田中 メカ(たなか めか)
キスよりも早く(きすよりもはやく)
第10巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
森の中で遭難した先生と文乃。二人っきりになり、先生が幼少期について打ち明けてくれた! そして、高校最後の文化祭がスタート!! メイド喫茶VS.執事喫茶で盛り上がる中、なぜか文乃は翔馬と回ることに!? 更に、不良に絡まれた文乃の前に現れたのは謎の学生で!?
簡潔完結感想文
- 一馬お坊ちゃま に、ここは お前の世界じゃないと教えてくれた佐々一家との暮らし。
- コスプレ告白に偽装交際、尾白兄弟に困らされるのも悪くない。宣戦布告で最終決戦。
- 聖女の誕生は尾白家に何をもたらすのか。25歳・18歳年下の妹よ、ようこそ地球へ。
子は鎹(かすがい)、尾白(おじろ)家再生の救世主誕生、の 10巻。
『10巻』では先生こと一馬(かずま)・翔馬(しょうま)の尾白(おじろ)兄弟に妹が誕生する。
『9巻』において父の後妻である義母のことを
母と認められるようになった先生にとっても嬉しい妹の誕生。
これで尾白家は家族5人。
その内、4人と良好な関係を築いた先生に残されたのは父親との対峙。
少しずつ過去の清算をし、また未来の象徴を その目にした先生。
父親との折り合いをつけ、文乃を尾白家に紹介する日も近いのだろうか。
それとも初の女児の誕生で父親がキャラ変したりするのだろうか。
新しい命によって、新しい展開が期待できます。
でも もし生まれたのが男児だったら、翔馬との後継者争いが勃発したのだろうか。
いや、男女同権のこの時代、
優秀で勝気な妹が、翔馬の政治家としての才覚を見限り、
自分が後継者に名乗り出る可能性もある。
その時はまた尾白家は一家崩壊だ。呪われている。
クーデター勃発時には妹30歳、翔馬48歳ぐらいか。
中年の域に達してから追放される翔馬。
そんな姿も見てみたい(笑)
…と、新しい展開が始まり、そして終わりも予感させる『10巻』。
ただ、全巻を読み通すと似た部分ばかりが目につきますね。
その1つが、怪我・病気関連。
この漫画、1巻につき1回は誰かしら怪我をしたり熱を出したりしてないか?
非常事態は物語を作りやすいんだろうけど、ちょっと多すぎる。
それなのに、本来、熱を出しやすい幼児の鉄兵(てっぺい)が健康なのは、
彼が熱を出したら彼の姉である主人公・文乃(ふみの)が学校を休むだろうから、
物語が何も動かないからだろう。
怪我も病気もイチャイチャの前戯みたいなものですから、
読者側も どんどん心配しなくなってきますね。
そして先生の周辺の人々、今回登場の佐々(ささ)や『7巻』の恩師・高田(たかだ)先生、
そして義母は命の危機まで持ち出される(正確には高田先生は違うが)。
自分のことに頑固な先生を動かすためには、
人の命と引き換えにしなきゃいけないんだろうけど、
それで物語がドラマチックになるかというと そうでもない。
そして恒例の「落ちる」シリーズも様式美なのか、誰かに好評なのか不明だが続く。
これは1巻につき2回ある巻も見つかるんじゃないかと思うほどの高頻度。
先生をヒーローにするための危機的状況の創作なんだけど、
「水落」か「全落」が圧倒的多数を占めるため、またかと辟易する。
「キス早」落下場面全部 一気に見せます特番を組んで欲しい。
落下場面の画像を20枚ぐらい並べてみたいものだ。
私はこの作品にそこまでの愛情が無いのでやりません。
(むしろ揶揄するための特集だし)。
超人気作なら研究資料にもなるでしょうが、
後年に語り継がれる作品でもないので…。
冒頭は『9巻』から続く先生の過去編。
名門・尾白家で わがまま放題に育った小さな怪物・一馬(当時4歳)。
「本家の跡取りの僕を好きにしたがる分家同士の争いが始まりそうだった」から
「父の腹心である秘書の佐々家に僕を預けることになった」。
んー、これって一馬の父の手配によるものなのかな?
それならば、父は父なりに息子の安定した環境を望んでいたのか?
父は何をもってして、4年間預けた佐々の元から家に戻したのか。
全巻 完読しても父側の心理って何も描かれていなくて、モヤモヤする。
大人側の思考を きちんと追わないで、
状況だけ創作してるから何もかも浅く感じる。
義母の時もそうだが、もっと深い葛藤を描いて欲しかった。
先生が、4歳で新たな環境に放り込まれたのは、
同じく4歳の時に鉄兵が先生の家族になったのとダブらせているのかな。
両者は4歳でもう一度 人と家族の温かさに触れたことになる。
まさか鉄兵も4年後には違う家庭に行ってしまうという伏線だったりして…⁉
この佐々家は父と息子の父子家庭のようだ。
過去の佐々(父)と今現在は大病を患い入院している佐々(父)を結ぶ存在として、
佐々(子)がいるんだろうけど、
彼がいることによって、佐々(父)が先生のことを
「自分の息子だったら良かったのに」と思っていたという部分の感動が弱まった気がしてならない。
佐々(父)が独身で これまでは仕事に専念してきて、
彼の方も疑似的な子育てに悪戦苦闘し、そして良い思い出になった というのなら分かるが。
そして佐々一家に妻(母)がいないのは、先生に母性を与えないためだろう。
『9巻』で文乃を通じて間接的に義母から温かさを知ったことで、
先生は母性を知り、また少し安定していった。
その前に先生が母性を知ってしまうことは物語上 許されず、
その家に女性がいると先生が実家に帰りたくないぐらい佐々家への依存を強めてしまうからだろう。
佐々(父)との再会の場面は、上手く演出されている。
そこかしこに伏線を設けていて、話の運びが不自然ではない。
ただ前述の通り、佐々(父)の一馬への思いは ちょっと不自然で、
お互いにとって忘れられない思い出になったことは確かだろうが、
先生側も「父さん」と呼ぶのは違和感があるなぁ。
先生にとっては義母が母で、佐々(父)が父なのかなぁ?
これ以上 自分が傷つきたくないから実父を徹底的に避けているだけの気がしてくる。
まさか「病気」による再会が定番の先生ですから、
実父も病気になるパターンじゃないでしょうね…。
回想回が終わった後は、安心と安全と退屈の日常回。
物語の終盤に先生がヒーローになって駆け付けるだけです。
暗闇で抱きつくのも以前、お化け屋敷でやったし(その時は翔馬だったが)既視感ありあり。
その中で面白かったのは、
文化祭回で、同級生特権を使って文乃と一緒に回る翔馬の先生の対抗策。
それは学生服を着ることによっての年齢詐称(金田一蓮十郎さん『ライアー×ライアー』か!)
これもヒーロー作戦の一環なのですが、
まだやり残したこと、やっていないことの間隙を突く構成で感心してしまった。
翔馬と、そして悪漢の手から文乃を奪取して、
制服姿の2人が屋上で告白する。
普通の少女漫画の胸キュン場面が再現されています。
そして恋愛最終決戦の参戦を決めたのは翔馬。
夢の中で文乃に告白される翔馬。
キャミソール(?)の肩紐が片方 外れながら翔馬に迫る文乃。
そして彼女は彼を押し倒す…。
「最悪…」と目を覚ましてますけど、これ ただの願望で、そして単なるエロい夢ですよね。
文乃が夢に出てきたことが最悪なのではなく、
夢から覚めて自分が(性的)興奮していたことに気づいたことが最悪の心境なのかもしれない。
実は文化祭で他校の生徒からも人気を得た翔馬。
それを鬱陶しく思う翔馬は、文乃を偽装彼女に仕立て上げて、それらを駆逐する。
先生から贈られた文乃の指輪を人質ならぬ物質(ものじち)にして彼女を従わせる。
指輪は文乃の先生への気持ちで 彼女を「妻」に束縛するもの。
それさえなければ夢が現実になると思ったのだろう。
当然、先生の逆鱗に触れ、「地獄の まーくん」発動。
「今すぐ尾白(おじろ)家にカチコミに」行くと意気揚々の ご様子。
ただ、行けないくせにね、と先生に冷淡な私は思う。
もしかして父が在宅なのではと思うと彼は動かないでしょう。
「地獄の まーくん」は内弁慶の逆の外弁慶。
外では最強と恐れられても、内では借りてきた猫。
弱虫先生の大言壮語は いつか治るのだろうか…。
そして恒例の「落ちる」シリーズ。
今回は翔馬の親衛隊から嫌がらせを受けた文乃が水に落とされる。
それを助けようとした翔馬の手からは物質(ものじち)であった指輪が落ちる。
翔馬は指輪を身に付けていない文乃を、
そして またもや絶妙なタイミングで どこからともなく現れる先生は指輪を死守する。
自分も その人のことを助けたのに、
彼女の頬を赤く染めたのは兄の捨て身の行動。
そして兄のために一目散に動き、
自分の手の中から すり抜けていく彼女。
敗北感と共に湧き上がったのは、彼女への確かな気持ち。
翔馬の正式参戦が決定されます。
ここまで長かったですねーー。
文乃から指輪を取り上げた翔馬を先生は手を貸してもらう振りをして池に落とす。
姑息。
そして もしかして人についた匂いを気にする先生ですから、
その直前に翔馬が文乃を抱きついていたことが許せないのかもしれない。
これまで文乃についた他の男の匂いはシャワーで洗い流していたが、
今回はシャワーが無いので 池に落としたのだ。
これで全てを水に流した、ってか(笑)