《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

見込んだ才能が世間からの価値を維持し続けられるよう 高樹は悪に徹しすぎている

カノジョは嘘を愛しすぎてる(8) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「旬が過ぎれば、早めにポイ! これ業界の常識よ?新しい子を売り出すために、まだ力のあるうちに利用するなんて当然だろ?」そんな風に茉莉を揶揄しながらも、本心では茉莉を救いたいと思っている高樹は、秋に「茉莉に曲を書いてやってくれ」と頼む。「そしたらお前にMUSHをやるよ」と下卑た交換条件を出す高樹に、秋は…?それぞれの思惑が交錯し、純粋な想いが軋んでゆく…!!切なすぎる第8巻!!クリュード・プレイのギタリスト・薫、ドラマー哲平の番外編2本を収録!巻末には、瞬の初恋を描いた小説「恋じゃない」を特別収録!

簡潔完結感想文

  • 女性(理子)の声で自作曲を歌って欲しいと渇望する秋の願いを高樹は横取りする。
  • デビュー前のMUSH&Co.。メンヘラ女と男性の望む正解を常に出すヒロインの対比。
  • 映画化決定の情報解禁に合わせるため、ページ数減少・広告増量で刊行する商業主義。

らすじ が説明しすぎている 8巻。

↑の あらすじ は おそらく出版社の紹介文。『5巻』辺りまで会話文だけで構成されていて全く あらすじ紹介の役目を果たしていなかったけれど、今回は逆に説明しすぎ。高樹(たかぎ)が言っていない、作者も直接 描いていない高樹の心情を ここまで説明していいものか、と戸惑うぐらい。自分の露悪的な言動が こう説明されたら高樹も恥ずかしいだろう。

これまでも高樹は作中の音楽業界を自由に操る神のような存在として描かれてきた。今回は高樹の提案に秋(あき)が揺れ、秋の中に生まれた女性の声を想定して作曲した曲が どこで使われるのか、ということが描かれている。このところ1巻毎のテーマが見えるけれど、それによって話が進んでいる感覚が消失しているような気もする。理子(りこ)たちMUSH&Co.は なかなかデビューしないなぁ…。

秋の楽曲が瞬専用ではなくなった瞬間。作曲者の浮気もCRUDE PLAY崩壊の序曲!?

また今回は作品の実写映画化情報の解禁と合わせるためか雑誌掲載3回分の分量+α の内容しかない。いつもよりページ数が少なく、広告ページで水増ししている。なぜ読者が一方的に損をしなければならないのか。商業主義に呑み込まれるとはこういうことなのか。
これまでもペプシをはじめ現実の企業とのコラボがあったりした本書だけれど、実写映画化も早い段階から、もしかしたら連載開始前からプロジェクトとして動いていたかもしれない本書。連載中から これだけ大きな企画やタイアップが少女漫画で見られるのは本書が最後かもしれない。少女漫画の一つのピークと言っていいだろう。


回 改めて思ったのは理子は能力が全乗せされているなぁ、ということ。歌が上手いだけでなく、性格面でも秋や心也(しんや)の望む最高の言葉を返している。強い輝きには必ず強い闇が生まれてしまうものだから、どんどん聖女化しているのが逆に心配になる。

そして理子が良い子になっていく反面、あまり多くない女性キャラは それぞれに嫌な部分を見せていく。
その筆頭がクラスメイトの寺田(てらだ)。彼女は自分の理子への憧憬や嫉妬を気づかない振りをして、理子に直接 悪意を向けるのではなく、SNSを利用して間接的に理子が苦しめばいいと願っている。そのために利用できるものはしており、今後も大きな波乱を呼びそう。

作中で歌姫として君臨する茉莉(まり)は、理子に音楽界での新人の台頭への焦燥と恋愛面での敗者の屈辱を覚える。理子は決して茉莉に悪感情を抱くことなく、間接的に茉莉を苦しめる存在になっている。だから理子を苦しめる一つのカードを用意してもらって、逆恨みを晴らすためにマウント勝負を挑む。自分の二股は棚に上げて、男に助けてもらっている時点で茉莉は負けているのだけど。

そして秋たちの高校時代の同級生・長浜(ながはま)も『7巻』で負けん気の強さを見せていた。長浜に関しては理子を聖女化するために悪女化させられている感じがする。

こういう迷惑な人たちに巻き込まれることで理子は性格まで美しくなる。作中では高樹が何でも利用して自分のプロデュースした歌手を売れさせようとしているけれど、理子も また色々な人を利用して綺麗な存在に仕立て上げられている気がする。CRUDE PLAYを描くための添え物ヒロインだと思っていたけれど、十分に優遇されている。


樹は冷徹なプロ。MUSH&Co.の音楽番組出演をねじ込むために、現歌姫の茉莉(まり)を利用する。茉莉が生放送の音楽番組が苦手とか、前回の出演で過呼吸になったとか、そういう事情は一切 考慮しない。茉莉にまだ価値がある内に彼女の力を使う。

ただでさえ高樹と秋の間で身を切り裂かれる思いをしている茉莉は高樹の容赦のない仕事の振り分けで精神的に滅入っている。高樹は茉莉の気持ちの浮上に秋の楽曲提供を餌にしようとしていた。

高樹の提案で秋のメンタルも揺れ、彼の不機嫌がCRUDE PLAYにも影響を与える。秋の必死さは心也に伝わり、心也は緩み切ったCRUDE PLAYの雰囲気に苦言を呈す。

女性ボーカル用の曲ばかり作っている秋は幼なじみの瞬(しゅん)に対して相談し、茉莉への楽曲提供を提案。しかし秋の心がどこにあるか分かっている瞬は それを却下。今の秋が茉莉に作る曲は きっと茉莉を傷つけると瞬には分かっているのだろう。そして そういう自分の危ういメンタルと他者への無慈悲を秋は気付かない。

秋作曲のCRUDE PLAYのボツ曲を高樹が奪う。彼は秋が作った女性用の曲を どこで披露しようとしているのか。


ビューが決まってから理子たちへの周囲の生徒の反応は変わった。その中でも蒼太(そうた)に告白した寺田(てらだ)には二心があると祐一(ゆういち)は警戒する。ここから祐一が理子への好意を滲ませ、彼らの出会いが回想されるのだけれど、以前の秋と心也(しんや)の出会いほど劇的ではないし重要ではない。祐一は当て馬の小物感に加えて、大人組との対比もあり一層 小さく見える。ちなみに祐一だけが秋の正体を知らないまま。

デビューを前に解禁していない情報がSNSで流れる事態となり、メンバーはプロ意識の徹底を喚起される。一番怪しいのは理子が秋に何でも言っている現状だけど、その線は作品的にない。怪しい蒼太-寺田ラインも蒼太は賢い子なので情に流されたりしない。けれど寺田は最有力容疑者として描かれる。


也は自分の楽曲が世間の評価を受けることに神経質になっていた。だから理子が自分の曲を気に入っていないのではないかと疑心暗鬼になり わざわざ彼女に会いに行き、問い質す。しかし男性への対応で間違えないのが理子。秋に劣っているのではと心配になっている心也の心を傷つけない真っ直ぐな返答をする。

ヒロインは臆病な男性たちの心を軽くする言葉を知っている。八百屋のマリア

理子は事務所で茉莉に会い、初めて会話をする。そこで現カノの理子は元カノからマウントを浴びせられる。新人歌手は生放送で生歌を歌わせられない、自分との格差を伝えるために茉莉は蜘蛛の巣を張って待ち構えていた。その上、茉莉は楽曲について ある事実を語る。

「カノジョは嘘を愛しすぎてる -side the others-」…
薫(かおる)のコソ練の話。イージーコースの人生を歩んでいると思わせながら、意外に強か。

「カノジョは嘘を愛しすぎてる -side the others-」…
哲平(てっぺい)のコソ練。異性関係は じゃない方メンバーに押し付けている感じがするなぁ…。

「カノジョは嘘を愛しすぎてる 小説 恋じゃない」…
巻末(反対側)から読む16ページほどの小説。作者はライターさんではなく作者本人。
瞬視点で語られる高校時代までのエピソード。レコード会社社員・長浜(ながはま)とのエピソードが半分ぐらいある。瞬は誰かさんと違って、思い通りにならない三角関係でも周囲に八つ当たりなんてしない人格者。この数年越しの恋は実るのだろうか。でも作中随一の人格者である瞬の恋の相手が長浜だと読者は納得できないかも…。