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神様がくれた指 (新潮文庫)

神様がくれた指 (新潮文庫)

出所したその日に、利き腕に怪我を負ったスリ。ギャンブルに負けて、オケラになったタロット占い師。思いっ切りツイてない二人が都会の片隅でめぐりあった時、運命の歯車がゆっくり回り始めたことを、当人たちはまだ知らない。やがて登場するもう一人がすべてを変えてしまうことも。「偶然」という魔法の鎖で結ばれた若者たち。能天気にしてシリアスな、アドベンチャーゲームの行方は。


「プロ」の話。プロとはその道だけで食っていくこと、と森博嗣さんが述べていたが、本書には2人のプロが登場する。職業はスリと占い師。元手無しに指先だけで金を得るスリの辻(またの名をマッキー)。そして占い師として相談に言葉を駆使して応え正当な報酬を得るのだが、ギャンブルで無一文になる昼間(またの名をマルチェラ。また昼間の場合、プロ意識は低い)。無から有を作る、有を無にしてしまう2人が出会う時、運命は相互に影響し合う。良い方にも悪い方にも…。尚、読めば分かると思うけれど、本書の中でスリという犯罪行為がさも良い事のように描かれているのが不快、というのは間違った批判。勿論、現実世界で肯定はしないが、少なくとも本書の辻の言動には「プロ」の美学を感じた。
そして本書は「復讐」の話でもある。そもそも2人の出会いは、辻が10代の若者グループの連携で「家族」の財布を盗まれ、犯人を追跡中に返り討ちに遭い負傷、通りかかった昼間が自宅へ運び込んだ事から始まる。そして、辻はそのグループに仲間まで傷付けられ…、という中盤までの展開がある。昼間の生き方もまた復讐であると言える(実は逃避の方が的確なのは承知しているが…)。能力主義の父と姉、彼らの生き方を肯定できない昼間は根無し草の占い師を選択している。
勿論、「交流」の話でもある。昼間が辻を助けた翌日、辻は昼間を援ける。そこから始まる奇妙な生活は互いを干渉しない言葉の少ない同居。そして辻の大切な「家族」や仲間、占い師・昼間の気になる女の子・永井との交流が運命の歯車を少しずつ回していく。中盤以降、読者の神様の視点からは見えている辻と昼間が抱えている問題の共通項がなかなか=(イコール)で結ばれない事に多少の苛立ちを覚えるが、全てが一本の線上に並んでからは目まぐるし過ぎてあっという間に時が過ぎていく。しかし昼間には申し訳ないが、永井さんの中途半端な言動にはいつも苛々させられた(彼女の境遇を知ると更に申し訳ないが)。
マッキーと昼間の間に流れる関係性などは女性らしい優しい描写だなと思ったが、それ以外、特に後半の力強さは佐藤さんの作品だと忘れそうなほど男気を感じられた作品。また、マッキーはプロだが彼だけが特別で仲間とは種類が違うという、ある意味で悲しい現実を突きつけられる場面が印象的。だからこそ終盤マッキーは復讐相手の中に「プロ」として同じ匂いを嗅ぎ取り、共感し認め合ったのだ。ラストは賛否両論だろう。勧善懲悪の物語ではないので、あの人物が懲らしめられるというのも流れにそぐわないけど。物語はそれぞれの未来を暗示して終わる。そして最後の動作。これまで守ってきた大事なモノの無防備な曝け出し。うーん、格好良い! 気持ちの良い春風が胸に吹き込んできた気分。
でも昼間のギャンブル狂の意味が薄いような…。もしや二人の因縁のためだけ?

神様がくれた指かみさまがくれたゆび   読了日:2008年12月16日