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パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

親友の恋人を手に入れるために、俺はいったい何をしたのだろうか。「本当の過去」を取り戻すため、「記憶」と「真実」のはざまを辿る敦賀崇史。錯綜する世界の向こうに潜む闇、一つの疑問が、さらなる謎を生む。精緻な伏線、意表をつく展開、ついに解き明かされる驚愕の真実とは!? 傑作長編ミステリー。


分類すればSF科学ミステリだろうか。そして書名の通り恋愛も扱っている。
親友・智彦が紹介してくれた彼の交際相手は、かつて主人公の崇史が「運命の人」のように思っていた女性だった。崇史は親友の恋愛に純粋な応援と醜い嫉妬の相反する2つの気持ちを抱く…、という恋愛パートが序章。しかし章を越えると、なぜか智彦の恋人であるはずのその女性・麻由子は自分と同棲している。章を越えた時に現れる事実の齟齬。一方は少しでも距離を縮めれば壊れてしまう友情と愛情のベクトルで結ぶ三角の危うさで、もう一方では主人公・崇史の記憶の欠落と、その記憶の断片を手繰り寄せるサスペンスのパートでグイグイと読者を好奇心と謎の渦に引きずり込む。微妙に違う2つの世界の中で、読者に「あれっ!?これって…」と思わせる謎と伏線の提示の絶妙な匙加減が心憎い。
本書の主人公は東野作品に共通して見られる少々自意識の強い男性。頭脳も優秀で外見でも人を惹き付ける魅力がある。ただし利己主義的な一面もあり、後半の展開は彼のそんな欠点がある事態を招く事になる。しかし、そんな自分を誰よりも愛し、信じている彼が自己そのものの存在に不安を抱き、記憶が両手から零れ落ちていく描写には彼同様に足下が覚束ない不安を感じさせられた。そしてヒロインとなる女性もまた東野作品に共通して見られるような読者には魅力の伝わりづらい女性。容貌はともかく彼女の言動・煮え切らない態度・2人の男性それぞれへの感情は私には分からないものだった。はっきり言って悪女である。もちろん、彼女のそんな態度もラストの展開に関わりがあるのだが…。
作品全体からハリウッド映画の様な印象を受けた。主人公を始めとした主要3人の人物の役割は物語を動かすこと。サスペンスとしての構成は練られていたが、三角関係の恋愛を描いている割に、彼らの心情を細やかに描き出してはいない。彼らの友情や愛情のベクトルは飽くまで記号に過ぎない。派手な仕掛けに凝りすぎた犠牲か、恋愛要素には全く共感できない部分が残った。
ラストは唐突ともいえる終わり方。後の『天空の蜂』『白夜行』などに通じる、事件そのものの終焉が物語の終焉になっている構成。『白夜行』ではその不足こそが長い余韻になっていたが、今回は是非ともエピローグ・後日談も欲しかった。ミステリとしては伏線は全て回収されているが後半はやや急ぎ足で、小説としては未完。最後の小道具も読者にとっては印象深い物とは言えない物だった。
(ネタバレ感想→)うーん、「パラレルワールド」というよりも、内容としては「フラッシュバック」の方が正確な用語だろう。あっ、そうか。2つの世界の事実のズレがまるでパラレルワールド(もう一つの世界)みたい、と錯覚させるからこの書名なのか。うーん、でも今の今まで錯覚しなかったしなぁ…。SF科学としてバーチャルリアリティ(仮想世界)云々とあるけど要は記憶の改竄の話。冒頭の電車のエピソードだけはパラレルワールドをイメージさせていたが、それは崇史と麻由子の出会いと因縁に過ぎなかったみたい。ラスト付近で、真理として世界は一つであっても、自分や他人の意識(人にとっての世界そのもの)はパラレルに存在する、という話題にも踏み入れかけたが…。結局、パラレルでもラブストーリーでもなかった。もしかして、タイトルで読者の記憶に誤情報をインプットしたのかしら!?(←)

パラレルワールド・ラブストーリー   読了日:2008年11月28日