《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

約3巻ぶりに話の主導権が主役に戻り、逃げ回り続けた現実に焦点が当てられ始める。

3D彼女 リアルガール 新装版(10) (デザートコミックス)
那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第10巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

色葉から連休に旅行に行きたいと言われたつっつん。初めてのお泊まりに妄想もふくらみ、とうとう色葉と…!?と怖気づく彼だったけど、千夏の邪魔が入り「健全旅行」宣言をさせられる。それでもぐいぐいな色葉にドキドキなつっつんだけど、彼女の本当の気持ちを知って…?俺、旅行で男になります!……たぶん。一方、石野さんとミツヤの恋も急展開!?少女漫画界最弱男子の恋、最高潮の第10巻!新装版で登場!

簡潔完結感想文

  • お泊り回。自分の誓いを守るために、何かと中止に追い込もうとする男。
  • 友人たちの恋の終着駅。横に広げた話が畳まれ始める。最終章 突入?
  • 何事も最初は逃避する性格の つっつんが最後まで逃げ回っている現実。

線と伏線が回収されて、一本道となっていく 10巻。

この2巻分、「友人の恋」の話が続き、横に広げた話が段々と まとまり始める。
序盤に登場した男女6人が めでたく3組のカップルになるという、少女漫画に典型的な狭い範囲の交際である。

こうして作品の巻数と、作品内の時間の経過を確保して、
いよいよ放置に放置を重ねていた、つっつん と色葉(いろは)の期間限定の交際の終わりが始まる。

序盤から色々と含みを持たせた描写があったものの、
主人公・つっつん がオタクという点以外は、ずっと普通の男女交際の描写が続いていた。
かなり早い段階で恋愛が高止まりしてしまったせいで ずっと変化の無かった2人だが、
周辺の問題が片付いたことで、最終章の扉が開いたようだ。

この序盤の布石の不自然なまでの無視は、つっつん自身の逃避癖と説明が出来よう。
いつも頭の片隅にはあったが、考えないことで、いつも通りの自分、そして2人でいられることに専念したと言える。

だが、いよいよ終わりが見え始め、
どのように その時を迎えるのかを考える必要が出てきた。
しかも そんな時に色葉から提案されたのが お泊り旅行で、
つっつん はいよいよ自分の身の振り方を決めなけらばならない。

そして これからの選択は、その全てが別れを見据えた行動なのが切ない。
まぁ、今まで無視してきた問題なので、降って湧いたような話になってしまっているのが玉に瑕ですが。

また、無視しているといえば、
受験とか進路とか高校3年生の彼らには もっと見据えなければならない未来、
そして その実現のために努力する必要があると思うが、そういうことは まだ脇に置いておくらしい。

物語が恋愛特化なのは分かるが、棚に上げる問題が多すぎて、
彼らの行動から「リアル」を奪っているような気がしてならない。
最後の最後で色々 詰め込んでも、ご都合主義にしか見えなかった。
もっとバランス良く、現実的な悩みを配置できたのではないかと思ってしまう。


述の通り、逃避癖のある つっつん。
旅行の件もPTAのような不純異性交遊への取り締まりを自分ですることで中止したいという気持ちが強い。

いわゆる お泊り回ですね。
本当に中盤は ごく普通の少女漫画の推移を見せる。

つっつん は禁止されることを願って、双方の親の許可を得るのだが、
そんなことより高校3年生で、塾に行く様子もなく、さして勉強するシーンもない息子を、
つっつん母は どう思っているんだろう。
以前も書いたが、高校3年生設定の必要性を感じない。


色葉が許可を得るにあたって彼女の義母が初登場する。
愛情深い人らしく、色葉が家庭で愛情が不足していた訳ではなさそう。
読み取れるのは それぐらいで、彼女が この家で育った理由などは一切ない(最後まで)。

義弟の千夏(ちか)と色葉は「血 つながってないじゃん」と言い切るぐらいだから、
イトコ同士なんて近親の関係じゃないだろうけど、
同じ顔しか描けない画力の関係で色葉と血縁があるように見えてしまうのが難。

この画力と作風は読者の作品に対する印象に似ている気がする。
最初は絵が綺麗で、スッキリした構図が読者に好感を持たれるのだけれど、
長編化して、新キャラが続々と出てくると、
作者が同じ体型に同じ顔しか描けないことが分かり、見分けるのに骨を折ることになる。

作風も一風変わった設定を持ち出したものの、最初の設定を無視して進むから、
そこに面白さを感じた読者の期待に応えない上に、
作品からも特徴が無くなっていき、平凡さばかりが目立ち始める。


当、色葉の家庭の事情は どういう理由で組み込んだのだろうか。

もしかして超長編化した時の布石として置いておいて、
ヒロインの家庭のトラウマを つっつんが解消するために用意したものだったりするのだろうか。
ついでに義弟の千夏は血が繋がらないから、ラスボスとして立ちはだかったのか。

布石だけ置いておいて、全部は使わないまま放置するからカタルシスが半減する。

そして色葉が つっつん に家庭の事情を話さないのも気になる。
高梨(たかなし)の妹は大好きな つっつん弟に家庭の事情を話しているというのに。

弱さを さらけ出している つっつん に比べて、
色葉は隠し事をしながら、彼への愛を語っている非対称性が気になるなぁ。

年齢・性別問わず全部 同じ顔に見える。色葉の家庭事情を複雑にした意味は あったのかなぁ…?

んな義弟の千夏が、旅行の阻止をするために つっつん に絡む。
だが千夏も、そして高梨も つっつんの芯を壊すことは出来ない。
目論見が外れて、プライドを壊されるのはいつも喧嘩を売った方になる。
暴力以外では つっつん は無敵と言えよう。

そして男同士の会話で、つっつんがタイムリミットを気にしていることが初めて語られる。
逃避癖のある つっつんだが、今回は自分の都合よりも、色葉の願望を叶えたいという気持ちが強いから動く。
動機は極めて単純なのだ。
単純で純粋だからこそ、誰にも立ち入ることは出来ない。

一度は逃げるが、再挑戦した時に強くなっているのが つっつんである。

そういえば この場面、つっつんが眼鏡を外すのは、
殴られて眼鏡が破損するのを防ぐ他に、
眼鏡のない状態が素の状態で、そこで語られるのが本音なのかな。
いつもは本来 物をよく見るための道具である眼鏡をすることで悩みを見ないことにしているのかもしれない。

「転校」以上の秘密を察知している。だが それを言えない軟弱さと言わない優しさが彼にはある。

しい旅行の一日目の終わりにも、交際の終わりを念頭に置いた会話がなされる。

この場面、色葉が つっつんの涙に気づかなきゃ意味はないのは分かるが、
あの体勢で涙が その方向に流れることはないだろう。
物理法則を破るような描写を、心の狭い現実的な私は許容できない。
色々と細かいところが惜しいし、気になる作品。

オチは、少女漫画にありがちなもの。
つっつん の体調が万全ではないことは先に描かれていたし、電池が切れてしまったのだろう。

ってか つっつんが完全に他の少女漫画のヒロインの役割を果たしているのが笑えます。
こういうのは より緊張している方が先に眠ってしまうものです。

でも、覚悟も準備(の品)も整えたのだから、今後は いつでも再挑戦できる。
一度は失敗しても、それを糧に出来るのが色葉との交際後の つっつん の成長である。


でたくカップルになった石野(いしの)さんと高梨。
今回も自分の思い通りにならない事態に対し、つっつん に問答無用に暴力を振るうような男が良い男な訳ないので、
本当に めでたいのかはさておき、石野さんの願いが叶ったのは良かった。
(今回、高梨が つっつん に、ちゃんと「おまえとは友達じゃ」ない と言ってくれて むしろ安心したけど。)

そして、この恋愛成就、
高梨に燃えがるような恋情が生まれた、というよりも、
様々な条件が重なって、彼の天邪鬼精神が爆発しただけにも思える。

まず、高梨の友人が石野さんを狙っていることが、彼女を惜しくなった。
そして母が倒れて家族を再び失うかもしれない不安の中、
父親の逐電の時とは違う、今度は離れないで自分の隣にいる人を選んだだけのような気もする。

その点、お節介で ずっと隣にいてくれる石野さんは完璧な存在と言えるけど。
これで仲間内の男女6人全員が くっついたことになる。
本当に、どこまでも平凡な少女漫画的展開を見せますね…。


伊東(いとう)と綾戸(あやど)さんに関しても一つの到達点に至る。
綾戸さんの昨今の発情っぷりを見ていると、
本当に両親が急遽 出掛けることになったのか怪しんでしまいますが。
彼女は目的のためなら、そのぐらいの嘘をつけるのではないか。