《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

君が言ったことも忘れてしまうような一言が、俺の人生をずっと支えている。

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岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第03巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

待ちに待ったタケル君との初デートで、赤飯ビーチに出かけることになった秋姫(あきひめ)。でも、山と空では無敵の天狗パワーも、海となるとちょっぴり不安。秋姫には内緒で、康徳(こうとく)様から、ふたりを見守るように言われた幼なじみの瞬(しゅん)は、お山の見習いと同級生たちを連れて、秋姫の後を追うが…。大人気青春天狗ファンタジー、第3巻!!

簡潔完結感想文

  • 日常回SP。デートに選挙に牽制。女子高生ライフは目まぐるしい。天狗成分は少なめ。
  • 勉強回。勉強を好きになるキッカケは誰かが褒めてくれること、そしてそれを自信にすること。
  • 不在回。立派な天狗になるため学校に瞬ちゃんがいない。そんな中、事件発生。探偵は あたし⁉

狗 寄りになった『2巻』からの揺り戻しで女子高生ライフ全開の 3巻。

この法則性から言うと『4巻』は天狗 関連の話ばかりになるのかしら。

『3巻』は いよいよ何も起こらない日常巻といったところです。

主人公・秋姫(あきひめ)と交際相手・タケル君の交際も なかなか順調。

『3巻』のイベントは、タケル君との海デート。
2学期最大のイベントである学祭の担当決め。
中間テストの勉強回。
親友・ミドリちゃんの生徒会選挙出馬。
そして、その当選を願ってタケル君が制作したダルマの陥没ミステリ。

ところどころ本書ならではのファンタジー要素も入るが、
大半は学校を舞台としており、秋姫の念願であった女子高生ライフが語られる。

小さな いざこざ を経て結束していく同級生たちの姿。
こういう日常回があるからこそ、天狗関連との対比が生まれる。
そして、日常の積み重ねが青春を作っていくのである。


ずは、秋姫が あれだけ嫌だった天狗の修行までして臨んだタケル君との海デート。

冒頭から面白い。
海に向かう電車の中は、競輪の開催日と重なり、オジさん臭が蔓延。
そして、海の最寄り駅を出てすぐにある歓楽街。
歓楽街、というか名前が「ドピンク横町」というだけあって、大人の街である。
どうやら競輪で一発当てたオジさん共が浪費するための街らしい。

そしてそんな歓楽街に目を奪われるタケル君。
彼にとっては初めて見る歓楽街なのかもしれないので興味津々。

秋姫をはじめとする女子生徒も欲望に正直だが、
男子もまたそれを隠さないところが面白い。


んな2人の姿を見守る8人の男女。

娘を溺愛する大天狗・康徳坊(こうとくぼう)の要請に従って、
同級生の瞬(しゅん)ちゃんをはじめ、眷属見習い3人、計4人が男性陣。

女性陣は親友のミドリちゃん、同じ境遇の天狗の子・モミジ、そして同級生たちの計4人。

彼らの目的は秋姫の帰宅時間厳守のみ。
だから ずっと彼らを監視しているわけでもなく、彼らは彼らで海で遊んでいる。
こちらはこちらで、さながらグループ交際みたいな感じである。

そして電車に乗るために動物である眷属見習いたちが人型に変化。
更には今回は面を外しているので、初めて顔を出す者も登場。

人間とは違う思考で動いている彼らの会話が面白い。


しくなるはずの学祭に暗雲が立ち込めるのが、その役割決め。

「ダンス」の部門では男子とカップルになる確率が高いため、
5人の定員に対し、女子生徒ほぼ全員が希望する事態に陥り、一気に教室が険悪に。

このクラスの女子生徒は恋人を作りたいという欲望が高すぎる(笑)

その割には、誰もが狙っていたタケル君と秋姫がカップルになっても嫌がらせ などしない。

竹を割ったような性格の人が多いのか、
ただ恋人が欲しい、両想いになってみたい、という目的重視なのか(秋姫も含め)。

いつだって女子生徒の仲を深めるのも、引き裂くのも恋愛なのです。


女漫画では定番の彼氏との勉強回もあります。

ただしタケル君は秋姫よりも成績が悪いので、先生役は瞬ちゃん。

秋姫が瞬ちゃんを お山から呼ぶ手段が面白いです。
ちゃっかりしている というか、自分が お山の面々に愛されていることを自覚しているというか…。

この何気ない勉強会で幸福を感じる場面が転がっているのが本書ならではです。

瞬ちゃんが タケル君と会話して、普通の男子高生のようにツッコまれたり、じゃれていたりすることに感動を覚える秋姫。

高校の進学は秋姫の希望で、瞬ちゃんは心配性の父・康徳坊の要請に巻き込まれただけだが、
この場面が見られただけでも、瞬ちゃんが高校に進学した意味があったのではないか。

そして、もう一つ。
この瞬ちゃんとタケル君の何気ない会話が、人生を支える一言になっていることを、
全巻読んだ上で再読している私は知っている。

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『3巻』のメインは男の友情。人も天狗も分け隔てないタケル君だから瞬ちゃんにツッコめるのかも。

この言葉が、あの場面に繋がる。
信頼と友情が、ここにある。
このページと、最終盤の とあるページを続けて読むと、もうそれだけで涙腺が決壊します。

女子生徒の友情だけじゃなく、男子生徒の友情も確かにあるんです。

そして その友情があるからこそ、タケル君は瞬ちゃんに とある言葉を発する。

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男同士の会話。相手を牽制するどころか、自分の潔癖を宣言するタケル君。

秋姫に2人の会話の内容を問われた記憶力抜群の瞬ちゃんが、彼女には「忘れた」と言う。
これは彼女を気遣ってのこと? それとも、思い当たる節があるから言えないこと…?

ちなみに、このタケル君の清廉潔白宣言。
秋姫には悲しいお知らせと思われる…。


っと好きだった生徒会長の紫(ゆかり)君に懇願されて生徒会選挙に立候補したミドリちゃん。

だが、無投票当選だと思われていた選挙に他の立候補者が出た。

元来 冷静で体温の低いミドリを差し置いて、選挙活動に熱が入る女子生徒たち。

恋愛が絡むと仲違いしてしまいますが、本来は一丸となれる人たちなんです。

一方で恋愛が一歩進展したことでミドリはやる気を出し始める。
自分には協力者がいることを実感したミドリは変わり始めていく。

言い方は悪いが、応援することに酔いしれている女子生徒たちと違って、
常に冷静な分析と助言をする瞬ちゃんとミドリちゃんの関係性がクールですね。

そういえば、上記の海デートではミドリちゃんが瞬ちゃんに彼女らしからぬ助言をしていましたね。
なんだかんだ言って友達思いなんです、ミドリちゃんは。


後に収録されている話は、さながら「学校の怪談」である。

霊感少女たちが、教室に飾られていたダルマを陥没させた犯人を突き止めるミステリでもある。

また、ミステリとしては探偵役不在の、助手が張り切る番外編のような話。

というのも、冷静沈着・頭脳明晰の探偵・瞬ちゃんは、
天狗方面の所用で1週間 学校に来れないのである。

困った時はいつだって隣にいてくれた人の幻想を見る秋姫。
高校は付いてきてくれたけど、これから どんどん時間を共有することがなくなってしまうのか…。

事件の内容の伏線は『3巻』1話目の海デートにあるだろうか。

ひとえに日常回といっても様々なバリエーションが用意された『3巻』。

夏休み前から学祭の準備であったり、
ミドリちゃんが生徒会に入ったり、
変わらないようで少しずつ変わっていく毎日なのです。