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「王」をたずねて三千里、マルコ一休、略してマルキュー、の嘘みたいな話ぃ〜。

百万のマルコ (創元推理文庫)

百万のマルコ (創元推理文庫)

黄金が溢れる島ジパングで、大冒険の末、黄金を捨てることで莫大な黄金を手に入れた…。囚人たちが退屈に苦しむジェノヴァの牢。新入り囚人“百万のマルコ”ことマルコ・ポーロは、彼らに不思議な物語を語りはじめる。いつも肝心なところが不可解なまま終わってしまう彼の物語。囚人たちは知恵を絞って真相を推理するのだが…。多彩な謎が詰まった、文庫オリジナル連作集。


柳さんの実在の歴史上人物を扱った作品はいつも、主人公にその時代の世界に変革をもたらした人物が選ばれる。本書の主人公はマルコ・ポーロ。彼の長きにわたる冒険は東洋の生きた情報を西洋にもたらした。日本人にとっては大きな誤解を流布させた『東方見聞録』の著者として有名だが、本書はその『東方見聞録』が口述され、成立していく過程の物語でもあり、マルコの嘘か真か分からない、でも大いに楽しい話を堪能した後は、それも許せてしまう。心豊かな嘘は退屈を知らない。
280ページ余りで13の短編を収録する本書は、単純に計算すると、1編の長さは20ページ強になるが、これは短編の中でも短い部類の作品である。その中に、連載時に必要な自己紹介、話の端緒となる話、本題となる謎の提示と推理部分(最小限だが)と真相披露までがギュッと詰まっているから、少し忙しなさも感じるが。
物語の構造は「一休さん」である。世界各地の「王」をたずねて三千里のマルコ一休、略してマルキュー、が王の無理難題とも言える(多くは命が懸かった)問いにどう切り抜けたのか、という流れが基本形として備わっている。この各国の文化の違いや王が定める法というのは、私が好きな「ある世界の、あるルール」という特殊な条件の下に起こる事件と真相に通ずるものがあり、胸を躍らせた。しかし当のマルコが、ルール=法の盲点をいかに突くかという事に終始して、そのルールをうっちゃり続けてくれるのですが…。
牢の壁に見飽きた囚人たちと同じく読者も、世界旅行に連れ出してくれたマルコに感謝を申し上げる。どの国もおとぎ話にでも登場しそうで、守り人シリーズの中の一国として登場しそうだ、と思ったけれど。また『東方見聞録』の制作過程など物語の要所要所を史実とリンクさせる作者の腕も冴えている。退屈が怖いなら、想像の翼で世界を飛べばいい。

  • 「百万のマルコ」…表題作。黄金を捨てた結果、黄金を手にした者の話。ミステリだから前提条件は揃っている、賢ければ解ける、でも分からない、という隔靴掻痒の感じがストレスになる(笑) 塞翁が馬、価値のお話。
  • 「賭博に負けなし」…無敗を誇る大ハーンとの競馬対決に勝つには…? いよいよ「とんち」である。各編とも前提となる細かい条件をちゃんと頭に叩き込まなければ、驚きが半減するから大変。賭けのお話。
  • 「色は匂へど」…開けてはいけない禁忌の扉を男はなぜ開けたのか…。手がかりの伏線もあるが、言い訳にも感じる。私たちが読むからこの結末になるのも理解できるが、異国の感じが消えて色々と脱力した。
  • 「能弁な猿」…次王の資格として先代の王が猿に託した言葉とは…。発想の転換よりも一文一文注意深く読んでいるか、という集中力の問題になっていて残念。隔靴掻痒ストレスからの負け惜しみですが。
  • 「山の老人」…正誤どちらの言葉を発しても殺される運命を脱するには…。私は沈黙って答えを予想した。違ったし、看守を助けられないけど。言葉で人を拘束・強制する者を、言葉で縛る様は痛快。
  • 「半分の半分」…王への拝謁に不可欠な跪拝を禁じられた者が王と拝謁する方法…。中間管理職の哀れを感じる短編。どちらかというと大ハーンに失礼だ。謎をはさんでいるパンの話は有名な話。
  • 「掟」…酒を禁ずる者たちに酒を飲ませる方法とは…。これは問題点が簡潔で、かつ現代人なら高確率で分かりそうなものなのに、思い付けず。こうすると、どんな味になるのだろうか。
  • 「真(まこと)を告げるものは」…絵の上手い者に絵が下手な者が対抗するには…。負けたくないし、負けてない。皇后の「洗脳」騒動で反則スレスレをいい話にしている。マルコがかわいい。
  • 「輝く月の王女」…史上最強の女性の鼻づらをひっつかんで、思う様に引き回す方法とは…。これはちょっと良い出来とは言い難いかな。ホラ話の中にも第三者の証明するものがいないし…。
  • 「雲の南」…どちらにも毒が入っている饅頭を食べないようにするには…。饅頭怖い。2回転捻りの作品。初めにマルコが選んだ答え=逃亡、というのも前例がなく、更に答えそのもので◎。
  • 「ナヤンの乱」…死をも恐れぬ軍人たちが一夜にして降伏した理由は…。若き日の大ハーンの話。連想するのは、あの四字熟語。軍事力だけではない叡智と寛容のフビライの姿があった。
  • 「一番遠くの景色」…<星見の筒>で星を観察する者にとっての一番遠くの景色とは…。これも現代人の私たちの方が分からなければいけない問い。ロマンチックであり、少し感傷的なお話。
  • 「騙りは牢を破る」…着の身着のまま投獄されたマルコの財産とは…。1編目とその構造が相似しているのかな。囚人たちと同じく、もうずっと前から愛着と一定の敬意を払うマルコとの別れは寂しい。また会えるかな。

百万のマルコひゃくまんのマルコ   読了日:2012年09月18日