《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

消したいけど消せない過去の過ち。主人公も作者も もう一度 大輪の花を咲かせるために…。

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第12巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

みどり の実父・五島との もみあいが原因で、時緒が失明の危機に!!
うろたえる みどり に、時緒の養父は「時緒と縁を切れば、手術を受けさせる。」と告げる。
ただ時緒の幸せを願い、みどりは別れを決めるが…。
大切な人への深い愛が、探し求めた楽園(エデン)に大輪の花を咲かせる。
運命の愛の伝説、感動の最終章。
時緒のSF(サンフランシスコ)時代を描いた番外編も収録。

簡潔完結感想文

  • 大切な人を守るために その人を遠ざけてしまう。傷つけ、失った記憶がそうさせてしまうのだ。
  • 外から見たら もう花をつけることをはないと思われた花も手を掛け続ければ、いつか咲く。
  • 番外編。アメリカでの時緒の生活をトレース。バスケ漫画をトレース。これさえなければ…。

分の手がどんなに汚れていようと、もう一度 咲き誇ることを目指す 最終12巻。

考えてみれば、本書で「呪われた子」として過去に苛まれる主人公・みどり と、
本書のトレース問題で一度 漫画家生命が尽きかけた作者は似たような状況なのか。

自分の してしまった過失は、どうやっても消えない。
その罪の意識にどうやって向き合うのか、という点が似ている。

みどり の場合は、最愛の人、兄の時緒(ときお)から
光を奪ってまで彼と生きる道を選ばないと決めた。
「もう会わない 会いたくない 全部忘れたい」
安直な逃避かもしれないが、周囲の人を傷つけてまでする意味を見出せないのも分かる。

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この場面、時緒が乱暴を働いて第二の義兄になるのかと思いましたよ。誤解&誤読ですが。

物語の最終盤、若い みどり と時緒には果てしないと思われる
数年間という時間をかけても、
自分たちが世間に顔向け出来る状態になるまで、
性急な行動をしないよう、自制と地道な努力を重ねていった。


作者の場合なら「もう描かない 描きたくない 全部忘れたい」だろうか。

1年半の休筆を経て、再出発をする作者の心境も みどり と同じだったかもしれない。
自分を迎えて入れてくれる人がいること、
好きだという絶対的な事実、
それらが改めて明確に心に湧き上がり、苦境の時も支えになるのだろう。

漫画の中で人の過失と再生を描いていたことが、
作者自身の再生の手掛かりに なっていたりしたら面白い事象だ。


終『12巻』は少女漫画のお決まりのコースという感じですかね。

最後の大きな事件から手堅くまとめたエンディングだけど、既視感が否めない。
読者の心を揺さぶるドラマチックな技法・演出は他の人には真似できない。
人の情感に訴える技術は本書で大きく向上した点ではないか。


『12巻』での みどり の発言は、ほぼ全てあっという間に撤回されます。

ただ、今回のみどりの行動は感動を呼び込むために作者側が設定した
事前準備としてのマイナスなので、みどり自身を責めることはしません。

相変わらず学習しないなとは思いますが…(責めてる)

もちろん、あんな事件の後で愛する人も不幸にしながら、
自分の気持ちを優先しないのは、みどり が理性的だからでもある。

自分よりも時緒のことを優先する、そんな彼女だからこそ、
もっとも彼女を憎んでいる育ての親・二階堂(にかいどう)のパパでも憎めないのだろう。


終巻は みどり と時緒を取り囲む人々の反応が読みどころでしょうか。

これまで登場してきた人たちの多くが再登場します。

まずは時緒の育ての親・二階堂夫婦。

二階堂ママは、家族での食事に、みどりも誘う気遣いを見せており良い人そうですね。

二階堂パパも、親友の息子を実の息子のように思い一緒に過ごした13年間、
時緒は ずっとロボットであって家族になってくれなかった という心情の吐露が切ない。

同居している人に、自分が好きな人に、
いつも遠くを見つめられていたら、周囲の人は たまりませんね。

家族として招いているのに、妹という家族のこと、
ここではないどこか、失われた楽園ばかりを見つめる時緒は罪な奴です。

彼に罪があるとしたら、過去に拘泥し現在を見ない、この視野の狭さですかね。
だから、こんな罰を受けたのか⁉


どり の周辺では、みどりと別れて以来、完全な部外者となってしまった元カレ・羽柴(はしば)。

一時期は物語の中心付近にいたんですけどねぇ。
後半はめっきり活躍の場面が減りました。

あの事件後も変わらず彼は若月兄妹を気遣い、無人となった彼らの自宅を何回も訪問する。
どうやら週刊誌の記者たちも張り込みをしていて、
彼らがホテル暮らしをしているのは正解だったのだろう。


そんな羽柴には役割がもう一つ。

みどり の新しい高校の寮への引っ越しの朝も、
直接会うことなく別れた時緒と みどり を繋ぐ役。

これは時緒に彼氏として見込まれていたから出来る彼の役割かもしれない。

そして みどり のことを真摯に想っている彼だから、その言葉がみどりに届く。

でも羽柴のみどりの好きなところには笑った。

「おれは不器用で自己中でワガママな君が大好きだった」

そうなんですよ。自己中でワガママ。
短所までも愛せる君は素晴らしい。
当て馬界最強の人だと私は思っています。


用務員のおじさんも最後までいい味を出してましたね。
彼の みどり を思う気持ちが詰まった手紙も、みどり の心を動かした要因の一つ。

みどり が渡された一株のバラが、エデンの花なのだろうか。

この花をどう育てるかが、今後の みどり の人生。
今は葉が一つも付いていなくても、諦めなければ、やがて花は咲く。

クラスメイト宮田(みやた)・織田(おだ)両名の扱いは軽め。
もはや前半のイジメは懐かしい記憶の中の出来事だ。


柴が時緒から託されたものは、時緒が みどり に貸していた あの時計。

少し前に時緒に返してしまったものの、
その時計が腕にあることで孤独な学校内でも みどり は兄の存在を感じ続けられた。

兄もまた然り。
あの時計は学校生活の中で自分の代わりに みどり を守るものだった。

そして「あなたがいないと止まってしまう」
オートマティックな時計は時緒からの改めての愛の告白か、プロポーズか。

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価値も分からず使っていたあの頃と違い、この腕時計に込められた気持ちを今なら分かるから…。

そして、その気持ちを受け取った みどり は、時緒が旅立とうとしている空港へ。

上述の通り、お決まりのパターンだが、
ユニークなのは離陸準備に入った飛行機の止め方。

ネットニュースになって炎上しそうな事件である。
金で解決したのかな。

でも考えてみれば、離陸が遅くなったために、
それこそ出産に立ち会えなかった、とか、
何事にも代えがたい損失もあったかもしれない。


そして数年の時間が経過して、エンディング。
2人はアダムとイブになって楽園に戻る。

会えない数年間が2人にとっての原罪を洗い流す懲役の時間だったのでしょうか。

難癖みたいで申し訳ないが、みどりが感じた罪悪感や躊躇が きれいさっぱり洗い流せているなぁ。
まぁ、最終回で悪夢にうなされて時緒の横で飛び起きるみどりなんて見たかないですが。

また欲を言えば、もう一度 東京タワーに行って欲しかった。
やっぱり始まりの場所はあそこなので、幸せになった2人として、
初回とは全く違う関係性で会話を繰り広げて欲しかったなぁ。


「エデンの花 番外編 -オートマティック-」…
7歳の時緒が、サンフランシスコの二階堂家に招かれてからの話。
あの腕時計にまつわる お話でもあります。

時緒の独立心と、正宗との友情がしっかり描かれた名編だと思います。

描かれるのは少年の頃から日本に帰りたいがために空港に行こうと画策していた時緒の姿。
また、時緒という存在を巡る正宗の葛藤も描かれています。

そして腕時計を購入するために、時緒が何で稼いだのかが判明。
IT時代の寵児だった訳ですね。

またプロマイドでも稼ぐ。
しかも正宗と怪しく視線が絡み合うものまで撮影済み。

だが時計の事件は時緒を悲しませる。

時計に込められた正宗の思いも初めて語られます。
確かに、このエピソードを知ると、
時緒が みどり に あっさりと時計を貸したのは驚愕の出来事ですね。

そして この腕時計は14歳の誕生日から、時緒が買い取るまで、
そして、みどりが時緒に返却する日まで誰かのお陰で動き続けていたんですね。

ここにももう一つの「きみがいないと止まってしまう」がある。


ラストは結婚式のシーン。
場所は、両親も結婚式を挙げた沖縄。
出席者には用務員のおじさんと宮田・織田 両名の姿も。

ちなみに、法的には兄妹だったと思われる続柄は、
「戸籍の問題は家庭裁判所行って解決したのよね?」「よかったわあ」
という二階堂ママの呟きで処理されています。


末の おまけ では更にその後の生活にも言及されている。
二階堂家の娘・紫(ゆかり)と羽柴は恋仲になるかもなんですね。
完結後のことなんで、ご自由に。
本編でやらなくて良かった。

正宗も大恋愛 間近らしい。お幸せに。


にしても、本書のバスケシーンがトレース問題の原因だという情報は入っていたので、それが番外編だと知った時は驚いた。

本編では羽柴がバスケ部に入部したのに、バスケシーンなかったですからね。

もしかして、この番外編を描かなければ、本書はずっと販売できていたのかなぁ…。


巻末の「Special Thanks」の中には「みきもと凜」さんと「渡辺あゆ」さんの名前がありますね。

そういえば私が読んだ『近キョリ恋愛』『L♥DK』はどちらも、
ラストはアメリカ行きを巡る お話と、空港のシーンだったなぁ。

掲載誌「別冊フレンド」あるある なんでしょうか。

にしても『L♥DK』の中盤で活躍した、ヒーローと家族同然に育った
アメリカ帰りのキャラの設定は色々似すぎだと思います(詳しくは『5巻』感想で)