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相手の感情を優先して自分の気持ちを押し殺せるヒロインは、声を殺して一人泣く

カノジョは嘘を愛しすぎてる(12) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第12巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

Mステ出演で明暗を分けた理子と茉莉。大成功を収めた理子は、打ち上げで突然の涙…一方、壊れてゆく茉莉を放っておけない秋は、傷心の茉莉に付添うが…!?そして、自分より目立った理子に怒り心頭のシバケンは、怒りのせいで思わず理子の待ち受けをダウンロード!?それぞれの思いが交錯する大人気コミックの第12巻!!

簡潔完結感想文

  • 茉莉のメンタルケアのために送り出した理子の気持ちを無為にする秋の幼稚な言動に幻滅。
  • 全体的な方向性は高樹が、微調整は瞬が、そして異常性は心也が指摘する秋のトリプル介護体制。
  • 注目を集めた後の飛翔。どこまで飛び立てるかも重要だけど、どこに飛び立つかも重要な選択。

間の注目を集める歌姫ヒロイン、の 12巻。

作品前半の集大成と言える生放送の音楽番組の余韻と余波が描かれる。今回、高樹(たかぎ)主導の自作自演のハプニングは大きな反響を呼びランキングも上昇、理子(りこ)という新星は業界内でも注目を集める。

ただし次の一手が難しい。高樹はMUSH&Co.が事実上 理子のソロワークになったりしないように配慮するが、業界内には高樹が世話になって断り切れないオファーもある。理子だけが突出することでMUSH&Co.は空中分解する可能性がある。今回これまで余り目立たなかった祐一(ゆういち)が父親から市場価値を突き付けられて、早くもMUSH&Co.の限界が露呈している。
そういえばCRUDE PLAYは瞬(しゅん)というバンドの顔がいるけれど、瞬は音楽活動以外をしている様子がない。アイドル・シバケンのようにドラマ出演をして主題歌を売り出すなど活動の幅を広げての芸能活動をしている様子はない。茉莉(まり)も同じ。これは音楽を愛する社長・高樹の方針なのだろうか。このまま理子もドラマに出演しないとなるとシバケンの存在意義が危うい。

売り出し方に悩む高樹の苦労を知らず、空気を読めない秋(あき)は理子に次のステージを用意しようとする。それがCRUDE PLAYとの共演。生放送のピンチを1回 切り抜けただけの理子の抜擢は、心也(しんや)が指摘するようにアンチの出現に繋がりそうだけど、秋は そんな未来の不安に憑りつかれない。彼が憑りつかれているのは理子に自作を歌って欲しいという妄執だけ。そういう自分の本心にも気づかないまま、秋は自分の思い付きに浮かれている。秋の行動によって理子は巻き込まれヒロインになり、再び寺田(てらだ)のようなアンチに傷つけられる健気なシンデレラになるのだろう。作者は活躍の裏に同じような傷心を用意せずにはいられない。


は本当に他者の気持ちを考えられない。端的に言えば何かしらの障害を抱えている。そう思わないと秋の行動は理解できない。

特に前半の茉莉への態度は秋の異常性が よく出ている。理子は内心を押し殺して秋を茉莉に向かわせた。一人で涙を流す理子のためにも秋は今回のミッションを成功させることが使命だった。けれど秋は茉莉を慰撫している最中に、自分に縋らない理子に腹を立てる。そして理子に自作曲を歌わせるという妄執を大きく育て、目の前にいる茉莉を切り捨てる。秋の中で理子 >>> 茉莉という図式が完成している読者の喜ばしい場面でもあるが、それが理子の我慢を踏みにじることに秋は気付いていないことに途方もない絶望を覚える。やっぱり秋は どこかおかしい。

茉莉を慰撫する本来の役割は最初だけ。後は自分の気分次第で相手を傷つける

理子との仲直りも言葉を必要としない野性的なキスで終えている。これは秋が真に誰かの苦しみや悲しみに共感することがないからではないか。理子が愛する秋の「嘘」は、ニートやDTの振りをしているとかではなく、秋が自分で気づかない一般的な人間ではないことを認めてあげていること、のように思える。

それは同性ならば高樹や瞬、そして心也が分かりつつあること。そういう秋の「特性」に対して深い理解を示し、その上で秋を導いてあげる。この3人は そういう秋の介護者にも見える。特に瞬は秋の幼なじみとして彼が出来る範囲での助言を送っている。瞬がコントロールしなければ秋は早々にCRUDE PLAYを崩壊させていただろう。

そうして秋を癖のある人だと考えると茉莉は秋のどこを好きになったのかが やっぱり分からない。高樹によってコントロールされた初めての交際だから秋は茉莉だけを見てくれた。それが茉莉の安心感になったのだろうか。秋に愛おしさを覚える一方、高樹と身体を重ねて存在意義を確かめる。だから茉莉は壊れたのか。しかも今回 秋は異常性を見せている。茉莉は さっさと秋に幻滅すればいい。それは理子も同じ。彼女たちが秋に苦しめられるのは理不尽にすら思う。以前も書いたけれど、秋は本来と違う意味での自分の尺度でしか物を考えられない「俺様」である


動の生放送を乗り切った理子。しかし秋は今、茉莉と一緒にいるからメンタルの不安定は続く。その後もメンタルは不安定だけど人に気を遣わせるようなことを回避する感情の制御は出来ているところが大人だ。

理子は帰宅する頃には冷静になっているけれど、祐一(ゆういち)は興奮が冷めやらない。しかし息子の夢を応援しようと考えていた父親に、MUSH&Co.の核は理子であって祐一に市場価値はないと冷静に告げられた。レコード会社との契約は2年。その時に祐一は契約更新されるはずがないから、バンド活動は部活だと割り切って地に足のついた進路を決めろと忠告される。CRUDE PLAYの御曹司・瞬(しゅん)ほどではなくてもMUSH&Co.の中では一番 親の社会的地位が高い祐一は瞬と同じような悩みを抱えることになる。


樹(たかぎ)と心也(しんや)・長浜(ながはま)は大人組で茉莉のことを含めた今夜の反省会を開催。ここで長浜が秋と茉莉、そして高樹
を含めた関係を知る。

憧れ続けてきた秋の恋愛事情を知ったからなのか長浜は悪酔いして、見捨てきれない心也の家に運ばれて朝を迎える。何もなかったけれど犬猿の仲だった心也と長浜にフラグが立ったような気がする。作中で心也の自宅が描かれるのは初めてだろうか。秋に一途であり瞬に想われ、心也と縁が出来ていく長浜は大人組のヒロインなのか。


子、そして心也に送り出される形になった秋は茉莉に歌手としての矜持を取り戻させる。彼にしては素直で誠実な言動である。ただし茉莉から言葉をねだられると途端に秋は冷淡になる。理子と一緒にいる時もそうだけど、自分の不機嫌な領域に誰かが踏み込むと、とても酷い言葉で相手を傷つける。今回も茉莉と会話しながら、自分の中で理子が自分に縋って来ないことに腹が立ってきて、茉莉ではなく その向こうにいる理子に対して対抗心を燃やして、茉莉を傷つける。スイッチが入ると簡単に人を傷つけられる秋は怒りをコントロール出来ない未熟な存在だ。

作者の画力の問題なんだろうけれど、茉莉が29歳だと判明してからは、茉莉の大きすぎる目などは若作りにしか見えなくなった。さすがに理子とは違う大人の表情をさせてあげて欲しいけれど、まるで10代ヒロインかのように描かれている。


一は昨夜の父親からの話を理子たちにする。理子は3人でなければ意味がないという姿勢。理子が男性を傷つけることはない、はず。仕事や学校がありタイミングが合わないまま秋と茉莉の一件を解消できないままの理子に祐一が久しぶりに動こうとするが理子は それを受け入れるほど弱くない。

秋は音楽に対しては異常な集中力を発揮するため、CRUDE PLAYのライブリハに没頭する。瞬が上手く切り替えてくれている面もあるけれど、その集中力は心也も認めるところ。

仕事終わり、深夜3時に立ち寄ったコンビニで秋は理子に遭遇する。理子の非常識さから言い争いになりそうになるけれど、秋は その前に恋人にすることとして瞬に助言された我慢をしないキスをして理子の頭をいっぱいにする。秋は口下手だからボロを出さない行動で態度を示す手法の方が合っているのかも。

高樹に仕事を、瞬に私生活を巧みに導いてもらっていることを秋は気付いていない

はリハに理子を招待し、翌日 理子は瞬の運転で秋と3人でスタジオに向かう。彼氏の幼なじみ(芸能人)とも仲良くなれるヒロイン性を十分に発揮して浮かれてスタジオ入りするが、恋人をリハに同席させる秋の態度に心也が苦言を呈する。秋は恋人を連れてきたのか、MUSH&Co.のボーカルを連れてきたのかを問われ、理子に来訪の理由を作るために、理子のゲスト出演を提案する。

それは作曲家として、直前のドライブによる理子との秋の熱唱で、理子の加入がCRUDE PLAYに新しい方向性を示せる、という直感があったから。心也は冷静にファン感情に配慮した意見を述べるが、秋は意見を曲げない。理子は自分が参加するかもしれないライブのリハーサルを見学し、多くのことを学ぶ必要が出てきた。

更に理子の業界内での注目は集まり、彼女へのオファーが絶えない。しかし理子のソロでの起用は早くもMUSH&Co.の空中分解を招くと高樹は危惧するが、業界内には高樹が無下には出来ない人たちもいる。