雪丸 もえ(ゆきまる もえ)
ひよ恋(ひよこい)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
超人見知りのひよりが好きになったのは、身長も性格も正反対の結心。みんなに優しい人気者だから、仲良くなるのはかんたん。でも、その先にいくには、どうしたらいいんだろう―――!? 【同時収録】ひよんコマ/たな恋/おまけまんが みったんの放課後日誌
簡潔完結感想文
- 成長しているようで していない展開の連続だが、季節イベントを取り入れて新鮮さを保持。
- ほんわかした絵柄と作風だと思いきや、作者は結構 主人公を続けざまに惨めにさせている。
- ヒーロー側に好意的な発言が続いているのだが、自分の事で手一杯なヒロインは連続スルー。
猫の ぷいぷい は2人の絆であり、世界の厳しさの象徴、の 2巻。
『2巻』では作品世界が甘くなり過ぎないようにする作者による糖度の調整を感じた。
それが2人のライバルの存在。
その内の1人(1匹)が猫の ぷいぷい。
新しくヒロイン・ひより の家にやって来た猫(メス)。
この猫はヒーローの結心(ゆうしん)が捨てられていた所を発見し、学校で飼い主を探していた。
だからなのか猫は結心には懐くが、飼うことになった ひより には冷たい態度を取る。
そして ぷいぷい と名付けられた この猫がいる事で、ひより の良さが発揮される。
どんなに冷たい態度を取られても ひより は ぷいぷい に話しかける。
そうすることで ぷいぷい は、話を整理する相談相手になり、
また、ひより の努力家や自分に冷たい人にも優しいという聖母の一面を際立たせる。
こうする事で ひより が周囲の優しい人に甘えるのではなく、
自問自答をして、自分の力で問題を解決する、という流れになっていく。
ちゃんと悩み、ちゃんと問題と向き合う、それが ひより と ぷいぷい の会話なのである。
そして もう1人のライバルが、結心の幼なじみで彼に一番近い存在の妃(きさき)。
彼女は直接的な悪意を ひより に見せたりはしないが、なかなかに エグいことを仕掛けてくる。
妃がいるだけで ひより はコンプレックスを与え続けられる。
それは ひより の成長の種であり、そして読者が ひより を応援しようと思う点でもある。
ライバルの配置が絶妙だから、読者が嫌な気持ちになりはしないが、無意識に ひより贔屓になる。
実は『2巻』で ひより は そんなに成長していないのだが、
それでも問題が多く降りかかってくることで、彼女に常に向上心が生まれているように見える。
いきなりラスボスクラスの人物と戦うという展開の妙も良い。
主役の2人を恋愛や両想いから遠ざける工夫が施されている。
特に これまで人から逃げ続ける事で心の平穏を保ってきた ひより にとって、
結心や妃と向き合う事は、自分との戦いにもなる。
この恋を通して、これまで気づかなかった、気づかないようにしていた未熟な自分を発見していく。
少女漫画においては逆境こそが ヒロインを最も美しくみせるのである。
そんな妃関連の話が断続的に挿まれる。
ひより にとって妃は、結心の特別な人であり、人として劣等感を覚える人。
それが強調されるのが、突然の雨に降られた下校時。
妃は結心に会いに来ており、彼は彼女の傘の中に入っていく…。
傘もなく一人立ちすくむばかりの ひより。
そんな彼女を結心は見つけてくれるが、いたたまれずに ひより は逃げ出してしまう。
びしょ濡れで一人 電車に乗り、惨めさを覚え、そして彼女は冬の雨に打たれた結果、風邪を引く。
そこから風邪回となる。
見舞いに来たクラスメイト・律花(りつか)と夏輝(なつき)。
夏輝は ひより が元気になると思い、結心と一緒だった中学の卒業アルバムを持ってくる(いい子だ)。
自分の知らない結心の姿に喜ぶ ひより だったが、
中学が同じの妃の傍には いつも結心がいる事を見て、またも少し落ち込む。
更には彼女自身は、卒業アルバムには ろくに映っておらず、寄せ書きも空白のまま。
思い出のない、世界の狭い自分との差を痛感してしまう。
こういう小道具の使い方が良いですよね。
卒業アルバムは結心の過去や成長の軌跡が見られるし、
ひより にとって学校生活は真っ白であったことが寄せ書きページの空白から再確認できる。
その後に結心も見舞いに来てくれた。
結心は猫を助けようとしていた ひより を分かってくれていて、
実際に ひより が猫と一緒にいられるよう動いてくれた。
自分ばかりを守って逃げ出していた自分とは違い、
やはり結心は他者のことをちゃんと見てくれて、そして実際に動ける人である。
そんな彼を人間的に尊敬し、好きになり、そして自分も そうありたいと願う。
そう思う時点で もう ひより は変わり始めている。
まぁ その達成は随分と先なんだけど。
上述の通り、自分に懐かない猫を飼う、というのも彼女が積極的な行動を取り続けるという決意の一つなのかも。
続いてはバレンタイン回。
1年に1回の良い機会、告白はせずともチョコを渡すという行動に意味があるのでは、と考える。
失敗をしながらも、何とかチョコを形にした ひより。
だが当日、多くの女生徒からチョコをもらう結心の姿を見て、また怖気づく。
チョコは渡せないまま、徹夜でチョコを作った ひより は授業中に寝てしまう。
結心は その姿を教師の目から隠すように本でガードしてくれる。
ひより の傷だらけの手を彼は何を思うのか。
ここ2回分だけで結心は眠る ひよりを連続で見ている。
結心は 女性の寝顔に弱かったりして…??
あっという間に放課後になってしまい、ひより はチョコを渡さない選択肢も考える。
そんな ひより に喝を入れるのは、一緒にチョコを作ってくれた律花。
まだまだ他者の存在がなければ自分の行動を律せない ひより なのだ。
ようやく結心を追いかけ、チョコを渡す。
今回は義理として、だけれど。
結心が貰ったはずの大量のチョコは、その日は持ち帰らないみたいで、
唯一、結心が家まで持ち帰ったのは ひより のチョコとなる。
結心は、ひより がチョコを持って来ていたことを知ってから少し期待していた節がある。
ひより はテンパりすぎて気づいていないが、結心の言葉には ひより が勘違いして良い部分が含まれている。
そんな結心は学校内で本命っぽいチョコは貰わなかったという。
女子生徒の中では、それは結心に「もう自分の中で決めてる人が いるからじゃないのか」と噂される。
ひより は この噂に、妃の存在を思い浮かべショックを受けるが、
同時に ひより の臆病さが、怪我の功名となったことも知る。
「義理」として渡して、チョコにも感謝の言葉を書き添えていたことが その補強材料となったはず。
もし、渡す時に本気チョコという雰囲気を出していたら、結心は受け取らなかったかもしれない。
その放課後、ひより は校門付近で上級生にウザ絡みされる妃を見つけ、助け出す。
この行動も ひより の成長ではないか。
彼女は結心へのチョコを携えていた。
多くのチョコに埋もれてしまわないように、1日遅らせるとは策士である。
妃がチョコを渡すと知り、安堵したはずの昨日の行動や達成感が後悔に変わる。
三歩進んで二歩下がるようなエピソードの作り方が上手い。
だが ひより は、結心の隣人であるはずの妃が わざわざ学校に来てチョコを渡す理由を知る。
それは妃の告白がしてからというもの、結心が これまで通り接してくれなくなったから、だった。
そこで妃はチョコを結心に渡して欲しいと、ひより に託す。
受け取らなかったら捨ててと添えて。
こうして ひより は難しい立場に立たされる。
賢い妃が それを分かってない訳がない。
チョコの存在を隠しライバルの願いを反故にするのも狭量で卑怯な人間になるし、
妃からのチョコを結心が受け取っても絶望の始まりである。
作者も妃も ひより の苦しめ方が残酷だ。
まぁ 妃がいるからこそ、ひより が「被害者」のような立場になって読者から愛されるんですが。
そして ここは決して嫌な人間ではない妃のキャラ作りの絶妙さを褒めるところだろう。
そんな難しい状況の中、ひより は結心と2人で日直の当番となる。
ここで結心が ちゃんと前回の日直のことを覚えているのにキュンとする。
ひより にとっては忘れがたい一日ではあったが、割と大雑把な結心も覚えていることが嬉しい。
こういう優しい言葉も、ひよりは自分の問題で いっぱいいっぱい だから気づかない。
ひより に相手のことをちゃんと分かろうとする気持ちが生まれたら、2人の恋は進展するのだろうか。
結局、その日は ひより が結心を避け続け、
2人きりで作業していた放課後、ひより が机を倒し、中に入れていた妃のチョコが出てきた事で、
非自発的、不可抗力的にチョコは結心の手に渡った。
妃に頼まれた、と泣きながら告げる ひより に対し結心は
「泣くくらいなら断りゃいーじゃん」と、彼にしては強い言葉を告げる。
それは その前の「オレのこと 好き?」と聞いた言葉に、
ひより が向き合わないことへの苛立ちも含まれているかもしれない。
気まずい雰囲気のまま終わった1日のことを大泣きしながら報告する ひより に律花はまた喝を入れる。
こうして ひより は告白こそ まだ出来ないが、結心から逃げるのをやめた。
まだまだ ひより は大幅な成長とは ならない。
律花に尻を叩かれて行動しているようでは ダメだろう。
先は長い、かもしれない。