- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/11/15
- メディア: 文庫
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T大学大学院生の簑沢杜萌(みのさわともえ)は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧(もうろう)とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑と死と使途』と同時期に起こった事件を描く。
『幻惑の死と使途』の対。偶数章でのみ構成される物語。章タイトルも「偶」の字から始まる。「奇」には(出会ってほしくないタイプの不幸な)突然の出来事、「偶」には(あったらいいなという)幸せな出会いを連想しました。なるほど『幻惑の死と使途』で萌絵さんが少し気分が停滞していたのは、高校時代の同級生・杜萌さんが事件に巻き込まれたからか。萌絵さんの高校時代のエピソードや同性・同学年の友達との会話は面白かったです。素のままの、背伸びをしていない、屈んでもいない萌絵さんが見えた気がします。彼女はこの事件を通してまた1つ「大人」になっていきますし。
ここまで作品を読んで、森さんの作品はミステリの典型的なタイプの森流クッキングだったのか、と思いました。今回の材料は「誘拐劇」。誘拐を主観と客観という味付けで、1品作ってみます、みたいな感じ。周りの人達が、名探偵を引き立てるための無能ではなく、周りの人達より、速い発想力の萌絵、一段高いところから事件を見渡す犀川という二人の探偵を置くことによって、物語が魅力的になっていると思う。探偵を高い位置に置くために周囲を低くする手法とは違う。
感想としては、う〜ん、どうもトリックに納得がいかないんですよね。なんでそういう結末になるのか、私には不可解さが残りました。話的には結構好きなんです。萌絵さんの叔母さま・睦子さんとか、儀同世津子さんに双子の子供が生まれるらしいとか、かなりファン的には楽しめたんですけど。ミステリ的には一番嫌いかも。ラストのラストも消化不良。どう解釈していいのか…。もしかしたら、私の中のシリーズへの理想形態と違う結果が嫌だったのかも。多分、森さんは、あの萌絵さん解決シーンが書きたかったのでは、と思う。あれは素晴らしい。小道具の使い方が上手いと思う。そう解釈して、消化します。