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怪笑小説 (集英社文庫)

怪笑小説 (集英社文庫)

年金暮らしの老女が芸能人の"おっかけ"にハマり、乏しい財産を使い果たしていく「おつかけバアさん」、"タヌキには超能力がある、UFOの正体は文福茶釜である"という説に命を賭ける男の「超たぬき理論」、周りの人間たちが人間以外の動物に見えてしまう中学生の悲劇「動物家族」…etc.ちょっとブラックで、怖くて、なんともおかしい人間たち! 多彩な味つけの傑作短篇集。


読みやすい文章でサラッと読める作品集。だけど読了後、心にザラッと嫌な気持ちを残す作品集。怪笑はできても嫌な気持ちは解消されない…(苦笑)
好きな短編は「一徹おやじ」と後半の3作品「しかばね台分譲住宅」「あるジーサンに線香を」「動物家族」。「一徹おやじ」は名前は違えど現実にも確実にいる。子供がその世界で成功すれば美談になるが、逆の結果になれば一人の人間(子供)の人生をエゴによって押し潰してしまう事もあるんだろうなぁ、と考え込んでしまった。後半3作品は着想がそのまま長編小説にもなりそうな題材。人生で一番大きな買物は買い直せないし、人生そのものはやり直せない、そして人生の始まりも自分では選べない。戻れない、という事がとても重く響く作品だった。
難を言えば、ネタの間、笑いの絶えなかった漫才と同じで全体的に大オチが弱い気がした。しかし、それは途中のネタが面白かった証拠でもあるとも言える。

  • 「鬱積電車」…同じ電車に乗り合わせた乗客たちの心の声は…。電車やタクシーの「あるある話」はよく使われる題材。この手の短編が「あるある話」である。
  • 「おっかけバアさん」…あらすじ参照。韓流ブームもガッポガッポ儲かってそう。超高齢化社会のお蔭で昔のスターは第二のバブルだったりするのかしら。
  • 「一徹おやじ」…息子を野球選手にさせるのが夢の父親は…。ゴルフ、ボクシング、子役など親の期待を背負った人たちは親よりも幸せなのか考えてしまった…。
  • 「逆転同窓会」…「花の十五期生」を担当した教師たちが集まる逆転同窓会は…。着想は面白かったけど、内容が伴わなかった。皮肉というより嫌味っぽい。
  • 「超たぬき理論」…あらすじ参照。牽強付会ながらも説得力を持つ推論が面白い。特に昔話の中のたぬきの考察はかなり良い。ただ結末がお粗末過ぎる…。
  • 無人大相撲中継」…無人島に漂着した人々の楽しみは生の大相撲中継だった…。作品の下地には大相撲ブームの影響がありそう。ただオチがまた弱い。
  • 「しかばね台分譲住宅」…地価が下落する郊外の住宅街に死体が発見され…。自分の利害を計算するから人の道に悖る行動をしてしまうのが人間か。良作。
  • 「あるジーサンに線香を」…孤独に生きるあるジーサンが人体実験をして…。パロディタイトルのセンスが良い。東野さんも書かれている通り長編にしたらまた違った味わいが出るだろう。パロディ元から訴えられるかもしれないけど…。
  • 「動物家族」…あらすじ参照。コンセプトは辻仁成さんのECHOES「ZOO」の歌詞に似ている。短いながら彼の閉塞感がよく描かれていて絶望系青春小説といった趣だ。読了して、ふと自分の顔を鏡で見てしまった。何に似てるだろう…。

怪笑小説かいしょうしょうせつ   読了日:2007年05月30日