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幻惑の死と使途 (講談社文庫)

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻(ありさとしょうげん)が衆人環視のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。これは匠幻最後の脱出か?幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟が解明する。


『夏のレプリカ』と2つで1つの作品。こちらは奇数章・「奇」から始まる章タイトルで本が構成されています。「奇」の字からはじまる言葉って一杯あるんですね。全部幻想的な印象を受けますが。2つで1つとはいったものの1冊ずつ事件は起こり解決してくので、交互に読まなくてはならない、ということはありません。事件が同時期に起こり、それを別々に解決していくのって初めて見た手法です。ミッシング・リンクとして、バラバラだった事件が最後には1つの事件としてまとまる、というのは見たことがありますが。ちなみに文庫版解説は引田天功さん。よくぞ書いてくれましたって感じです。前作は池波志乃さん@中尾彬さんの妻でしたし、人選の基準が曖昧模糊。ミステリ作家が援護射撃に徹する解説よりか好きですけど。
この作品のテーマはマジック。マジックショーの最中にマジシャンが殺される、という話。森さんのマジックに対する想いが伝わってきます。多趣味な人ですよね。マジック・飛行機・キョロちゃんなどなど。興味に底がない。底がないというのは幻想だ、と犀川さんに突っ込まれそうですが、とにかく飽くなき興味で物語が具体性を増していると思います。死体が消失するのはなんとなく畏怖を感じますね。ミステリの難しさです。死体をパズルの一部のように考えてしまうところって。死を軽んじると、災いが降ってくるイメージ。多分、精神の防御機能の1つなのだろうけど。防御機能といえば、今回の動機において、殺人を犯す動機としては理解できない、というセリフが出てきますが、それも防御機能ですよね。人が無残に殺される、という事に対して、それ相応の理由を持ちたがるのが集団としての人間なんでしょう。倫理や道徳といった言葉に変換して精神上の安全度を高める、のだと思います。森さん登場人物の変化を書くのが上手い。萌絵が犀川の思考のトレースを試みるなんて、驚天動地の変化だと思います。国枝さん・洋子・浜中さん、もちろん犀川先生も自己修正を繰り返し生きているということが分かります。

幻惑の死と使途げんわくのしとしと   読了日:2000年11月01日