伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第06巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
2学期が始まった双星館に短期留学生としてやってきた英国の御曹司・アル。気に入られ館内での彼の世話係を引き受けた良も、アルの気さくなスキンシップには少しタジタジ…。そんな2人の様子に“執事”としてふるまう伯王だが、内心は全くおだやかでいられなくて──!?
簡潔完結感想文
- 執事で王子で御曹司、1人3役をこなす伯王が使い分けるガラスの仮面、が割れる!?
- 数日で好きになる御曹司 VS. 1年経っても自制心が働く御曹司。勝負の勝者は…。
- 恋愛が進みそうになると脇役キャラの話でワンクッション置く。それでリセット。
あっという間の出会いと別れと縁談と破談、の 6巻。
ようやく登場人物たちの気持ちが進んだ気がするが『7巻』を読んでみないと、まだ安心は出来ない。
そして どうやら本書では恋愛感情を進めるのは伯王(はくおう)の上位存在らしい。ヒロイン・良(りょう)と伯王の関係は、もはや誰が見ても ただならぬ雰囲気なのだが、学校内の人間は伯王に勝てるような人や立場が上の人がいないので誰もツッコめないまま。
その代わりに彼らをイジって楽しむのが、伯王に所縁のある人々。彼らは まだまだ成長中で脇の甘さから自分の感情が気取られる伯王の良への特別な感情を察知して、ちょっとイジってみようとする。今の所、本書でそれを許される存在は2人で、1人が伯王の姉・碧織衣(あおい)。同じ家に育ち、そして弟・伯王に対し姉は絶対権力を持っており、彼女が夏に良と伯王の距離を見極めたのは記憶に新しい(『5巻』)。
そして もう1人の人物が伯王が憧れる執事の中の執事・向坂(さきさか)である。『4巻』で先輩執事として初登場の彼が この『6巻』では主人に同行する形で作品に帰ってきた。彼は人間的にも執事としても伯王に勝てる作中 唯一の存在(未登場の伯王父は別)。『4巻』でも作中の勝負では向坂に勝ったものの、やや向坂に手玉に取られていた伯王は、今回は完全を敗北する。これは非常に珍しい場面であった。この時の向坂の行動は まさに一石二鳥。自分の舌先だけで自分が最も理想とする結末に物語を導いている。これは有能な執事としか言えない手腕であった。
向坂を憧れとする伯王だから、いつか伯王も今回の向坂のように権謀術数を駆使して自分の望むように物語を動かしたりするのだろうか。主人に仕えながらも巨視的な観点から物事を見通す、それが執事のあるべき姿ということを向坂は教えてくれた。いつか伯王も良のために、自分の家のことを考慮して行動する日が来るのだろうか、ということを予感させる。
だが、こういう日は いつ来るんだろうか。正直に言って飽きてきた。1日に1、2冊読むような読み方が悪いのは分かっているが、同じことの繰り返しで、間違い探しのように僅かに変わっていく点を見つける作業は辛い。『6巻』までで何回、良が転びそうになるのを伯王が助けるシーンを見たことか…。コアなファンなら味の違いが分かるような紅茶なのかもしれないが、ライトな読者には出涸らしにしか思えない展開になるのが白泉社作品の宿命。そして結局、読者の好むような作品は設定が似てくるから、どこかの作品の二番煎じのように思えてしまうのも残念な所なのである。
21話。新学期が始まる。本場で観劇した舞台に感激した部長の提案で演劇をすることになったクッキング部。良も参加することになり、新学期から一緒にいられる時間が戻ると思った伯王は不機嫌になる。王子役を任された良は、演技プランの参考に伯王に台詞を読んでもらうが、その瞬間に良は お姫様の気持ちになる。夏休み明けからは周囲の人々も2人の間に流れる空気の違いを感じ取るほどに、彼らはただの主人と執事では なくたっているのかもしれない。
本番当日は緊張する良を伯王が助けるという いつものパターンが見られる。これは2人の信頼感の証明なんだろうけど、そろそろ良が1人で何でもこなすようにならないとマンネリ&成長を感じない。特に今回は部外者の良が勝手に挑戦したんだから(ラストでトラブルへの対処はは彼女のアドリブで乗り切ったが)。
22話。短期留学生・アルバート(通称・アル)が登場。彼は『4巻』で登場した向坂が現在 仕える家の御曹司。向坂が伯王にとって同じ執事の偉大な目標ならば、アルバートは伯王と同じ御曹司という立場である。ここに組み合わせおいて伯王に勝るとも劣らない立場の人間が登場した。これまでで最強の敵といったところか。
本書では『2巻』以降、1巻ごとに伯王の身内と新執事が登場してきましたが、今回は「主人」の方から初登場となる。
このアルは15歳で、伯王の弟・理皇(りお)ほどではないが、良よりも年下のグイグイ系男子としての役目を果たす。
でも考えてみれば良も親切心とはいえグイグイとアルに接近している。こういう距離感の詰め方が彼女らしいが、誰でも彼でも話し掛け(特に男性)、彼らを独占するような様子は他の女生徒から やっかまれても仕方がない(そういうエピソードは既出なので もう重複させないようカットしているのだろうが)。良の好奇心以外で新キャラと近づくような過程も見てみたいものだ。
アルの日本体験に付き合う良。伯王も専属執事として同行するが、所々で男の伯王の顔が顔を出してしまう。それを いちいち先輩執事の向坂にニヤニヤされるから伯王のストレスは溜まる。
良がアルと関わろうとするのは留学生と編入生、組織の中の異邦人としての共通点があり、その寂しさが分かっているからであった。そして良は自分の編入の時に伯王がいてくれたような安心感をアルに与えたいという。
伯王は良のサポートをしているが、良も伯王を気遣い続け、彼のメンタルや、抱える葛藤などを解消していく。そうやって隣で歩き続ける2人を見て、アルは彼らの関係に恋愛関係があるのではと察し始めて…。
23話。続いてもアルがメインの回で、彼は良と伯王の関係を観察し始める。アルは伯王は良にとっての「王子様」なのではないかと疑う。これは21話の演劇回のエピソードと繋がる話である。良は自分たちの関係は、飽くまで執事ですから、と嘘ではない言葉で自分の気持ちやアルの疑問に正面から向き合わない。
良の回答で、まだ自分が入り込む余地があると考えたアルは、良と一緒に大使公邸でのレセプションに参加してもらう。
定石通り、アルを通して伯王の良への恋心が明確になっていくかと思っていたが、アルが伯王と良の2人のことを気になるのは自分が良のことが好きなんだ、と気持ちを明白にしていくだけであった。本当に第三者は あっという間に自他の恋情に気づくばかりである。アルが良のことを そこまで好きになるようなエピソードに乏しい気がしてならないが。
パーティーになると特訓が始まるのが本書の(ワン)パターン。今回は執事の伯王が入れない領域があるので、彼の助けは期待できない。これが良の独り立ちになるのかと期待したが、結局、いつも通り 良のピンチに伯王が駆けつける展開で落胆した。伯王にとっては全く違うヒーロー参上のシーンであることは重々 理解できるが、同じことの繰り返しに見えてしまった。
それにしても良は、もうすぐ編入して1年だけれど、彼女は この学校で何を学んでいるのだろうか、とテスト前やパーティーの前だけ必死に勉強する良に苛立ちを覚えずには いられない。テスト勉強も伯王に頼って追試を免れるレベル、パーティーになる度に伯王からレッスンを受ける。初回ならともかく、1年経っても学ぶべきことばかりで、そして自力で解決できない良の姿は いかがなものか。何かに熱中する訳でもなく、毎日 興味のある事だけに関わろうとする彼女が嫌いになりそうだ。作中でも良が あんまり逆ハーレムにならないように注意はしているのだろうが、毎日 至れり尽くせりの生活をして他のクラスメイトの箱入り人間の無能たちと大して変わらないんじゃないかと意地悪なことを思ってしまう。
良をパーティーに連れていく際にアルは英語で伯王に宣戦布告する。ヒーローが語学に堪能で、外国人キャラとヒロインの前で彼女の話題を出すが、外国語を理解しないヒロインだけが「?」マークを付けるのは少女漫画あるある、の一つだと思う(海外旅行・留学生が来た場合などにおいて)。
伯王は執事としてはレセプションに参加できないが、神澤(かんざわ)グループの御曹司の立場では参加も可能。だが それは執事で自分の有能性を示したい伯王にとっては禁じ手のはずだった。だがアル側は奥方候補として良を迎える準備があると向坂に聞かされ、伯王は走る。外国人セレブ、日本人の女性をパートナーに求めがち、も少女漫画あるあるですね。
レセプション会場に入り、良を迎えに来た伯王は、アルの本人の気持ちを無視した結婚話を非難する。だがアル自身は そんなことまで考えておらず、これは伯王を焚きつけた向坂の謀略であった。その上、向坂はアルの中に芽生えつつある恋心も伯王が態度を表明することで摘み取ってしまおうという主人の未来のための一手も打っていた。これは向坂の執事としての有能な判断であった。
今回、伯王は神澤 伯王として会場に現れた。その場に立つためだけに神澤の名を使ったが、良の隣に立つのは執事としてという無理のある説明をする伯王。傍から見れば彼のしていることは執事の業務の範疇として考えており、まるで告白のような言葉も、執事を言い訳にしているように見える部分があって、立場を使い分けて小狡く見えてしまう。あぁ 話が進まな過ぎて、主役2人のことを嫌いになりかけているなぁ…。もう、これで両想いは確実なのに、そうしない理由はあるのでしょうか。この後に何か展開を用意していればいいが、ただ単に先延ばしのためならガッカリである。
24話。恋愛の敗者になってしまったアルは2話で退場する。
大きめの話が終わって、続いては箸休め的な脇役話となるのは『4巻』の薫子(かおるこ)さんの個人回と一緒。視点を移すことで新鮮味が出るのに加えて、前に盛り上がり過ぎてしまった恋愛を冷ますための冷却期間として使える一石二鳥の個人回である。
今回は伯王の未来の執事である隼斗(はやと)が特定の女生徒の専属執事になったことが学園内の大きな話題になる、初めての隼斗個人回。
良と伯王は、事の経緯を聞こうとするも、専属執事を羨む他の生徒に追いかけ回された隼斗に事情は聞けないまま。そこで良たちは観察はするが介入せずに帰宅。自分が調査した内容を隼斗に話すのはペアの相方・庵(いおり)の役目となる。
執事らしからぬ脳筋に見える隼斗が、執事の仕事を全うしようとしている姿が新鮮。庵との関係性も描かれていてファンなら満足の内容であろう。
ただ良家の子息が通う学校での こういう話は既視感があった。折り目正しいのが本書の脚本の良い所で、本書の作風とピッタリなのだが、いつまでも平均点という印象を拭えない。