《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社特有の お金持ち高校に潜入するのは庶民でも男装女子でもなく、た・ぬ・き☆

ラブ・ミー・ぽんぽこ! 1 (花とゆめコミックス)
赤瓦 もどむ(あかがわら もどむ)
ラブ・ミー・ぽんぽこ!
第01巻評価:★★★★☆(9点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

種の生き残りを懸けて、人間の雄(オトコ)と番うために山からやってきた化けだぬき・ぽんこ(♀)。より良い雄(オトコ)と結婚するため、セレブ~な学校に入学したが、たぬき姿の時にとある双子に拾われてしまう!その双子とはセレブ~な学校でも一目置かれる二ノ宮兄弟!化けだぬきであることもすぐにばれてしまうが、ある条件のもと、ぽんこの婚活を手伝ってくれることになり…!?サバイバル婚活ラブコメ、笑撃の第1巻!

簡潔完結感想文

  • 御曹司双子は溺愛系男子とドS男子の二面性を持つ。ヒロインも1人2役で計3人6役。
  • 人間の私を好きな兄と、狸の私を好きな弟。まったく二ノ宮くんはどうかしている。
  • これほどまでに主要キャラとモブの差が激しい漫画も珍しい。モブ顔じゃない人は…。

たたたいたたたたすたたきたたたた!(ヒント:たぬき)、の 1巻。

私は 本書を大々的に応援することにした。
既に完結している本書が「後の評価」によって売れに売れて、確変を起こすことを期待して。
なので作品の評価も甘めだ(もちろん大好きだけど)。
月刊少女野崎くん』の前野さん以外にも、たぬき好きがいることを声高に叫ばなくては。


書は2回の読切を経て連載へと移行した作品。

内容は美形の御曹司双子とのドキドキ同居ライフ!
といって過言ではないだろう。

ただし、ビジュアル的には人間2人と狸1匹。

イケメン双子とのドキドキ同居ライフ、という読者の夢は人外の姿であるが叶えられる。

だが この主人公狸の ぽんこ は「化獣(ばけもの)」であり、
変化の術を使って どんな姿にもなれ、そして人間の言葉を喋ることが出来る。
そんな ぽんこ の人間の姿が、双子とクラスメイトの女生徒・たぬ沢 蘭子(たぬざわ らんこ)。

ぽんこ は双子には「化獣」であることがバレてしまうが、
自分が たぬ沢として学校でも接触していることは秘密なのである。
昼は学校で、それ以外も四六時中一緒にいる同居ライフ。
そんな『花ざかりな』毎日だが、本書における秘密は男装ではなく、二重生活となる。

ぽんこ自身は たぬ沢との1匹2役生活を送るが、同居する双子も1人2役を送っていると言える。
それが「溺愛系男子」と「ドS男子」の二面性。

まず、兄の一(はじめ)は、人間姿「たぬ沢」に優しくて、たぬき「ぽんこ」に冷淡。
弟の真(まこと)は逆で、「ぽんこ」を溺愛し、人間の「たぬ沢」を信用していない。
この双子が それぞれに どうかしていることでギャップが生まれて面白い。
二ノ宮くんはどうかしている、である(©『星上くんはどうかしている』

本書は山を下りて人間の雄(オトコ)と結婚することを目標とする
ぽんこ の婚活漫画でありながら、絶対に結婚できない漫画であるのが面白い。

彼女が婚活の場として選んだエリートの集う学校には、兄の一がいて、
ぽんこが たぬ沢となって近づこうとする 目ぼしい男子生徒を蹴散らしてしまう。

かといって 狸のまま ぽんこ として婚活に励んでも弟の真が その成就を許さない。
要するに、人間界で婚活すると言いつつも、結局のところ同居人の二者択一漫画なのである。
そして双子の2人は自分のライバルが、己の兄弟であることすら理解していない。

自分が袋小路に入っていることも気づかない ぽんこ たちの、
一つ屋根の下で暮らす者たちが3人(?)6役をこなすギャグコメディが今、始まる…。


書の美点はたくさんある。
何といっても こんがらがりそうな話を見事に まとめている点。
話の交通整理がしっかり出来ているから、ただただ心から楽しめる。

そして『兄友』の途中から抜群のギャグセンスを見せた作者が、
今回は最初からギャグに振り切って始まるから、抱腹絶倒すること間違いなし。

また、本書で作者の絵の上手さを再発見した。
本書には多くの動物が出てくるが、上手い具合にリアルと漫画が融合している。
特にたぬきの立体感が好き。
マスコット的なペラペラな感じではなく、モッフモフの動物感がちゃんとある。
ただただ楽しい物語の裏に画力の幅を確かに感じた。


始3ページで、排便する姿を見せるヒロインは少女漫画では前代未聞だろう。
もちろん ぽんこ の姿であるが、
2話目の冒頭には双子に見つめられながら力む という場面まである…。

この時、ぽんこ は「排便シーン見ないで⁉」と一応の抵抗を見せるが それほど強い抵抗ではない。
野性の強い ぽんこ は、やはり通常の人間とは だいぶ異なる反応といえる。
この「野性」というのが ぽんこ の基本的な行動理念となっていて、
根本的に思考回路が違うことが、物語の おかしみ を増幅させていく。

さすがにカラーページに排便シーンを載せることは作者でも出来なかった様子(笑)

人間とのズレ、そして行動が間抜けであることが ぽんこ の天然さとなっていっく。
これは通常の人間姿では あざとく見えるところだが、
たぬき だから仕方がない、と素直に愛でることが出来る。

ぽんこ はその身のピンチを真によって救われ、彼らの家に保護されるのだが、
その間抜けっぷりから喋れることが二ノ宮兄弟に秒でバレてしまう。

たぬ沢として接する学校とは真逆で真は優しいが、一は ぽんこ に冷淡。
彼の反対により家から追い出されそうになるが、
自分の情報(たぬ沢)を自分(ぽんこ)が一にリークすることで、寝床を確保する。

また、学校では冷たい真と ぽんこ として会話をすることで、彼がたぬ沢を嫌う理由を知る。
そして たぬ沢の男漁りの手法が間違えていることを理解する。


子の二ノ宮(にのみや)兄弟にも立場の違いがある。

一は長男で跡取りだが それを疎(うと)んじている。
絶対に その地位は巡ってこない真は、
それが「誰からも必要とされていない」という真の自己肯定感の低さになっていた。

真が ぽんこ の婚活のために出席することになったパーティーでも、
一だけが、彼と二ノ宮家の家柄に取り入ろうとする輩に囲まれて、真は蚊帳の外となる。
ぽんこ は人疲れをしている一を助けようと一役買うが、それが真の疎外感を強めてしまう

ちなみに ぽんこ は、このパーティーでは、
二ノ宮兄弟以外の人にだけ「化け」の力を使い、二ノ宮兄弟には「ぽんこ」の姿のまま見えるという化け方をしている。
ぽんこ が化けられる人間の種類は1つなのか、たぬ沢にしかなれない様子。
これは、ぽんこが複数の人間に化けたら読者の頭が混乱するのを防ぐ意味もあるのだろう。

少女漫画の作法に則り、ヒロインのピンチもちゃんとあり、それを二ノ宮兄弟が助ける。
パーティーで たぬき汁を勧める紳士の手から二ノ宮兄弟が守ってくれたのだ。
これで二ノ宮家の双子はどちらも ぽんこ にとってヒーローになりました。

その帰り道、ぽんこ は紳士から貰った狸の置物を真に渡す。
これは彼女が真のことを気をかけてくれた証拠の品となる。
そして一が真のことに関して 珍しくすねる事象となった。

「お前の面倒は一生俺が見るからな…」
これは もうプロポーズである。
婚活終了。

が、真には まだまだ学校内で嫌われているから人間の恋愛や結婚はまだまだ遠いというオチで読切の1話は終わる。
この読切のラストが真エンドで、最初に ぽんこ を助けるヒーローになったのは真だし、
本編のラストも それに準ずるのが道理であろう。
なーんて、そう思っていた時期が私にもありました…。


2話目(この回も読切)では新キャラが登場する。

ぽんこ から たぬ沢のプリクラを融通してもらった一が婚活アドバイザーの役目を果たし、
その計画に組み込まれたのが根須(ねず)という双子と同年齢の男性だった。

一が発案した、根須のスーツに濃い色の飲み物をこぼして、そのシミ抜きをするという計画には舌を巻く。
こういうトリックを利用したミステリも出来そうな気がする。

後日セッティングした根須とのデートも、一がインカムでアシストするのだが、
ぽんこ の結婚を望まない真も参戦し、事態は混沌とする。
混沌とは すなわちカオスで、収拾がつかない。
この回は大いに笑わせてもらった。

現場の混乱により、アシストがない ぽんこ は欲望のままに食事を口にするが、
それが根須の好み「少女漫画の主人公みたいな飾らないタイプ」のど真ん中となる。

そんな根須は古い家柄だが ただの農家であることにコンプレックスを持っていた。
だが「無駄に広い土地と食いモン」は ぽんこが心底望むものである。
こうして根須との結婚が視野に入るが…。

オチも秀逸。
ちゃんと冒頭の伏線を回収している。
そして ぽんこ から願い下げる男性がいることに驚きである。

2話続けて ぽんこが その人が隠し持つ悩みを解決する内容になっている。
これからも新キャラの悩みを 間抜けなたぬき の ぽんこ が聖女として解決するシリーズになるのかな?


く3話からが連載の始まりとなる。

本格連載となって初めてで二ノ宮兄弟(特に一)に、
「月に一度ああして調子を崩して気性が荒くなる期間がある」設定が加えられる。

3話目も新キャラ登場。
二ノ宮家の専属使用人・日下部 公太郎(くさかべ こうたろう)が登場。
トラックに撥ねられて怪我をしていた その隙に たぬきが一匹 家に紛れ込んで彼は激怒する。

ちなみに彼が喋る狸である ぽんこ を見ても騒動にならないのは、
ページの関係で そのような場面が割愛されたのと、この巻の後半に登場する とある設定からだと推察される。

ぽんこ を追い出そうとする日下部だが、真の彼への容赦ない解雇宣言で妥協案が出され、
ぽんこ は従者としての居住が認められる可能性が示され、その教育が始まる。

この条件を呑ませるために双子に対し日下部は彼らの父親の名を出している。
彼らの父親は彼らの牙をも抜いてしまうような存在なのか。

今回、この第三者の介入と、勉強を通して ぽんこと一の距離が縮まることになる。
一のスマートな ぽんこ の助け方に真は凹むが、
ぽんこ は真が言っていたことを実践するために努力を続けたとも言える。
どちらも ぽんこ にとっては等しくヒーローなのだ。
双子たちは ぽんこ との生活を自分の苦労よりも優先してくれるようになったと言える。

こうして ぽんこ と二ノ宮家(?)の雇用契約が結ばれ、
ぽんこは居候ではなく、自分の力で この場にいることを許された。
この雇用契約は連載の契約でもあるのかなと思った。
「今後の成長の如何によっては容赦なく解雇しますからね!」
という日下部の台詞は、まんま編集部からの耳の痛い お言葉かもしれない。


4話目は、2回目の読切で初登場した根須が学校に転校してくる。
こうして「化獣」が一堂に会する賑やかな学園生活の始まり、となるのかな。

まず根須は「ぽんこ」=たぬ沢ということを既に知っているので口封じが必要である。
この辺は、幸運な連載化にあたっての誤算だったりするのだろうか。

面白いのは、根須は人間社会に馴染んだ化獣だが、ぽんこ は野性が勝っている点。
同じ化獣でも、育ちが違うと思考の仕方も少し違うという点がしっかり考慮されている。
その意味では、ぽんこ は人間社会の しがらみ から最も遠い存在と言え、
その純粋さが、少女漫画ヒロイン特有のピュアさ へと変換され、事態を解決する力を持つ。

この話では双子が2人だけで暮らしている理由が説明される。
名家の跡取りの煩わしさから家から距離を置きたい一は、お目付け役として真を置くことで家を出られたという。

そこで二ノ宮家に秘密があること、そして双子は「人間離れ」しているが示唆される。
特に化獣である根須よりも体力的に優れていることで、彼らが何者であるかは簡単に類推される。

そして 本書には もう一つ簡単に見分けがつく方法がある。
それは各人の顔立ちである。
モブの顔と、主要キャラの顔は完全に違うが、その違いは ほぼ あの違いとなる。


に たぬ沢の婚活のやり方を注意されたこともあり、ぽんこ=たぬ沢の学園生活も変わる。

「月一」の体調不良で一が早退し、婚活を邪魔する者がいないにもかかわらず、
他の人の誘いに目もくれず、一のもとに一目散に帰ろうとする たぬ沢=ぽんこ。
そんな中でもケガは死の可能性である野性が爆発し、生徒の怪我を見過ごせず、その人を介抱する。
この変化が真の目に留まり、真の たぬ沢嫌いも少しずつ和らぎ始めていく。

また一を看病することで、一が たぬ沢に心酔する理由が語られる。
これは真の方が本性=ぽんこへの愛は強いが、
一は真と ぽんこ の出会いよりも先に たぬ沢に出会っているという順番的な優位性があるのかな。

こうして どちらも ぽんこ or たぬ沢への態度が軟化している。
どの部分でも一進一退で、
ぽんこ自身の二ノ宮兄弟への警戒心も確実に薄れていっている。

1話目のシーン。この時点での「謎に怖い」は動物的本能の恐怖ではなく 嫌悪だけだろうか。

が、二ノ宮家は狼の血を引く「化獣」の一族であることが最後に明かされる。
ここでは ぽんこ が「捕食対象」である。
この食物連鎖の中で最弱は今のところ根須か。
あんなに愛らしい ぽんこ が食うに困ったら根須を捕食すると思おうと、なかなか怖いものがある。
それが自然界の掟なんだろうけど。

今回、ぽんこ は一の本能を発動させずに無事に収束させていった。
これは ぽんこ の能力か。
いかにも少女漫画ヒロインらしい聖女の力とも言える。

双子の兄弟それぞれ、または双子間で抱えるトラウマ的な悩みも解決に導いてるし、
最終的には ぽんこ が学校から二ノ宮家の中枢に潜入するのだろうか。
なーんて、そう思っていた時期が私にもありました…。