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ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは? 読後に驚愕必至のメフィスト賞受賞作!


久しぶりに読んだメフィスト賞受賞作品。私が思うメフィスト賞の傾向は、良くも悪くも溢れる若さと燃える血潮から生まれた前代未聞・大胆不敵なトリックに挑戦する作品が多めという認識。しかし本書では読み始めてすぐに文章に落ち着きを感じた。猪突猛進ではない。作者は1963年生、有名私立大学の教員。若くはない。だからなのか…? ところがどっこい!作者は燃える血潮でメフィスト賞らしい前代未聞の発想で「ある事」に挑戦していたのだった…。
メフィスト賞らしくないメフィスト賞らしい作品。そして本書は「普通のミステリ」とも一線を画している。ミステリでは肝心の事件が一向に起きないのだ。100ページ、200ページ読んでも主人公は日々仕事をしている不思議なミステリ。主人公の行動範囲も仕事場・自宅・大学の研究室・たまに友人と会う飲み屋ぐらいである。ミステリに付き物の密室もアリバイも探偵役と思しき人物も出てこない。
話の筋道の見えてこないまま、延々と続くのは超能力研究のお話。それでも読者を牽引するのは「究極のトリック」という言葉と、副題から予想される犯人の意外さ。結果から述べると、犯人は予想通りの人だった。だからミステリの楽しみの一つである「犯人探し」は出来ない。ただ、犯人が予想内の人物であるという結末こそが予想外の展開であり、本書がメフィスト賞受賞した理由の一つだろう。
作者は序盤で登場人物に自分(作者)が挑戦しようとしている事の難しさを語らせる。過去のミステリ作家たちの試行錯誤、その結果の失敗や問題点を挙げ、この「究極のトリック」の成立は不可能だと結論づける。しかしそれらは丸々作者からの読者の挑戦であり、作者の「この作品で前例を越えてみせる」という意気込みでもある。さて、その挑戦の結果はいかに…?
私としては、作者の挑戦はある一定の程度は成功していると思う(偉そうに…)。まぁ実感は薄いけど…。本書の冒頭から終盤まで「究極のトリック」を読者に無理なく理解させるための描写や伏線は十二分に書き込まれている。無理を通すための道理は先に通している。随所に垣間見られる作者の大人の落ち着き・余裕、そして自信が、本書を「バカミス」とは呼ばせない。作者が自分の発想に陶酔する事なく、過剰な装飾を施さなかった点が本書の価値を高めていると思う。
中盤の物語に私が追い付いたという感覚や視点が現在と過去に、広大な宇宙に、二次元と三次元とに行き来する感覚が好き。また終盤に明かされるアンチ超能力ともいうべき真相も面白い。まさか、あの人が探偵役になるとは…。

ウルチモ・トルッコ  犯人はあなただ!         はんにんはあなただ   読了日:2008年01月31日