《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

テレビを詩的私的ジャックして、夢・出逢い・魔性(You May Die in My Show)©森博嗣

わたしに××しなさい!(18) (なかよしコミックス)
遠山 えま(とおやま えま)
わたしに××しなさい!(わたしに しなさい! または わたしにバツバツしなさい!)
第18巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

いえない…!! 時雨にだけは…。
ユピナ VS. ドルチェの対談がTVで生中継されることに。その収録の観覧席に時雨が⁉ 自分がユピナであることを隠したい雪菜は絶体絶命!! 時雨か小説家、決断をせまれられた雪菜は…。衝撃展開続きの18巻。

簡潔完結感想文

  • 迫る公開生放送。その舞台で雪菜は小説家として、または時雨の恋人として死ぬ⁉
  • テレビカメラの前で雪菜がとった行動は…。クライマックス!でも商業的にはアウト。
  • 全ての懺悔と告白を終えた時、時雨のとった行動は…。一方、雪菜は他の男と…⁉


愛は地球を救うし、窮地だって救う。All You Need Is Love な18巻。

いよいよテレビの生対談前日。
時雨(しぐれ)に自分の覆面作家としての所業を隠したい雪菜(ゆきな)だったが、その時点でも氷雨(ひさめ)の張った巧みな罠に絡め捕られ、彼の手中から逃げ出せずにいた。
公開放送の当日には氷雨、そして時雨は母親と観客席に座る予定で、氷雨は生放送中にユピナに向かって雪菜の名を大声で呼ぶと予告する。
たとえ当日を切り抜けたとしても次の手段で時雨を傷つける用意がある氷雨
果たして雪菜に従属以外の手段はあるのか…?

そういえば全然気づきませんでしたけど、暗黒面に堕ちている最中の氷雨にはマミとお揃いの髪留めのピンがないんですね。


いよいよ公開生番組当日。本当のクライマックスがやってきました。
本書の中盤は過激な描写ばかりに頼っていたという幻滅もあったのですが、ここにきて序盤以来の頭脳戦。
更にはこれまでどこか余裕の態度を貫いていた雪菜が一方的に追い詰められるという展開。
しかもその窮地も半ば自業自得で、雪菜の心の問題の直結しているという構造が秀逸。
これまで人をもてあそんできた分だけ、そのしっぺ返しを受ける。
今、小説家としての、元女王としてのプライドが試される。

そんなタイムリミットまでの時間では久々の晶(あきら)と雪菜が話し合う場面が描かれる。
氷雨の企みを知り、その目を暗く光らせる晶。
雪菜ちゃんのためなら自分の手を汚すことをいとわなさそうな晶は頼もしい味方です。
晶と恋人であった時からすれ違いの描写が多くてなかなか二人きりにならなかったとはいえ、全ての事情を知る晶にはもっと早く相談しても良かったはずですよね。
ラブで弱くなってしまった雪菜よりよっぽど頭が回ったと思われる。
雪菜に最大の窮地を与えるためでしょうからしょうがありませんけど。


公開討論の場面は、物語の序盤以来の『DEATH NOTE』臭が濃く漂ってますね。
あちらに実際にこういう場面があったか定かではないのですが、緊張感や騙し合い、読者には自明な正体など想起する要素が多い。

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生放送で、全国に、そして時雨に自分のもう一つの顔を見せる雪菜。
雪菜の乾坤一擲の打開策に意外性はありません。
でもラブ漫画としてこれ以上相応しい展開もないでしょう。
ちょっとラブが万能すぎるような気もしますが、雪菜の問題を受け止める側の時雨の器が大きくなった描写がちゃんとあるのでそれほど不自然には思えない。

一つだけ心配なのは、小説のプロモーションとしてはどうなのってとこですね。
雪菜とユピナの二重の公開告白という劇的な展開が必要なのは分かるが、時雨に先に伝える手段はいくらでもあったでしょう。
そもそもケータイ小説のバトルの行方を左右する場に集まった人にとってユピナのプライベートなど興味はないはず。
雪菜の小説の描き方がある意味でタブーを冒して現実とリンクしているから、話が小説に敷衍していくが、それがなかったら中学生が甘酸っぱい思い出をテレビで語ってるだけになってしまう。
小説も勝手に最終回をアップしちゃうし、やっぱり雪菜は女王様なのだな思わせられる。
世間知らずの唯我独尊の女王様じゃなきゃ、こんな物語を絶対に引っ張っていけませんでしたけどね。

そういえば氷室家の皆さんも娘のユピナとしての活動を知らなかったんですね。
ケータイばっかりいじって少し前まで晶以外の友達のいない子として思われていたんでしょうか。


全てを知った時雨が雪菜と時間と距離を置くというのがリアルですね。
ラブは万能なんだから一直線にどんなお前も愛す、という展開も可能だったはずだが、ちゃんと冷静な時間が取られているところに感心した。
物語を最終回まで楽しめる工夫がされている。

でも実を言うと、ラブ万能説に全てがひれ伏されているのではないかという疑問も残る。
どんなに肉体的に接触してもそこにラブがなければ小説にすることは出来ない、すなわち、時雨との間には最初からラブがあったといわんばかりの雪菜には首をかしげてしまう。
この「運命の人」論みたいなの出してほしくなかったなぁ。
公開番組では「なにも知らない男に遊びでせまっていた」と問われ「たしかにはじめはそうだった」と答えてるし。

またドルチェの正体を知ったことや、時雨への全暴露も終わった後の雪菜が妙に勝ち誇った表情を浮かべているのも気になる。
窮地に陥った時はあんなに殊勝で弱いのに、女王様の気位はいつもお高い。


あと雪菜の言う通り、確かに現実と小説はつながっているかもしれないけれど、小説で現実の家庭の事情などを描くのがNG行為な訳で…。
時雨の問題ばかりに焦点が当てられているが、氷雨や院長先生にしてみればプライバシーの侵害も甚だしい。
そこの問題も何となく解決しているのが腑に落ちない。

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ベッドで押し倒した(倒された)回数は時雨より氷雨の方が多いかもしれない…。
さて恒例のお色気タイムは、真実を知った時雨に距離を取られた雪菜が氷雨をベッドに押し倒すシーン。
自ら服を脱ぎ、彼の服もたくし上げその身体に触る。そしてパンツをまさぐり…。
やっぱり雪菜ちゃんはこうでなくっちゃ。
それは淫らってこと⁉