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砂の城の殺人 創元推理文庫

砂の城の殺人 創元推理文庫

行方不明の父親を探すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。冬休み目前、今度は廃墟専用カメラマンの撮影助手を務めることになった。しかし、向かった先でミイラ化した死体を発見! しかもそれが、長年行方が知れなかった雇い主の母親だというから…。この発見を契機に、崩れ落ちそうなその廃墟で、次々と人が死んでいく。著者渾身のシリーズ第三弾。


勝手に命名の「少女漫画ミステリ」シリーズ第3弾。前2作を上梓した後、休筆状態だった作者が活動再開した作品。時間的にはブランクがありながらも前2作と変わらない雰囲気を保ち続けている。設定は携帯電話が登場する現代なのに、類型的な人物造形から8〜90年代前半の少女漫画を思い出させる作風もそのまんま。
シリーズ3作の共通点は、そんな少女漫画作風と事件内容のギャップだろうか。1作目では舞台が死に一番近い霊安室で、2作目では主人公・美波の目の前で人が死ぬ、そして本書では殺人事件&ミイラ化遺体がゾンビさながらに動き出す始末。ドジっ子・美波が直面する現実は中々にヘビーだ。
今回も前2作と変わらず美波は武熊さんの怪しげなアルバイト紹介から事件に巻き込まれる。今回は廃墟カメラマンのアシスタント。だが美波は廃墟の中でこの世に未練を残す死者と対面してしまう…、という内容。いつも中盤過ぎまで事件が起こらないこのシリーズの中では奇跡的に1/3過ぎで事件は起こる。今回は謎や舞台設定も大盤振る舞い。陸の孤島となった館内で起こる密室殺人、連続殺人、動く死者、怪奇現象の数々、そして誰もいなくなった…!?
トリックは『かつて子どもだったあなたと少年少女のため』がコンセプトの講談社ミステリーランドっぽい。古き良きと言いますか、基本に忠実と言いますか、特に目新しさは感じられないと言いますか、策を弄しすぎて犯人の真意が分からないと言いますか…。特に犯人の美波への役割分担が不明。一応、事件の見届け人という立場が説明されているが、館から脱出した後に警察に駆け込めば犯人は即判明→逮捕される気もするし…。シリーズ最長編の力作だとは思うが、要素を詰め込み過ぎていて(なのに前提条件などは大雑把で)、全体の焦点が絞り切れていない。雰囲気作りの怪談話も余計と言えば余計。解決編にしても所々で推理が当たっているので大きなカタルシスが味わえないまま終わってしまった。登場人物が本当に最小限で抑えられ、それぞれに人物に思惑があり誤算があり臨機応変な計画変更あり、という狙いまでは面白かったのだが…。
全三部作<完>、と勘違いしてしまいそうなハッピーエンドを予感させる終わり方。だが09年にシリーズ第4作が発表(内容的には第0作らしいが)されているので、まだまだ今後も続く可能性あり。今度は修矢の内面が垣間見れたらな、と思う。

砂の城の殺人すなのしろのさつじん   読了日:2009年12月08日