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地上にある星を 誰も覚えていない 人は空ばかり見ている『地上の星』

星上くんはどうかしている(5) (デザートコミックス)

アサダ ニッキ
星上くんはどうかしている(ほしがみくんはどうかしている)
第5巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

「似てない双子」と有名な2人の星上くん。兄・望はぼっちで、弟・求は学校の人気者。高校1年生の秋、三毛野いさりはクラスのために全力でがんばる望への憧れを募らせるが、一方で孤立を深める求を気にかけてしまっていた。文化祭後、2人から「自分を選んでほしい」と迫られたいさり。望の告白、求の本心、そしてどうかしている三角関係のゆくえは……!? 八方美人女子と似てない双子の胸きゅん三角関係ラブ、完結!

簡潔完結感想文

  • 望の希望。自分が好きなのは誰か告げる望。それに対する いさりの返答は…?
  • 求の探求。あの日の続きを探しに学校を休み いさりと電車に揺られる求。
  • いさりの望み。今の自分になら一歩が踏み出せる。踏み出せたら ほら また一歩。


早くも完結の5巻。でも「恋の大三角」はいつまでも私の心に輝いているよ☆

『前巻』のラストで、文化祭のイベント校内イケメンコンテストの投票用紙に誰の名前を書くか、星上くんたちに迫られる いさり。
退路を塞がれて止む無く用紙に名前を書く いさりだったが、その名前は意外なもので…。

と、『3巻』に引き続き、少女漫画お約束の逃げをまたしてしまう いさりだったが、この場面では卑怯や臆病という問題よりも彼女の計算高さが働いたと思われる。
どうも自分の懸案を解決する順序が必要だったのではないか。

というのもその直後、逃げ出した彼女を望が追いかけ、そして彼女に告白している。
ついにずっと想い続けていた人に想いが通じて晴れて両想いになった いさり。
嬉しさのあまり彼女は彼の胸に飛び込む、ことはせず、したといえば熱い彼の手に手を取られ彼の胸に指をあてて鼓動を感じたぐらい。
どんな状況であっても己の感情を伏せて自分の取るべき行動が取れる人、それが いさりなのである。


では彼女の取るべき行動は何かといえば、心に引っ掛かる求の存在。
といっても平凡な漫画のように両手の花の状況を楽しんでいるわけでも、二人の存在を天秤に掛けているわけではない。
恋心など己の胸に聞いてみれば分かるものだ。
登場人物に乙女チックな行動をさせない潔さも私が本書を好きな大きな理由です。


求に対して手を離すことが怖くてできないという いさり。そんな彼女の手を取る求の手は冷たかった。

求に提案されて朝一で乗り込む電車。その目的地は小学生の頃、たった一度だけ求が家出して辿り着いた知らない小さな駅。
家出は『1巻』でも語られた雨の日の出来事ですね。
このようにエピソードが二重三重に語られる作者の計算高さ、本当に好きです。
どのエピソードにも無駄がない。全5巻、これ以上でもこれ以下でもない十全な長さです。

その雨の日は実母が亡くなった日でもあるために思い出すのも避けていた求。
だが、この日の空は晴れており、隣には いさりがいる。
あの日、連れ戻されたこの駅の外には何があるのか。
自分の知らない世界に向かって求は歩き出していく…。

「あたしたちは今日ここに 求君を迎えに来たんだよ」

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この日を境に 求は偽りの自分を捨てる
実の両親の離婚以降、いい子を演じてきた求だったが、それは求の中の望を演じることであった。
10年ぶりの望との生活と いさりの出現によって自分が偽物であったことを思い知らされた求に、いさりは求の価値を教える。
滅多に口にしない求の感謝の言葉は眠っていても いさりに届いたはず。
本当に星上兄弟にとって いさりは偉大な人である。
説明過多なぐらいな説明で求のトラウマもちゃんと理解できる。
こういう事実を知って読者はまた『1巻』からの求の様子を読み込みたくなっちゃうんです。


続いては望にとっての 求といさりのお話。
あの家出の話も望側から語られ、望の中では救いになったことが語られる。
この辺も彼らの人格形成に大きく影響したんだろうなと推測する。

そして いさりの話。
序盤から気になっていた なぜ望は最初の友達に いさりを選んだのかが語られる。
このエピソードは清水(しみず)さんにとっても いさりの優しさに触れた瞬間だろう。
だから吾妻(あづま)たちにハブられた時に勇気が出せたのか。
どんだけお話作るの上手なんスか。

いさりと求が二人で遠出していることを気にしない風に気にしている望を、周囲が気遣う描写が大好きです。
猫動画で彼を慰める岩伏(いわふし)、イケメンコンテストに投票するよ!!
吾妻は失恋しても態度変わらないですね。
彼女は求と一緒であわよくばの奪取を狙ってるはず。

駅に帰ってきた いさりと求を慌てて迎えに行く望。
流れで いさりとキスを2回していることを白状する求。
そして生まれて初めての兄弟喧嘩の危機。

その場面で語られる「オレたち今まで 相手を神格化してるようなとこあったもんな 離れ離れだったぶん 空の星を見上げるみたいに」という言葉は双子座のお話の最終形として表される。
そうか、神と人のお話は周囲からの双子を対比する評価ではなく、星上兄弟の内部評価だったのか。
お互いを神として扱うと言われれば、確かに『1巻』では望は求を神のように崇め、求は望を他者に不可侵の存在として重度のブラコンこじらせてましたね。
それが地上の星として対等の関係になった。
恋愛だけじゃなく双子の兄弟漫画としても素晴らしい出来ですね。


最終話の感想は長くなるので割愛(笑)
3人それぞれ進むべき道を模索し一歩を踏み出したり、踏み出そうとしている。
生徒会に入って2年生になった望は髪型が文化祭の時のイケメン化した時になっている。
そのせいか いさりへの態度も少しSっ気のある感じに変わって少し残念である。
が、求に髪を崩されたらまた以前のような表情が戻ったような気がする。
ラストは柔らかくそして強引に いさりにあることを頼む星上くんたち。
この漫画ラスト一コマまで楽しいなんて、やっぱりどうかしてる!!

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君たちは本当そっくりな双子だよ。似た者同士。
しかしまさか求が「じゃないほう」星上になる日が来るなんて…。喜ばしいことです。
そして最終話では岩伏君も自然と同級生たちの話しかけられてますね。
吾妻といい玉峰(たまみね)さんといい『1巻』の頃には想像できない性格になってます。
さて『1巻』に戻って、もう一度、彼らと友達になってもらいにいこうかな?

漫画は漫画なんであまりこういうこと言いたくないですが、アニメ化希望。
実写はダメよ。無理が生じるから。
一人でも多くの人がこの漫画を手に取る機会が増えるのならアニメ化希望。