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サマータイム (新潮文庫)

サマータイム (新潮文庫)

佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏。他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。鮮烈なデビュー作。


大好きな「森絵都」さんが解説をし、薦めている本。この本を読むにあたってジャズの「サマータイム」を聞いてみた私。やっぱり流れている曲が分かってのピアノの調べでしょう、なんて形から入りました。結果的には曲が分からなくたって、文章という調べがきらめいてました。日本には四季があってよかったな、私はそれを何度も体験してるから思い出せてよかったな、と思う。その季節の光が文章に差し込んでいる。私は最初と最後の2編が好きでした。ちょっと甘酸っぱい物語。気が強すぎて嫌いだったけれど、実は佳奈がいい味出している、と読み終わって思います。

  • サマータイム」…あらすじ(↑)参照。表題作。この作品を読んで義務教育を受ける者には夏休みが必要である、と思った。出会いや成長が、きらめきがあるから。進も広一も佳奈もとても魅力的な人物である。広一だけが光っても見えるが、ピアノを続ける進も、弟を探し回る佳奈も、とても素敵だ。等しい引力でひかれ合う三角形。ラストの展開は全部好き。あの夏がよみがえる感じがするのです。
  • 「五月の道しるべ」…小学1年の、五月のある日佳奈が見つけたつつじの花たち。その花を見て彼女はあるアイデアを思いつくのだが…こういう自分の中のグッド・アイデアって誰でもありますよね。しかも、それが挫折したり否定されてりする時のイライラする感じも分かる。この姉弟は小さい時からこうだったのか。
  • 「九月の雨」…16歳の広一が出会った冴えない男。男は母に惚れ込んでいるらしい。そして、その灰色の男は不器用に自分に話しかける。物分かりのいい息子の割り切れない苛立ち。雨の中の特訓はサマータイムのラストシーンの種明かしのようで面白かった。16歳の広一にも、あの夏が特別で私は嬉しい。
  • 「ホワイト・ピアノ」…中学2年の佳奈は、友達の親が経営する中古ピアノを扱う店でホワイト・ピアノと前髪の長い26歳の調律士センダくんに会う。センダくんの魅力を誰よりも知っている佳奈とセンダくんの会話がいい。私はセンダくんの弾くピアノの音がとても聞きたい。そして、ラストシーンがすごくいい。

サマータイム   読了日:2005年02月15日