《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君が右の頬をガラスで切れば、俺は左の頬をはたかれるよ。それがシンメトリーの美。

桜蘭高校ホスト部(クラブ) 5 (花とゆめコミックス)
葉鳥 ビスコ(はとり びすこ)
桜蘭高校ホスト部(おうらんこうこうほすとくらぶ)
第05巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

夏休みに軽井沢のペンションでバイトするハルヒを追いかけてきた部員一同。だが残り1つの客室をかけ、環たちは「さわやか度」を競う争奪戦をすることに!? しかもハルヒの元同級生の登場で、ハルヒと光の仲に異変が…!? その他、猫澤先輩の激プリ妹も登場!!

簡潔完結感想文

  • 「バカみたいなノリだけでは飽きられるのも時間の問題」なので光と影のバランス調整。
  • 夏休み回その1。さわやか選手権でハルヒのお婿さん候補探し。簡単に3人に絞られた。
  • 夏休み回その2。気が置けない異性と一日過ごして心のソーシャルディスタンスを学ぶ。

タク女子の辛辣な意見が 徐々に予言になっていく 5巻。

巻末で作者自身が「今回は割とテンション低い話が多かった」と言っている通り、
従来のドタバタコメディではなく、ヤマアラシのジレンマ的に
近づこうとするほどに相手を傷つけてしまう人の悲哀が描かれている。

彼らの共通点は自分をすぐに変えられない意固地で不器用な性格だろうか。

これは図らずとも『1巻』でサブキャラのオタク女子が、
「バカみたいなノリだけでは飽きられるのも時間の問題」、
と指摘していた通り、ハイテンションな お話作りだけでなく
ちょっとずつ個人の精神世界に「影」を注入していっている気がする。

個人の抱える闇やトラウマ、家族の背景などなど
表層的な華美を極めた後は、内面世界を充実させていくことで
いかにも乙女の好きな物をフルラインナップさせるのだ。

この辺りが いかにも白泉社的な手法です。

確かにワガママな読者としてはノリだけでは飽きるのも真理。
光と影のバランスを上手くとって、緩急をつけるぐらいにして欲しいです。

影に魅入られたら猫澤(ねこざわ)先輩みたいに光に戻れなくなっちゃいますからね。


中の季節は掲載号に沿って6月~10月ぐらいとなっています。

今回は全5話中3話が夏休みの1週間くらいの出来事@軽井沢となっている。
連作モノとしては過去最長でしょうか。

『3巻』での去年の夏(というか ずっと今年だが)も 2話連続のお泊り回だったが、
夏休みは大型企画が動くイメージです。
来年の3回目の夏が早くも楽しみですね。エンドレスエイト

今年の夏休みはハルヒは父親の知人の経営する軽井沢のペンションでアルバイト中。
そこにホスト部男子生徒6人が登場して(通常営業の)大騒ぎという内容。

ペンションの客室の空きは一部屋のみ。
そこでオーナーによる「客室争奪さわやかアルバイト選手権 in 軽井沢」が開催される。
広い意味で一つ屋根の下、ハルヒと一夜を共にしたい男たちの醜い争いです。

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この選手権の結果が 今後のハルヒの人生に大きく関わる、なんてことは まるでない。

ハルヒではなくオーナーの選別だが、
6人の内、誰か一人しか選ばれない一つの答えが出される場面です。

これは乙女ゲームによる好感度順位の決定のようなもの(違うか)。

しかし鏡夜(きょうや)先輩は戦線を離脱して高みの見物を決め込むし、
ハニー先輩は最初から「さわやか選手権」の出場資格すら持っていない。
そしてモリ先輩はハニー先輩の脱落と同時に選手権の辞退することが予想される。

これって、ハルヒの恋人候補にも同じことが言えますよね。

上記の3人は最初から候補にすら上がらない運命。
先輩方を攻略したい方たちにとっては残念な展開だろう。

そして残ったのが、環(たまき)と常陸院(ひたちいん)ツインズ。

今後、恋の鞘当てが行われるとしても この3人の中からでしょう。
まず常陸院 対決が準決勝で、その勝者と環の対決が決勝戦になりそうだ。

この対決をするために あんまり「影」が多くならないことを望む。


く軽井沢編の2話は そんな常陸院ツインズの成長回。

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友達に自分以外の友達がいる、当然のような事実に割り切れない感情を抱くのは分かるなぁ。

自分以上に排他的な光(ひかる)の世界を広げるために、
仮病を使ってハルヒとの1日デート権を光に与えた馨(かおる)。

「影」を物語に付加するだけでなく、光(ひかる)のバランスも考えているみたい。

それを当然のように尾行する残りのホスト部男子たち。

ヤマアラシのように誰かを いたずらに傷つけない距離を見つけるのが大人になるということ、
と どこかの本で読んだが、光も少しずつその距離感を計り始めたのだろうか。

「バカみたいなノリ」が好きな私は彼らに大人になって欲しくない気もする。
読者の方がピーターパン症候群ですね。


そういえばハルヒの怖いもの = 雷、はホスト部で公然になったんですね。
てっきり環とハルヒだけの秘密の絆として使用されると思っていたんで、
環は光にも黙って事を収めるのかと予想していました。


休み前の6月の1話目はテストでケアレスミスをしてしまって
学年主席から陥落したハルヒの退学危機の お話。

しかし考えてみればハルヒは退学危機の爆弾を いくつも抱えているなあ。

どこぞの人たちみたいに性別を偽って男子校に入学している訳ではないが、
常に成績トップを取らないと退学の崖っぷちだし、
禁止されているアルバイトを誰かに報告されたら一巻の終わりだし、
ヅカ部に強制連行される可能性もなくはない(『3巻』)。

ただ、ホスト部の備品のツボを割ったり、
勝手にアルバイトをしたりとハルヒが自分の首を絞めるような行動をしてくれるから、
鏡夜先輩をはじめ、ホスト部ハルヒを独占できている面もある。

彼らと関わってしまったのが運の尽きですね、ハルヒは。


そして作者的にはSF設定を持ち出して欲しくないだろうけど、
この時間がループする世界、少なくともホスト部の面々は記憶を保持し続ける世界では、
定期試験というのは彼らにとって とても有利なのではないかという疑問が湧き出る。

試験の内容は その前の2年間(この時点で)と同じなのだろうか。
もしかしてホスト部の7人中5人が各学年の主席と次席を占めているのも、
彼らに蓄積される知識があるからだったりして…。

やがて知識が彼らに収斂して世界の特異点になるのかもしれない。

そして何度 繰り返しても3位以下の常陸院ツインズ。
(といっても読み返したら4位と5位だったが…)

今更ながら ちょっとやり過ぎな設定ですね。
ハルヒと環、鏡夜先輩 以外は専門分野に特化していても良かったかも。
何でも出来るって嘘くさい。


5話目で登場するのは猫澤先輩と その妹。

猫澤先輩は上記の意味とは違う形で「影」のある人。
こういうオカルト方面が好きな乙女も一定数いるからファンは多いだろう。

しかも普段は陰気で、カツラを取るとロシア人の血が混じる正統派美形という変身要素もある。

そしてホスト部ワールドは、登場人物の弟妹たちにまで手を広げ始める。
この後も弟妹の初登場回は便利に使われていきます。
弟妹だと未熟さが強調されて一層 可愛いですからね。

猫澤先輩の妹は3歳か。
一気にホスト部が「ベビーシッター部(©時計野はり)」になりましたね。

ハルヒは子供苦手そうですが嫌いじゃないんですね。


本当に余談ですが、1/4スペースで声優の久川 綾さんの話題が出た次のページに
環が「月光に照らされた一輪の花」というフレーズが使っていたので、
久川さん演じるプリキュアネタかと思ったのですが(台詞は若干違うが)、
雑誌掲載は2004年で、当該アニメは2010年からの放送なので ただの偶然の一致でした。