかないコウにはスマートに届かない。
けれど進展しない訳ではなさそう。
この2人、付き合ってもいないけど もう夫婦となった姿が想像できる。
口ではガミガミ言いながらも夫の事が大好きな妻と、
五月蠅いと思いながらも妻の話を ちゃんと聞いてくれる夫。
同じ年なのに、姉さん女房感があるのはなぜだろう。
コウがどう律花を受け入れるかを上手く描いてくれたらな、と願う。
幼い頃から ひより を守る役割で、
自分が何を言われても人前で涙を流さなかった律花が、
溢れる感情の渦を押さえられずに涙するのが、彼女が この恋に本気だという証明。
初めての恋を経験して変わっていくのは ひより だけではないみたいだ。
バレンタインの裏で進むのが、クラス替えや進路の話。
ひより たちの高校2年生は もうすぐ終わる。
そして2年生もいよいよ最後の3月。
3月生まれの ひより は17歳になる。
今回も10月の結心の時と同じく、誕生日っぽい甘い雰囲気はない。
誕生日に自分から祝ってとか押しつけたり、何かを期待したりしない2人の温度が心地よい。
それにクリスマス回で、何回もかけてプレゼントの交換まで話を持っていったので、
誕生日にサプライズしても話は重複するし、お財布も悲鳴を上げてしまうだろう。
それなら さりげなく、そして昨年と重なるような今回の展開がベストではないか。
思い返せば、色々あった1年間。
律花と初めてクラスが別れて1人歩きしなければならなかった4月から、
告白した夏休み、そして文化祭に修学旅行と学校の大イベントが続いて、クリスマスと思い出がいっぱい。
これにて、ひよ恋 第2部 完ですね。
そして高校生活の最後の1年、3年生の幕が上がろうとしている…。