《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君が少し見方を変えれば、君の周りに多くの味方がいることに気づくでしょ?

悩殺ジャンキー 10 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第10巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

ウミの母親が突然帰国!女装してモデルをやっていたことがバレちゃった。おまけに写真誌の記者が、ウミの正体を探ってつけ回す事態に!?とりあえずの緊急避難で、ウミはナカの家に泊まることになったんだけど…!?

簡潔完結感想文

  • ナカとベッドでいちゃついてる時に海の母が登場。女装モデル業もバレてしまい大騒ぎ。
  • ウミ男性疑惑で週刊誌記者に追われる海が行方不明。迷惑をかけまいと心配をかける海。
  • 疑惑を払拭するために手を取ったのは堤と、そして家族。器用で不器用で大好きな末っ子。

意識していなかったけれど自分には家族という心強い味方がいることを知る 10巻。

自分で道を切り拓いてきた海(うみ)が、
8人の仲間を集める「悩殺・八犬伝」(現在は7人)の仲間だけではなく、
年長の、自分を守ってくれる人たちの存在に気づかされる巻となっています。
海が安心できる場所がまた一つ増え、心が温かくなるお話です。


『9巻』のラストに登場した海の母。
ウミの活躍は海を渡り母が仕事をするドイツでもその姿を見られるようになっていた。
(といっても日本書店で日本の雑誌を見ただけだが)

モデルとして事務所所属時の契約は社長が父親を丸め込んでおり(悪徳事務所だ)、
頻繁に家を空けることの説明を家族には声優学校に通うためと偽っていた海が、
モデル、しかも女装モデルとして大活躍していることを初めて知った家族たち。

海は阿鼻叫喚、大混乱の家を抜け出して、一宿するためにナカの家に向かう。

だが、二人の仲は現在スキンシップ過剰が止まらない状態。
そして過剰の行きつく先は…。

ナカは無邪気なものだが、海は2つの意味で自分の中の男を嫌悪している状態。
男性化する身体、そして男性として異性を求める自分。
その2つの気持ちを封じるように男であること、男になることを拒むように行動する。


しかも運悪く、私生活での男の悩みが尽きない中、
仕事の面でもウミが男なのではないかと、週刊誌記者に嗅ぎ付けられる。

ここしばらくなかったウミ男説での危機回避です。

週刊誌側はお優しく「返事は2週間待つ」。
2週間後に行われるインタビューの前までに記事をもみ消すことが事務所側の目標。
それまでに海とウミが別人であることを証明すること、
それが今度のタイムリミット式ミッションです。

またタイムリミットですね。
ウミは制限時間をテーマにしているとはいえ多用しすぎです。
今回は性別バレ回避との両面作戦になっています。


ずっと週刊誌記者から尾行されているので、男の顔が出てしまうナカとは2人きりにならないよう事務所社長からお達し。
このところスキンシップが過剰気味だったので、お預けをくらって、欲望を抑えられた形になりました。

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一瞬で目の前から好きな人が消える。ナカにとっては恐怖だろうに。

そんな理由があるとはいえ、またウミが音信不通になります。
ナカとは4日も会っていない。

これも本書では大事な2人のすれ違い演出のためとはいえ、
ナカに理由を話さない理由が分かりませんね。
不信が募ってしまうばかりだ。

独力での解決を目指そうとするのは海の悪い癖だが、
2人の関係はいつまで経っても、同じようなことを繰り返していると進歩を感じない。


行方をくらましたウミは食事制限を始める。
男としての成長を止めるため、男としてのナカへの気持ちを止めるため。
成長の兆しを恐れ、自分自身と向き合うことも怖くなっている海。
2つの性を行き来することに加えて心身のストレスが増し、調子を崩し始めるウミ。


そんな海のピンチに表れるのは、決まって堤。
なぜなら似た者同士だから。
やせ我慢をして、自分を痛めつけてしまう者同士、話が早いのです。

連行されるまま堤宅で食事を提供され、仲良く並んで歯磨きをする。

その後、堤宅を一人で出た海は記者に突撃され、観念しかけたところに現れ、助けてくれるのも堤。

この場面、私の脳裏に浮かんだのは、歯も磨いて準備万端だから、
ウミを助けるため『いつぞや』の時みたいに、口を塞いじゃえばよかったのに、という展開でした(苦笑)

堤は敵に回すとやっかいだけど、味方だと心強い人の典型ですね。
ここにきて「八犬伝」の仲間っぽい活躍をしてくれています。


そんな堤が発案した作戦は、容姿の似ている海の兄姉を影武者として使うものだった。
学校中の人からも違和感を覚えさせない(というか読者にも絵だけじゃわからない)変装をする兄姉たち。
モデルという体型が命の職業に誰でもなれるんじゃないかという疑惑もありますが、
いつもは海をイジるだけの兄姉たちが、手に手を取って活躍する数少ない場面です。

作戦の成功に色々な人が関わっていることが嬉しく思う回。


一方でナカは行方不明中のウミの持ち物からウミの努力を知る。
図書館で猛烈なウミ研究をするナカは、
時系列順に仕事を追うことによって、ウミの表情に変化があることに気づく。

ただ、この私はウミこと何も知らなかった、というは何度目かという感じですね。
無自覚に海を傷つけるという展開も前に見たし…。
海が成長を望んでいないこともナカは当然知っていたはずなのに、繰り返されますね。


ただ、成長や時間の経過が悪いことばかりではない。
ウミと過去に因縁があるブランド「碧(へき)」のデザイナー・秋山 千緒(あきやま ちお)。
彼女の新ブランドのモデルにウミが指名されたのだ。
骨っぽさが加わった身体が気に入られたらしい。
時間の経過全てがウミを苦しめるものではない、という救済をもたらす物語に胸が熱くなります。

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これって「告白」ですよね。あれっ、「碧」という目標はどこに⁉

ナカのお陰で公私ともに順調に進み始めた海は、
その安心感からか、ナカに「好き」という言葉を使う。

あれッ⁉ それって「碧」のオーディション後に言うセリフなんじゃ、と私は目を白黒させてしまった。

これは、もうさすがに両思いにさせないと、と限界を感じた作者の路線変更ですかね。
そう思うと全体的に最終回のようなお話ですね。
今回の告白やラストシーン以上の質をもう一度、最終回付近で出せるかどうか。
作者の腕が試されます。