《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画あるある。女性をイジメて楽しむ Sなヒーロー、母の愛を浴びてない説。

キスよりも早く 9 (花とゆめコミックス)
田中 メカ(たなか めか)
キスよりも早く(きすよりもはやく)
第09巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

先生に近づきたい気持ちを抑え、受験モードに入る文乃。鬼の補習合宿がスタートし勉強三昧のはずが、先生のお義母さんが現れて! そんな時、鉄兵が迷子になり、発見場所の教会で先生と文乃は…!? 先生の執事コスプレ・特別編も必見の第9巻!

簡潔完結感想文

  • 勉強合宿。結果的に避暑地での勉強を抜け出し教会で擬似結婚式を挙げる。
  • 義母と息子のブルース。愛する妻は母になってくれるかもしれない女性。
  • 過去からの手紙。先生が抱える闇の入り口。白泉社だからトラウマは必須。

々に(!)、着実な進歩を感じられる 9巻。

進学を希望する主人公の文乃(ふみの)が勉強の成果があって、
成績が向上し、希望する大学への合格の道が見え始めた『9巻』。

本書の内容の方も、長期的な目標が見えてきて面白くなってきました。

1つは恋愛面。
既に夫婦である文乃と先生の間に、
先生の弟・翔馬(しょうま)が隙を見て ちょっかいを出す。
兄も好きだが、兄嫁も好きになってしまった翔馬の、
素直になれない、けれど大胆不敵な行動から目が離せない。

甘々すぎる夫婦描写と違ったスパイスの効いた翔馬の邪魔立てが楽しい。


そして もう1つが先生の過去と、捨てた家族のこと。

遅々として動かなかった先生の父のことが、「先生が抱える闇の入り口」。

トラウマ必須の白泉社漫画でトラウマが出てきたということは、
物語の出口も見えてきたということかな?


3つ目が受験と卒業ですね。
高校3年生の夏休みに入り、ようやく終わりが見えてきました。


どこを食しても甘いしか感想の出なかい漫画に
違う味覚が加わって、味に深みが出そうな予感がしてきた。

そして完食できそうな気配が出てきたことが読者の希望になる。
ここまで長かったーー。


頭は、文乃の我慢が利かない お話。

『8巻』での手のひらキスと自分から仕掛けた首すじキスで
「ムラムラしている残念なケダモノになり果てた」らしい。

文乃自身も「こんな反応 前にも よくやってたって 思うでしょ?」と言っているが、
今回は 以前とは違うらしい(という言い訳でしかないが…)。

作者としては徐々に2人の親密度を上げているという文字表現なのだろう。
けど、読者としては逆に厚みを増していくキスに疑問を感じている。


どうやら文乃は鈍感で翔馬の好意には気づかない様子。
気づいた瞬間に お断りされるのは必至だから、しょうがないか…。


恒例の「落ちる」シリーズ(今回から命名)。
今回は悪漢にプールに投げ落とされそうになった携帯電話を取ろうとして落下します。

そこにジャストのタイミングで現れるヒーローの先生も お決まりのパターン。
これ、様式美なんだろうけど、若い読者には水戸黄門的ループは退屈だと思われる。


いては受験勉強をする補習合宿。
治安が悪い学校なのに、わざわざ避暑地まで行って合宿するみたい。
あんまり進学率は高そうではないが…。

文乃の弟・鉄兵(てっぺい)は、隣人で保育士の龍(りゅう)とお留守番。

しかし祖父と叔父、近しい血縁が現れても、龍に面倒を見させるんですね。
祖父はともかく近隣に住む叔父の智之(ともゆき)に
頼まないのは何か理由でもあるのだろうか?
ないでしょうね。
結局、龍は行動力があるから便利に使われているだけでしょう。
作者は龍を搾取していることを自覚した方がいい。


そんな避暑地にある合宿地は尾白(おじろ)家の別荘の近く。

となると何が起きるかというと、家族との再会である。
今回は先生にとっての継母、翔馬の実母のみ登場。
先生の義母ということはつまり、文乃にとっても義母になる。

先生の家族問題の解決、家族との接触するという目的を一つクリアする。


ちなみに先生の義母は、英語を母語とする外国人。

そこで疑問なのが、先生は英語の道に進むことに何の葛藤もなかったのかということ。

人に先生が英語を教える道を進んだのは、
高校時代の恩師で英語教師だった高田先生(『7巻』)の影響が大きい。

でも考えてみれば、自分をないがしろにして
いつの間にかに外国人の妻を娶った実父への反発心などはなかったのだろうか。
英語というと義母の姿が思い浮かぶと思うのだが。

もしかして高校3年時に先生の英語の成績が極端に悪かったのは それが原因なのか⁉
でも、高田先生と出会って一新されるような心理なのか?
(先生は高田先生を大好きすぎるからね(笑))

先生の心の変遷がいまいち分からないなぁ。


真爛漫に見える義母だが、
かつて先生は義母を全身で拒否していた。

そして義母はその拒否を受け入れてしまった。
それを後悔しているらしい。

でもちょっとズルいよね。
先生が高校3年生にして親の援助もなく独りで生きていくのを見ない振りをしたのも彼女だ。
夫唱婦随で、夫の言うことだけに従ってきた女性なのだろうか。

一度の拒否で、家族の一員を見捨てたのも事実。
それでいて天然でピュアな存在として描かれているのは やはりズルい。

文乃の恋愛鈍感設定といい、女性ばかり綺麗に描かれている気がするなぁ。


そんな義母の登場に、文乃は先生の過去・家族への興味が尽きない。

しかし過去を聞き出そうとする文乃を先生は、
「(親への挨拶なんて)そんなもの必要ない いないと思っててくれて いい」
と冷たく突き放す。

先生ってデリカシーないよね。
両親を亡くした文乃に、自分が話したくない親の話は一切させない。

結婚という体裁だけ整えて、
親族付き合いをしようとする文乃の配慮を無視する。

先生も夫唱婦随を地でいくというか、文乃の存在を自分とは決して同等に見ていない。
『8巻』といい先生の自己中心的なところが目立つ。
あんまり「夫」として素敵な人間に思えない。


生の冷たい拒絶は作者によって仕組まれた過ちでもある。
多分、この回のテーマ「抱擁」を効果的に演出するために過ちはあった。

文乃の親に対する複雑な事情を思い至らなかった自分を反省し、彼女に謝罪する先生。

それに対し 文乃は先生を抱擁する。
それは その日、義母から受けた抱擁に優しさと体温を感じた文乃が、
先生に出来る精一杯の赦しの証。

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文乃の身体を通して、先生に伝わる義母の母性や優しさ。あのときの私 許して。

きっと この時の2人は妻と夫ではなく、母と息子なのだろう。

幼き日に死に別れたため、母とは どんなものかしら?状態だった先生が
この時、初めて母性に包まれる。

そして この時に先生は「母」の存在を確かに感じられたから、
この日の後から、義母のことを「お母さん」と呼べたのだろう。

文乃という存在はもちろん、
義母の包容力が文乃に、そして先生へと間接的に伝わった証左である。
これで母を拒絶するしかなかった幼き日の先生は少し救われたのだろう。


にしても少女漫画の俺様彼氏って、親の離婚で母と別れている人が多い気がする。
そして優れた容姿ではなく、母性を感じる女性と永遠の愛を誓う流れになる。

これは読者に、誰にでもワンチャンあると希望を持たせる仕組みでも あるかも。


暑地では一つの事件が起きる。
あのスーパー保育園児の鉄兵が迷子になってしまう。

うーん、姉のために花の冠を作るという目的があるとはいえ、
ここで鉄兵にトラブルを起こさせるのには違和感があるなぁ。

もちろん、これはラストの家族3人での擬似結婚式のためだろう。
文乃と先生だけじゃない、3人で行わなきゃ意味がない結婚式。

だから3人まとめて結婚式に押し込む(笑)方法を考えたのだろうけど、
鉄兵が ただの子供になってしまったことを残念に思う。


そして迷子に関して、文乃は龍に迷惑をかけた鉄兵が悪いと恐縮しているのに、
先生は龍に「しっかりみてろよ てめえ!!」と八つ当たりしている。

うん、やっぱり最低ですね、この人。
自分たち家族で手に負えない事情を 龍が どれだけ助けてると思ってるんだか。
お前こそ 龍以外に頼る手段を考えろよ、身内だぞ。


そんな迷子の鉄兵を探しにいった文乃は 変わりやすい山の天気により雨に打たれる。
姉弟が非難したのは とある教会。

んー、避暑地で雨に打たれて教会に避難するって、
『桜蘭高校ホスト部』でも読んだなぁ(発表は『ホスト部』の方が先)。

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これで自己中な先生も妻を自分と同等の人間と見なしてくれれば いいのだが…。

姉弟を見つけた後は事実上の結婚式。
このために鉄兵も この場所にいなければ ならなかった。

婚前交渉ならぬ婚後交渉もない清らかな2人。
今回の結婚式で、キスの準備は整ったのかな?

そして正式に夫婦、そして家族になったのだから、
先生は もう秘密主義を解禁してくれるのだろうか。

でも口だけだからなぁ、この男…。


続く先生の執事コスプレ回、
少女漫画のお約束、山での遭難回は、
先生の過去にまつわる手紙がその裏にある。

「先生の抱える闇の入り口に 足を踏み入れたのです――」で終わる本書。

いよいよ白泉社恒例のトラウマ回のスタートです。
わー、楽しみー(棒)