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少女漫画と小説の感想ブログです

モンスター学園で唯一の人間から伝説の存在に種族が変わるが、どちらにしろ狙われる。

ラブ・モンスター 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
ラブ♥モンスター
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

黒羽とケンカしたヒヨ子は、タマキのすすめで女子寮に泊めてもらう事に。女子寮はクイーンと呼ばれる寮長のバースデーパーティーの準備中。メイドとして下働きすることになったヒヨ子は、希少な花「闇月草」を探しに出かけ…

簡潔完結感想文

  • 束縛しがちな黒羽と喧嘩ばかりで家出を繰り返し、災難に遭うを繰り返す。
  • 黒羽の兄が登場し彼の生い立ちとヒヨ子との過去の接点が明らかになる。
  • 当人以外が決めた婚約話に巻き込まれたヒロインだと思ってたら自業自得。

やっぱりヒロインは伝説の存在にしたい宮城作品、の 文庫版2巻。

少女趣味が全開だからこそ少女たちの愛読書たり得る宮城作品。『1巻』ではヒロイン・ヒヨ子(ひよこ)が入学した学校で、その学校の絶対権力者である生徒会長・黒羽(くろう)から勝手に婚約者扱いされて、セクハラを受けながら一風変わった恋愛と学園生活を楽しむ、という夢のような展開であった。
その上「最弱が最強」になる展開を好む厨二病の作者は前作『花になれっ!』と同様にヒロインに特別な地位を与える。それが伝説の「白カラス」。生徒も教師もモンスター=妖怪ばかりの この学校で最強の存在は黒羽のカラス天狗だったが、ヒヨ子は同じカラス天狗でありながら その羽が漆黒ではなく純白で、それにより一気に この世界で稀な存在となった。

羽が白いことでヒヨ子は天狗というより天使にも見え、これもまた自分が清らかな存在であることを夢見る少女たちの心を掴む。ヒロインに価値を付与することで読者の承認欲求は満たされ、更にヒヨ子が決して賢くない、というより むしろバカでありながら伝説の存在になることで人生イージーモードを追体験できる。『1巻』でも言及したが、この辺は本書の連載終了後の転生ブームと その展開を先取りしていたと言えなくもない。私が読んだ2024年以降でもアニメ化したら展開が時代に沿っているからヒットするかもしれない。


初、モンスター学園の中で希少な女性、しかも唯一の人間としてヒヨ子は学校内の男子生徒から狙われていた。彼らを欲情させてしまうことでエロいシーンが作られ、そこも刺激を求める少女の欲求と合致していた。
それ以降も黒羽の お気に入りとして女子生徒に やっかまれて騒動に巻き込まれる。『2巻』の冒頭も その種の話である。

しかし『2巻』中盤でヒヨ子の種族が明らかになると、今度は それを理由にヒヨ子は狙われる。こうしてヒヨ子が他生徒から嫌でも注目され続けることで、新キャラが登場し、彼らの正体である妖怪の特性とマッチさせた話が展開する。ヒヨ子が狙われ続ける流れは変わらないのだが、当初の新入生の目新しさという理由から この辺から生徒会長のお気に入り、そして伝説の存在だから と狙われる理由がスライドしているのが面白いと感じた。序盤や『花になれっ!』は男性キャラからのセクハラにヒロインが耐えるだけの話で好きではないが、性的な理由でなく嫉妬や金儲けに利用される様子は気の毒にも面白く読めた。
連載も波に乗ってきたことで、新キャラ1人にかける時間が長くなってきている。連載1回分で楽しめる内容を盛り込みつつ、次が気になる終わり方をさせていて、気がつけば一気に かなりの量を読んでいたりするので作者の技量に感服するばかりである。単なる自己満足や自己陶酔に終わっていないから、その種の自我が邪魔せずサクサクと読めてしまう。

様々な理由でヒヨ子が狙われて物語は展開していく。キャラクタ数も増える一方。

してヒヨ子の恋愛感情の描き方も上手い。『2巻』ではヒヨ子が黒羽への好意を少しずつ認めて感情にグラデーションがあるし、それと同時に彼女の才能が少しずつ開花するというリンクが見られる。

中盤ではヒヨ子の婚約の真相が明らかになるし、彼女も知らない彼女の正体が明らかになる。そしてラストではヒヨ子が元の世界に戻れる機会を得ながら、それでも黒羽のことが胸に引っ掛かり、彼女は この世界での生活に天秤を傾ける。これまで好意やセクハラに対して迷惑そうにしていながらも満更でもない様子を見せていたヒヨ子だったが、今回 初めて自分で何かを選ぶことで、自分の気持ちに決着をつけていた。これまでの学園生活でヒヨ子が黒羽だけでなく、この生活自体にも愛着が湧いたのだろう。この辺は作中で時間が経過したから描ける要素である。

この辺もイケメンからのセクハラ被害のオムニバス作品に成り果てた『花になれっ!』とは違う点で、ちゃんと物語に縦軸や時間の流れが存在している。 これからはヒヨ子の羽の大きさや能力の使い方などで彼女の成長の度合いが分かるのだろう。いつしか最強ヒロインとして凛々しく立つ姿が見られるかもしれない。

ただし展開は似たり寄ったりかな、と思う。特に1つのエピソードの終わり方が似てしまっている。強力な結界や能力に対して黒羽が自分を犠牲にしながらヒヨ子を助け出すか、ヒヨ子自身が無敵のパワーで問題を解決させてしまうかの二択である。バトル漫画じゃないから しょうがないが戦いが味気なく、キャラが違えど結末は同じということが多かったような気がした。


き続き ヒヨ子が入学し、彼女が生徒会長である黒羽の お気に入りである余波が語られる。

ヒヨ子を自分の物として扱う黒羽の部屋を飛び出して女子寮でお世話になるヒヨ子の前に「クイーン」が現れる。クイーンは女子寮の絶対権力者だそうだ。女子寮は人間関係の摩擦があるらしく、計算高い化け猫・タマキも苦労している。本来はヒヨ子も こうやって人間的に揉まれるべきだが、彼女には特権だけが与えられていく。

初めての女子寮で嫌がらせを受けるヒヨ子だったが、そこで出会った瞳(ひとみ)という女性に助けられる。実は この女子寮の本当の権力者である瞳と仲良くなることでヒヨ子は女子生徒に嫌がらせを回避する。男子のセクハラに対して黒羽が目を光らせているように、女子からの嫌がらせは瞳が守る。こうして二大権力者に気に入られることでヒヨ子の学校生活は保障される。ちなみに瞳はヒヨ子が気に入って女子寮から出てきて同じクラスの生徒として授業を受けることになる。
そして このエピソードでもヒヨ子の秘められた才能の片鱗が見えて、彼女こそ最強だという布石が打たれる。

 
いては黒羽の兄・疾風(はやて)が登場。

この兄は物語に過去を付与して、このエピソード中にヒヨ子は黒羽の過去を知ることになる。
今でこそ学校最強の妖怪として君臨する黒羽だが、彼はカラス天狗の子として生まれながら誕生から何年も背中に羽がはえなかった。飛ぶことが出来ず、しかも身体も弱かったため、育てる意味がないと一族から見捨てられた黒羽。だが理解のある祖父によって黒羽は拾われ、そして やがて羽を手に入れた。その羽の獲得にヒヨ子が関わっているようだが、彼女自身は何も覚えていない。

しかし弱かったからこそ優しさが芽生えた黒羽とは違い、ずっと弱肉強食の世界で生きてきた疾風は加虐の傾向が強く、この学校の生徒を暴力で支配しようとする。そこで兄弟対決が始まりそうになるが、疾風はヒヨ子を奪って飛び去ってしまう。『1巻』で黒羽は強いからヒーローであり続けると書いたが、話の展開上、何かとヒヨ子と離ればなれになっていることは多い。

疾風に連れ去られるヒヨ子は暴れ、空中から落下する。その絶体絶命を彼女は自分の力で救う。一瞬だけ白い羽が生えて落下のスピードを相殺したのだった。

黒羽は妖怪エリートではなく、努力して才能を磨いたと知り ちょっと好きになる。

の落下によってヒヨ子は過去の出来事を思い出す。それはヒヨ子と黒羽との出会い。
物心つく前にヒヨ子はカラス天狗である父に、黒羽の祖父の家に連れられた。そこで出会ったのが家族に捨てられ、ここで育った黒羽だった。この頃の黒羽は、羽のない自分を不吉なものだと思い込み心を閉ざしていた。それが生きる気力の低下に繋がり、彼の命は消えかけていた。

それを救ったのが3歳のヒヨ子。黒羽が友達を要らないというなら おヨメさんになると彼に約束したのだった。そして2人きりで山へ冒険した際、ヒヨ子が足を滑らせ、その彼女を救おうと黒羽は初めて羽を獲得した。しかし微力な黒羽の飛翔では2人を支えきれず再度 落下の危機となる。そこでヒヨ子も白い羽を出し、一瞬だけ落下を減速させる。

彼らを救ったのはヒヨ子の父。それから黒羽はヒヨ子との約束のため人一倍の苦しい修行を経験することで、その力を高めていった。典型的な才能に恵まれた俺様ヒーローに見えた黒羽だが、彼は努力によって妖力を増幅しており、最初からヒヨ子のために生きていたことが分かる。実は とても純粋でヒヨ子のためだけに生きているのが黒羽なのだ。


ヨ子は記憶を取り戻して混乱していた。これまでは勝手に進められた婚約話だと思っていたのに、その責任の一端が自分にあると思い出してしまったのだ。

しかしヒヨ子は自分が「幻の白カラス」であることに まだ無自覚。これはヒヨ子の羽についての記憶を何者かが封印したから。ヒヨ子自身は その能力を関知せず、無意識にしか羽を出せない状態である。まだまだ白カラスとしてはヒヨコのようだ。

ただ妖怪の間でレアな存在とされるヒヨ子の存在は学校の内外で瞬く間に噂になる。これまで ただの人間として学校内で ちやほやされていたヒヨ子だが、今回の騒動で伝説の白カラスとして もう一段階、生徒からの評価が上がる。そしてヒヨ子も強く念じれば羽が出ることを自覚し、自分が妖怪であることに混乱する。


の白カラス騒動によってヒヨ子を狙う生徒が学校内に出てくる。羽は高価で売れるらしい。妖怪は、性欲や権力欲、そして金銭欲と自分の欲望に正直である。だからこそ黒羽のように実力行使で生徒を黙らせる存在が必要なのだろう。

女子生徒に その羽を狙うことを命令された妖狐のコン太(こんた)。そんな彼がヒヨ子を好きになってしまうという、黒羽にとって最初のライバル登場というエピソードとなる。ただし子供のように小さかった男性が大きくなるのは『1巻』の保健医の話と似ているし、作られた不可侵の結界を破るという話も以前 読んだ。

これまでと違うのは巻き込まれるばかりだったヒヨ子が、コン太の能力によって人間界に戻れる機会を得る。それでも彼女は黒羽のいる この世界を選んだというのが、彼女の心を示している。これまで口では黒羽を拒絶していたヒヨ子の態度が今後どう変わるか楽しみである。