那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第12巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
交際当初からの「半年限定」の期限が迫る中、色葉との思い出作りに奮闘するつっつん。しかし色葉は手術を控えている身である事実をつっつんに告げて、ある日姿を消してしまって…?7年後、大人になったつっつんが出会ったのは!? 少女漫画界最弱ヒーロー男子の純情ラブ、感動の最終巻!新装版で登場!
簡潔完結感想文
- 抜け殻だった つっつん に喝を入れたのは、彼が一番長く一緒にいる女性。
- 7年後。荒れた学校と違って、エリート男性は成績で女性の見る目が変わる。
- 1年後。忘れることなく同じ過去を共有して、今度は無期限の未来を生きていく。
良い部分と同じだけ残念に思う部分があって評価しづらい 最終12巻。
感動の物語なんだろうけど、ドラマティックにした分、全体的に演出が安っぽく感じられた。
作者が考えた設定に持っていくために、細かい部分が端折られ過ぎてはいないか。
作品に背景や奥行きが感じられず、最終巻が最も平面的に映って、3Dになっていないのが残念だ。
特に色葉(いろは)の病気に関しては、完全に利用しているだけに思える。
青木琴美さん『僕の初恋をキミに捧ぐ』や みきもと凜さん『きょうのキラ君』みたいに、
闘病モノとはジャンルが違うから、描き方も違うのだろうけど、
この病気を、記憶喪失の装置ぐらいにしか考えていない節があるような気がして物語に没入できなかった。
そもそもが最初から色葉が記憶を失くす前提で動いているし、
彼女が記憶の回復手段を自分で用意していないのも気になる。
パーソナルな情報を未来の自分に託すために色々準備できるだけの半年間だっただろうに。
「リセット」を前提にして、それまでの自分を捨てている感じがする。
そして つっつん にも「リセット」を強要しているのが気になる。
それなら尚更、自分の方が忘れない/思い出す努力をするべきではないか。
医者に無理を言ってまで猶予を貰った半年、
その中で本当に人を愛したというのなら、自分の未来のための その記録を用意して時間を有効活用していて欲しかった。
つっつんが色葉との「したい事リスト」を作ったように、
色葉も「覚えておきたい事リスト」を作成していたら俄然 感動したと思うんだけどなぁ。
本書には、ちょこちょこ色葉側が卑怯(?)に思える描写があって気になる。
また、色葉に与えた家族設定も ただ一点のためだけに存在していて落胆した。
それが色葉の義弟・千夏(ちか)の時限爆弾式の当て馬の発動である。
これまで千夏はシスコン的な感情から義姉に相応しくないという一点で、
主人公・つっつん との交際を邪魔してきたが、最終巻に彼は当て馬に変身した。
この後発的な当て馬という役割自体は面白いが、
千夏を、色葉の人生の伴走者になりつつ、最後には彼らは恋愛も可能とするために、
わざわざ血が繋がっていない設定にして、色葉を謎の家族構成の中で生活させていたのだ。
千夏がいることで色葉は つっつん以外の男性に気持ちが揺れることが可能になるのは分かるが、
ドラマのためなら 健康も家族もすべて奪ってやる、という作者の都合しか感じられない。
そして7年間、いや それ以上に姉への秘めた想いを持っていた千夏に対するフォローが何もない。
せめてラストシーンで心情を吐露させるとかすればいいのに、それもなく敗者の弁すら用意されない。
あれっ、もしかして色葉の手術後に色葉の家族ごとアメリカに行ったのは、
色葉と千夏は2人きりじゃない、男女の仲にはなり得ない、というエクスキューズのためか?
その抑止力として働くためだけに、義理の両親は、日本の家を不自然な時期まで持っていたり、
アメリカに行ったり帰ったり、引越しを余儀なくされたのか。
痒い所に手が届かない構成も、痒い所を無視する展開も全てにおいて隔靴掻痒の感がある。
最終巻は大事な場面が続くのに、何かと構想の練りが足りなく思える。
色葉が目の前からいなくなって つっつん は抜け殻になった。
受験生であることも忘却し、ただ生きる屍と成り果てる。
彼らの別れに転校以上のものがあることを察した伊東は、つっつんと膝を突き合わせる。
そうして、色葉に関する情報が伊東から友人たちに伝えられ、彼らは つっつん の苦悩を知る。
つっつん を再起させたのは、彼の母親。
さすが つっつん のことを一番長く見ている女性である。
でも母が色葉の事情を把握しているような台詞を紡ぐのはなぜなんだろう。
つっつん から話したのだろうか。
作者の脳内設定だけが先走っていて、根拠が薄弱である。
明確に破綻している訳ではないが、各人の思考を追うと疑問に思う部分が多い。
そして受験本番を挿んで、合否発表の日を迎える。
つっつん のT大合否発表には 伊東(いとう)・石野(いしの)・高梨(たかなし)が駆けつける。
だが、つっつんは最難関の大学に合格しても、決して満たされることはない。
(つっつんが賢いのはいいが、彼らの母校がT大合格者が出るような学校には見えなかったけどなぁ…)
そんな つっつん に友人たちは色葉を忘れないで生きることを提案する。
自分を忘れて欲しいという色葉の願いは叶わないが、そうしないと前に進めない。
この友人たちは つっつん自身が得た大事なもの。
それを彼は思い出す。
その頃、色葉は手術が成功し存命だと判明する。
しかし自分に関する記憶すら ない模様。
彼女の方は この半年間を忘れてしまっているらしい。
それにしても この場面の色葉に髪があって いいのだろうか…。
手術したんだよね、頭の??
なんだかなー。
そして時は流れる。
大学を出て総合商社に入った25歳になった筒井(つつい・つっつん の名字)の姿が描かれる。
彼はエリート社員として周囲の女性から羨望の的になっていた。
肩書と小綺麗な格好をしていれば、女性たちの目は変わるみたいだ。
どうやら筒井は女性と深く交際しようとしないらしく…。
そして色葉は約7年、日本を離れていた。
義理の両親ともどもアメリカに居て、ロスの大学に通っていたらしい。
なぜロスなのかの説明は一切ない。
多分、作者が格好いいと思う設定でしかないだろう。
T大・総合商社、ロスの大学、と少女漫画読者の憧れを詰め込んだ感がある。
「一流企業」「そこそこいい会社(高梨)」など、会社に対しても価値を付与する。
久し振りの帰国で、通っていた あの高校を訪れ記憶を取り戻そうとする色葉。
そんな彼女の前に現れたのは、つっつん ではなく、元同級生のモブ女性。
その女性は約8年前の高校時代に彼氏を盗られたことへの意趣返しとして、
色葉に嫌味を言うためだけに声を掛けた。
これによって色葉は、自分が忘れた過去の、自分の嫌な部分を認識することになる。
が、8年前の嫌味を言っても自分が惨めになるだけではないか。
不自然な言動だし、荒れた あの学校のノリを この未来に持ち出さないでほしかった。
その ちょっとした出来事だけで「記憶 戻らなくていい …正直 怖い」という色葉に、
千夏は、ここで再び自分たちの間に血が繋がっていない話を持ち出し、そして義姉に告白する。
一方、筒井も同僚から明確なアプローチをされていて、かつてのカップルは それぞれ岐路に立っていた。
上述の通り、千夏は7年経過しても色葉の隣に居ても不自然ではない人として用意された存在。
彼が この時に初めて行動を起こしたのは、
長期間、姉の記憶のリハビリに付き合ったけれど、これ以上は姉の幸せにならないと判断したからか。
この千夏の7年の沈黙は、つっつん に対する義理や優しさと考えるべきか。
ただ、物語的には千夏、空気読めとしか思えないタイミング。
筒井が「ずっと忘れられない人がいるんだ」と同僚の好意を断っているだけに、
色葉から記憶を取り上げて、傍にいる男に寄り掛からせるような手法が残念である。
帰国による引越しの片づけをする色葉は、自分の荷物から高校時代の制服と鞄を見つける。
その鞄にはつっつんと行った鎌倉旅行で買った大仏キーホルダーが付いていた。
そのことで何かを思い出しそうになる色葉。
だが彼女は思い出せないことに疲れていた。
だからロスに戻って、千夏とずっと暮らすことを選択肢に入れる。
そこで語られる5年前の帰国のこと。
自室を見ても何も思い出せなくて不安でいっぱいになる色葉。
(この時点では自宅はそのまま(現在は別の人が住んでいる)、両親は いつアメリカに渡ったのだろう。謎だ)
千夏は自分から つっつん のことを語ってはいないようだが、
この5年前の帰国時には つっつん の通うT大のキャンパスに色葉を連れて行っていた。
だが、つっつんは歩きながら読書に夢中で、色葉は彼の姿を見ても何も思い出さない。
会えば全てを思い出すはず、という希望は既に打ち砕かれていて、読者の不安が募る。
それにしても全てがメロドラマっぽい。
本を読んでいて相手に気づかない演出って古すぎないかい?
だが それから5年後の現在でも、筒井と色葉と結ぶ架け橋になるのは千夏だった。
彼は色葉を筒井の前に連れてきた。
ここで筒井は7年ぶりに色葉に再会し、初めて彼女の生存を知り、そして記憶がないことを知る。
だが、ロスに帰るという色葉が筒井に名前を尋ねるが 筒井は応えない。
この時点では筒井は色葉を千夏に託そうとした節がある。
そうして2人に背を向ける筒井。
だが色葉が彼の鞄に大仏のキーホルダーがついていることを見つける。
そのことで色葉は彼を直感的に特別な人と感じたようで、
そんな色葉の様子を見て初めて、つっつん は色葉の名を初めて呼ぶ。
これは本書を通じても、初めて つっつん が色葉の名前を発した瞬間でもあった。
そして つっつんは、色葉に あなたはずっと大好きだった人で、一度も忘れたことなんかないことを告げる。
つっつんが色葉の名前を呼び、忘れずに、自分のために涙を流したことが記憶のトリガーとなる。
そして色葉も 彼の名前を呼ぶ…。
よくよく読めば、つっつん の涙こそ色葉が記憶を取り戻すトリガーなのは分かるが、
どうしても その前の大仏のキーホルダーがトリガーのように見えてしまうのが惜しい。
大仏のキーホルダーは持ち運びが出来て、外で会った つっつんが持てる唯一の物だということは分かるが、
これを揃いで購入したエピソードは直近すぎるし、読者に それほど思い入れがないから感動が薄まる。
ここは『1巻』で つっつん がくれた手作りフィギュアが色葉の記憶のトリガーになって、
つっつん に差し出すというベタだけど、分かりやすい展開が欲しかったところ。
最終巻で『1巻』に戻るというのは、分かっていても結構グッとくるんですよね。
こういう所が雑というか、下手というか、力量不足を感じてしまう。
もっともっと良くなる選択肢があると思ってしまう。
ハッキリ言って、この最後の展開を描くためにあるような色葉の設定なんだから、
もっと練って、もっと丁寧にエピソードを用意して欲しかった。
色葉の記憶の回復も、ぬるっとしているのが気になる。
この手の回復の仕方としてはリアルなのかもしれないが、
ここまで病気を利用したんなら、ここはフィクションでもいいじゃないかと思う。
読者の多くは一気に視界が開けるようなカタルシスを期待していただろうが、
それを悪い意味で裏切るような展開で、感動が逃げて行ってしまった。
最終巻は時間移動が激しい。
つっつん と色葉の再会から数か月(2,3か月ぐらい?)が過ぎ、石野と高梨の結婚式の場面となる。
色葉は招待されていないが、つっつんが呼び寄せていた。
ここで高校時代の仲間との再会が果たされる。
この時点で、彼女の記憶は半分ぐらい戻ったという。
しかし色葉はロスに戻るつもりで準備を進めていた。
それを つっつんが引き留める。
もう一度、いや改めて、今の色葉に対して懸命に想いを伝える。
こうして2人は改めて交際を始める。
離れること前提ではなく、離れないことを誓って。
ここは良い場面ですね。
これまで未来のなかった2人が、初めて未来を語る。
そして それは必然的にプロポーズとなる。
そして そこから約1年後。
とある結婚式のために再度集まる同じ高校で同じ時を過ごした者たち。
そこには綾戸(あやど)の姿もあった。
綾戸さんは、伊東と両想いになって以降、グループに参加してませんでしたね。
この頃から先輩方が受験生モードになって、下級生の彼女とは空気や過ごし方が違ってしまったのだろう。
既婚者で会ったはずの彼女がバツイチになって、伊東との復縁が予感されるのは、
高校時代と同じルートを辿っていると言える。
かつて綾戸さんは まず つっつんを好きになって その想いが叶わず伊東と恋仲になった。
これは結婚においても同じで、別の人と一緒になってみたが、
それが破綻したからこそ、これからの伊東との復縁が見込めるのだろう。
こういうルートしか辿れない2人なのだろう。
伊東の方は綾戸と接触する気があるみたいだし、
少女漫画らしい内輪カップル続出に ちょっとだけ大人のビターテイストを入れたのだろう。
ラストでは、つっつん の弟・薫(かおる)がすっごい大きくなっていてビックリ。
やっぱり兄に似ているような、でも似ないように一生懸命 努力しているような絶妙な雰囲気です。
逆に つっつん も高校時代に髪を上げていれば、イケメンだったのではと思われる。
まぁ そんな「野獣」状態の つっつん を色葉が見い出す物語なんだけど…。
薫と高梨の妹・あんずちゃん との仲は不明のまま。
高梨の結婚式の場面でも、あんずちゃん は見受けられなかったし。
上述の通り、千夏にも台詞が欲しかった。
千夏は分かり切っていたとはいえ、どう諦めたのだろうか。
当て馬というか噛ませ犬のような役割で可哀想だ。