森下 suu(もりした すう)
日々蝶々(ひびちょうちょう)
第2巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
川澄のことが好き。やっと自分の気持ちに気づいたすいれん。でも…。話したいけど話せない。伝えたいけど伝えられない。好きという気持ちだけがどんどん大きくなっていく――。川澄もそんなすいれんのことが気にはなっているけれど…。胸がくるしい恋物語、第2巻です。
簡潔完結感想文
- 一歩ずつ。一緒にお弁当を食べる事になったが、会話は最低限で。
- 夏休み。花火大会、もしかしてだけど誘ってるんじゃないの?
- 夏祭り。手を繋ぐためなら悪魔にでもなります。小悪魔すいれん。
交わす言葉は少なくても、確かに通い始める二人の「好き」。
やがて蝶になる、でもまだ幼虫の2巻。
学校一の美少女、無口なすいれんが自分にだけ視線や会話を送っているのではないか、と思い始めた川澄。
女子という未知の生物に対する態度も分からないし、そもそもそんな事で悩む自分を発見してる事に混乱する川澄。
果たしてこの気持ちの正体は…。
一方すいれんは川澄への想いが好きという感情だと女友達に伝え、彼女たちのアシストを得て徐々に川澄と接触の機会を増やしていく。
だが、そう簡単に行かないのが、これまで異性への接し方を学んでこなかった二人。
屋上で一緒にご飯を食べるようになっても、お弁当を喉に掻き込むように食べてしまう川澄と、喉から言葉が出るのが遅いすいれん。
会話すらままならないが、それでも交わした言葉はこの上なく嬉しい。
食事後、ランニングに行ってしまった川澄を見ながら、屋上からすいれんが時間差で呟く「好き」という言葉。
この言葉がダイレクトに彼に伝わるのはいつだろうか。
この調子では相当先になると思われるが、気長に待とう。彼らに共通するのは、言葉に嘘がないところ、人を喜ばす美辞麗句が全くない点だろう。
「綺麗だ」とか「格好いい」とか、ましてや「好き」などと彼らが相手に伝えられる訳もなく、硬派や不器用という便利な言葉のもとに、沈黙の割合が多い時間を過ごす。
もし上記のような言葉を言えたら本書は1巻で終わっている。
川澄が、皆で花火大会に行くことを止めさせたのも、すいれんを危険に晒したくない男として守るんだという精神がある(と思う)。
と思ったら、本書ですいれんが嘘ついてましたね…。
とっても悪意満載の見方をすれば、すいれんは己の願望を叶えるための言葉は発せられる。
手を繋ぐための嘘、花火大会に行きたいという気持ち、川澄と交わりたい気持ち、自分の目的のためなら手段を選ばない。たとえ自分の恋路をアシストしてくれる高校からの友達・ゆりちゃんと一緒の夏休みの補習期間で彼女とは一言も喋らないという事態になろうとも。
本当に一方的に喋らないといけないゆりちゃんが いつすいれんの事を重たく感じるか冷や冷やしました。
あとは幼なじみのあやちゃんも、川澄を少しでも長く見たいという男狂いのすいれんに付き合って登校時間を早めるいい子である。
積極的に川澄とすいれんを近づけようとするゆりちゃんとはまた違って、あやちゃんはすいれんたちを年季がはいった見守り方をしているように思う。
ゆりちゃんはすいれんのために、わざわざ女子中学校から共学の高校に入ったのだろうか。
その割にドライな友情描写である。
それが悪い訳では決してないけれど。
結局、俯瞰してみれば周囲にお膳立てされて、服を引っ張ったり、指をさしたりすると願いが叶う美貌のすいれん、とも読めてしまう。
彼女が喋るために用意された悪意に晒されるイベントは見たくないが、お人形の彼女には早くも苛立つ。
多分、川澄に猛アタックする上級生・小春がすいれんに感じる苛立ちと同じだ。
何よあの娘ばっかり!
ただ、すいれんにとってはある意味で小春は自分の目標なのだろう。
一輪の花としてその地に咲くのではなく、彼の元に自らの意思で近づける人。
小春にとってみれば、そんなすいれんからの評価なんて不要でしょうが。
小春の存在は、現実に柔らかな膜を張ったようなぼんやりとした作中の雰囲気が通常の少女漫画空間に戻す力が感じられて好きだ。
会話量も増えるし、何より物語が等速で進んでいく。
川澄は男兄弟という情報アリ。
まぁそんな感じだ。
そしてケータイを持っていない。
それが硬派、…なのか?
最初はグループ交際すら満足に出来ない孤高の川澄だが、彼が会話の輪に入った日はすいれんも笑顔になる。
そして川澄はその顔を独占するため友人の首を絞めにかかる。
目的のためなら手段を択ばない人間がここにもいましたね。