《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

犬猿の仲の たぬき と きつねがドッグ & キャットファイト。婚活はコン(狐)勝つ⁉

ラブ・ミー・ぽんぽこ! 2 (花とゆめコミックス)
赤瓦 もどむ(あかがわら もどむ)
ラブ・ミー・ぽんぽこ!
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

種の生き残りを懸けて、人間の雄と番うために山からやってきた化けだぬき・ぽんこ(♀)。彼女が人間・たぬ沢蘭子として通うセレブな学校の中でもトップクラスな双子、二ノ宮兄弟と一緒に暮らすことに!?たぬき姿の時しか知らない双子を欺きながら婚活を続けるぽんこだが、最大のライバル種である狐(♀)たちが上京してきて…!?ラブもコメもますます切れ味鋭くなっていく四角関係(?)婚活ラブコメ、第2巻!!

簡潔完結感想文

  • 当て馬の女狐が登場して婚活市場が大混乱。女性同士の争いも けもの だと思えば。
  • ドキッ!化獣(ばけもの)だらけのマラソン大会。恒例の怪我やピンチもあるよ☆
  • 空飛ぶペンギン になりたいペンギン登場。この愛は種族や性別も超えている。

振り合うのは 大体けもの、の 2巻。

少女漫画の基本的な展開を踏まえつつ、本書独自の面白さをしっかり築いている点が好ましい。

そして この『2巻』は白泉社漫画らしく、新キャラに次ぐ新キャラ祭り。
学園も、そして主人公・ぽんこ が居住するマンションも獣率が上がっていく一方。
けものフレンドが増えて、ますます ぽんぽこワールドは広がっていく。

つくづく残念なのは全5巻という長さ。
それぞれに個性豊かな新キャラなので、もっともっと彼らのことを掘り下げられただろう。
それが全5巻では初登場時にしか いわゆる「個人回」がない状態となっている。
2周目3周目、意外な組み合わせなど まだまだ世界は広がっていく余地はあったのに。
ちゃんと面白いと思うんだけどなー…。

そして5巻で終わってしまうと考えると新キャラの占める割合の高さが気になる。
人数が増えていく段階で物語が終わってしまったので、
全体を俯瞰してみると、主役たちの影が薄く、
主役たちの「個人回」の少なさが惜しく感じられる。

これは完結後に作品に触れた私のような読者が面白かわいさを叫び続けるしかありませんね。
何とかの遠吠えなんかじゃないですよ…。


『1巻』のラストで本書の大きな秘密が明かされた。
それが たぬき の ぽんこ と同居する二ノ宮(にのみや)兄弟の秘密。

狼の血を引いている二ノ宮家は
「人の世に混ざり血を残し 住処を失った我々のような獣が生きる道を作って下さっている」
「いわば獣界の王とも呼べる存在」らしい。

彼らの元に化獣(ばけもの)が集まるのは必然ということか。

でも いつの間にかに人に紛れている化獣の人間社会への進出が進むと、
いつか この日本や世界でマジョリティーが逆転し、
革命や反乱を起こし、「猿の惑星」状態になってしまいそうだ。
実は作者の構想は、人間社会が転覆していく様子を描く壮大なSFだったりして。

でも本当に、仲間と共に 動物の居場所を奪う「恐ろしい人間」との対決があってもおかしくはない。


園への新キャラ加入は続き、きつねの女性・いなりが参戦する。

相容れない2匹は同じ目的のために人間界に乗り込む。バカみたいな化かし合いが今 始まる!

いなり と ぽんこ は、お互いに獣姿の時に出会うのだが、たぬき と きつねは犬猿の仲。
しかも都会に出てきた目的(優秀な人間の雄との結婚)も一緒なので、正真正銘のライバルキャラとなる。
そしてこれによって、ぽんこの逆ハーレム状態が崩れたと言える。
ライバルによって、ぽんこ の恋心にも火がついた!?

言い争いから、いなり に池に蹴り落とされた ぽんこ。
どうやら ぽんこ は泳げないらしい。
これでは水着回など期待できませんね(笑)

そんな彼女のピンチを救うのはヒーロー。
今回も ぽんこ のピンチは二ノ宮兄弟の双子の真(まこと)が助ける。

ぽんこ を連れて帰る二ノ宮兄弟に、いなり は一目惚れ。
いなりが学園に転校してくることにより、新たなバトルが勃発する…。


なり と ぽんこ は初対面時には獣姿だったが、
ぽんこ が人間態の たぬ沢として転入生の いなりを学校案内している際に、
はずみで2人とも獣となってしまい、2人は互いの正体に気づく。

野性が強い ぽんこが水落の恨みで喧嘩を吹っ掛けているのが笑える。
2人が人間の姿で喧嘩している様子も、言葉遣いが汚いのも本来なら好ましくないのだが、
獣だと思うと何だか許せてしまう。
野性だし、彼らは種の存続をかけて戦っているという理由もあるし。

いなり が二ノ宮兄弟を狙っていると知り、
通常の少女漫画なら、ここで ぽんこ自身にモヤモヤとした気持ちが生まれ、それが恋だと気づく場面に続くところ。
ただし、ぽんこは恋をしていないし、
彼女にとって大事なのは番、つまりは結婚相手であって、恋愛対象じゃない。

しかも ぽんこ は いなり が積極的に動けば、
学園での婚活を邪魔する一(はじめ)を引き付けておく囮になると考えているぐらい。

しかし、そうは思うものの、いなり が双子それぞれに近づくことを快く思わない気持はある。
この時、ぽんこ の中にあるのは執着なのか、愛着なのか。
その感情の名前を 彼女は まだ知らない。
早々に結婚はしたいけど実は初恋もまだ。
設定こそ奇抜だが、ちゃんと少女漫画ヒロインらしい設定なんですよね、ぽんこって。


んな邪魔な ぽんこに対し怒り心頭に発する いなり がミスコン勝負を挑む。

ぽんこ にとってミスコンで負けることは、
男性陣の興味が いなり に移ってしまい、自分の婚活が難しくなるということ。

ミスコンは「お嫁さんにしたい人」という前時代的でセクハラっぽいテーマが掲げられている。

そういえば男性の意見を参考にしようと家で二ノ宮兄弟に ぽんこが質問した場面で、
ぽんこ が家事をやっているようだけど、
これは雇用契約もあって、ぽんこ が真面目に使用人として働いているということなのかな。
家事をする たぬき。萌えるぅぅ。

理想のお嫁さんになるべく奮闘する2人のアホな努力は、それはそれで可愛い(笑)

この話はオチも秀逸。
読者にミスリードさせた ぎりぎりフェアなラインを突いている。
そして これがミスコンの時代に合わせた形だろうとも思える結果であった。


いては学校行事のアスレチックマラソン大会。

ぽんこ は直前に怪我した男子生徒と並んで走る。
これは ぽんこ の怪我をしている人に優しい設定なのかと思いきや、
一がどっか行った隙に婚活に精を出した結果。
つくづく ぽんこ にとって一は邪魔らしい。

この回は真の「たぬ沢」への接近回でもある。
真が、自分の融通の利かなさや、視野の狭さを自覚し改善しようという気持ちが、
兄をダメにする悪女として たぬ沢を認識するのではなく、
一個人として色眼鏡なく見ようという心持ちにさせた。

真は落ちていた たぬ沢のハンカチを届けるために、
自覚しない己の野性の力を使って、彼女を追いかける。

そして人間姿でも狸でも カラスに襲われている ぽんこ を助けるのは真の役割である。

ハンカチも、たまたま拾っただけなんだからネッ!というツンデレを駆使しつつも、
たぬ沢の素直な感謝にますます態度が軟化する。
しかもカラスの襲来で腰の抜けたたぬ沢をおんぶする役目まで果たす。

そうして真は たぬ沢のことを「男漁りの激しいぽんこつ」という どっかのたぬきとの共通点を見出し始める。

ラソン大会など運動系イベントでヒロインが怪我するのは、少女漫画あるあるですが、
ヒロインもヒーロー役も その後しっかり、同性から制裁を受けているのが笑える。


んこ の鳥類に対する恐怖心を克服すべく、
鳥類と触れ合うテーマパーク「トリらんど」へ向かう 同居人の3人。
これはヒロインが苦手を克服する健気な努力回という位置づけでいいのかな?
違うか。

そこで出会ったのが喋るペンギンの「ぎん」。

根須・いなり に続いて悪意のない ぎん にも一度は喧嘩を吹っ掛ける ヤンキーたぬき・ぽんこ。

が、ぎん は本書の中で特殊な立ち位置の動物である。

これまで登場した、ぽんこ・いなり・根須(ねず)の3人は家族や親戚など周囲が みな化獣であったが、
ぎん は園の中にいる家族や同種の中で唯一 喋れる存在である点が違う。

しかも彼は化けられない。
そして化獣でないからこその苦悩が彼にはあった。

ぎん の願いは空を飛ぶこと。
ぽんこの変化の力を使って 何とか ぎんを飛ばせるように悪戦苦闘する。
行き詰まりかけた計画に活路を見い出すのは、本書で一番賢い一のアイデア
ぽんこ たちのピンチもスマートに解決してくれるヒーローである。

しかも仲間の中で異質な存在の ぎん が園に居づらくて脱走を試みるなら、
自分が より安全に援助するとも言ってくれる。
何だかんだで一も優しい人間なのです。
そして彼は 口だけでなく、それを実現する様々な力を持っている。
たぬ沢へのプレゼントも全部 自分で稼いだお金らしい。
御曹司でありながら既に青年実業家の顔も持っている。
年齢を重ねるに従い、人間と化獣の競争率は ますます上がるばかりだろう。


ん が脱走や飛行をしたいのは飼育員の きんじろー のためであった。

きんじろーは園の中で唯一 ぎんが喋れることを知っており、
孤独な彼を肯定し続け、話し相手になってくれた男性。
それどころか ぎん に一生 傍にいてやると誓った人であった。
結婚という言葉こそ使わないものの、生涯の伴侶であることは間違いない。
ぎんじろーの想いは、ペットとしてのそれとは違うだろう。

それによって ぎん は孤独から救われたが、
種族や生活が違うため、いつも一緒にいることは出来ない。
きんじろーが街で交通事故で怪我をして数日間 出勤してこなかったことが、
園の中にいるばかりの ぎんを不安にさせた。
だから四六時中一緒に居られるように園の外に出る方法を考えていたのだ。

その ぎんを助けるのは やはり一。
彼らに対話の機会を与え、そして人間界で暮らす方法を授ける。
こういう一の人間性に ぽんこ が惚れる日も遠くないかも⁉

そうして学園だけじゃなく、二ノ宮兄弟のマンションまで けもの率が上がっていく。

この2人の関係は、ぽんこ にとって人間と動物が想い合える、驚きの事例として受け止められる。
ある意味で、本書で一番 最初にまとまった縁談と言えるのではないか。
きんじろーの怪我が治るまでの期間限定らしいが、同居し続けることも可能であろう。
それを実現するのは、ぽんこ の能力が頼りで、ぽんこが役に立っていることが驚きだ。
彼女の変化の術が万能過ぎる気もしないでもないが…。


なみに、ぎん は二ノ宮兄弟に本能的な恐れを全く抱いている様子がない。
これはペンギンと狼は本来、出会うことのない種族だから、
捕食されるなどの本能からの危機意識が働かないのだろうか。
もし戦ったりしたら確実に ぎん が二ノ宮兄弟の胃袋に入るだろうけど…。

また、ぎん がペンギンの中で異質であることと、
きんじろーと ぎん の関係は繋がっている問題なのかな、と思った。

それが種族ではなく、性別の問題。
ぎんって雄だよね?
その雄を男性が一生面倒みるという関係性は、人間社会においてはマイノリティだろう。

ぎん がペンギンの中でマイノリティであることと、
それでも その生態を肯定して一緒に生きようとする きんじろー。
少数派であることを乗り越える姿が ここには あるのではないか。