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温室デイズ (角川文庫)

温室デイズ (角川文庫)

みちると優子は中学3年生。2人が通う宮前中学校は崩壊が進んでいた。校舎の窓は残らず割られ、不良たちの教師への暴力も日常茶飯事だ。そんな中学からもあと半年で卒業という頃、ある出来事がきっかけで、優子は女子からいじめを受け始める。優子を守ろうとみちるは行動に出るが、今度はみちるがいじめの対象に。2人はそれぞれのやり方で学校を元に戻そうとするが…。2人の少女が起こした、小さな優しい奇跡の物語。


今更ながらに分かった。瀬尾まいこという作家は変わっている。私の予想や、他の作家さんならこう書くだろうという予想を毎回、悉く外してくる。登場人物の設定・行動も、物語の展開も「えっ、そうくるか!?」という印象をいつも受けていた。今まではそこに不満を感じ、大きな欠点だと思っていた。けれど違った。これは個性なのだ。普通の作家(?)が書かない事を書く。それが瀬尾まいこなのだ。
この小説の結末も意外だ。もっと読者が好きそうな結末だって用意できるし、感動させる事だって出来る。だけど、そうはならない。私も、この結末は一冊の小説として物足りなさも感じたけれど、簡単に感動に持っていかないその姿勢に潔さを感じた。だって、みちるの『努力』の為にも、ここで大団円を向かえるわけにはいかないから。そんな事したら、この小説が「温室」になってしまうから…。
正しい事をしているのに誰からも見放された、みちるの孤独。逃避からの不登校という(世間的には)間違った事をしてるのにいつまでも守られる優子の矛盾。努力・忍耐よりも挫折・逃避が優遇される学校・教育って一体、何でしょう。
瀬尾まいこの描く男性はほわほわっと掴み所がない人が多い。一見情けない男、でも独特の雰囲気を持っている。今回ならS・Sの吉川。自分を見限っているようで、教師の誰よりも冷静に学校を見つめている。半分部外者の彼だからこそ、全体より目に見える部分、生徒一人一人の顔をちゃんと見ているのだろう。
確かに不満もある。小学校でいじめを加害者側で経験したみちるが、あんな風に正面切って改善の一歩を踏み出すのか疑問だし、優子との友情も過去の出来事を考えれば分からない部分が多い。またご都合主義にしないとはいえ、斎藤くんや吉川・瞬などにもう少し深く踏み込んで、物語に読み応えが欲しかった。
私も、どうしても『卵の緒』瀬尾まいこの理想形を見てしまう。あの作品は分かりやすいハッピーがあったからだろう。最近の瀬尾作品は共感できにくい部分も多い。瀬尾さんの個性と物語が上手くマッチした物語が読みたい。
タイトルは中学校は「温室」であるという意味。中学校は温室で、大学はオアシス、それなのに社会は『砂漠』である(伊坂幸太郎さん)。環境が違いすぎる…。

温室デイズおんしつデイズ   読了日:2006年01月11日