《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お上のお達しなのか、アイデアの枯渇なのか、急に作風が穏やかになり 売りが無くなる。

学園王子(6) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

太陽とサファイアの国・ラージェス。彼(か)の地より、王子・アルスラーンが来日した。美貌の王子が気に入ったモノ―― それは、ジョシ高イチ地味な少女・沖津(おきつ)リセであった! 傲岸(ごうがん)に、強引に、王子は言い聞かせる「おまえは暇(ひま)潰しのペットだ、私を飽きさせるな」。リセの受難はさらに続く……。

簡潔完結感想文

  • 外国王子到来。過激な学校イベントとエロを封印した本書には既視感だけが残る。
  • 少女漫画あるある。性格ねじ曲がっている奴、母の愛が不十分説というテンプレ。
  • この期間、赤丸が休むのは彼なら問題を解決してしまうから。水谷は賑やかし役。

チャメチャな展開がなくなると、ツッコミどころも無くなる 6巻。

この『6巻』は これまでの巻に比べて嫌悪感が全くない。
過激なイジメの描写も、性描写もないから、心がざわつくことなく平常心で読める。
ただ その代わりに何も面白いところがない…。

『学園王子』の中に本物の「外国王子」が来て、
なぜか地味(を志向している本当は美人な)リセを気に入るという既視感たっぷりな展開。
長期連載に突入した少女漫画にありがちな、新キャラで1巻分作れれば御の字という引き延ばしだけの追加キャラである。

地味(志向な)ヒロインが なぜか次々とイケメンに気に入られていくのは少女漫画のテンプレ展開。

王子は、育った環境から高慢なイケメンなのだが、
これまたテンプレのトラウマ設定があって、
それによってリセの中の「聖母」が目覚めてしまい、
王子のトラウマを解消するまで傍にいる、という内容になっている。

ヒーローの水谷(みずたに)も彼なりに奮闘する場面はあるが、
相変わらずリセとは つかず離れず状態で、当て馬が登場しても盛り上がらない。

もう1人 水谷よりもヒーロー過ぎる人物・赤丸(あかまる)は、
リセに近づく人を全力で排除してしまうからか、病欠で作品から遠ざけられる。

もう、この時点で水谷と赤丸の問題解決能力や真剣度の違いが公式発表されているようなもの。
水谷はバカだから、お笑い要因として作品内のどこにでも配置できるが、
赤丸は真摯な態度ゆえに、本物の王子ですら遠慮なく衝突してしまうのだろう。

きっかり1巻分、この王子のために使って『6巻』は終わる。
この後も このアル王子が物語に頻繁に登場するのか どうかは微妙なところ。

赤丸よりは自分の気持ちを素直に表現して分かりやすいし、
水谷よりも誠実でクリーンな印象を残す王子のことを私は最終的に嫌いじゃなくなっていた。

皆の母親役になりつつある宗近(むねちか)といい、憎めないキャラが多いのは良いことだ。
水谷を もうちょっと上手く使えていたら、本書の印象は もう少し違った気がするが…。


キャラの追加だけでなく、『5巻』の「公開処刑編」が終了後から作風が変わった。

この学園に充満していたはずの性や暴力の匂いが一切しなくなった。

これはワンシチュエーション漫画が多い「別フレ」において、
スタートダッシュに成功し、一定の読者層が見込めるようになり、過激な描写が必要なくなったのか、
それとも 過激な描写の連続が問題視されて、編集部から方向を転換するように言われたのか、
どちらなのだろうか。
『1巻』の感想文でも書いたが、「公開処刑編」が終わった2008年あたりが、
少女漫画の過激な内容に、世間から厳しい目が向けられるようになったのだろうか。

詳細な内部事情は私には分からないが、
外側から見ていると分かるのは、もう あれ以上 学園内で問題を起こす理由がないんだろうな、ということ。

水谷という存在が学園中の女子生徒に一通り認知されて、
読者同様、見掛け倒しで手を出すほどの男じゃないと分かられたのかもしれない。

それまで学校のルールを立て続けに出してきたこともあって、
もう新しいルールを思いつかないという作者側の事情もあろう。

それに学園内だけじゃ同じような描写が続くだけだろう。
『6巻』でもリセが王子に連れていかれて軟禁されて、といういつものパターンがあったが、
今回は 王子の空間だったために、お風呂・添い寝イベントが生まれた。

しかし学園内だと ずっと どこかの教室に監禁、暴力、逃亡の3パターンを繰り返すだけ。
同じ学園内だから絵的にも似たような描写が続くだけだし。

一度かかわった人のことを決して見捨てたりしないヒロインの聖母属性が男たちを惹きつける。

うして これまでのような地獄の日々が嘘のような学園生活が始まった。

しかし そうなってしまうと本書にオリジナリティというものが失われるばかりである。
王子に関する出来事や彼の事情は、どこかの漫画で読んだことのある展開ばかり。

前代未聞の設定や過激な描写で隠されていたが、
本書のスッピンは驚くほど地味であることが判明してしまった。
王子編で唯一 良かったのはリセの三角巾を巡る話ぐらいだろう。

ただし上述の通り、6巻も付き合っているとキャラへの愛着は出てくる(水谷以外)。

胃の痛くなりそうな役割ばかり果たす宗近や、
これからもストレートな愛を囁くだろう赤丸、
そして王子も これから どんな役割を果たしていくかは楽しみである。

学校ルールや緊張感のある生徒会が出てこないから心穏やかに読んでいられる。
もう白泉社漫画と見間違うような内容ではないか。

公開処刑編」が終わって ようやく内容が青年漫画から少女漫画になってきた。