- 作者: 瀬尾まいこ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/04/10
- メディア: 文庫
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駅でいきなり声をかけられ、それがきっかけで恋人になったタケルと千波。だが千波は、タケルをなかなか家族に紹介しない。その理由にタケルは深い衝撃を受けるが、ある決意を胸に抱いて一歩を踏みだした―表題作「優しい音楽」。つらい現実を受けとめながらも、希望を見出して歩んでゆく人々の姿が爽やかな感動を呼びおこす。優しさに満ち溢れた瀬尾ワールド全開の短編集。
収録されている3編の共通点には、奇妙な設定・奇抜な人物が挙げられるだろう。不倫相手の子供と一日過ごしたり、見知らぬ男性と一つ屋根の下で暮らしたり。特に1編目の物語は考えれば考えるほど奇妙な設定、というか生理的嫌悪すら湧き上がる。それでも、この恋人たちの幸せを祈ってしまうような、人を肯定的に見られる温かな作品です。ちょっと文章・内容が軽いかな、とも思うけど。
初出が『小説推理』だからか、この本の物語には、ちょっとした驚き・仕掛けが用意されている、と2編目まで思っていた。けれど、3編目の「がらくた効果」に、それはなかった。他にも2編目までは、恋人の親に会いに行くという共通点が組み込まれるんだと思っていたのに、3編目は話に出てきただけで終わった。あっ、でも裏を返せば、両親に会いに行く、という恋人たちの一大イベント、二人の関係性のコマを一つ進めるような物語ではあるのか。そういう前向きなお話です。
- 「優しい時間」…毎朝、駅のホームで「僕」を探す女の子がいた。やがて言葉を交わし、二人は恋人になるのだが、彼女には秘密にしている事があり…。秘密の内容は、あからさまな伏線(?)で察しがつくのだが、この作品は、その先の物語が「優しい」。…のは、分かるんだけど、恋人・千波ちゃんはどういう心理状態なんだろうか?傍から見れば、かなり気持ち悪い関係だと思うんだけど。だって、ねぇ…。
- 「タイムラグ」…成り行きで不倫相手の子供を1泊預かる事になった深雪。二人は不倫相手のお金で豪遊しようとするのだが、行き着いた先は彼の父親の家…!?『卵の緒』に出てくるような美味しそうな食べ物と、『幸福な食卓』風景に心が弛む。途中で明かされる事には驚かされた。すると、途中の高校時代の読書家の彼の挿話が、ジワッと効いてくる。深雪も奥さんも素敵な人だなぁ。「タイムラグ」は深雪のいじらしい愛おしさの表れで良い。皆が幸せになる方法はないかなぁ…。
- 「がらくた効果」…年末、家に帰ると同棲中の恋人・はな子が拾ってきたという元・大学教授、現・ホームレスの男・佐々木が家にいた…。要約するとこの話の現実感の無さが浮き彫りになりますね…。でも、3人が過ごす生活の温かさが伝わってくる良い作品。佐々木さんは遅れて来て、居座るサンタクロースのようだ。年末に読むと、もっと良いかも。全員が前進する結末は、良い気持ちで本を閉じられる。