田中 メカ(たなか めか)
キスよりも早く(きすよりもはやく)
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
結婚一周年記念クルーズデートの熱が冷めない文乃☆ 迎えた体育祭で怪我をしてしまうが、そんな文乃に先生は手厚い看護を…☆ 一方、メグに「文乃に恋してる」と指摘され反発した翔馬。文乃に意地悪をするが、文乃と先生がまだキスをしていないと知り…文乃にキスを!?
簡潔完結感想文
- 体育祭。治安が悪いから学校生活で生傷が絶えない。それをネタに出来るけど。
- 兄のキスは終了の、弟のは始まりの合図。限界突破で妻に八つ当たる精神的DV。
- 仁義なき戦い。元ヤンなので決闘は河原で。これって妻への見せしめでもある⁉
嫉妬にかられた夫の顔の独占欲の強さに醜さを感じる 8巻。
私は先生(尾白 一馬・おじろ かずま)のことが決して嫌いではないんですけど、
今回の ある場面の先生の態度には胸キュンどころかドン引きしてしまった。
それが本書の後半、妻である文乃(ふみの)が弟の翔馬(しょうま)とキスをしたことに怒る先生の描写。
キスをされても尚、翔馬と2人きりで行動する文乃の態度に業を煮やし、
文乃を乱暴に押し倒し、自分の感情をぶつける場面。
怖っ!!
「地獄の まーくん」とかじゃなくて、人として怖っ!!
妻の浮気疑惑に対して、その浮気相手もいる中で妻だけを詰問する。
暴力的な行為と、語気を強めた言葉を一方的に ぶつけて彼女を追い詰める。
今回、初めてといっていいぐらい先生の許容範囲を超えて見えてきたものは、
人を委縮させて支配しようとする彼の本質。
普段は優しいのに気に食わないことがあると苛立ちを女性にぶつけるDV男そのものじゃないか。
しかも相手の男ではなく、妻にブチ切れるところが小物である。
相手が恐怖で泣きだしたら我に返って「ちゃんと話そう」と言い出すのもDV男の持つ二面性のようだ。
この場面、作者としては あの先生が こんなにも冷静でいられなくなる、
それほどまでに文乃のことを大事に想い、自制しているという表現で描いたのだろう。
でも、それが狭量な人のブチ切れにしか見えなかった。
そして 文乃は今後も他の誰かを好きになることを許されない、暗澹たる未来を見せつけられた。
「文乃さんを好きな男は皆 僕のライバルになるんだよ!!」
などと、格好つけた台詞を吐いているが、
つまりは文乃に近づく者は得意の暴力で 捻じ伏せるという宣言でしかない。
7~8歳 年の離れた10代の弟に対して本気で決闘する25歳の兄。
これが同級生ならば青春の1ページになろうが、
これでは兄の方が大人げないとしか思えない。
文乃に対してもそうだが、対話よりも早く 暴力や暴言を投げつける姿勢に落胆した。
一馬最大のピンチで見えてきたのは、
ヤンキーの頃から何も成長していない自己中心的な思考である。
経済的困窮を付け狙われて16歳で結婚届に記入をし、
そして夫に不満があっても、好きな人が出来ても離婚も出来ない状況を思い知らされた文乃。
無知や貧しさが女性の権利や未来を奪う、というのが本書の教えか…。
更に最悪なのが、一連のキス騒動における先生の誤認。
彼は文乃と翔馬のキス場面を直接 見ていない。
文乃の弟・鉄兵(てっぺい・5歳?)の証言だけで、
彼女が翔馬のキスを受け入れた と想像し、頭に血が上りブチ切れたのだ。
文乃を精神的に委縮させ、涙を流させた後、
その時、彼女は寝入っており、一方的にキスされたことが判明。
ここで この男の態度が一変する。
「文乃さん ごめん!! 寝込みを襲われたら どうしようもないよね
怒って ごめん 本当に ごめん…!」
妻に非がないと分かると、彼女を責め立てることを止める。
…が、彼女への態度は消えやしない。
この間、作者は文乃に夫へ恐怖を覚えることを禁じている。
あるのは、自分の不注意で先生を傷つけたと思う反省の心と、
「それでも やっぱり「初めて」は戻らない」と後悔する気持ちだけ。
ズルーーーっ!
先生、ズルっ!
本来なら文乃が先生の人間性に不信感を持たれるぐらいの場面なのに無罪放免。
自分の事実誤認は謝罪せず、直前の行為のみ謝るのも卑怯だ。
私は前々から疑問に思っていた先生の人間性が更に苦手になりましたよ。
なので さっさと観覧車でキスして、作品が終われとも思った。
いつでも終わらせる物語しか作れないのだから、
どこで終わっても変わりはないでしょう?
…おっと、私がブチ切れているぞ。
そして当然のようにキス自体が翔馬による狂言。
これで露わになるのは、翔馬の卑劣さではなく、
先生の「脳筋」っぷりでしょう。
5歳児の証言を鵜呑みにして事実確認をしないで大暴れ。
先生、恥ずかしくない?
ねえ、顔真っ赤??
ってか このキス騒動の兄の狼狽ぶり とブチ切れ まで翔馬が全部 予測してたりして…。
かつては尊敬していたけど今は恋のライバル。
あわよくば文乃の100年の恋が冷めることを期待して兄を扇動した。
少なくとも私の先生への評価はガタ落ちである。
何もかも翔馬の手のひらの上だったら面白いなぁ。
翔馬、恐ろしい子!
あと この場面、いつの間にかに成長した翔馬に先生が返り討ちにあって欲しかったな(笑)
(ちょうど翔馬は先生の全盛期である高校3年生だし)
そうしたら この単細胞な お兄さんはなんて言ったんでしょうね。
「俺より強いってことは世界一 強いってことだ。安心して文乃を渡せるな」
などと、ここでも文乃の気持ちを無視した自己中な発言をするんでしょうか。
うーん「決して嫌いじゃない」はずの先生が今は大嫌いだ。
以前も書きましたが、翔馬ぐらいしか先生のライバルにならないから、
物語も後半に差し掛かって やや唐突な翔馬の参戦なのだろう。
いかんせん翔馬でも大人と子供なので、
私としては先生の元同級生・龍(りゅう)に参戦してもらいたかったな。
それなら殴り合いも絵になっただろう。
作品の後半が尾白家の問題に終始したのは、
作品の世界が狭いことを露わにしたようで残念だった。
冒頭は体育祭から。
そういえば、前巻『7巻』のラストでガラス越しのキスをした2人。
文乃の実感では、以前のマスク越しのキス(『4巻』)よりもガラス越しのキスの方が、
心を捕らえたらしいが、どうにも話を盛っているようにしか聞こえない。
マスク → ガラス → 手のひら、とどう考えても厚さは増していることに対しての方便だろう。
そして、そのキスによって また先生に緊張する文乃ですが、
自分からキスしてくるような積極性が削がれれば先生も作者も やりやすいのでしょう。
言い訳も苦しくなってまいりました。
翔馬は「カゼで休んでたら 3年の応援団長に決まってた」らしい。
よく風邪を引く子ですね。
この翔馬の見せ場は後のライバル化へに向けて彼を魅力的に見せるためか。
ちなみに この学校、学年対抗の体育祭で優勝すると学校側から賞金が出るらしい。
文乃は それを生活費の足し(先生の負担軽減)にしようとするが、
1学年の生徒数が200人だとしたら、賞金が10万円で500円。
100万円で5000円だろう。
学校側が100万円を用意するとは思えないなぁ。
毎回そうだが、先生をヒーローにするために誰かが悪役になる。
コンクリートのブロックを投げつけたり、
騎馬戦の足元にボールを転がそうとしたり、
想像力が欠如した人間の描写は甘さを打ち消すほど不快です。
(人が折り重なった騎馬戦は、小野不由美さんの小説『魔性の子』みたいになっちゃうぞ)
続いては何度目かの看病回。
怪我や風邪など体調不良が多すぎます。
体育祭で怪我をした文乃は病院で診察してもらい、全治10日の強い打撲。
ちなみに この時、文乃が保険証を見ていれば作品の終了が早まったのか。
10日間の内、数日が経過してから翔馬が助けてくれることに。
文乃の怪我は翔馬を守るためでもあるから借りを返したいらしい。
その前の数日は身の振り方を悩んでいたのだろうか。
段々と文乃に対する恋愛感情を自覚する翔馬だが、素直に認められず文乃に嫌味を言ってしまう。
文乃の長い髪が「兄の部屋を汚してる」と言ってしまう
文乃に対する翔馬の言動も子供っぽいが、
それを素直に受け止める文乃も また子供だ。
1年以上同居して今更、同居して部屋を汚して迷惑かけるとか考える訳ないでしょ。
作者としては文乃を落ち込ませたいんだろうけど、
何でもかんでもリセットして、これまでの年月を考慮しない話はどうかと思う。
文乃の髪を触った翔馬に嫉妬をする先生。
どうやら先生は他の男の存在を水で洗い流せば消えると思っているらしい。
『4巻』でも、別居の際に文乃たち姉弟が宿泊した部屋の持ち主・龍の存在を消したいとか言ってシャワーに直行してましたよね。
でも これが、先生の思考の描写なのか、
それとも 作者の忘却からのワンパターン描写なのかが分からない。
何となく後者な気がするなぁ。
それぐらい同じことを繰り返してますからね…。
続いては中間試験。
先生は試験作成時期は文乃の自室への入室を禁じているが、
文乃にあらぬ疑いを掛けられないためにも同居すべきじゃないんだよなぁ…。
特に この後、英語の成績が急上昇する文乃ですから、
先生からの問題漏洩が疑われかねない。
同居がバレなきゃいい、ではなくて、
文乃の潔白を証明できる環境のために、
同居しないのが教師として、夫として最良の選択ではないのか。
ってか結婚と同時に転向させれば良かったのに。
先生と作品のスリルと興奮のために、そんなことは許されませんが…。
そして試験勉強で訪れた図書館で翔馬によるキス騒動が起きる。
- 作者:田中メカ
- 発売日: 2010/12/03
- メディア: コミック