《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

教室に階段に廊下に、屋上に校庭に体育館に、私が私でいた思い出が染みついているよ。

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岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第09巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

ますます快調、学園青春ファンタジー!
緑峰山の天狗の娘・秋姫は、怪力で大食いだけど、心は乙女の女子高生。幼なじみの瞬ちゃんと修行しながら高校に通っているが、最近、自分の中に潜む天狗の力にちょっと不安を感じ始めている。
瞬ちゃんへの恋心をはっきりと自覚した秋姫は、クラスメイトのミドリちゃんや金ちゃんと片想いを告白しあう。夏休みが終わり、校内は学祭ムード一色。学祭最後のフォークダンスに向けて、カップル誕生の予感…!?
ラブパワーと天狗パワーが炸裂する、待望の最新第9巻!

簡潔完結感想文

  • 文化祭直前。女子生徒たちはそれぞれ「ほんとの恋」を見つける。空に虹はかかるのか⁉
  • 少し不思議な文化祭。青い鳥を探しに空を飛ぶし、魔法に掛かったシンデレラにもなる。
  • 「手をとって、そのままで」いたら好意が雪崩れてきそうな瞬間。だが物語は天狗の道へ…。

間界における恋愛方面の事象が1日の中で結実する 9巻。

『9巻』は ほぼ丸ごと文化祭回です。
そして秋姫が天狗 ⇔ 人間を行き来していた物語の、
最後の人間メインの話という位置付けでしょうか。

文化祭は奇跡みたいな一日。

主人公の秋姫(あきひめ)、そしてクラスメイトのミドリちゃんと金(きん)ちゃん、
主にこの三人の恋模様が描かれるのですが、
どれもこれも素敵な「ほんとの恋」で、胸がいっぱいになる。

そして何と言っても文化祭の描きこみは圧巻の一言。

ページやコマによっては『ウォーリーをさがせ!』かってぐらい、人で溢れかえっている。

巻末の情報を読み取る限り、『9巻』の収録話数は5話分なんだけど、
この内容を雑誌掲載したのは10ヵ月分っぽいのですが、
これは雑誌掲載だと1話が前後半に分けられてたんですかね。

リアルタイム読者には長い10ヵ月だったでしょうが、
私のように後年 読む者にとっては、クオリティを優先してくれたことに感謝。

高校1年生の去年は準備が長くて、本番は1話分でしたが、
今年は準備に1巻、本番に1巻と2巻分 使っている。

去年より一層 内容が充実している文化祭の永遠の一日を、
紙面の隅から隅まで読み込むことで何度も味わえる。
これぞ漫画ならではの楽しさですね。


化祭は恋のお祭り。

これまで、秋姫のカリスマとして君臨してきたマディこと万里小路(までのこうじ)が一つの計画を実行に移す。
そのために必要なのは瞬ちゃんらしくて、マディは瞬ちゃんに急接近する。

…というのはミスリーディングなのだが、その光景を見て心穏やかじゃない秋姫。
確かに美人で気立ての良いマディは、その裏で腹に一物抱えていてもおかしくないキャラだもの。

そんな秋姫の変化をつぶさに感じ取った瞬ちゃんは、
怪我をした秋姫を手当てしながら本音を聞き出そうとする。

この後の問答は、本書の中でもかなりの名場面じゃないでしょうか。
(言うのも恥ずかしいが)泣きました。

初読時には そこまで心に響いたわけじゃないんですけど、
再読してみると、交わされる会話に一気に胸が詰まってしまいました。

我を通すだけじゃない秋姫の心持ちも、
自分の前で秋姫が我慢している状況を好まない瞬ちゃんも全てが愛おしくて。
再読の際は、初読時よりも大きな愛をもって本書に臨んでいる気がしますね。


ちなみに怪我の治療は少女漫画の様式美ですね。
更には、どの漫画でも保健室に養護教諭がいないところまでが様式美(笑)

これは明らかな看護と看護される者の立場が明確になり、
その人の気持ちに触れ、本音を引き出しやすいという効果があるのでしょうか。


この保健室の一件を通して、一層 明確になる秋姫の瞬ちゃんへの気持ち。

親友のミドリちゃんにとっては、ようやくといった感じでしょうか。

ミドリちゃんは、ずっと秋姫と瞬ちゃんを見てきて、
特に瞬ちゃんの気持ちが誰にあるのか最初から分かっていただろう。
だからと言って余計なお節介をしないところが、彼女らしい快適なドライさで良いですね。

見守る側として歯痒く感じるところもあるだろうに、当人同士の成り行きを見守ってくれています。


んなミドリちゃんのバレンタインデーの様子が半年以上遅れて判明する。

結果は「つきあうとかピンとこなくて…」という返答。

ミドリちゃんは一人でも生きていけるよ、
などと慰めにもならない失礼な言葉を掛けようと思ったら、
想い人・ユカリ君の言葉は決して好意を否定していないことに気づかされ…。

ミドリちゃんの話もまた、この漫画ならではの想像力が爆発した良い短編である。

幸せの青い鳥のモチーフを巧みに取り入れて、
そして2人の心が通い合う会話も素晴らしい展開だ。

バレンタインデー以降、ユカリ君に対して ちょっと やさぐれて、
心の声が漏れ続けているミドリちゃんが可愛らしい。

数ページ前には「走るなんてナンセンスよね」といっていたミドリちゃんは、
青い鳥になったユカリ君を追って、廊下も階段も全速力で走っていた。
土壇場では ちゃんと本音を言って、
幸せを自分から掴みに行くミドリちゃんが愛おしい。

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運動は苦手だし、走りたくない。でも、鳥になったユカリ君は私が捕まえたい。

そして金ちゃんの恋も進展する。

金ちゃんの話のモチーフはシンデレラだろうか、
それとも美女と野獣だろうか(金ちゃんには申し訳ないが)。

この回の見どころは一世一代の告白シーンですね。
まぁ、彼は去年も同じことをしたと言えるんでしょうけど、
上手くいった公開告白は、こんなにも周囲から祝福されるもんなんですね。

かの名作恋愛ケータイ小説『虹恋』のご利益でしょうか…。


だでさえ人や物事が入り乱れている文化祭ですが、学校外からの来客も多い。

文化祭は眷属見習いに加えて、眷属神様も人型になって学校に集合。
年長のはずの眷属神様たちはなぜか子供の姿になっている。

ちなみに四国の天狗・栄介(えいすけ)に付いている
フクロウの眷属神・福山(ふくやま)様らしき人は背の高い男性の姿。
けど福山様は今回は顔見せがありません。
ちなみに名前の通り、福山様は「ましゃ」のモノマネが出来るらしい(笑)

こういう新たな登場人物の増加はきっちりと制御されていますね。
各人に一番おいしい場面が ちゃんと用意されている気がする。

そういえば秋姫の父・康徳(こうとく)様も夫婦で文化祭に来ていた。
背が際立って高いので目立つが、康徳様は元が人だから人型にはなれないのか?
秋姫が天狗になりたくないのも天狗になったら元に戻れない、という点にあるのだろう。


して夏休み中ずっと練習していたダンスの本番がやってくる。

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手を繋いで目の前にいるのは兄弟のように育った人ではなく、好きな人だと気づかされる。

2人の間を流れる良い雰囲気は、
またしても恋愛リセット機能を持つマディによって阻まれる。

瞬ちゃんはマディに弱みでも握られているんですかね。
キッカケとなる描写は なかったはず。
一番の可能性は西城(さいじょう)への友情か?

ダンス後に瞬ちゃんがマディに付き添ったのは、
秋姫の髪にお花を挿してくれたお礼だとは思いますが。


てが上手くいって大団円を迎えようとした文化祭の終盤、
奈良からの刺客が悪意をもって秋姫に近づく。

再読すると これは次巻への前振りなんですね。
奈良への修学旅行でいきなり襲撃されるのではなく、
段階を踏んで、秋姫たちに近づいている構成が上手い。

いよいよ日常編との お別れの時が近づいている。

ただ、この須賀(すが)うらら の存在によって、
文化祭終盤が一層劇的になったのも事実です。


そういえば、瞬ちゃんは高校生活の2年目は一段とリラックスしていますね。
割といじめっ子で笑える。


そして、秋姫のクラスが準備した首が並んでるお化けやしきの中に、
浦沢直樹さん『20世紀少年』のともだちのマスクを発見。

作者は浦沢作品好きなんでしたっけ。
先日(2020年10月)、テレビで競演されてましたね。


巻末にはショートストーリー「町でうわさの…」が7編収録。
簡単に感想を書いていきます。

1.赤沢ちゃんが なぜか持っていた犬用のエサが、2の三郎坊の話に繋がるのか。
2.新顔・十郎坊はミドリちゃんの父親が密漁で連れてきて動物園にいるという設定…。
3.男女の興味の違い。異性の話はつまらないという点では意見を一つにする秋姫と瞬ちゃん。
4.栄介坊っちゃんの孤独。天狗とは仲良くなれないが、その他の学校生活は満点のご様子。
5.生真面目な五郎坊の悩み。タケル君と仲良い。そしてタケル君がマトモなことを言ってる。
6.『虹空』からの恋バナ。来世・前世・天国編・未来編・妹編・王子編、広がる虹空ワールド。
7.男子たちの恋バナ。夫への恋愛感情は20年前に置いてきたマダムたちの辛辣なご意見。