《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いつも そうだ。理不尽な暴力には屈しても、君は決して逆境には負けなかったよね。

3D彼女 リアルガール 新装版(11) (デザートコミックス)
那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第11巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

連休中の旅行は男になれずに未遂(?)に終わったけど、絆を深め合ったつっつんと色葉。でも交際当初からの「半年限定」の期間が迫ってきて…。色葉のしたいことを全部叶えてあげたいと思うつっつんが思いついたのは…?そしてついに明かされる色葉の真実とは!?少女漫画界最弱男子の純情ラブ、クライマックス直前の第11巻。新装版で登場!

簡潔完結感想文

  • 秋の日は釣瓶落とし。冬服に着替えたかと思ったら時間の流れが急速になる。
  • 今更 進路 そして色葉の問題を取り上げる。もうちょっと描写を忍ばせれば?
  • 何てことはない。半年前の自分に戻っただけ。これが俺のデフォルトだった…。

品が逃げ続けていた話題に触れる 11巻。

急速に事態は変化していく。
こういう物語は、弓を射る時のように、
静かに構えて、静止して、その後に勢いよく放つものなのだろう。
これまで避けていた割に、あっという間の種明かしに唖然とするぐらいだった。

半年間という期間限定の交際の割に、
具体的な月日が記されてこなかった本書ですが、
今回は10月そして11月と光陰矢の如く時は流れ、月日が明記される。

そして最後に訪れるカタストロフィ。
つっつん 立ち直れるかな。

でもきっと、これまで様々な事態に対処してきた彼の中には強さが宿っているはず。
予想外の事態に一度は逃げてしまっても、再挑戦し続けた彼だもの。
そして本書の中で、本当の意味で つっつんを屈服させたものはない。

最終巻では きっと新しい未来を生きていることを私は信じている。


ップル3組3様に色々あった連休が終わる。

そして10月に突入し、制服が冬服になったことで事態も切り替わる。
本書の中で無視し続けていた話題が出される。

1つが進路。
高校3年生だというのに進路も勉強の悩みも何も描いてこなかった恋愛漫画
まぁ 恋人・色葉(いろは)とは共通の話題に絶対に出せないので仕方がないけど。
仲間内で進路の話になった際、
つっつんが色葉に話題が振られるのを阻止しているところに優しさを感じる。

全員が納まる場所に納まったので、進路の話解禁。高校3年生の10月ですけどね…。

一度、受験生だということを思い出した本書は勉強漬けの毎日となる。
高梨(たかなし)も学費のかからない公立校に入るために、賢い つっつん に教えを乞う。
背に腹は代えられないとはいえ、高梨が「友達でもない」と定義する つっつん に物を頼むかは疑問。
高梨の立ち位置は最初から最後まで不満です。

つっつん の親も息子を信頼しているから口を出さない。
いやいや、高校3年生の10月になって進路に悩む息子は相当だと思うけど。
受験まで約4か月、大学入学共通テストなんて3ヶ月ちょい しかない。
そして この治安の悪い学校の生徒たちの頭は それほど良くないように思われるが…。


囲が受験生の話題と自覚を持っても、
つっつん は後悔しないように、勉強よりも色葉との時間を優先する。

彼の中では「今まで勉強はコツコツやってきたし大学は受かる」との認識。

確かに『1巻』の中では そんな設定や台詞があったけど、
そこから5か月間 勉強している様子はなかったから、甘い認識にしか思えない。

毎日のように「気晴らし」と称して自分と過ごす つっつん を心配する色葉に対しても、
「おまえと つきあう前 俺は鬼のように勉強ばっかしてた」というが、
その前は鬼のようにアニメやゲームをやっているシーンしかなかったような…。

こういう展開にするなら、交際後も つっつん は定期的に勉強しているシーンをサブリミナル的に挿むとか、
定期テストや実力テストなどで つっつんが賢いことを証明すればいいのに。
少女漫画らしく学年1位の設定でも出せば良いじゃないか。

全体を通して設定が軽すぎるのが気になる。
もうちょっと現実的な重みを出すべきだった。


して冬服でシフトしたことの もう1つは、やはり隠していた色葉の病気のこと。
最初に この話題が登場して以降、徹底的に無視していたことに再度 焦点が当たる。
この半年、色葉は定期的に診察を受けていたのだろうか。

ここも つっつん には内緒で先に帰る日がある、とか、
毎月 この日に学校を休んでいるとか、
匂わせる描写を入れても良かったのではないか。
こういう真相なのに、あまりにも健康的に過ごしているから、真相を受け入れづらい。


っつん は何かを予感して、これまで以上に色葉と同じ時を過ごす。

だが彼の成績は下がっていた。
教師や伊東(いとう)、周囲の者は心配するが、誰も つっつん の苦悩を知る由もない。
交際が半年間限定なのも知らなければ、それが何を意味するかも誰も知らされていない。
つっつん は独りで悩み、独りで戦っていた。

11月の海に2人で行った際、
色葉は彼の鞄から「五十嵐色葉とその日までにしてみたい事」リストを見つける。
そのリストを見つけたことを色葉は黙っていた。
黙って自分がどれほど彼に大切にされているかを全身で噛みしめていた…。

その日、2人は家に帰らない。

2人は今回も年齢を誤魔化さないから、宿泊を立て続けに断られる。
だが1件の民宿で素泊まりが許可される(年齢は聞かないふりをしてくれただけ)。

こういう時の つっつん のルールが分かりません。
自分が正直に申し出ていれば、他人が知らんぷりすることはセーフなのでしょうか。
そういえば旅行回の時(『10巻』)も、
母親が印鑑の場所を教えるだけで、書類自体は偽造することを良しとしてたなぁ。

色葉は つっつんが自分のために粉骨砕身していることを知る。そこにあるのは確かな愛。

の夜、つっつん が宿泊部屋で一人でいる時、
彼は自作のリストに、色葉の文字が書き加えられていることに気づく。

これが前回の旅行では踏み出せなかった一歩の背中を押すことになる。
自分の都合で逃げ、そして惨憺たる(?)結果になった前回とは違い、
彼女の願いを叶えるために、そして自然な男女の成り行きとして2人は一夜を共にする。

この時、つっつん が眼鏡を外すのは単純に邪魔なので当然のように思えるが、
つっつん の眼鏡=理性や自制、彼の素、我慢や悩み説 を採るとすれば、
彼は頭でっかちの自分を捨てて、本能的に生きることにしたと言えるだろう。


んな朝帰りがあった後、2人は また生き方をシフトしていく。

つっつん は伊東に、色葉の転校のことなど包み隠さず話すことにした。
あと1ヶ月で2人は終わること。そして初体験のこと。
これで事後報告ではなくなる。
交際が終わっても友情にヒビは入らないだろう。

そして色葉は、つっつん との対面を避ける。
これは 自分がいなくなった後の つっつんを思ってのこと。
一日も早く離れてあげることが、彼のためだと思うから。

これを進言したのが、色葉の義弟・千夏(ちか)という点が読みどころ。
突然 絶望を与えるのではなくて、フェードアウトすることで現実を受け入れさせようという手法だろう。
これは千夏の つっつん に対する情けや優しさだろう。
つっつん を1人の人間として認めているからこそ、気にかけている。

しかし どうも色葉は自分勝手、もしくは独り善がり かなと思う部分がある。
もうちょっと色葉側の苦渋の決断という描写があってもいいのではないか。


んな色葉側の逃亡に、つっつん は熱烈アプローチを見せる。
その姿は もはやストーカーの域に達している。

以前、母に追い出されていた父が使っていた寝袋(推定)を使って、
色葉の家の前で彼女が出てくるまで待ち構える。

この手法に一番参ったのは千夏。
つっつん の情熱にほだされ、玄関の扉、色葉へ続く道を開ける。
こうして つっつん は五十嵐家の最終試験にも合格したのだろう。

色葉の「無駄に」複雑な家庭事情を説明するなら、ここだったのではないか、と思う。
朝晩 玄関先で張り込む つっつん と、色葉の義父母が出会って、
彼らが娘の(病気以外の)諸事情を話せば、変な設定を放置しなくて済んだのではないか。

色々と布石を打っている割に、その効果がないもの、布石が忘れさられているものが気になる。


葉と対話をした つっつん は、最後に2人で学校に行き、
2人の交際が始まったプールで、つっつん は色葉の真実を知る。

始まりの場所で終わる2人の交際。
いつも色葉のために出来ることを考えていた つっつん だからこそ、
色葉が彼に最後に託した願いを受け入れることなんて出来ない。

その証拠に、彼の瞳からは涙がとめどなく溢れている…。