《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いかにも番外編な話から、本編に入れるべきだった話まで、古今東西・玉石混淆。

彼はトモダチ 完全版(8) (フラワーコミックスα)
吉岡 李々子(よしおか りりこ)
彼はトモダチ(かれはトモダチ)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

増刊や本誌付録に掲載された『彼はトモダチ』番外編読み切りを完全収録!
&全プレのときはラフで発表した「カレンはトモダチ」が完全原稿で読める!
『彼トモ』全7巻とこの一冊で、『彼トモ』はコンプリート!!
悩んで、迷って、間違えて―。どれだけ傷ついても前に進み続けたヒヨリたち。それぞれが辿りついた「運命(こたえ)」とは―。感動の最終回から4年後を描いた「ボクラの、春は。」ほか、佐々本・水野・当道の知られざる過去を描いた(暴いた?)番外編ショートストーリーなどを収録!作りたい運命がきっと見つかる、大ヒットスクールラブストーリ完結編♪

簡潔完結感想文

  • あれだけドロドロしていたのに、本編終了後は平和な世界が構築されるばかり。
  • 相変わらず携帯電話を無効化した上で話が進み、その すれ違いでドラマを作る。
  • 中2水野の誕生日の話は本編に入れた方が良かったのでは? それとも罪滅ぼし?

後の最後で身内から恋のライバルが登場する 番外編・完結編8巻 または PLUS。

私が読んだのは完全版ではなく通常版(PLUS表記)です。内容の違いは不明。

全10編が収録されている番外編だが、大事なのは最初の2編と、最後から3番目の3編のみ。
後は本当に数ページのオマケ程度の短編と考えて良い。

最初の話は、本編完結から4年後の話で、それぞれの歩んできた道が示されていて情報量が多い。

普通に考えれば、本編完結から もう一度 佐々本(ささもと)と会うことや、
なぜだか相変わらず携帯電話を持たないヒヨリに連絡を取ることは難しかったと思われるが、
そういう苦労の話は全く無い。

そして反省や遺恨も全くない。
さすがにヒヨリと水野(みずの)が会う場面はないが、離れても皆 ズッ友らしい。
この お花畑加減には眩暈がする。

本編終了後も、自分勝手なヒヨリは、親からの監視はキツくなるのが当然だと思われ、
電話の一つ、外出の一つに色々と文句を言われそうだが、その辺は割愛され、
4年後の話では、ヒヨリは晴れて自由の身のように描かれている。

せめて匂わす程度でいいから、苦労話を盛り込んでくれないとリアリティがない。

最終回、というか あの『6巻』が終わって『7巻』に入ってすぐに、
もうヒヨリの身に起きた事がなかった事になっているような気がしてならない。

結婚だ、運命だと綺麗な言葉だけで恋愛を修飾しているが、その前にあるハードルはなぎ倒していくようだ。
本編との内容のギャップばかりが気になって、少しも幸福に浸れない。


2つ目の短編は本編に入れるべきだった内容。

本編で徹底的にヒールとして描かれていた水野側の真実が そこにある。
この話を読むと、佐々本の方が人として壊れており、
何の感情もなく女性の望む役割を果たしていく一方で、
その行動がヒヨリにバレそうになると嘘をつく狡賢さを見せている。

男性たちを理解するうえで重要な情報が盛り込まれているのに、これを本編に載せないセンスに疑問を抱く。

これは、本編のラストであんなことになってしまった水野への罪滅ぼしなのだろうか。
あんまりにも悪役のような役割になってしまったから、水野は純粋な被害者だったことにしたくなったのか。

しかし作者のコメントによると、長編連載となった当初から その後の展開を考えていたらしく、
様々なエピソードが作者の中では出来上がっていたと思われる。

この水野側の真実も作者の脳内では出来上がっていたのなら、やはり本編で出すべきだった。
同じ内容とエピソードでも並び方や演出方法によって もっと違う意味や深みが出たのではないか。

ちゃんと考えているのに、まるで行き当たりばったりに見えてしまうのが本書の大きな欠点である。


ストから3つ目の短編が正真正銘のラスト、らしい。

佐々本の末弟が大きくなっていることで時間の経過が分かりやすくなっている。

しかし結婚に向けてのハードルも描かれておらず、本書は再び親という存在を排除しにかかる。
反対勢力もいないし、ヒヨリが至高の存在として描かれるだけ。

佐々本が綺麗な言葉で この愛を表現する度に、狂信的なことに恐怖を感じる。
次に、佐々本の前に困っているメンヘラ女性が現れた時、彼は同じ過ちを繰り返しそうでならない。


「ボクらの、春は。 佐々本 大学2年4月」…
遠恋になって4年目のヒヨリと佐々本。
ヒヨリは高松で保育園の先生になっているらしい。
(父親の単身赴任、長すぎないか?)
ヒヨリは未だに携帯電話を持っていないらしい。
琴音のトラウマは払拭できたんだから、持てばいいのに。
携帯電話普及以前の、作者が自分の経験した恋愛を漫画にしたいのだろうか。

そんな琴音は女優としてテレビで活躍中。
出会い系サイトでパパ活してたことを誰にも暴露されなきゃいいが…。

水野が20歳で26歳の彼女と結婚(授かり婚ではない)。
作者は、イケメンが年上の女性に惹かれる設定を使い過ぎではないか。

佐々本は水野に影響されて、プロポーズを考える。
「8年後」の結婚の約束をしたいから、指輪を買ってヒヨリに会える日を心待ちにする。

なぜ「8年後」という具体的な数字なのかは不明。
小児科医になる夢がかなう時期でもないし。
作者の脳内設定で28歳で結婚という理由からだろうか。
(でも結局、2人は26歳で結婚式を挙げているのが謎(最後の短編))

その2人の裏で、琴音と当道の2人にも進展が見られる。
結局、内輪でくっつけちゃうのね、と2人の関係に結論が出た事を残念に思う。

本編では胸糞悪い展開を用意した割に、最終回付近からお花畑の世界が広がっていて、温度差に戸惑う。

4年後のヒヨリの携帯電話に対する意識が謎。所持していないが、もう抵抗なく電話に出られる…??

「カレンはトモダチ 水野 中学2年6月」…
あの水野の誕生日である、中学2年の6月1日を水野視点で描いた作品。
物語上、結構大事な事ばかり描いてあると思うが、なぜ これを本編に出さなかったのか。

1つは、あの6月1日は水野が琴音を裏切っていないこと。
情にほだされて、この日 水野を誘った女性の最後の思い出を作っただけだった。
(日中に別れているのに、なぜ琴音が水野を待っていられなかったのか謎だけど)

この視点からすれば、水野は浮気者でも被害者面しているでもなく、完全に裏切られた側だ。
それを本編で描かずに、彼をロクでもない男のような印象にしているのがアンフェアな気がする。

そして もう1つは、佐々本の恋愛における受動的姿勢。
ヒヨリに出会うまえまでは女性の願いを叶えるロボットのような佐々本がいた。
付き合ってと言われれば付き合い、キスを望まれれば それを叶え、
そして琴音が軽率な行動に出そうになれば、それを身体を差し出して止める。
この時の佐々本は琴音の属性に近い。

彼にとっては肉体的接触などで感情は動かないらしい。
これはヒヨリの時の感情や行動が本物、というヒヨリの特別感の演出だろうが、
そんな感情がぶっ壊れているような人間をヒーローにする意味も分からない。

それに佐々本がこんな人間なら、なぜ交際時のヒヨリの要望に何一つ応えなかったのか。
なんだか矛盾を抱えた存在である。

佐々本がメガネを掛けたのは、友人を裏切って直視できなくなったからか。
そしてメガネでよく見える世界で、たった1人の大事な人を見つける。

ヒヨリが佐々本に望んだことは少しも叶えなかったくせに。佐々本って結局、サイコパスなんじゃないか??

「ガラスノ、ヒトミ。 佐々本 中学2年7月」…
佐々本がヒヨリを好きになってからの彼の変化を、彼を想う第三者目線から描いた作品。
彼にとっては世界がキラキラし出したメガネが、彼女にとっては世界を濁らせるという点が好き。

「イジワルナ、コイビト。 日和 中学3年12月」…
交際後、初めてのクリスマスの落胆と興奮、つまりは胸キュン。
あぁ、本編に足りないのは こういう糖度なんですよ。
こういう恋愛の楽しさを割愛して苦しさだけ描くから歪な構成になるのだ。

「ミズノノ、キモチ。 水野 高校1年10月」…
ヒヨリと交際してからの水野の悩み。
この頃の水野は無邪気だったなぁ。それが数か月で豹変するとは…。

「カレンはコイビト 当道 高校1年11月」…
佐々本と仲が良いが、佐々本だけ名字で呼ぶ当道の謎。
彼を想うクラスメイトが その謎の答えに辿り着く。
「ガラスノ、ヒトミ。」と同じ内容である。

「ナイショの、日曜日。 日和 高校2年10月」…
遠恋になって8か月、なかなか会えない2人の すれ違い。
佐々本はバイトまで始めて本当に小児科医、というか医大生になれるのでしょうか。
ここも連絡がつかないことを起点にする不安と喜びの話である。
作者は、こういう形式でしか話を作れないのだろうか。

「愛しの、キミは。 早良 中学1年8月(日和24歳)」…
これが真の本編完結となるらしい。
佐々本の末弟・早良(さら)は、ヒヨリの事が大好き。
そういえば初対面の時から、弟たちはヒヨリに懐いていた(もっと親しい琴音にはそれほどなのに)。

男性たちにとってヒヨリは天使。
佐々本はともかく、早良が本編を読んだらヒヨリを嫌いになるのではないか。
早良は水野っぽい性格で、そういう人と佐々本はライバル関係になりやすいのか⁉

「あなたなんて、嫌い。 当道 中学3年10月」…
お調子者の当道に恋に落ちてしまったクラスメイトの話。
メガネは恋の落とし穴、と言うだけの話。
当道は作者のお気に入りなんでしょうね。

「白のエデン 特別編 早良 中学3年2月(日和26歳)」…
『7巻』の本編ラストシーンの前後が描かれている話。
そして別の話に繋がるのかな?

アホっぽい早良も水野のように豹変するのでは、という恐れが消えないなぁ。
世界観が繋がっている事は、本書を読んで嫌な思いをした人にとっては決して嬉しくない設定である。
作者の別の作品に手を伸ばすのは躊躇してしまう。